澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

トランプ政権 発足以前の前途多難

韓国の朴槿恵大統領批判の運動がすさまじい。印象的なのは、デモ参加者の数だけではなく、抗議行動の整然さである。過激に走って暴徒化するなどの行動は見えない。これなら、老若男女誰もが参加可能だ。韓国の民衆の成熟度と政権の未熟さのコントラストが際立っている。これでは、政権はもたないだろう。

韓国の現政権は出だし順調に見えたが、その未熟さで今瓦解しようとしている。さて、注目のトランプ次期政権だが、発足以前から前途は多難である。これも、任期のまっとうを待たずに瓦解するのではないか。滑り出す前から順調ならざる予感。

問題は、2点ある。まず何よりも、多民族・多人種・価値多元のアメリカを否定して大統領選に勝利したトランプである。国民の亀裂ではなく、統合に意を用いなければならないことが当然なのに、この人の直情径行はそれができないのだ。彼に大統領選勝利をもたらした、その彼の性格が結局は国民の分断を煽ることなって、政権の維持が困難となることが予想される。

本日伝えられた下記の事件は、将来の不安を予測させる象徴的なできごとである。
やや、微妙な問題なので、CNNの報道をそのまま全文を転載する。

 ドナルド・トランプ次期大統領は19日、ニューヨークで上演中のミュージカル「ハミルトン」のキャストらに対してツイッター上で謝罪を要求した。前夜の舞台でキャストの1人が、観劇に訪れたマイク・ペンス次期副大統領にステージ上から呼び掛け、「米国の価値観を守って」と訴えたことが「嫌がらせ」に当たるとの見方からだ。

 「ハミルトン」は米建国の父の1人、アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いたミュージカル。ヒップホップの歌と踊り、そして出演者のほとんどが非白人という配役が話題を呼んでいる大ヒット作だ。

 その客席に19日、ペンス氏が姿を見せた。終演後のカーテンコールでキャストの1人、ブランドン・ディクソンさんはペンス氏に歓迎の言葉を述べた後、人権擁護に関する新政権の意向に懸念を抱いていると発言。「あなたがこの作品に感化されて米国の価値観を守り、私たち全員のために力を尽くしてくださることを願っています。私たち全員のために」と語り掛けた。観客からは大きな拍手と歓声が上がった。

 これに対してトランプ氏は19日朝、ペンス氏がキャストから「無礼」な「嫌がらせ」を受けたとツイートし、謝罪を求めた。

 ディクソンさんはツイッター上でトランプ氏に向け、「会話は嫌がらせではありません。ペンス氏が耳を傾けてくださったことに感謝しています」と返した。

 ペンス氏が劇場に入った時、客席からは少数の拍手と同時にブーイングが起きていた。ディクソンさんはカーテンコールで、ブーイングをしないよう観客に呼び掛けた。

 「ハミルトン」の広報担当者によると、ペンス氏は終演後、会場から出ようとしていたが、立ち止まってディクソンさんの言葉に耳を傾けたという。

朝日デジタルは、ほぼ同旨を報道しているが、次の記事が目を惹く。
「トランプ氏はこれまでも、自分への批判などに敏感に反応し、ツイッターなどを通して反撃をしてきた。大統領になることが決まってからも、行動パターンは変わらないようだ。」

朝日が報じるトランプの送信内容に関する記事は以下のとおり。
「19日朝になって、トランプ氏はツイッターで『私たちの素晴らしい将来の副大統領が、ハミルトンの俳優によってハラスメントを受けた。これは起きてはならない』『劇場は常に安全で特別な場所でなければならない。ハミルトンの俳優たちはとても失礼だった。謝れ!』と発信し、痛烈に批判した。

なんとも、大人げない政治家がいたものだ。これが次期大統領である。世界中がその行動を注視していることが分かっているのに、一俳優に「謝れ!」というのだ。しかも、CNNや朝日の報道のとおりであれば、俳優側に非礼はなく、トランプの激昂ぶりは尋常でない。

ペンスの対応ぶりは、単に彼の無能を表している。この素晴らしい舞台設定の機会を生かして、どうしてこう言えなかったのか。
「ディクソンさん。そして観客の皆さん。なんのご心配にも及びませんよ。次期トランプ政権は、必ず米国の価値観を守ります。肌の色や母語を異にしても、国民誰もが幸せとなる国を目指して全力を尽くすことを約束いたします。ですから、皆さん。これから発足するトランプ政権を暖かくご支援ください」と。

こう言わなかったトランプ陣営幹部の無能さが、今後の心配のタネのひとつ。しかし、トランプの言動は、無能ということではおさまらない。最悪のオウンゴールだ。将棋に「バカ詰め」というものがある。通常の詰め将棋は、どうすれば相手の玉を王手の連続で詰めるかを考える。最善手の連続が要求される。バカ詰めは、どうしたら最悪手の連続で最短で自分の玉が詰まされるかを考えるゲームなのだ。言わばオウンゴールの連続手を考えるのだ。

トランプのやったことは、この「バカ詰め」に等しい。挽回の機会はあつたのに、最悪手を連続して、俳優と観劇者だけでなく、CNNの視聴者やアメリカ世論に、「このトランプという男、差別と排外主義の政策を本気でやりかねない」というイメージを深く刻印した。

第2点は、政治とビジネスの混同、そして私物化である。
日刊ゲンダイの記事を引用する。
 就任前の異例のトランプ・安倍会談。ドナルド・トランプがそこに、娘・イバンカとその夫・ジャレッド・クシュナーを同席させたことに、米国内で「政治の私物化」だと批判が上がっている。米経済誌「フォーチュン」(電子版)が18日伝えた。
 イバンカはトランプが経営する不動産会社の副社長。会談に同席したことで、安倍首相が同社を優遇しかねず、国益と個人的な利益が相反する恐れが指摘されている。
 イバンカ夫妻が機密情報に接する権限を持っていないことも問題視されているという。

一方、トランプは新政権の3人の人事を発表。司法長官にジェフ・セッションズ上院議員、中央情報局(CIA)長官にマイク・ポンペオ下院議員、国家安全保障担当の大統領補佐官にマイケル・フリン元国防情報局長官を指名する。いずれも、共和党内の反発をよそに、早期にトランプ支持を表明したことから、“論功行賞”とみられている。
 加えて3人ともガチガチのタカ派。セッションズは人種差別発言で裁判官の任命を拒否されたことがある。フリンは「イスラム教徒を恐れるのは理にかなう」とツイートしている。この人選では、米国内の反トランプデモがますます激化しそうだ。

いま、米国内の反トランプデモは、新政権の土台を揺るがすほどのものではない。しかし、以上の2点は、トランプには修復不可能で、直情径行ツィートも、身内優遇も政権内非宥和も、これから「ますます激化しそう」ではないか。政権発足前に早くも危機の予感。これは珍しい政権と言わねばならない。
(2016年11月20日)

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Published in 日曜日, 11月 20th, 2016, at 20:38, and filed under アメリカ, 差別.

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