澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

祝・「植村隆氏、金曜日の社長に就任」

「植村裁判を支える市民の会」のホームページが素晴らしく充実している。支援の質の高さを示して、さすがというほかはない。URLは以下のとおり。
http://sasaerukai.blogspot.com/

そのサイトの昨日(9月26日)の記事に驚いた。「植村隆氏、金曜日の社長に就任」というもの。 金曜日とは、言わずと知れた「週刊金曜日」を発行する「株式会社金曜日」のこと。同誌は、これまでも植村訴訟支援の姿勢を堅持してきた。とは言うものの、植村さんがその出版社の代表取締役社長兼発行人に就任なのだ。私には、思いもよらなかったこと。明日(9月28日)、就任の記者会見をするという。

まずは、目出度い。祝意を述べねばならない。植村さんは、今わが国に跋扈している極右似非ジャーナリズムとの対峙の最前線に位置する人。政権ヨイショの御用文化人との厳しい対立関係にもある。その人が、孤立するどころか、有力メディアの代表者になった。植村裁判支援の輪も広がるだろうし、週刊金曜日の新たな読者層の開拓も可能になるだろう。それは目出度い。

とはいえ、目出度いばかりでもなかろう。雑誌メディアの経営は、今どこも順調ではない。もしかしたら、植村さんには経営環境改善の手腕を求められているのかも知れない。そうであれば大変なことだが、応援もしなければならない。

 

ところで、植村さんが原告となっている訴訟は2件ある。最初の提訴が東京地裁、次いで札幌地裁。いずれの訴訟も最終盤、間もなく判決期日を迎える。

東京訴訟の提起は2015年1月9日。朝日新聞の植村執筆記事を「捏造」とする西岡力(東京基督教大学教授)と、文芸春秋社を被告としての名誉棄損損害賠償請求訴訟。文芸春秋社が被告になっているのは、植村さんを捏造記者と決めつけてバッシングの端緒なったのが週刊文春の記事であったから。次回11月28日第14回口頭弁論で結審の予定。

札幌訴訟提起は15年2月10日。櫻井よしこと、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、月刊WiLLの発行元3社を被告とする同様の損損害賠償請求。本年(2018年)7月6、第12回口頭弁論期日をもって結審。11月9日(金)午後3時30分判決言渡しの予定である。

「支える会」は、2016年4月12日付で「設立趣意書」を公表している。
「植村さんとともに、さらに前へ」というタイトル。「さらに前へ」という呼びかけは、下記の共同代表7氏によるもの。
上田文雄(前札幌市長、弁護士)
小野有五(北海道大学名誉教授)
神沼公三郎(北海道大学名誉教授)
香山リカ(精神科医)
北岡和義(ジャーナリスト)
崔善愛(ピアニスト)
結城洋一郎(小樽商科大学名誉教授)

この呼びかけ文の抜粋で、事態を理解することができる。

 発端は、週刊文春2014年2月6日号の記事「”慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」でした。転職先に決まっていた神戸松蔭女子学院大学に抗議が殺到、植村さんは教授就任を断念せざるを得なくなりました。14年5月からは、非常勤講師を務める北星学園大学にも「国賊をやめさせろ」「学生をいためつける」など脅迫・嫌がらせのメールや電話が押し寄せ、ネット上に植村さんの長女(当時17歳)の写真と実名がさらされ「自殺するまで追い込むしかない」などと書き込まれる事態になりました。

 「大学、植村さん家族を脅迫から守ろう。私たちも北星だ」と立ち上がったのは市民です。北星学園大学に応援メッセージを送るなど大学を励ます「負けるな北星!の会」(略称・マケルナ会)には国内外の1000人が加わりました。全国の400人近い弁護士が脅迫者を威力業務妨害罪で札幌地検に刑事告発するなど、支援の輪は大学人、宗教者、市民グループ、研究者、弁護士、ジャーナリストなど各界に広がっていきました。この応援を力に、北星学園大学は14年12月、植村さんの次年度雇用継続を決めました。

 植村さんは「私は捏造記者ではない」と手記や講演で反論を続けています。朝日新聞の第三者委員会、歴史家、当時取材していた記者らによって完全否定されても、「捏造」のレッテル貼りは執拗に続いています。

 この間の異常ともいえる植村さん攻撃は、基本的人権、学問の自由、報道・表現の自由、日本の民主主義に向けられています。女性が生と性を蹂躙された日本軍「慰安婦」を、なかったことにし、歴史を書き換え、ものを言わせぬ社会に再び導こうとする黒い意志を、見逃すわけにはいきません。この裁判が植村さんの名誉回復のみならず、私たちの社会の将来に大きな影響を及ぼすと考える所以です。

 札幌訴訟が先行して証拠調べを実施し、櫻井よしこ尋問で、そのウソが明らかとなった。東京訴訟でも西岡力のウソが暴かれている。ウソで、人を「捏造記者」と決めつけ、恐るべきネット右翼のバッシングの導火線となったのだ。

以下は、「支える会」ホームページの本日(9月27日)付「西岡氏の批判広がる」の転載である。この訴訟に関心をよせていた人たちの櫻井・西岡に対する批判。植村バッシングとは何であるか。この問題の多面性が浮かびあがってくる。

以下は9月26日午後3時現在の#西岡力についてのタイムラインからの抜粋である。このほかに、中島岳志、平野敬一郎氏らの本文なしリツイートも多数ある。

※抜粋にあたっては、ツイート本文の一部を削ったものもある。
https://twitter.com/search?q=%EF%BC%83%E8%A5%BF%E5%B2%A1%E5%8A%9B&src=typd
■望月衣塑子
めちゃくちゃである。何の学術的裏付け、根拠もないまま植村氏を批判。結果、植村氏や家族や大学は誹謗中傷、脅迫に晒され続けた。その罪はあまりにも重い
■佐藤 章
この裁判記事によれば西岡力はほとんど捏造じゃないか。自分が捏造しておいて他者を捏造呼ばわりするのは学者として人として失格だろう。恐らくは櫻井よしこもそうだろう。植村隆は捏造などするような人間ではない。西岡と櫻井は、記者会見を開いて謝罪すべきだ。
■masa
慰安婦問題を少しかじったら誰もが知ってる名前だろう。そして、裁判で捏造を認めた、この人物は北朝鮮拉致被害者の「救う会」の会長でもある。では「家族会」は?一緒に多くの集会を開いているだろうから、YouTubeででも確認するとよいかもしれない。
■細かい情報?
西岡氏はまた、元「慰安婦」の証言集は読んでおりながら、「挺身隊」名目で「慰安婦」にさせられた韓国人女性の証言は「覚えていない」とし、自らの主張と異なる最新の調査・研究結果も読んでいないと答えた。
■まりーべる321
#ヤフコメ が酷いですね。 #ネトウヨ さん達、いい加減にして欲しいです。
■World Peace Productions
#西岡力 本当に学者なのか?恥を知れ嘘つき野郎
■Hiroshi Takahashi
櫻井よしこさんも自分がウソ吐いたのを白状したし、西岡力さんも自分がウソ吐いたの白状したし、阿比留瑠比さんも自分の矛盾をアウェーの植村隆さんに突っ込まれて白旗上げたし、これだけウソ吐きのウソがばれてるのに、ウソを信じたい人たちは目を覚まさないんだよなー。
■佐藤 章
植村隆はぼくの昔の同僚だが、捏造などするような人間では決してない。人間である以上細かいミスはあるだろうが、優秀なジャーナリストであることは間違いない。捏造は、櫻井や西岡である。お仲間の杉田や小川のレベル、人間性を見てもよくわかる。
■渡辺輝人
酷いな。歴史修正主義って、日本語だと、修正なんて生易しいものじゃなくて、歴史の意図的改ざんなんだよね。
■ Hiroshi Takahashi
櫻井よし子に続いて右派の連中、ボロボロやんかw。
■想田和弘
シャレにならんな。→『朝日』元記者・植村隆裁判で西岡力氏が自らの「捏造」認める
■ソウル・フラワー・ユニオン?
西岡力。櫻井よしこといい阿比留瑠比といい、嘘をつきまくって結局白旗。汚辱にまみれたカルトの不誠実な人生。
■能川元一
西岡力も櫻井よしこも、実に軽々しく「捏造」という非難を他者に浴びせてきたから、自分たちのミスを「捏造」呼ばわりされても自業自得なんだよね。
■宋 文洲
嘘吐きはウヨの始まり
■m TAKANO?
植村隆裁判で、事実に基づいた緻密な追求によって櫻井よしこに続いて西岡力も白旗を揚げざるを得ない状況に追い込まれた。いわゆる右派論客こそ捏造だらけであることが、この裁判を通じて明らかにされた。
■北丸雄二
「慰安婦」問題否定派の旗手である麗澤大学客員教授の西岡力、捏造だったって。
■森達也(映画監督・作家)
ここまでの展開はさすがに予想できなかった。思想信条は違っても尊敬できる人であってほしいのに、下劣すぎる本質がどんどん顕わになる。
■tany
<西岡氏が、いくつかの重要部分について「間違い」を認めた> って、間違いじゃなくて<嘘をついた>だよね。 櫻井よしこやネトウヨはどうするんだろう。
■hiroshi ono
なんか、最近YuTubeでも歴史改ざんやヘイトまき散らす(自称)保守系ネット番組が相次いで締め出されたり、新潮の雑誌が休刊に追い込まれたり、櫻井よし子や今回の西岡力が裁判で自ら捏造デマ流してたこと認めたり、潮目が変わって来た感じ。日本の自浄作用に期待します。
■西大立目
結局「捏造」してるのは朝日叩いてる連中なんですよね。 小川榮太郎とか櫻井よしことか西岡力とか そしてコイツラは未だに「保守論壇誌」だの「産経新聞」だので朝日叩きのお仕事継続中
■デマを生む人信じる人の思考回路研究?
「慰安婦問題」を否定する人々の拠り所とされてきた西岡力氏の言論。西岡氏は、元朝日新聞記者の植村隆氏の書いた慰安婦記事は捏造だ?と言い続けてきた。しかし実際は逆で、西岡氏の方が自らの言論に都合よく事実を捏造していたことを東京地裁で認めた。
■you u you
これホントだったら大変なことだと思うんだけど。植村さんを叩いている人達は西岡さんに事実確認したほうがよくない?
■Kawase Takaya
人を嘘つき呼ばわりしていた奴が本当に嘘つきだった。これで事の理非が分からなければ、病膏肓に入るとしか。
■スワローヲタフク
西岡力って、確か「救う会」の会長で、アベのブレーンだよな。まさに、アベ政権に「巣食う会」になりましたとさwww
■河原 淳
櫻井よしこに続いて西岡力もー。 安倍首相を取り巻く右派論客のウソが次々に暴かれている。平然とウソをつき、他人を容赦なく攻撃し排斥する。安倍首相にも通じる。
■akabishi2
司会は櫻井よし子。救う会会長は西岡力。植村裁判で実質的に「捏造」を認めた2人が、拉致被害者の運動に深く関わっているのは偶然でもなんでもないことは、普通に考えればわかることなのに、誰もそのことを口にできないし書けないもんなー
■清水 潔
おいおい。 西岡氏は、植村氏の記事に対し「名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。捏造記事と言っても過言ではありません」とコメント。 しかし尋問で問われると、「記憶違いだった」と間違いを認めた。
■T-T
櫻井よしこも西岡力も裁判でデマを認めて、いま沖縄知事選でデマが飛び交っていると問題になっているけど与党候補からはデマで困っているという声は出ていないということ。
■藤井 太洋
慰安婦=プロの娼婦説の引き金を引いた西岡力が、発端となった記事の捏造を認めたのか。大きな一歩になるな。 そもそも慰安所にはプロも、騙された人も強制連行された人もいたのだろう。だからといって移動の自由がない戦地の慰安所に収容していいわけがないのだ。
■河信基
この男が横田夫妻を操り、拉致問題を10年間拗らせた張本人。廃刊になった新潮45の常識外に偏った常連寄稿者の一人でもある。
■宿坊の掲示板ほぼbot
「慰安婦」問題否定派の旗手である西岡力氏。彼の論考や発言は、櫻井よしこ氏をはじめ、右派言説の論理的支柱となり、影響を与え続けてきた。その西岡氏が9月5日に東京地裁で尋問に答えた内容は、彼らに失望と嘆息を与えるかもしれない。西岡氏が、いくつかの重要部分について「間違い」を認めたからだ
■Veem.atomic
朝日新聞の慰安婦問題、結局は捏造ではなくて、捏造だと言ってた西岡力氏が、否定の根拠を捏造(記憶違い)だと裁判で認めた訳だ。 朝日を責めてた人達、これからどうするんだろ? 謝罪するのかな?
■ウツボマン
しかし、安倍応援団、ひどいね。百田尚樹に青山繁晴、櫻井よしこに西岡力。小川榮太郎に山口敬之、竹田恒泰。よくもこれだけのメンバーを集められるもんだ。
■川上 哲夫
元朝日新聞記者・植村隆さんの、元「慰安婦」記事を「捏造」と週刊誌に書いた西岡力の記事こそが【捏造】であったことを本人が認めた。仕方なく認めた
■toriiyoshiki?
「金曜日」の記事を読んで思うのは、西岡力氏の学者・研究者・言論人としてのモラル崩壊ぶりである。自説を補強するため、新聞記事のありもしない一節をでっち上げるなど、あってはならないこと、人並みの良心さえあればとても考えられないことである。
■toriiyoshiki
朝日新聞の従軍慰安婦についての記事を「捏造」だと非難してきた御本人が、自らの論拠が事実上の「捏造」だったことを認めるに至ったお粗末の顛末。これは裁判記録として残るから、もう言い抜けはできまい。
■ryozanpaku
『植村氏が起こした民事裁判で、西岡力氏は今年9月5日、植村氏を批判する根拠としていた元「慰安婦」の訴状と韓国紙の記事について、そのいずれも引用を誤っていたうえ、自らが記事を改竄していたことを認めた。植村氏の記事が「捏造だ」という主張はもはや根拠を失っている。』 西岡、謝れ!

