澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「緊急事態条項は、かくも危険だ」

共産党地区委員会主催の学習会ですから、地域の最前線で活動していらっしゃる皆さまに、実践的なレポートを心掛けたいと思います。

レジメの標題は「緊急事態条項は、かくも危険だ」としましたが、この標題はややおとなしい。「緊急事態条項は憲法政治破壊への突破口」「緊急事態条項は立憲主義へのレッドカードだ」あるいは、「緊急事態条項は地獄の一丁目」などでもよかったのです。要するに、緊急事態条項は日本国憲法を変質してしまうことになる。日本国憲法に異質な緊急事態条項を導入することは、日本国憲法の体系を破壊する、たいへん危険な、それこそ憲法にとっての緊急事態だという危機意識が、本日のテーマです。

本日は、憲法の危機の話しですから、まずは日本国憲法の構造のイメージを確認しておきたいと思います。

日本国憲法が形づくっている体系を、家屋の構造に喩えることでイメージしてください。基礎ないし土台に立憲主義があります。国家の形を憲法で定めるという大原則です。憲法の定めを離れた権力の暴走を許さないという原則でもあります。この土台の上に、3本の柱が並び立って建物の構造の基本を作っています。

中心にある最も太い柱が、基本的人権尊重の柱です。この柱の中心は憲法13条の個人の尊重で出来ています。その周囲に、精神的自由や、人身の自由、経済的自由、さらには生存権や政治参加の権利なども加わって、立派な大切な柱となっています。

2本目の柱が民主主義です。政治は主権者の意思で行う。国民が選挙によって立法府をつくり、立法府が行政府である内閣をつくって国民のための政治を行う。立法府や行政が暴走しないように、憲法の番人としての裁判所を置く。国民の国民による政治という仕組みが民主主義の本質をなすものです。

そして3本目の柱が平和です。我が国は、天皇制政府の軍国主義・侵略主義によって国の内外に計り知れない戦争の惨禍をもたらし、国はいったん事実上の滅亡を経験しました。その復活の原理として平和が憲法上に書き込まれて、3本目の柱となっています。

それぞれの柱はバラバラに立っているのではありません。組み合わさり支え合って、土台と3本の柱が整然とした憲法秩序を形づくっています。これをトランプに喩えたのが、大江志乃夫さん。4種各12枚、合計52枚のカードの整然たる秩序は、1枚のジョーカーによってぶちこわされてしまう。この強力なジョーカーにあたるものが、国家緊急権と言われるもので、大江さんは戒厳令を念頭にジョーカーと言ったのですが、今アベ政権が言い出している緊急事態条項もまったく同じことなのです。

ジョーカーに喩えられる緊急事態条項がいかに、日本国憲法の秩序にふさわしからぬもので、いかに危険か。このことについて、今日は同じことを、レジメの第1章から3章それぞれで3回繰り返します。レジメをご覧ください。

第1章 スローガン編(骨格)
 ビラの見出しに、マイクでの呼びかけにご活用ください。
第2章 理論編(肉付) 
 確信を得て、改憲派と切り結ぶために、面倒ですが耳を傾けてください。
第3章 資料編
 資料を使いこなすことで説得力を身につけてください。

第1章 スローガン編
 「いま、緊急事態条項が明文改憲の突破口にされようとしている」
 しかし、「緊急事態条項は不要だ」「緊急事態条項が必要はデマだ」
 「緊急事態条項は不要と言うだけではない。危険この上ない」
 「緊急事態条項の導入を『お試し改憲』程度と軽視してはならない」
 「緊急事態条項は既に準備されている」
 「自民党改憲草案9章(98条・99条)に条文化までされている」
 「緊急事態条項は、立憲主義を突き崩す。人権・民主々義・平和を壊す」
 「緊急事態とは、何よりも『戦時』のことである。
    ⇒戦時の法制を想定している」
 「『内乱等による社会秩序の混乱』に対する治安対策である。
    ⇒大衆運動弾圧を想定している。
 「緊急事態においては、内閣が国会を乗っ取る。政令が法律の役割を果たす」
    ⇒議会制民主主義が失われる。独裁への道を開く。
 緊急事態条項とは、国家緊急権を明文化したもの。
  国家緊急権は、それ一枚で整然たる憲法秩序を切り崩すジョーカーだ。
  国家緊急権は、天皇主権の明治憲法には充実していた。
  その典型が、天皇の戒厳大権であり、緊急勅令であった。
  ナチスも、国家緊急権を最大限に活用した。
  悪名高い授権法によって、政府は国会から立法権を剥奪し独裁を完成させた。
  最も恐るべきは、緊急事態条項が憲法を停止すること。
  そして、緊急時の一時的「例外」状況が後戻りできなくなることである。

