澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

警察・検察は石原宏高議員の選挙違反を黙過するのか

当ブログでの石原宏高議員選挙違反糾弾の第4弾である。
第1弾は、本年3月14日「金権・金まみれの選挙運動を糾弾する」との標題をつけてのもの。第2弾は、同月19日「石原宏高議員選挙違反続報」。そして第3弾は、本年4月11日「選挙運動収支報告書を読む」であった。それから1か月以上が経過している。

この選挙違反事件が世に知られたきっかけは、3月14日「朝日」のトップ記事である。当時はまだ、当ブログが日民協に間借りしていた時代。その日の記事を皮切りに、私はこれまで要旨次のように書いてきた。

選挙とは投票日だけのものではない。有権者が投票行動を決める過程における自由な言論戦こそが選挙の本質として重要視されなければならない。公正に設計された「思想の自由市場」における諸言論の自由かつ公正な競争、それこそが選挙運動にほかならない。選挙運動の自由は最も重要な場面における表現の自由(憲法21条)として最大限の保障を要する。選挙運動の自由(戸別訪問・文書の掲示頒布等)に対する権力的規制は不当な弾圧であるが、この弾圧はもっぱら革新陣営を対象としてなされる。

また、選挙運動は公正におこなれなければならない。「思想の自由市場」の公正が金の力でゆがめられてはならない。金がものを言うこの世の中で、買収・供応等の金権選挙・企業ぐるみ選挙を許してはならない。経済的な格差を投票結果に反映させてはならず、取り締るべきは当然のこと。その摘発は、もっぱら保守陣営を対象としてなされ、現実にけっこうな数にのぼっている。

革新陣営を対象とする買収・供応等の実質犯の摘発事件がないのは、革新陣営には金がないからだ。多少のカンパが集まっても、ビラや電話代に消える。金で票を集める、金で運動員を集める、運動員に日当を出すという発想がそもそもない。まず金を集めて金の力で人を動かす保守陣営の選挙との根本的な違いがある。

3月14日「朝日」一面のトップ記事。見出しは、「石原宏高議員側が運動員要請 UE社派遣、法抵触の疑い」とつけられている。分かりにくいが、「石原宏高議員に公選法上の買収の疑い」がある、ということだ。

公選法上の買収には、「投票買収」と「運動(員)買収」との2種類がある。「投票買収」は金で票を買うという古典的な形態だが、いまどきそんな事案はほとんどない。摘発されているのは、もっぱら「運動買収」である。これは、人に金を渡して選挙運動をさせるということ。選挙運動員に金を渡せば、本来無償でなされるべき選挙運動を金で買ったものとして、運動買収に該当し刑事責任を科せられる。

選挙が金で動かされてはならない。選挙運動とは金をもらってするものではない。この潔癖さが保守陣営にはない。石原宏高選挙がその典型である。純粋のボランティアで選挙運動員が集まるはずはなく、日当を支払うか、勤務先からの賃金を保障する形での経済的利益供与がなければ運動員を確保できないのだ。しかも、金をもらって選挙運動をしたのは、石原議員のカジノ解禁という「政策」実現で金儲けをたくらむ「ユニバーサルエンターティンメント(UE)社」の社員である。政治とビジネスの薄汚い癒着を象徴するのがこの事件。

なお、当不当の議論は別として、判断要素のない純粋に単純労務を提供する者には所定の日当を支給しても良いことになっている。事務作業については、従事する者の氏名と日当額とを予め選管に届出ることによって一定額までは支払うことができる。しかし、実質における選挙運動者を「労務者」や「事務員」として収支報告書に届け出れば虚偽の記載だし、報酬を受けとっている「労務者」や「事務員」が単純労務や事務の範囲を超えて、選挙活動の方針を決める選対会議に出席して発言をしたり、電話かけやビラ配りをするなど、少しの時間でも選挙運動をすれば、運動買収(日当買収ともいう)が成立して、日当を渡した選挙運動の総括主宰者・出納責任者も、日当をもらった選挙運動員も、ともに刑事罰の対象となる。

「石原宏高議員側が運動員要請 UE社派遣、法抵触の疑い」とは、朝日の報道とこれを追った毎日や赤旗の報道によれば、
(A)「UE社なるカジノ運営企業は、選挙期間中3人の社員を派遣して石原陣営の選挙の手伝いをさせた。応援の期間、3人については、UE社が給与のほか、選挙運動で遅くなったときの宿泊代や交通費、食事代なども負担した」
(B)「石原議員側が都選挙管理委員会に届け出た選挙運動費用収支報告書には、UE社の社員3人が「事務員等」と記載されている」
(C)「石原議員側からUE社役員に選挙を手伝う社員を出すよう依頼があった」という。

(A)の文脈における「UE社」側の行為は、公選法221条1項1号の「当選を得しめる目的をもつて選挙運動者に対し金銭の供与をした」に当たり、買収罪として最高刑は懲役3年の犯罪となる。選挙運動の総括主宰者または出納責任者の実質がある者が行った場合は公選法221条1項1号(運動買収)・3項(加重要件)に該当して、最高刑は懲役4年の犯罪に当たる。さらに多数回の行為があればさらに加重されて5年となる(222条1項)。仮に、候補者自身が関与していれば同罪である。また、「UE社」から派遣された社員3名は、同条1項4号の「第1号の金銭の供与を受けた」にあたり、被買収罪として同じく最高刑は懲役3年となる。

(B)の文脈において、「事務員」としての登録者に選挙運動の実態があって、これに金銭を支払っていれば買収罪が成立して、授受の双方に犯罪が成立する。「事務員」ができることは、判断要素のない純粋な事務作業だけとされている。これを超えて選挙運動をした者に石原陣営からの金銭の供与がともなっていれば、選挙運動を総括主宰した者あるいは出納責任者の刑事責任が生じ、最高刑は懲役4年となり、受けとった方は3年となる。