■Joshua Martin あたま抱え中?
2014年当時、西岡力に私もすっかり騙されていた。
「名乗り出た女性は親に身売りされて慰安婦になったと訴状に書き、韓国紙の取材にもそう答えている。」→嘘でした!
「私は40円で売られて、キーセンの修業を何年かして、その後、日本の軍隊のあるところに行きました」→加筆捏造でした!
■根村恵介?
レイプジャーナリスト、捏造記者、ウヨクエンタメ作家、お追従評論家…安倍晋三のまわりはいかがわしい人物だらけ。
■omelette
【「私は40円で売られて,キーセンの修業を何年かして,その後,日本の軍隊のあるところに行きました」という元の記事にない文章を書き加えていることを指摘されると,「間違いです」と小声で認めた。】 元の物に無い文を勝手に作るのは、「間違い」ではなく、「捏造」
■能川元一
あの二人はなにか勘違いしたとか筆が滑ったとかであんなこと描いてるわけじゃない。あれは二人の世界観そのものなんだから。櫻井よしこや西岡力があれだけ法廷でド詰めされても「捏造記者」呼ばわりを謝罪もせず撤回もしてないのを見ればわかるじゃん。
■エリン
この 西岡力 って奴のデマに、脊髄反射で共感したのが 櫻井よしこ らであり、加害に加担した罪は大きい。西岡氏は大学教授を辞し、櫻井よしこは物書きとして筆を折るべきだ。
以下略

両訴訟の判決を楽しみに待ちたい。
(2018年9月27日)

植村隆バッシング反撃訴訟支援の今日的な意義

本日(1月6日)は、世田谷・成城ホールでの植村東京訴訟支援企画・「2018新春トークコンサート『忖度を笑う 自由を奏でる』(主催:植村訴訟東京支援チーム)に出かけた。招待券は1枚で、妻の席は当日券でのつもりだったが、400席が文字どおりの満席。暮れにはチケット完売で、電話予約も断わり、「当日券はありません」という事前のアナウンスもされていたそうだ。事情を知らず一時は入場を諦めたが、スタッフの厚意で何とか入れてもらった。

実感として思う。従軍慰安婦問題への世の関心は依然高いのだ。いや歴史修正主義者であるアベの政権のもと、従軍慰安婦問題は戦争の加害責任問題として忘れてはならないという市民の意識が高まっているのではないか。戦争の記憶継承の問題としても、民族差別問題としても、また報道の自由の問題としても、従軍慰安婦問題は今日的な課題として重要性を増している。

考えてもみよ。安倍晋三を筆頭とする右派勢力は、なにゆえにかくも従軍慰安婦問題にこだわるのか。その存在を隠そうとするのか、報道を押さえ込もうとするのか。メディアでも、教育でも、かくも必死に従軍慰安婦問題を封印しようとしているのか。

まずは、過ぐる大戦における皇軍を美化しなければならないからである。神なる天皇が唱導した戦争は聖戦である。大東亜解放の崇高な目的の戦争に、従軍慰安婦の存在はあってはならない恥部なのだ。大義のために決然と起った皇軍は、軍律正しく、人倫を弁えた存在でなくてはならない。だから、南京大虐殺も、万人抗も、捕虜虐待も、人体実験も、生物兵器の使用も、毒ガス戦も、すべては存在しなかったはずのもので、これがあったとするのは非国民や反日勢力の謀略だということになる。女性の人格を否定しさる従軍慰安婦も同様、その存在は当時の国民にとっての常識だったに拘わらず、あってはならないものだから、強引にないことにされようとしているのだ。

このことは、明らかに憲法改正の動きと連動している。9条改憲によって再び戦争のできる国をつくろうとするとき、その戦争のイメージが恥ずべき汚れたものであっては困るのだ。国土と国民と日本の文化を守るための戦争とは、雄々しく、勇ましく、凜々しいものでなければならない。多くの国民が、戦争といえば従軍慰安婦を連想するごとき事態では、戦争準備にも、改憲にも差し支えが生じるのだ。

本日の企画は、トークとコンサート。トークが、政治風刺コントで知られるパフォーマー松元ヒロさんで、これが「忖度を笑う」。そして、ピアニスト崔善愛さんが「自由を奏で」、最後に植村さん本人がマイクを握った。「私は捏造記者ではない」と、経過を説明し、訴訟の意義と進行を熱く語って支援を訴えた。熱気にあふれた集会となり、聴衆の満足度は高かったものと思う。

宣伝文句は、「慰安婦問題でバッシングされている元朝日新聞記者、植村隆さんを支援しようと、風刺コントで知られる松元ヒロと、鍵盤で命を語るピアニスト・崔善愛(チェソンエ)がコラボします。『自粛』や『忖度』がまかりとおる日本の空気を笑い飛ばし、抵抗のピアノに耳を傾けましょう。」というものだが、看板に偽りなしというところ。

ところで、植村隆バッシングに反撃の訴訟は、東京(地裁)訴訟と札幌(地裁)訴訟とがある。東京訴訟の被告は西岡力東京基督教大学教授と株式会社文藝春秋(週刊文春の発行元)に対する名誉棄損損害賠償請求訴訟。次回、第11回口頭弁論が、1月31日(水)午後3時30分に予定されている。

札幌訴訟は、櫻井よしこ、新潮社(週刊新潮)、ワック(月刊Will)、ダイヤモンド社(週刊ダイヤモンド)に対する名誉棄損損害賠償請求訴訟。次回第10回口頭弁論期日が、2月16日(金)午前10時に予定されている。

植村「捏造記者説」の震源が西岡力。その余の櫻井よしこと各右翼メディアが付和雷同組。両訴訟とも、間もなく立証段階にはいる。

植村従軍慰安婦報道問題は、報道の自由の問題であり、朝日新聞問題でもある。朝日の従軍慰安婦報道が右派総連合から徹底してバッシングを受け、担当記者が攻撃の矢面に立たされた。日本の平和勢力、メディアの自由を守ろうという勢力が、総力をあげて植村隆と朝日を守らねばならなかった。しかし、残念ながら、西岡・櫻井・文春などが植村攻撃に狂奔したとき、その自覚が足りなかったように思う。