第2章 理論編
1 憲法状況・政権が目指すもの
 ☆解釈改憲(閣議決定による集団的自衛権行使容認から戦争法成立へ)だけでは、
  政権に満足し得る状況ではない。戦争法は、必ずしも軍事大国化に十分な立法ではない。現行憲法の制約が桎梏となっている。⇒明文改憲が必要だ。
 ☆第二次アベ政権の明文改憲路線は、概ね以下のとおり。
  96条改憲論⇒立ち消え(解釈改憲に専念)⇒復活・緊急事態条項
  改憲手続(国民投票)法の整備⇒完了
  そして最近は9条2項にも言及するようになってきている。
2 なぜ、緊急事態条項が明文改憲の突破口とされているのか。
 ☆東日本大震災のインパクトを利用
  「憲法に緊急事態条項がないから適切な対応が出来なかった」
 ☆「緊急事態への定めないのは現行憲法の欠陥だ」
  仮に、衆院が構成がないときに「緊急事態」が生じたら、
☆政権側の緊急事態必要の宣伝は、「衆院解散時に緊急事態発生した場合の不備」に尽きる。
  「解散権の制限」や「任期の延長」規程がないのは欠陥という論法。
  しかし、現行憲法54条2項但し書き(参議院の緊急集会)の手当で十分。
 ☆それでも「お試し改憲」(自・公・民・大維の賛意が期待できる)としての意味。
 ☆あわよくば、人権制約制限条項を入れたい。
3 政権のホンネ
 ☆国家緊急権(規程)は、支配層にとって喉から手の出るほど欲しいもの
  大江志乃夫著「戒厳令」(岩波新書)の前書に次の趣旨が。
 「緊急事態法制は1枚のジョーカーに似ている。
  他の52枚のカードが形づくる整然たる秩序をこの一枚がぶちこわす」
 ☆自由とは権力からの自由と言うこと。人権尊重理念の敵が、強い権力である。
  人権を擁護するために、権力を規制してその強大化を抑制するのが立憲主義。
  立憲主義を崩壊せしめて強大な権力を作るための恰好の武器が国家緊急権。
 ☆戦時・自然災害・その他の際に、憲法の例外体系を形づくって
   立憲主義を崩壊させようというもの。
4 天皇制日本とナチスドイツの国家緊急権
 ☆明治憲法には、戒厳大権・非常大権・緊急勅令・緊急財政処分権限などの国家緊急権制度が明文で手厚く規程されていた。
 ☆ナチスドイツは授権法を制定して内閣が立法権を乗っ取った。
 ☆その反省から、日本国憲法は、国家緊急権(規程)の一切を駆逐した。
  その経過は制憲議会の金森徳次郎答弁に詳しい。
  戦争放棄⇒戦時の憲法体系を想定する必要がない。
  徹底した人権保障システム⇒例外をおくことで壊さない
5 自民党改憲草案「第9章 緊急事態」の危険性
 ☆旧天皇制政府の戒厳・非常大権規程が欲しい⇔「戦後レジームの総決算」
  ナチスの授権法があったらいいな⇔「ナチスの経験に学びたい」
しかも、緊急事態に出動して治安の維持にあたるのは「国防軍」である。
 ☆自民党改憲草案による「緊急事態」条項は
  濫用なくても、「戦争する国家」「強力な権力」「治安維持法体制」をもたらす。
  しかも、濫用の歯止めなく、その危険は立憲主義崩壊につながる
6 まずは、徹底した「緊急事態条項必要ない」の訴えと
 次いで、「旧憲法時代やナチスドイツの経験から、きわめて危険」の主張を

第3章 資料編
☆日本国憲法54条2項
「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。」
「現行憲法の欠陥」はない。この条項で十分。まったく困ることはない。

☆自民党改憲草案(2012年4月27日)「第9章 緊急事態」
 98条 緊急事態の宣言⇒「要件」
 1項 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる

 99条 緊急事態宣言の効果⇒「効果」
 1項 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、《内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる》ほか、内閣総理大臣は《財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。》
 3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。

☆自民党「Q&A」(99条3項関連)⇒憲法の質を変える
 現行の国民保護法において、こうした憲法上の根拠がないために、国民への要請は全て協力を求めるという形でしか規定できなかったことを踏まえ、法律の定める場合には、国民に対して指示できることとするとともに、それに対する国民の遵守義務を定めたものです。

☆民主党「憲法提言」(民主党憲法調査会 2005 年10 月31 日)
3.違憲審査機能の強化及び憲法秩序維持機能の拡充
国家非常事態における首相(内閣総理大臣)の解散権の制限など、憲法秩序の下で政府の行動が制約されるよう、国家緊急権を憲法上明示しておくことも、重ねて議論を要する。
? 国家緊急権を憲法上に明示し、非常事態においても、国民主権や基本的人権の尊重などが侵されることなく、その憲法秩序が確保されるよう、その仕組みを明確にしておく。