(C)の文脈では、「UE社役員に選挙を手伝う社員を出すよう依頼をした」という石原議員側の人物に刑事責任が生じる。221条1項6号の「前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき」に当たるか、あるいは依頼行為が教唆罪(刑法61条1項)に当たるからである。石原議員自身が「周旋又は勧誘をした」とされる場合には、候補者であるが故の加重要件に該当して最高刑は懲役4年となり、有罪の確定と同時に公民権の停止も行われて議員資格を失う。選挙運動の総括主宰者あるいは出納責任者が有罪になった場合にも、連座制の適用によって石原議員の資格が剥奪される。

繰り返すが、選挙運動は金をもらってやるものではない。たとえ形式的に「労務者」や「事務員」として届出された者であっても、実質において選挙運動をする者であれば、これに金を渡せば、渡した方も受けとった方も犯罪なのだ。また、当然のことだが、「法律を知らなかった」は言い訳にならない。アルバイト募集に応募したところが勤務内容がたまたま選挙運動で、アルバイト料の支払いを買収として結局有罪になったという気の毒な実例もある。「UE社」側のみならず、派遣社員の有罪も動かしがたい。

石原陣営もUE社も、「有給休暇中のボランティア」としての選挙運動であったと口裏を合わせて弁明している。カムフラージュの常套手段だ。しかし、後日「朝日」が入手したという「選挙応援の件(ガイドライン)」と題する文書(UE社人事部門が作成)によれば、「あくまでもボランティアを募集して行わせる体裁をとる」ことが明記されているという。実態が違法であることを認識していた証左といえよう。UE社の人事担当者について運動買収罪が成立し、賃金保障で選挙運動をした3人も被買収罪が成立する。いずれも最高刑は懲役3年である。

ところで本日(5月16日)、石原候補の選挙運動収支報告書を再度閲覧してきた。
4月23日付で訂正がなされている。訂正は、頁単位で旧記載を「削除」し、頁単位で新記載を「追加」するという形式で行われている。「削除」は頁全体への×印と押印で当該頁を抹消したことを明示し、「追加」頁の表記と相俟って、訂正した経過が明瞭に残されている。

最重要の訂正内容は以下のとおり。
原報告書では、「事務員等報酬」の支払い対象が12名で合計支払金額が109万円とされていた。それが、訂正後は4名となり合計額25万円となった。原報告書に「事務員」として記載された12名のうち8名が姿を消し、原報告では支払われてはずの84万円も消えた。

仮に、訂正後の記載が真実で消えた8名については実は金銭授受の事実がなかったとすれば、原報告書提出の時点で、出納責任者における公選法189条の違反となり、同法246条5号の2の「選挙運動収支報告虚偽記載」の罪が成立する。法定刑は、3年以下の禁固または50万円以下の罰金である。事後の訂正は、情状には影響しようが犯罪の成立を阻却しない。

また仮に、訂正前の記載が真実で、訂正によって記載から消えた8名について実は金銭授受の事実があったとすれば、訂正報告書提出の時点で、「選挙運動収支報告虚偽記載」の罪が成立する。

さらに、法189条は報告書に領収書の添付を義務づけている。原報告書には、消えた8名の領収書が添付されていたはずである。もし、訂正のとおりに実は当該の8名に対する金銭の支払いがなかったとすれば、添付の領収書は偽造されたものということになる。誰が偽造したかは明らかではないが、行使の目的での私文書偽造の法定刑は3月以上5年以下の懲役である。

報道によれば、「消えた8人」のうちの3人は、UE社の社員であるという。石原陣営はこの3人を報告書に残しておくことが不都合と考えて報告書を訂正したものであろう、そのように判断せざるを得ない。実質犯としての買収罪(最高刑は懲役)よりは形式犯の収支報告書虚偽記載罪を選択したものと忖度される。買収罪だと石原候補に影響が及ぶことは必至だが、虚偽記載罪なら出納責任者がかぶることで済ませられる、との計算が働いたのであろうとも。

さて、選挙が終了してから今日で5か月。朝日が事件を報道してからでも2か月余を経過した。どうして、警察も検察も石原陣営を検挙しないのだろうか。投票買収だけでなく収支報告書の虚偽記載も加わっている。私文書偽造の疑いもある。しかも、石原議員とUE社との薄汚い密接な関係に基づいての投票買収である。姑息な隠蔽策を弄してもいる。情状はすこぶる悪質というほかはない。各紙の報道によって天下周知の事実にもなっている。それでも、選挙に大勝した自民党の議員については、「この程度のことはお目こぼし」なのであろうか。

投票日を同じくした都知事選の宇都宮陣営では、ビラ配布をしていた70歳が公団住宅の廊下で住居侵入として逮捕され、勾留請求却下まで3泊4日を留置所で過ごした。革新陣営にたいする選挙運動の自由にはかくも厳しく、保守陣営の金権選挙にはかくも甘いのが、警察・検察の実態なのであろうか。

それにしても、事件発覚の発端は朝日の記者の選挙運動収支報告書の閲覧であった。その後に、これを追った毎日・赤旗の各記者の報告書を深く読む炯眼にも感服した。せっかくの情報公開制度を、大いに活用しよう。敵対陣営だけでなく、自分が支持した陣営の選挙についても、収支報告書をよく読み込んでみることをお勧めしたい。興味深い新しいことを発見できるはずだ。

窓口は、都庁第1庁舎39階の選挙管理委員会事務局。印鑑も身分証明も不要。担当職員はとても親切で、けっして面倒な顔などされない。

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Published in 木曜日, 5月 16th, 2013, at 21:42, and filed under 未分類.

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