いま、従軍慰安婦問題は新たな局面に差しかかっている。2015年12月28日の「日韓合意」の破綻が明らかとなり、「最終的不可逆的」な解決などは本質的に不可能なことが明らかとなっている。被害の深刻さに蓋をするのではなく、被害の実態を真摯に見つめ直すこと。世代を超えて、その記憶を継承し続けることの大切さが再確認されつつある。このときに際して、植村バッシング反撃訴訟にも、新たな意味づけがなされてしかるべきである。

本日の集会の最後に司会者が、会場に呼びかけた。
「皆さん、『ぜひとも植村訴訟をご支援ください』とは言いません。ぜひ、ご一緒に闘ってください」
まったく、そのとおりではないか。
(2018年1月6日)

これが国際社会の良識から見た「日本の言論・表現の自由の惨状」だーデービッド・ケイの暫定調査結果を読む

安倍内閣発足以来、日本の言論・表現の自由は、惨憺たるありさまとなっている。
ほかならぬNHK(NEWS WEB)が、「報道の自由度 日本をはじめ世界で『大きく後退』」と報じている。本日(4月20日)の以下の記事だ。

「パリに本部を置く「国境なき記者団」は、世界各国の「報道の自由度」について、毎年、報道機関の独立性や法規制、透明性などを基に分析した報告をまとめランキングにして発表しています。4月20日発表されたランキングで日本は、対象となった180の国と地域のうち72位と、前の年の61位から順位を下げました。これについて「国境なき記者団」は、おととし特定秘密保護法が施行されたことなどを念頭に、「漠然とした範囲の『国家の秘密』が非常に厳しい法律によって守られ、記者の取材を妨げている」と指摘しました。」

日本は180国の中の72位だという。朝日は、「日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、『東洋の民主主義が後退している』としたうえで日本に言及した。」と報じた。アベ政権成立のビフォアーとアフターでこれだけの差なのだ。

ところで、72位? 昨年から順位を下げたとはいえ、まだ中位よりは上にある? 果たして本当だろうか。この順位設定の理由は、「特定秘密保護法が施行されたこと」としか具体的理由を挙げていない。しかし、実はもっともっと深刻なのではあるまいか。

昨日(4月19日)、日本における言論・表現の自由の現状を調べるため来日した国連のデービッド・ケイ特別報告者(米国)が、記者会見して暫定の調査結果を発表した。英文だけでなく、日本語訳も発表されている。その指摘の広範さに一驚を禁じ得ない。この指摘の内容は、到底「言論・表現の自由度順位72位」の国の調査結果とは思えない。

最も関心を寄せたテーマが、放送メディアに対する政府の「脅し」とジャーナリストの萎縮問題。次いで、特定秘密保護法による国民の知る権利の侵害。さらに、慰安婦をめぐる元朝日記者植村隆さんへの卑劣なバッシング。教科書からの慰安婦問題のが削除。差別とヘイトスピーチの野放し。沖縄での抗議行動に対する弾圧。選挙の自由…等々。

ケイ報告についての各メディアの紹介は、「特定秘密の定義があいまいと指摘」「特定秘密保護法で報道は萎縮しているとの見方を示し」「メディアの独立が深刻な脅威に直面していると警告」「ジャーナリストを罰しないことを明文化すべきだと提言」「政府が放送法を盾にテレビ局に圧力をかけているとも批判」「政府に批判的な記事掲載の延期や取り消しがあつた」「記者クラブ制度は廃止すべき」「ヘイトスピーチに関連して反差別法の制定も求めた」などとされている。また、「(当事者である)高市早苗総務相には何度も面会を申し入れたが会えなかった」という。政府が招聘した国連の担当官の求めがあったのに、担当大臣は拒否したのだ。

今回が初めてという国連特別報告者の日本調査。あらためて、日本のジャーナリズムの歪んだあり方を照らし出した。これから大きな波紋を起こすことになるだろう。

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国連報告者メディア調査 詳報に若干のコメントを試みたい。()内の小見出しは、澤藤が適宜付けたもの。

【メディアの独立】
(停波問題)
「放送法三条は、放送メディアの独立を強調している。だが、私の会ったジャーナリストの多くは、政府の強い圧力を感じていた。
 政治的に公平であることなど、放送法四条の原則は適正なものだ。しかし、何が公平であるかについて、いかなる政府も判断するべきではないと信じる。
 政府の考え方は、対照的だ。総務相は、放送法四条違反と判断すれば、放送業務の停止を命じる可能性もあると述べた。政府は脅しではないと言うが、メディア規制の脅しと受け止められている。
 ほかにも、自民党は二〇一四年十一月、選挙中の中立、公平な報道を求める文書を放送局に送った。一五年二月には菅義偉官房長官がオフレコ会合で、あるテレビ番組が放送法に反していると繰り返し批判した。
 政府は放送法四条を廃止し、メディア規制の業務から手を引くことを勧める。」

事態をよく把握していることに感心せざるを得ない。放送メデイアのジャーナリストとの面談によって、政府の恫喝が効いていることを実感したのだろう。また、安倍政権の権力的な性格を的確にとらえている。権力的な横暴が、放送メデイアの「自由侵害のリスクある」というレベルではなく、「自由の侵害が現実化」しているという認識が示されている。危険な安倍政権の存在を前提にしての「放送法四条廃止」の具体的な勧告となっている。

(「記者クラブ」「会食」問題)
「日本の記者が、独立した職業的な組織を持っていれば政府の影響力に抵抗できるが、そうはならない。「記者クラブ」と呼ばれるシステムは、アクセスと排他性を重んじる。規制側の政府と、規制される側のメディア幹部が会食し、密接な関係を築いている。」

権力と一部メディアや記者との癒着が問題視されている。癒着の原因となり得る「記者クラブ」制度が批判され、「規制側の政府と、規制される側のメディア幹部が会食し密接な関係を築いている」ことが奇妙な図と映っているのだ。これを見れば、72位のレベルではなかろう。二ケタではなく三ケタの順位が正当なところ。

(自民党改憲案批判)
「こうした懸念に加え、見落とされがちなのが、(表現の自由を保障する)憲法二一条について、自民党が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」との憲法改正草案を出していること。これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」一九条に矛盾し、表現の自由への不安を示唆する。メディアの人たちは、これが自分たちに向けられているものと思っている。」

この指摘は鋭い。自民党・安倍政権のホンネがこの改憲草案に凝縮している。政権は、こんなものを公表して恥じない感覚が批判されていることを知らねばならない。

【歴史教育と報道の妨害】
(植村氏バッシング問題)
「慰安婦をめぐる最初の問題は、元慰安婦にインタビューした最初の記者の一人、植村隆氏への嫌がらせだ。勤め先の大学は、植村氏を退職させるよう求める圧力に直面し、植村氏の娘に対し命の危険をにおわすような脅迫が加えられた。」

植村さんを退職させるよう求める圧力は、まさしく言論の自由への大きな侵害なのだ。この圧力は、安倍政権を誕生させた勢力が総がかりで行ったものだ。植村さんや娘さんへの卑劣な犯罪行為を行った者だけの責任ではない。このことが取り上げられたことの意味は大きい。

(教科書検定問題)
「中学校の必修科目である日本史の教科書から、慰安婦の記載が削除されつつあると聞いた。第二次世界大戦中の犯罪をどう扱うかに政府が干渉するのは、民衆の知る権利を侵害する。政府は、歴史的な出来事の解釈に介入することを慎むだけでなく、こうした深刻な犯罪を市民に伝える努力を怠るべきではない。」

安倍晋三自身が、極端な歴史修正主義者である。「自虐史観」や「反日史観」は受容しがたいのだ。ケイ報告は、政府に対して、「歴史的な出来事の解釈に介入することを慎む」よう戒めているだけでない。慰安婦のような「深刻な犯罪を市民に伝える努力を怠るべきではない」とまで言っているのだ。

【特定秘密保護法】
(法の危険性)
「すべての政府は、国家の安全保障にとって致命的な情報を守りつつ、情報にアクセスする権利を保障する仕組みを提供しなくてはならない。しかし、特定秘密保護法は、必要以上に情報を隠し、原子力や安全保障、災害への備えなど、市民の関心が高い分野についての知る権利を危険にさらす。」

特定秘密保護法は、情報を隠し、原子力や安全保障、災害への備えなど、市民の関心が高い分野についての知る権利を危険にさらす、との指摘はもっともなこと。「市民の関心が高い分野」だけではなく、「国民の命運に関わる分野」についても同様なのだ。

(具体的勧告)
「懸念として、まず、秘密の指定基準に非常にあいまいな部分が残っている。次に、記者と情報源が罰則を受ける恐れがある。記者を処分しないことを明文化すべきで、法改正を提案する。内部告発者の保護が弱いようにも映る。」
「最後に、秘密の指定が適切だったかを判断する情報へのアクセスが保障されていない。説明責任を高めるため、同法の適用を監視する専門家を入れた独立機関の設置も必要だ。」

もちろん、法律を廃止できれば、それに越したことはない。しかし、最低限の報道の自由・知る権利の確保をという観点からは、「取材する記者」と「材料を提供する内部告発者」の保護を万全とすべきとし、秘密指定を適切にする制度を整えよという勧告には耳を傾けなくてはならない。

【差別とヘイトスピーチ】
「近年、日本は少数派に対する憎悪表現の急増に直面している。日本は差別と戦うための包括的な法整備を行っていない。ヘイトスピーチに対する最初の回答は、差別行為を禁止する法律の制定である。」

これが、国際社会から緊急に日本に求められていることなのだ。

【市民デモを通じた表現の自由】
「日本には力強く、尊敬すべき市民デモの文化がある。国会前で数万人が抗議することも知られている。それにもかかわらず、参加者の中には、必要のない規制への懸念を持つ人たちもいる。
 沖縄での市民の抗議活動について、懸念がある。過剰な力の行使や多数の逮捕があると聞いている。特に心配しているのは、抗議活動を撮影するジャーナリストへの力の行使だ。」