☆公明党憲法調査会による論点整理(公明党憲法調査会、2004 年6 月16 日)
「ミサイル防衛、国際テロなどの緊急事態についての対処規定がないことから、あらたに盛り込むべしとの指摘がある。ただ、あえて必要はないとの意見もある。」

☆大日本帝国憲法の国家緊急権規程
 第14条(戒厳大権)
  1項 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
  2項 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
 第8条(緊急勅令)
  1項 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
 第70条(緊急財政処分) 
  1項 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
 第31条(非常大権)
   本章(第2章 臣民権利義務)ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ

☆ナチスドイツの授権法(全権委任法)全5条
正式名称 「民族および国家の危難を除去するための法律」1933年3月23日成立
1.ドイツ国の法律は、ドイツ政府によっても制定されうる。
2.ドイツ政府によって制定された法律は、憲法に違反することができる。
3.ドイツ政府によって定められた法律は、首相によって作成され、官報を通じて公布される。特殊な規定がない限り、公布の翌日からその効力を有する。
4.ドイツ国と外国との条約も、本法の有効期間においては、立法に関わる諸機関の合意を必要としない。政府はこうした条約の履行に必要な法律を発布する。
5.本法は公布の日を以て発効する。本法は《1937年4月1日までの時限立法》である。

☆日本国憲法制定時の、対GHQ「3月2日」案(GHQ草案が46年2月13日)
 明治憲法下の緊急命令及び緊急財政措置に代わるものとして、76 条において、「衆議院ノ解散其ノ他ノ事由ニ因リ国会ヲ召集スルコト能ハザル場合ニ於テ公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ必要アルトキハ、内閣ハ事後ニ於テ国会ノ協賛ヲ得ルコトヲ条件トシ法律又ハ予算ニ代ルベキ閣令ヲ制定スルコトヲ得」と規定されていた。GHQ側は、国家緊急権に関する英米法的な理解を根拠に、「非常時の際には、内閣のエマージェンシー・パワー(emergency power)によって処理すべき」としてこれを否定したが、その後の協議の結果、日本側の提案に基づき、参議院の緊急集会の制度が採り入れられることになった。(衆議院憲法審査会「緊急事態」に関する資料)

☆制憲国会(第90帝国議会)における政府(担当大臣金森徳次郎)答弁
緊急勅令及ビ財政上ノ緊急処分ハ、行政当局者ニ取リマシテハ実ニ調法ナモノデアリマス、併シナガラ調法ト云フ裏面ニ於キマシテハ、国民ノ意思ヲ或ル期間有力ニ無視シ得ル制度デアルト云フコトガ言ヘルノデアリマス、ダカラ便利ヲ尊ブカ或ハ民主政治ノ根本ノ原則ヲ尊重スルカ、斯ウ云フ分レ目ニナルノデアリマス、ソコデ若シ国家ノ仲展ノ上ニ実際上差支ヘガナイト云フ見極メガ付クナラバ、斯クノ如キ財政上ノ緊急措置或ハ緊急勅令トカ云フモノハ、ナイコトガ望マシイト思フノデアリマス」
「民主政治ヲ徹底サセテ国民ノ権利ヲ十分擁護致シマス為ニハ、左様ナ場合ノ政府一存ニ於テ行ヒマスル処置ハ、極力之ヲ防止シナケレバナラヌノデアリマス言葉ヲ非常ト云フコトニ藉リテ、其ノ大イナル途ヲ残シテ置キマスナラ、ドンナニ精緻ナル憲法ヲ定メマシテモ、口実ヲ其処ニ入レテ又破壊セラレル虞絶無トハ断言シ難イト思ヒマス、随テ此ノ憲法ハ左様ナ非常ナル特例ヲ以テ――謂ハバ行政権ノ自由判断ノ余地ヲ出来ルダケ少クスルヤウニ考ヘタ訳デアリマス、随テ特殊ノ必要ガ起リマスレバ、臨時議会ヲ召集シテ之ニ応ズル処置ヲスル、又衆議院ガ解散後デアツテ処置ノ出来ナイ時ハ、参議院ノ緊急集会ヲ促シテ暫定ノ処置ヲスル、…コトガ適当デアラウト思フ訳デアリマス」

☆法律による「緊急事態」への対処について(『改憲の何が問題なのか』(岩波、2013年)所収の水島朝穂「緊急事態条項」)水島朝穂さんのブログ「直言」から
 「日本の場合、憲法に緊急事態条項はないが、法律レヴェルには「緊急事態」という文言が随所に存在することである。例えば、「警察緊急事態」(警察法71条)、「災害緊急事態」(災害対策基本法105条)、「重大緊急事態」(安全保障会議設置法2条9号)である。これに「防衛事態」(自衛隊法76条)、「武力攻撃事態」(武力攻撃事態法2条)、「治安出動事態」(自衛隊法78、81条)が加わる。憲法9条の観点から合憲性に疑義のあるものもあるが、ここでは立ち入らない。」