政府批判の市民のデモは規制され、右翼のデモは守られる。安倍政権下で常態となっていると市民が実感していることだ。とりわけ、沖縄の辺野古基地建設反対デモとヘイトスピーチデモに対する規制の落差だ。デモに対する規制のあり方は、表現の自由に関して重大な問題である。

【選挙の規制】 (略)
【デジタルの権利】 (略)

さて、グローバルスタンダードから見た日本の実情を、よくぞここまで踏み込んで批判的に見、提言したものと敬意を表する。指摘された問題点凝視して、日本の民主運動の力量で解決していきたいと思う。

但し、残念ながら、二つの重要テーマが欠けている。一つは、学校儀式での「日の丸・君が代」敬意強制問題。そして、もう一つがスラップ訴訟である。さらに大きく訴えを続けること以外にない。

国境なき記者団もこの報告書を読むだろう。さらには、来年(17年)国連人権理事会に正式提出される予定の最終報告書にも目を通すだろう。そうすれば、72位の順位設定が大甘だったと判断せざるを得ないのではないか。来年まで安倍政権が続いていれば、中位点である90位をキープするのは難しいこととなるだろう。いや、市民社会の民主主義バネを働かせて、安倍政権を追い落とし、72位からかつての11位までの復帰を果たすことを目標としなければならない。
(2016年4月20日)

植村隆さんの新しきよきスタートを祈念申し上げます

植村さん、「韓国カトリック大学校」に招聘教授として就任とのこと、昨日の記者会見の報道で知りました。おめでとうございます。

記者会見の記事は以下のようなものです。
「慰安婦報道に携わった元朝日新聞記者で北星学園大(札幌市)の非常勤講師、植村隆氏(57)が来年春にソウルのカトリック大の客員教授に就任することになった。植村氏が26日、北星学園大の田村信一学長と記者会見して明らかにした。
 植村氏をめぐっては昨年、朝日新聞記者だった頃に執筆した慰安婦関連の記事について抗議が北星学園大に殺到。退職を要求し、応じなければ学生に危害を加えるとする脅迫文も届いていた。」(
共同)

私は、植村さんやご家族へに対する常軌を逸した人身攻撃に胸を痛めていた者の一人です。煽動する者と煽動に乗せられる者一体となっての、植村さんへの陰湿で卑劣な攻撃の数々は、日本社会の狭量と非寛容をこの上なく明瞭に露呈しました。この国と社会がもっている、少数者に冷酷な深い暗部を見せつけられた思いです。また、この国のナショナリズムがもつ凶暴さを示しているようにも思います。残念ながら、私たちはけっして開かれた明るさをもった国に住んではいません。卑劣な匿名の攻撃やいやがらせを許容する雰囲気はこの社会の一部に確実にあるといわざるを得ません。

しかしまた、私たちの国や社会は、そのような卑劣漢だけで構成されているわけではありません。陰湿な北星学園に対する攻撃や、ご家族への攻撃を中止させ、防止しようという良心を持つ多くの人々の存在も明らかとなりました。不当な攻撃を許さないと起ち上がる人々の勇気を見ることもできました。その良心と勇気こそが未来への希望です。

昨日(26日)の記者会見が、北星学園大学の田村信一学長と植村さんとの共同で行われたことが、両者に祝意を贈るべきことを示しています。北星学園大は、右翼の卑劣な攻撃に屈することなく植村さんの雇用を護りぬき、そのことを通じて建学の理念と大学の自治とを護り抜きました。韓国カトリック大学校は、北星学園の提携大学で、植村さんの招聘には、今は韓国に在住の植村さんの教え子たちの尽力があったとのこと。すばらしいことではありませんか。

もっとも、北星学園に来年度も植村さんの雇用を継続するかどうか迷いのあったことは聞いていました。最大の問題は、警備費用の負担だとか。その額は年間3000万円とも、3500万円になるとも。右翼の直接攻撃は目に見えて減ってはきたけれど、大学としては学生の安全を守るために手を抜くことができない。そのための費用は、この規模の大学としては大きな負担になるといいます。大学の苦労はよく分かる話。

植村さんに対するいわれなき攻撃はそれ自体不当なものですが、攻撃の矛先をご家族や大学に向けるという陰湿さには、さらにやりきれない思いです。大学が経済的に追い詰められているのなら、応援団は金を集めねばなりません。

脅迫を告発した弁護士グループの仲間内では、「カンパを呼びかけなければならないようだ」「そのためには、まず自分たちが応分の負担をしなければならない」「民族差別を広言する右翼のための出費は馬鹿馬鹿しいが、これが民主主義のコストというものだろう」「卑劣な右翼に、『人身攻撃して、植村を大学からヤメさせた』という成功体験を語らせたくない」「雇用継続を可能とする程度のカンパ集めは可能ではないか」「カンパを集めること自体が差別や暴力と闘う世論を喚起する運動になるのではないか」などと話しあっていました。

暫定的にではあるにせよ、植村さんの雇用がハッピーな形で継続することを大いに喜びたいと思います。

本日(11月27日)朝日新聞が、「本紙元記者、韓国で教鞭へ」という、暖かく、希望を感じさせる見出しであることにもホッとしています。

なお、産経の報道で知りましたが、植村さんは一連の経過について「来年手記の出版を目指している」とのこと、また北星学園は、「再発防止のために経験を検証総括し、広く社会に問いたい」としておられるとのこと。いずれも大事なこととして、完成を期待いたします。

もう一つ、植村さんの札幌地裁提訴事件移送問題での緒戦の勝利おめでとうございます。たまたま、記者会見の11月26日のマケルナ会事務局からの連絡ですと、「植村さんが桜井良子氏などを名誉毀損で札幌地裁に訴え、桜井氏ら被告が東京地裁で審理するよう最高裁に不服を申し立てていた移送問題は、26日、最高裁から被告らの抗告をすべて棄却するとの連絡がありました。これで札幌地裁での審理が確定しました。」とのこと。

櫻井良子(本名)被告らは訴訟を東京地裁へ移送するよう申立をし、札幌地裁は東京に在住する被告らの応訴の都合を重視する立場から、いったんは移送を認めました。これを札幌高裁の抗告審が逆転して札幌地裁での審理を認めました。その高裁の決定がこれで確定したということ。

この種の事件遂行は、意気に感じて集まる弁護士集団によって担われます。せっかく、札幌の若手弁護士諸君が情熱をもってやる気になっているのに、訴訟を東京に移すことになれば、弁護士たちの腰を折ることになってしまいます。それに、もしこの手の事件が、被告の都合を優先して原告の居住地でできないことになるとしたら、同種の被害者が裁判を起こせず、泣き寝入りを強いられることにもなりかねません。

ともかく、これで張り切って、札幌訴訟が動き出すことになります。幸先のよい裁判のスタートに、良い結果が期待されるところです。
(2015年11月27日・連続第971回)

崔善愛さんだから見えてくること

「子どもと教科書全国ネット21」の機関誌(「全国ネット21NEWS」)が先月15日付で100号となった。会の活動が充実していること、その活発な活動が求められている事態であることがよくわかる。

記事は、教科書採択問題にかかわる情報や運動を中心としながらも、これにとどまらない。教科書の内容を歪める要因となっている関連問題について、要領よくまとまった読み応え十分な記事が掲載されている。前田朗さんの「ヘイト・スピーチと闘うためにー二者択一的思考を止めて、総合的対策を」がその筆頭だろうが、心揺さぶられるものがあって、崔善愛(ちぇそんえ・ピアニスト)さんの寄稿を紹介したい。標題は、「市民にとっての『テロ』と、政府にとっての『テロ』」というもの。

冒頭の一文が、次のような問いかけとなっている。
「安倍政権が『テロとたたかう覚悟』としきりにいうとき、常に『外国人』によるテロ行為から『邦人』を守ることを想定している。しかし国内で、市民団体の平和を求めるデモが、右翼の街宣車に取り囲まれ、『殺すぞ』と大音響でののしられていることや、朝日新聞がたびたび襲撃されてきたテロにたいして『だたかう覚悟』をみせたことがあるだろうか。」
この視点は、少数者として差別される側に立たされ、果敢に差別と闘ってきた崔さんならではのものではないだろうか。

「路上で市民と警官が口論していたら、まずは市民の側に立て」とは、今は亡きマルセ太郎の遺訓である。「市民」に対する「警官」とは強者の象徴。「警官」は、政権・行政・企業・使用者・多数派・組織の上級・情報と権限の独占者・権威・世の常識などと置き換えてもよい。「市民」とは、労働者であり、消費者であり、店子であり、貧窮者であり、公害被害者であり、情報弱者であり、組織の末端であり、マイノリティーとして差別されている者のことである。要するに「弱い立場にある者」と「強い立場にある者」との衝突があれば、それぞれの主張の正邪や当不当を吟味する前に、とりあえずは「弱い立場にある者」の側に立て、という教訓である。

言うには易いが、その実践がたいへんに困難なことを幾度も経験した。「強い立場にある者」にも、それなりの世間に通りやすい言い分があるからだ。「大所高所に立って」「全体の秩序の維持のために」とのまことしやかな理由で、弱い立場にある者が切り捨てられる。弱者の側にこそ身を置こうと、常に意識し続けることは実は至難というべきなのだが、そのような姿勢を持ち続ける者にだけ不当な差別が明瞭に見えてくるのだと思う。

崔さんは続ける。
「わたしも34年前、指紋押捺拒否が報道されるや、脅迫の手紙や電話が実家に多数届いた。いつか後ろから刺されるかもしれない、と思うようになった。わたしのデビューコンサートで父は最前列に座り、右翼の襲撃があるかもしれないから、と言った。楽観的な私は、『彼ら』は遠くの人たちだ、と思うことにした。けれど最近、『彼ら』は決して亡霊でもなく、右翼だけでもなく、同じ共同体で生活する普通の隣人だった、と実感する。政治家、学者、学校、自治会、公共放送にも‥・戦争責任や君が代を問題にしようとすれば呼吸できない空間がせまる。『茶色の朝』は、このことだったのか。そして『彼ら』とは、誰なのか、その人脈が明らかになることをねがってやまない。」

崔さんは、このような視点から、植村隆さん(北星学園大学)とその家族への卑劣な「テロ」に怒り、植村隆さん支援を決意する。

さらに、耳を傾けるべきは、崔さんの実践から語られる、市民の側からの朝日への対応の在り方だ。
「これからも次々おそろしい統制が進むだろう。新聞と市民がもっと近づき応答しあわなければ、道はないのではないか。」というのがその基本姿勢。

崔さんは、最後をこう締めくくっている。
「『朝日新聞には、失望した』『大手新聞はもうだめだ』という声を、市民運動のなかでもよく耳にする。けれどもここで朝日新聞やメディアに失望したまま離れ、見離せば、結果的に朝日バッシングに加担することにもなり、わたしたちの言論の場が失われる。それこそが、『彼ら』の積年のねらい、朝日新聞を『廃刊』に追いこみ、戦争責任も『慰安婦』問題も強制連行もすべてなかったことにするための戦略なのだ。『慰安婦』問題を語るのに、君が代問題を語るのに、いちいち相当な覚悟をしなければ、公の場で語れない。昭和天皇が亡くなったときのような空気が、暗雲のようにこの国を覆いつづける。いつになれば、おもうことを存分に誰にでも話し、心おきなく議論することができるのだろう。その日をねがってやまない。」
私も、まずは崔さんの側に立って、崔さんの言葉に耳を傾けたいと思う。そうすると、指摘されて始めて気付くことが見えてくる。
(2015年3月8日)

「朝日新聞元記者の名誉毀損訴訟事件弁護団」事務局長に対する業務妨害に関する会長声明

本日(2月17日)付で、標記の東京弁護士会会長声明が発表された。「朝日新聞元記者の弁護団」とは、現在北星学園大学の講師の任にある植村隆氏が今年1月9日に提訴した、文藝春秋社や西岡力氏らを被告とする名誉毀損損害賠償請求訴訟の原告側弁護団のこと。その弁護団の実務を担っている事務局長弁護士の法律事務所に、いやがらせの悪質な業務妨害がおこなわれた。会長声明はこれを厳しく糾弾している。URLは以下のとおり。
 http://www.toben.or.jp/message/seimei/

 従軍慰安婦に関する記事を書いた朝日新聞元記者は現在週刊誌発刊会社等を被告として名誉毀損に基づく損害賠償等を請求する裁判を追行しているが、この裁判の原告弁護団事務局長が所属する法律事務所に、本年2月7日午前5時10分から午後0時27分までの間に延べ9件合計431枚の送信者不明のファクシミリが送りつけられ、過剰送信によりメモリーの容量が限界に達してファクシミリ受信が不能となる事件が起きた。ファクシミリの内容は、朝日新聞元記者に対する中傷、同記者の家族のプライバシーに触れるもの、慰安婦問題に対する揶揄などであった。

 この朝日新聞元記者に関しては、2014年5月以降その勤務する北星学園大学に対し、学生に危害を加える旨を脅迫して元記者の解雇を迫る事件が起きており、当会ではこのような人権侵害行為を許さない旨の会長声明(2014年10月23日付け)を発出したところである。しかし、その後の本年2月にも再び北星学園大学への脅迫事件は起きている。

 言うまでもなく、表現の自由は、民主主義の根幹をなすがゆえに憲法上最も重要な基本的人権のひとつとされており、最大限に保障されなければならない。仮に報道内容に問題があったとしても、その是正は健全かつ適正な言論によるべきであり、犯罪的な手段によってはならない。

 今回の大量のファクシミリ送信は、いまもなお朝日新聞元記者に対する不当な人権侵害とマスメディアの表現の自由に対する不当な攻撃が続いていることを意味するだけではなく、元記者の権利擁護に尽力する弁護士をも標的として、司法への攻撃をしていることにおいて、きわめて悪質、卑劣であり、断じて看過できない。

 当会は、民主主義の根幹を揺るがせる表現の自由に対する攻撃を直ちに中止させるため、関係機関に一刻も早く厳正な法的措置を求めるとともに、引き続き弁護士業務妨害の根絶のために取り組む決意である。
                        2015年02月17日
東京弁護士会 会長 髙中 正彦

植村氏の提訴は、脅迫や名誉毀損・侮辱、業務妨害や解雇要求の強要など、言論の域を遙かに超えた明白な犯罪行為の被害に耐えきれなくなっておこなわれた。朝日新聞社へのバッシングは、「顕名の言論」と「悪質卑劣な匿名の犯罪」とが、役割を分担し相互に補完して勢力を形づくっている。表部隊と裏部隊とが一体となることによって、「言論」が「実力」を獲得して強力な社会的影響力を発揮している。

顕名の言論に扇動された匿名の犯罪者たち。あるいは犯罪すれすれの名誉毀損や侮辱の言論を繰り返す、匿名に隠れた卑劣漢たち。その「実力」行為抑止の最有効手段として顕名者を被告とする民事訴訟が決意されたのだ。その訴訟に対する匿名者の悪質な業務妨害行為は、顕名部隊と匿名部隊の一体性を自ら証明するものと見るべきであろう。

著しい非対称性が明白となっている。植村氏の言論(20年前の記者としての記事)に、すさまじい実力によるイヤガラセがおこなわれた。これを抑止しようとする植村氏の提訴の弁護団にまで卑劣な妨害行為がおこなわれる。これがリベラルな言論に対する右翼勢力(排外主義派)からの実力妨害の実態である。

一方、右翼言論に対するリベラル派からのこのようなイヤガラセも実力行使もあり得ない。右翼勢力が原告を募集して「対朝日新聞・慰安婦報道集団訴訟」を起こしているが、この原告側弁護団への業務妨害行為などはまったく考えられない。リベラル派は、本能的に匿名発言を恥じ、卑劣行為を軽蔑する。右翼勢力は、これに付け入るのだ。

植村氏の提訴に対して、「言論人であれば、言論には言論で反論すべきではないか。提訴という手段に至ったことは遺憾」という、したり顔の批判があったやに聞く。現実をありのままに見ようとしない妄言というべきだろう。せめてもの対抗手段として有効なものは提訴以外にはないではないか。

そもそも「言論対言論」の応酬によって問題の決着がつけられるという環境の設定がない。武器対等者間での言論の応酬などという教科書的な言論空間が整えられているわけではない。排外主義鼓吹勢力が、虎視眈々と生け贄を探しているのが、実態なのだ。思想の自由市場における各言論への冷静な審判者が不在のままでの、「言論には言論で」とのタテマエ論の底意は透けて見えている。卑劣な実力を背景にした強者の論理ではないか。

このような事態に、理性に裏打ちされた弁護士会の機敏な声明はまことに心強い。弁護士会は、いつまでも、かく健全であって欲しいと願う。
(2015年2月17日)

「同志よ。北星学園への脅迫を止めよ」

本日(2月3日)付で、北星学園大学(札幌)が「本学に届いた脅迫状と一般入学試験の実施について」という以下の学長声明を発表している。

「昨日2日、本学に対するあらたな脅迫状が届きました。2月6日から実施される本学の一般入試会場とその周辺において本学関係者に危害を加えるといったきわめて悪質な内容であり、直ちに管轄の警察署に被害届を提出し、受理され、捜査中です。
本学に対するこのような卑劣な行為は許されるものではありません。
本学としましては、受験生の皆さんが安心して入学試験に臨めるように全学態勢で警備に取り組むことといたしました。また、所轄警察に対し警備強化を要請するとともに、専門の警備会社による警備を依頼したところです。
受験生、保護者及び関係者の皆さまには、‥‥事情をご理解賜りますよう、何卒よろしくお願いいたします。
なお、本学の基本的立場については、昨年9月30日付け「本学学生及び保護者の皆さまへ」にて公表させていただいております。大学の自治を侵害する、このような卑劣な行為によって、受験生並びに学生をはじめ本学にかかわる全ての方々の平穏・安全が脅かされることがないことを強く願っています」

卑劣な攻撃の標的となった大学の苦悩がにじみ出ている。毅然とした姿勢を堅持しつつも、それゆえの苦慮が伝わってくる。改めて、闇の奥で手書きの脅迫状を認めて投函した卑劣漢に怒りを禁じ得ない。

道新の報道は次のとおりである。
「従軍慰安婦問題の報道に関わった朝日新聞元記者が非常勤講師を務める北星学園大(札幌市厚別区)に、6~8日に行われる一般入試の際に受験生や教職員に危害を加えるとの内容の手紙が届いていたことが3日、分かった。札幌厚別署は威力業務妨害の疑いで調べている。
同署によると、手紙は2日、北星大の学長宛てに郵送で届き、手書きだったという。これまで送られた5通のうち一部はパソコンで印字されていた。一般入試の会場などと場所を特定した上で、受験生や教職員に危害を加えるとの内容が書かれていた。差出人の名はなく、消印は1月31日付だった。」

誰もが、平穏で安全な生活を享受する権利を持っている。危害を加えられることなど想定することなく日常生活を送っている。姿を見せない卑劣漢からの無法な脅迫に対して真っ当な生活者は対抗のすべを持たない。この社会は犯罪に脆弱なのだ。卑劣な犯罪者はその最も脆弱な部分を狙って脅しをかけているのだ。

匿名の犯罪者は増長している。「学生を痛めつけてやる」「ガスボンベを爆発させる」(昨年5月29日脅迫状)、「火薬爆弾だ。開けたら吹っ飛ぶぞ」(昨年7月28日)、「爆破してやる」(昨年9月12日電話)、「学生の家の何軒かから出荷(火)する」(本年1月8日脅迫状)。そして入試直前の今回。これは、愉快犯の類ではなく、偏狭なナショナリズムを正義と盲信する輩の犯罪なのだ。正義の盲信という点では、国際テロリスト集団と酷似している。

朝日の報道を日本国を貶める国辱と決め付け、朝日バッシングに猛進する大きな勢力がある。その勢力の末端か周辺に、このような卑劣な犯罪者群が存在する。ネットで蠢動し、一部がリアルな脅迫行為に及ぶ。朝日バッシング勢力は、補完しあう種々の役割分担の協働によって社会的影響力を保持している現実がある。