最後に、東北弁護士会連合会の会長声明を引用します。これは、今国会(1月27日)の代表質問で志位委員長が引用して、急に有名になったものですか、たいへんよくできています。説得力に富むものだと思います。

☆東北弁連会長声明
災害対策を理由とする国家緊急権の創設に反対する会長声明
現在、与党自民党において、東日本大震災時の災害対応が十分にできなかったことなどを理由として、日本国憲法に「国家緊急権」の新設を含む改正を行うことが議論されている。
国家緊急権とは、戦争や内乱、大災害などの非常事態において、国民の基本的人権などの憲法秩序を一時停止して、権限を国に集中させる制度を言う。《この制度ができると国は強大な権限を掌握することができるのに対し、国民は強い人権制約を強いられることになる。災害対応の名目の下に、国家緊急権が創設されることは、非常に危険なことと言わざるを得ない。》
そもそも、日本国憲法の重要な原理として、権力分立と基本的人権の保障が定められたのは、国家に権力が集中することによって濫用されることを防ぎ、自由・財産・身体の安全など、国民にとって重要な権利を守るためである。大日本帝国憲法(以下「旧憲法」という)時代には国民の人権が不当に侵害され、戦争につながった経験に鑑みて、日本国憲法はかかる原理を採用している。また、旧憲法には国家緊急権の規定があったが、それが濫用された反省を踏まえて、日本国憲法には国家緊急権の規定はあえて設けていない。
《確かに、東日本大震災では行政による初動対応の遅れが指摘された事例が少なくない。しかし、その原因は行政による事前の防災計画策定、避難などの訓練、法制度への理解といった「備え」の不十分さにあるとされている。》例えば、震災直後に被災者に食料などの物資が届かなかったこと、医療が十分に行き渡らなかったことなどは、既存の法制度で対応可能だったはずなのに、避難所の運営の仕組みや関係機関相互の連絡調整などについての事前の準備が不足していたことに原因があるのである。東京電力福島第一原子力発電所事故に適切な対処ができなかったのも、いわゆる「安全神話」の下、大規模な事故が発生することをそもそも想定してこなかったという事故対策の怠りによるものである。つまり、災害対策においては「準備していないことはできない」のが大原則であり、これは被災者自身が身にしみて感じているところである。
そもそも、日本の災害法制は既に法律で十分に整備されている。例えば、災害非常事態等の布告・宣言が行われた場合には、内閣の立法権を認め(災害対策基本法109条の2)、内閣総理大臣に権限を集中させるための規定(災害対策基本法108条の3、大規模地震対策特別措置法13条1項等)、非常事態の布告等がない場合でも、防衛大臣が部隊を派遣できる規定(自衛隊法83条)など、災害時の権限集中に関する法制度がある。また、都道府県知事の強制権(災害救助法7?10条等)、市町村長の強制権(災害対策基本法59、60、63?65条等)など私人の権利を一定範囲で制限する法制度も存在する。従って、国家緊急権は、災害対策を理由としてもその必要性を見出すことはできない。
他方で、《国家緊急権はひとたび創設されてしまえば、大災害時(またはそれに匹敵する緊急時)だけに発動されるとは限らない。時の政府にとって絶対的な権力を掌握できることは極めて魅力的なことであり、非常事態という口実で濫用されやすいことは過去の歴史や他国の例を見ても明らかである。国民の基本的人権の保障がひとたび後退すると、それを回復させるのが容易でないこともまた歴史が示すとおりである。》
よって、当連合会は、《東日本大震災において甚大な被害を受けた被災地の弁護士会連合会として、災害対策を理由とする国家緊急権創設は、理由がないことを強く指摘し、さらに国家緊急権そのものが国民に対し回復しがたい重大な人権侵害の危険性が高いことから、国家緊急権創設の憲法改正に強く反対する。
2015年(平成27年)5月16日
東北弁護士会連合会 会長 宮本多可夫

最後に、参照すべき資料として次の2サイトを推奨します。
まずは、この分野なら水島朝穂さん。その姿勢が最も信頼できる。
「なぜ、いま緊急事態条項なのか――自民党改憲案の危うさ」
  http://www.asaho.com/jpn/bkno/2016/0125.html

そして、衆議院憲法審査会事務局がまとめた下記資料を
「緊急事態」に関する資料 – 衆議院   http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/shukenshi.htm
  (衆憲資87号をクリック)

以上で終わります。皆さまの日常の活動に、少しでもお役に立てばと念じます。ご静聴ありがとうございました。
(2016年2月13日)

Info & Utils

Published in 土曜日, 2月 13th, 2016, at 21:58, and filed under 明文改憲.

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