北星学園への脅迫行為は、政治的な信条如何にかかわらず、社会を挙げてこれを摘発し根絶しなければならない。まずは、共犯関係にあることを疑われる立場にある、朝日バッシング扇動の「メディア」や「ジャーナリスト」、「研究者」が、犯罪者に偏狭な正義を吹き込んでいる者の責任として、本気になってこれを止めさせるよう声を上げなければならない。沈黙していれば、犯罪者と同類と見なされることになるのだから。

たとえば次のようにだ。
「同志よ、北星学園に対する脅迫を止めよ」「朝日に対するバッシングは、あくまで言論による世論喚起として行おうではないか」「脅迫など犯罪にわたる行為は、われわれの採るべき手段ではない」「同志の中に脅迫や威力業務妨害や名誉毀損、侮辱などの犯罪に及ぶ者があれば、世間はわれわれ全体を犯罪者集団と見なす恐れがある」「われわれが言論戦において理論的に劣勢だから実力行使に及ばざるを得ないと邪推されることにもなろう」「それでなくても、われわれは暴力を容認する集団とのあらぬ誤解を受けている」「敵対する勢力に、これが朝日バッシング勢力の本質だ、などと言わせてはならない」「国際テロリスト集団のごとく恐怖をばらまくことで社会的な影響を拡大しようとしていると言わせてもならない」「同志よ。君の志操の高潔と純粋さには称賛を惜しまない。しかし、脅迫や威力業務妨害の行為は、われわれの大義にとって障碍にしかならないことをよく理解していただきたい」「だから、同志よ。北星学園に対する一切の脅迫と業務妨害を中止せよ」
(2015年2月3日)

対朝日集団訴訟を憂うるー新手スラップの横行を許してはならない

本日の朝刊に掲載された小さな記事。朝には見落として、夕方に気が付いた。世間の耳目を引かないようだが、私にはいささかの関心がある。

「慰安婦報道:『朝日新聞は名誉毀損』8749人が賠償提訴」というベタの見出し。
「朝日新聞の従軍慰安婦報道によって『日本国民の名誉と信用が毀損された』などとして、渡部昇一・上智大名誉教授ら8749人が26日、同社を相手取り、1人1万円の賠償と謝罪広告掲載を求めて東京地裁に提訴した。訴状によると、原告側が問題視しているのは、朝日新聞が1982〜94年に掲載した『戦時中に韓国で慰安婦狩りをした』とする吉田清治氏(故人)の証言を取り上げた記事など13本。『裏付け取材をしない虚構の報道。読者におわびするばかりで、国民の名誉、信用を回復するために国際社会に向けて努力をしようとしない』などと訴えている。
朝日新聞社広報部の話 訴状をよく読んで対応を検討する。」(毎日)

世の中は狭いようで広い。こんな訴訟の原告団に加わる「名誉教授」や、こんな提訴を引き受ける弁護士もいるのだ。この奇訴にいささかの興味を感じて、訴状の内容を読みたいものとネットを検索したが、アップされていない。靖国関連の集団訴訟などとの大きな違いだ。

それでも、「『日本国民の名誉と信用が毀損された』として、朝日を相手取り、賠償と謝罪広告掲載を求めて東京地裁に提訴した」というメディアの要約が信じがたくて、当事者の言い分で確かめたいと関連サイトを検索してみた。

「頑張れ日本!全国行動委員会」という運動体が提訴の委任状を集めており、姉妹組織「朝日新聞を糺す国民会議」が訴訟の運動主体のようでもある。これらを手がかりに検索を重ねても訴状を見ることができないだけでなく、請求原因の要旨すら詳らかにされていない。法的な構成の如何にはまったく関心なく、原告の数だけが問題とされている様子なのだ。勝訴判決を得ようという本気さはまったく感じられない。

ようやく3人で結成されている弁護団のインタビュー動画にたどり着いた。3人の弁護士が語ってはいるが、その大半は「訴訟委任状の住所氏名は読めるようにきちんと書いてください」「郵便番号をお忘れなく」「収入印紙は不要です」「委任の日付は空欄にしてもかまいません」などと細かいことには熱心だが、請求原因の構成については語るところがない。「朝日がいかに国益を損なったか」という政治論だけを口にしている。ここにも、真面目な提訴という雰囲気はない。

永山英樹という右派のライターが、次のように提訴記者会見での原告団の言い分をまとめている。おそらくは、訴状を読んでのことと思われる。
「日本の官憲による慰安婦の強制連行という朝日の宣伝により、旧軍将兵、そして国民は集団強姦犯人、あるいはその子孫という汚名を着せられ、人格権、名誉権が著しく損なわれた。日本の国家、国民の国際的評価は著しく低下して世界から言われなき非難を浴び続けている。たしかに虚報を巡って朝日は「読者」に対し反省と謝罪の意は表明した。しかし捏造情報で迷惑を被ったのは「読者」だけではないのである。国際社会における国家、国民の名誉回復の努力も一切していない。そこで朝日新聞全国版で謝罪に一面広告を掲載することと、原告に対する一万円の慰謝料の支払いを求めるのがこの訴訟なのだ」
どうやらこれがすべてのようだ。これでは、そもそも裁判の体をなしていないといわざるを得ない。

この提訴は、訴権濫用により訴えそのものが却下される可能性が極めて高い。訴訟の土俵に上げてはもらえないということだ。訴え提起が民事訴訟制度の趣旨・目的に照らして著しく相当性を欠き信義則に反する場合には、訴権濫用として、訴えを却下する判決は散見される。このような信義則に反する場合としては、①訴え提起において、提訴者が実体的権利の実現ないし紛争の解決を真摯に目的とするのでなく、相手方当事者を被告の立場に立たせることにより訴訟上または訴訟外において有形・無形の不利益・負担を与えるなどの不当な目的を有すること、および②提訴者の主張する権利または法律関係が、事実的・法律的根拠を欠き権利保護の必要性が乏しい、ことが挙げられている。
今回の集団による対朝日提訴は、まさしくこの要件に該当するであろう。

さらに、提訴が訴権の濫用に当たることは、却下の要件となるだけでなく、提訴自体が朝日に対する不法行為を構成する可能性もある。そのときは原告すべてに不法行為による損害賠償責任が生じることになる。通常8749人に損害賠償の提訴をすることは事務の繁雑さと郵送料の負担とで現実性がないが、本件では反訴なのだから好都合だ。反訴状は正副各1通だけで済むし、送達費用はかからない。当事者目録は原告側が作ったものをそのまま利用すればよい。朝日にとってはお誂え向きなのだ。

朝日を被告としたこの訴訟は不法行為構成であろうが、何よりも各原告に、「権利または法律上保護される利益の侵害」がなくてはならない。「国益の侵害」や「日本国民の名誉と信用が毀損された」では、そもそも訴えの利益を欠くことになって、私的な権利救済制度としての民事訴訟に馴染まないことになる。この点で訴訟要件論をクリヤーできたとしても、法律上保護される利益の侵害がないとして棄却されることは目に見えているといってよい。

さらに誰もが疑問に思うはずの、時効(3年)と除斥期間(20年)について、原告側はどのようにクリヤーしようとしているのか、とりわけ除斥期間は被告の援用の必要はない。訴状に何らかの記載が必要だし、原告を募集するについて重要な説明事項でもある。しかし、この点についてはなんの説明もないようだ。

この訴訟は新手のスラップだ。勝訴判決によって権利救済を考えているのではない。ひたすらに朝日に悪罵を投げつける舞台つくりのためだけの提訴ではないか。本来の民事訴訟制度は、こんな提訴を想定していない。

朝日は、早期結審を目指すだけでなく、提訴自体を不法行為とする反訴をもって対抗すべきではないか。負けて元々の提訴で、相手を困らせてやれ、という訴訟戦術の横行を許してはならないと思う。
(2015年1月27日)

植村提訴記者会見報告ー敵役をかって出た産経に小林節の一喝

1月9日、植村隆元朝日新聞記者が、株式会社文藝春秋と西岡力の2者を被告として、損害賠償等請求の民事訴訟を東京地裁に提起した。係属部は民事第33部。事件番号は平成27年(ワ)第390号となった。

請求の内容は、次の3点。
 (1)ウェブサイト記事の削除
 (2)謝罪広告
 (3)損害賠償
請求する賠償の金額は合計1650万円。請求原因における不法行為の対象は、以下の各記事。

被告文春について
 (1)「週刊文春」2014年2月6日号記事
  「『慰安婦捏造朝日新聞記者』がお嬢様女子大教授に」
 (2) 同8月21日号記事。
  「慰安婦火付け役朝日新聞記者はお嬢様女子大クビで北の大地へ」

被告西岡について
 (1)単行本「増補版 よくわかる慰安婦問題」
 (2)歴史事実委員会ウェブサイトへの投稿
 (3)「正論」2014年10月号掲載論文
 (4)「中央公論」2014年10月号掲載論文
 (5)「週刊文春」2014年2月6日号記事中のコメント

植村隆元記者は、朝日に次の2本の記事を書いた。
 (1)1991年8月11日
  「もと朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」
 (2)1991年12月25日
  「かえらぬ青春 恨の人生」
被告らが23年前の原告執筆記事を「誤報ではなく捏造」と決め付け、原告を「捏造記者」とすることは名誉毀損に当たり、また不必要な転職先を記事にしたことは違法なプライバシーの侵害に当たる。これが訴状請求原因の骨格である。

この提訴は、植村バッシングの問題点をほぼ網羅している。他の「週刊文春的な報道」や「西岡的な記事」に対しては、この訴状請求原因の一部の応用で対応可能である。弁護団事務局長は、記者会見で次のとおり発言している。
「植村さんを捏造といっている主体はたくさんある。われわれは全国から弁護士を募り、170人の弁護士が代理人に名を連ねた。その他の被告となりうる人々についても、弁護団の弁護士が力をつくし、順次訴えていき、植村さんに対する誹謗中傷を完全に打ち消すところまで闘いたい」
その言の実行にさしたる労力は要しない。

当日(1月9日)の提訴後に、原告と弁護団が司法記者クラブで提訴報告の記者会見を行った。この会見に憲法学者小林節が同席している。これが興味深い。

小林節は人も知る改憲派の法学者である。「憲法守って国滅ぶ」(1992年)という著書があるくらいだ。だが、安倍内閣のような危うい政権に憲法をもてあそぶ資格はないとして、強固に「とりあえず改憲反対」を唱えている。けっして「そもそも改憲反対」の立場ではない。その小林は弁護士資格を持っており、反文春、反西岡の立場を明確にして植村弁護団に加わったのだ。

記者会見では、冒頭植村がまとまった発言をし、次いで3人の弁護団員が敷衍しての説明をした。その中に小林の発言もあり、「これは法廷闘争だ」「慰安婦問題の論争をしようということではない」「植村と家族にとっての人権問題であり、大学の自治の問題でもある」「誹謗中傷で、名誉毀損であることを法廷の場できちっと決めて責任をとらせる」「そのことで派生したさまざまな攻撃も消えていくことを期待する」

従軍慰安婦の歴史的な論争は、そのあとの冷静な環境のなかできちっと議論されるべきだ、というのが小林の発言の趣旨だった。

そのあとに質疑応答があり、まず質問に手を上げたのは産経の阿比留記者。あきらかに、産経が書こうとしている予定記事の筋書きに使えそうな言質を取ろうとしての質問。植村の回答に再度の質問をし、さらに3度目の質問に及んだが、司会から遮られ、ジャパンタイムズ記者が替わった。その後阿比留記者は、また質問しようとしたが、司会はフリーの江川を指名した。さらに、阿比留が5度目の質問をして植村が回答している。続いて、TBSの質問があり、新聞労連委員長の発言があって、予定の時間が尽きた。

最後に小林が、「ひとこと」と発言の許可を求めた。そして、産経の阿比留記者に向かって次のように言葉をぶつけた。

「今の論争を聞いて、とても不愉快だ。入り口で相手が敵か味方か決めて、敵と決まると、10の論点があっても、都合の悪い8の論点は聞こえなく見えなくなる。自分にとって都合のいい2つの論点だけをガンガンガンガン、お前どう思ってんだどう思ってんだと。そういう議論の仕方が問題だ。
お互い、不完全な人間が日々走りながら記事書いたり報道したりしてるんじゃないですか。完璧な発言をいつもしてきたと自信あるやつなんていません。お互いそうやって、向こう傷しょいながら、大きな議論をして方向性を出していくんじゃないですか。
聞いていて情けない。10ある論点のうち、たった2つだけ。それも決めつけて、自分達の結論に都合のいいようにだけ、何度も何度も確認しようとする。そういう議論をやめてほしいから、この訴訟に私は参加しているんです」

訴訟は、文春と西岡を被告とするものだが、はからずも産経が被告らと責任を分担していることを露わにした一幕。それにしても小林節(ぶし)の一喝は冴えている。

ところで、産経はiRONNAというインターネット・サイトをもっている。ここに「池上彰が語る朝日と日本のメディア論」という記事が掲載された。池上彰が産経新聞のインタビューに答える形の記事。1月6日のこと。
そのなかに、植村バッシングに触れて、「産経さんだって人のこと言えないでしょ?」という池上の発言が掲載されている。

「この問題に関して言えば、元朝日記者の植村隆さんがひどい個人攻撃を受けてしまった。そこら辺の経緯は私も良く分からないからコメントできないですけど、ただ植村さんが最初は神戸かなんかの大学の先生に決まっていたでしょ。あの時、週刊文春がそれを暴露した。あれはやりすぎだと私は思いましたね。こんなやつをとってもいいのか、この大学への抗議をみんなでやろうと、あたかも煽ったかのように思えますよ。
 これについては週刊文春の責任が大きいと思います。植村さんが誤報したのだとしたら、それを追及されるのは当たり前ですが、だからといってその人の第二の就職先はここだと暴露する必要があるのか。それが結局、個人攻撃になっていったり、娘さんの写真がさらされたりみたいなことになっていっちゃうわけでしょ。ものすごくエスカレートする。逆に言えば、産経さんはこの件に一切関与していないにもかかわらず、なんとなく植村さんへの個人攻撃から娘さんの写真をさらすことまで、全部ひっくるめて朝日をバッシングしているのが、産経さんであるかのようにみられてませんか? 産経さんの誰かが書いていましたよね。うちはちゃんと分けているのに、全部ひっくるめて批判するのはおかしいって。そんな風になってしまったのは、これまた不幸なことだと思いますね」

1月9日記者会見は、そのインタビューから3日後のことである。この会見での産経記者の振る舞いによって、「なんとなく植村さんへの個人攻撃から娘さんの写真をさらすことまで、全部ひっくるめて朝日をバッシングしているのが、産経さんであるかのようにみられる…不幸」を重ねてしまったようだ。
(2015年1月12日)

北星学園への卑劣な攻撃を許さないー「電凸・告発」の顛末

各紙に既報のとおり、昨日(12月26日)北星学園関連の第2弾告発状が札幌地検に提出された。告発人は348名(道内154名・道外194名)、告発人代理人の弁護士は438名(道内165名・道外273名)である。第1弾と同じ5名の弁護士が告発人代理人代表として名前を出している。私もその一人だ。

被告発人は「たかすぎしんさく」と名乗る人物。2度にわたって北星学園に架電し、通話の内容を録音したうえ字幕や静止画像を交えて、ユーチューブに投稿するという手口。業務妨害を意図しての「電話突撃」という手法が右翼に定着しているという。これを略して「電凸」(でんとつ)。この用語もネットの世界で定着していると初めて知った。たかすぎしんさくの手口は「電凸」と「ユーチューブ投稿」とを組み合わせたものだ。

たかすぎしんさくのユーチューブ投稿画像は、犯罪行為そのものであるだけでなく、そのまま犯罪の証拠でもある。告訴・告発、あるいは損害賠償請求をするに際して完璧な証拠を入手できるのだから、告発側にはこの上なく好都合なのだ。それだけではなく、捜査機関にとっては、プロバイダーとIPアドレスをたどることによって、被告発人を割り出すことも容易なはず。

われわれが、たかすぎしんさく告発の予定を公にした途端に、問題のユーチューブ画像は閲覧できなくなった。たかすぎしんさくも、これはやばいと思って引っ込めたのだろう。もちろん、録画してあるから今さら撤回しても時既に遅しなのだ。もっとも、早期に自発的に画像の公開を撤回したことは情状において酌むべきことにはなるはずだ。

刑法第233条(業務妨害)は、「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と定める。
行為態様は「虚偽の風説の流布」「偽計」の2通り、法益侵害態様は「信用を毀損」「業務を妨害」の2通りである。その組み合わせによるバリエーションは4通りとなってどれでも可罰性があることになるが、われわれは、最初からユーチューブ投稿を目論んでの電凸は、「虚偽の風説の流布による業務妨害」にぴったりだと考えた。

北星学園に対する電話での業務妨害の典型としても、また右翼の常套手段となった電凸に対する制圧策としても、たかすぎしんさく電凸は、一罰百戒の効果をも期待しうるものとして恰好の告発対象なのだ。

虚偽の風説とは、ユーチューブ画像の中で、たかすぎしんさくが繰りかえし口にしている、「国賊大学」「嘘つき大学」「犯罪者を採用」「爆破予告電話は自作自演」等の表現をいう。これをユーチューブに流して不特定多数の誰もが閲覧できるようにしたことが「流布」に当たるのだ。
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12月26日午後2時45分、告発人代理人弁護士8名が、札幌地検を訪れ、渡邉特別刑事部長立会いのもと、特別刑事部志村康之検事に、告発状・告発人目録・告発人代理人目録・各資料・委任状を提出した。

席上、告発人代理人から担当検事に、告発の趣旨を説明し、たかすぎしんさくの人物特定のための情報を提供した。この間、志村検事はきちんとメモを取っていたと報告されている。

また、渡邉部長から、「今回の告発人は弁護士以外の人なのですね」との確認の発言があり、さらに「3回目の告発もあるのですか」と、和やかな雰囲気だったという。

その後、3時10分から札幌弁護士会館で記者会見が行われた。

会見席の横断幕には、
「言論への批判は堂々と言論で」
「教員を解雇させるため根拠のない事実を広めることは犯罪だ!!」
と大書されていた。なお、記者会見の主体は、「国賊大学等虚偽の風説を流布する行為を告発する全国告発人・弁護士有志」である。

テレビを含む会見参加のメデイアに対して、告発代理人を代表して郷路征記弁護士から約30分にわたって、告発の経過、犯罪事実の説明、犯情の悪さ等の説明があった。記者の関心は高く、質疑は活発だったと報告されている。

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第1弾・第2弾と、果敢に告発を重ねたこと、しかも告発の動きを隠密理にするのではなく公然と目に見える形で行ったことが、右翼の卑劣な攻撃を掣肘する効果に結実していると思う。このことは味方をも励まし、植村隆さんの雇用継続に一定の貢献もしたのではないかと思っている。

朝日バッシングの理不尽な蠢動に対しては、しばらくは有効な反撃がなかった。右翼勢力のなすがままに、やられっぱなしだったのではないか。これを見て図に乗った有象無象の輩がこれくらいのことはやってもよいと、勘違いしてしまったのだ。なにしろ、歴史修正主義の大立者が内閣総理大臣となっているこの時代の空気なのだから。

それでも、犯罪は犯罪、そして犯罪には刑罰である。手をゆるめずに刑事告発の目を光らせることは、不当な業務妨害を制圧するための効果は大きい。扇動する者と乗せられる者があり、とりあえずは着実に乗せられた者を摘発するしかないが、メディアや評論家など煽った者たちの責任は大きい。

ところで、告発代理人となった弁護士たちは相当の時間も労力も使った。東京での作戦会議に、札幌や大阪からの参加は身銭を切ってのものだ。しかし、これは誰に依頼されての仕事でもない。強いて言えば、今危うくなっている、日本の民主義が依頼者である。哀しいかな、この依頼者は弁護士報酬を支払う意欲も能力もない。もちろん、民主主義以外に弁護士たちに指示や指令をする者はなく、400名を超す弁護士内部の誰にも他に対する命令権限などあろうはずもない。すべての告発人代理人となった弁護士たちは、まったく自発的に弁護士法に基づく弁護士としての使命を実践したのだ。

この告発準備において意見を交換したメーリングリストの最後に、次のような投稿があった。

日本の民主主義になり代わってお礼を申しあげます。
何ごとかを成し遂げたという、この充実感こそが仕事への唯一の報酬。
一番苦労した人が、一番その充実感を味わうことになる。だから、一番多くの報酬を受けることにもなる。

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                 告  発  状

                    2014年(平成26年)12月26日
 札幌地方検察庁検察官殿
      告  発  人  別紙告発人目録に記載  (計348名)

      告発人代理人共同代表 弁護士 阪口徳雄  (大阪弁護士会)
      告発人代理人共同代表 弁護士 中山武敏(第二東京弁護士会)
      告発人代理人共同代表 弁護士 澤藤統一郎 (東京弁護士会)
      告発人代理人共同代表 弁護士 梓澤和幸  (東京弁護士会)
      告発人代理人共同代表 弁護士 郷路征記  (札幌弁護士会)
      上記代表を含む別紙告発人代理人目録記載の弁護士(438名)

      被告発人  たかすぎしんさく こと 住所氏名不詳者
             (以下、本告発状では「被告発人たかすぎ」という)

第一 告発の趣旨
 被告発人たかすぎの下記各行為は、刑法233条(虚偽の風説の流布による業務妨害罪・以下、「業務妨害罪」という。)に該当することが明らかである。
 しかも、同被告発人の行為態様は、虚偽の風説をインターネットの動画サイトを利用することによって流布するものであるため、これまでには考えられない規模の多数人に対する伝播が行われ、しかも日々その規模は増大しつつある。その結果、業務妨害の法益侵害は規模が大きいというだけでなく、それが現に累積増加しつつあり、直接間接に影響が深刻化している。
 貴職におかれては、本件の上記特徴を的確に把握のうえ、早急に被告発人たかすぎに対する捜査を遂げ、厳正な処罰をされたく、告発する。

第二 告発事実
第1 2014年(平成26年)8月7日インターネット動画掲載に関わる件
   被告発人たかすぎは、2014年(平成26年)8月上旬、元朝日新聞記者である植村隆氏が非常勤講師として勤務する学校法人北星学園(理事長 大山綱夫)が運営する北星学園大学(学長 田村信一。札幌市厚別区大谷地西2丁目3番1号所在。以下、「同大学」という)の代表電話に架電し(以下、「本件電話1」という。)、対応した同大学事務局学生支援課のかわもと某(以下、「かわもと」という。)に対して、「植村さんは国賊に近い方なんですよ。・・・そういう問題があって神戸の松蔭学院大学も、これ採用を止めたんですよ。不適格やて。そういう方をおたくはね、そういう事実をわかっとって採用されてるんですよ。ね、北星学園大学はね、国賊大学いうことなるんですよ。こういうことやっとったら。」(以下、「虚偽事項1」という。)と虚偽を申し向け、さらに、本件電話1によるかわもととのやり取りを自ら録音し、その音声ファイルに同大学の校舎を写した静止画像と字幕をつけて動画ファイルとし、同年8月7日、インターネットの動画共有サイトであるYouTubeにこれをアップロードし、上記虚偽事項1を含む本件電話1を誰もが聴取可能なものとして公開し、もって虚偽の風説を流布して同大学の業務を妨害した。

第2 2014年(平成26年)10月2日インターネット動画掲載に関わる件
   被告発人たかすぎは、同年10月2日、再び同大学の代表電話に架電(以下、「本件電話2」という。)し、対応した同大学事務局の氏名不詳某に対して、「もう9月以降のカリキュラムに植村さんの名前が入っとった言うてるやんか、調べたら。北星学園大学は嘘つきの大学なんですか、これ。そういうことになりますよ。」(以下、「虚偽事項2」という。)と語気鋭く申し向け、又、「北星学園大学ゆうところは、国賊の人間を採用しているゆうことでよろしいんですか」、「北星学園大学の、これ大変なことになりますよ。こういうことやられとったら。犯罪者をね、採用するなんてふざけたことをしなさんな!これ。違いますか、これ。犯罪以上のもんですよ、この方は。」(以下、「虚偽事項3」という。)と語気鋭く申し向け、さらに本件電話2による氏名不詳従業員某とのやりとりを自ら録音し、その音声ファイルに同大学の校舎を写した静止画像と、「『脅迫文』や『爆破予告電話』などは国賊、植村隆を擁護し、雇用している同大学への批判をかわす為の『自作自演』の可能性があると思います。」(以下、「虚偽事項4」という。)との文言を含む字幕をつけて動画ファイルとし、同日、インターネットの動画共有サイトであるYouTubeにこれをアップロードし、上記虚偽事項2、3を含む本件電話2と虚偽事項4を含む字幕を誰もが閲覧・聴取可能なものとして公開し、もって虚偽の風説を流布して同大学の業務を妨害した。

第三 構成要件該当性について
1 「業務妨害罪」における虚偽の風説の流布とは、真実と異なった内容の事項を不特定又は多数の人に伝播させることをいう(「条解刑法 第3版」691頁 9~10行目)。
  以下、同書に従って個々の構成要件要素について検討する。
2 客観的構成要件要素  
(1) 虚偽とは「客観的真実に反すること」(客観説)とするのが、一貫した判例(大判明治44年12月25日)の立場である。
   本件における「国賊大学」「嘘つき大学」「犯罪者を採用」「爆破予告電話は自作自演」等の表現は、その表現が表す事実自体が真実に反するという意味において明らかな虚偽である。
のみならず、憲法23条は学問の自由を保障し、大学は高度の自治を保障されている。大学教員の人事はその自治の重要な一環であって、外部からの大学の人事への介入こそが違法な行為である。大学の人事に不当な攻撃を加えて「国賊」「嘘つき」などとその社会的評価をおとしめようとする論難自体が「業務妨害罪」における「虚偽の風説」に該当するものである。
以上のとおり、同大学は「国賊」でも「嘘つき」でもなく、また「犯罪者を採用した」「爆破予告電話を自作自演した」事実もない。
   これに対して、被告発人側から「当該表現は侮蔑的ではあっても意見・論評に過ぎなく、真偽の判断に馴染まない」との弁明のあることが考えられる。しかし、意見・論評であっても後記のとおり、業務妨害罪の構成要件たる「風説」に該当するものとしてこの弁明はなりたたない。また、当該意見ないし論評の根拠たる事実が一見明白に真実に反することにおいてもそのような弁明のなり立つ余地はない。
   なお、虚偽はある事項の全部について真実に反することを要せず、一部で足りるものと解されている。
(2) 風説とは一般には噂のことであるが、噂という形で流布されることが必要でなく、行為者自身の判断・評価として一定の事項を流布させる場合であっても良いとされている。したがって、「国賊大学」とは被告発人たかすぎの同大学に対する判断・評価と解されるが、それそのものが、業務妨害罪の構成要件たる「風説」に該当するのである。
なお、虚偽の風説は、具体的事実を適示する必要はなく(大判 明治45年7月23日)、悪事醜業の内容を含んでいることも必要ではない(大判 明治44年2月9日)とされている(同書 691頁 下から5~1行目)。
(3) 流布とは不特定、または多数の人に伝播させることを言うが、必ずしも行為者自身、自らが直接に不特定又は多数の人に告知する必要はないとされ、他人を通じて順次それが不特定又は多数の人に伝播されることを認識して行い、その結果、不特定又は多数の人に伝播された場合も含むとされている(同書 692頁 1行目~4行目)
   本件電話1および同2をインターネット動画共有サイトであるYouTubeにアップロードした被告発人たかすぎの行為は、極めて強力な不特定多数者への伝播手段の利用であって、法の想定をはるかに超えた態様としての「風説の流布」に該当するものというべきである。
(4) 以上のとおり、被告発人たかすぎは、客観的真実に反する本件各虚偽事項を風説として不特定かつ多数の人に伝播したものであるから、その行為の構成要件該当性に疑問の余地はない。
(5)もっとも、虚偽とは「行為者が確実な資料・根拠を有しないで述べていた事実である」という主観説の立場がある。主観説に基づく判例としては、東京地方裁判所昭和49年4月25日判決(判例時報744号 37頁)が指摘されている。
   本件の場合には、被告発人たかすぎが確実な証明に必要な資料・根拠を何ら有することなく各虚偽事項を述べたことは明らかと言うべく、主観説の立場からも、虚偽の事項を述べたものとして構成要件該当性に問題がない。
3 故意
(1) 客観説の故意の内容については、行為当時に知られていた当該事実に関して真実とされる客観的知見を基準にして、これと齟齬する認識があることである。
   また、主観説によれば、自己の言説が確実な根拠・資料に基づかないことの認識が故意とされる。
(2) 本件における「国賊大学」「嘘つき大学」「犯罪者を採用」「爆破予告電話は自作自演」等の表現は、当時知られた客観的な事実に照らして大きく齟齬していることが明白であることから客観説における故意の存在が推認されるべきは自明と考えられる。
   また、被告発人たかすぎが、上記各虚偽事項の真実性を確実とする根拠・資料を有していることはあり得ないと考えられることから、主観説を採用するとしても、故意の存在は明らかである。
 (3) なお、本件各虚偽事項における「国賊」「嘘つき」などの表現が侮蔑的な評価ないし意見であるとしても、当該の表現を含む言説が風説として流布されれることによって同大学の業務を妨害する危険があることを認識していれば、故意の成立を妨げない。また、その評価の根拠たる事実が真実でないことについて被告発人たかすぎは認識していたものというべきであり、その立証にたりる確実な資料を有していないことも明らかであるから、この点についての故意の存在も疑問の余地がない。
4 結論
   以上のとおり、被告発人たかすぎの本件各架電とインターネットサイトへの各掲載によって同大学の業務を妨害したものとして、業務妨害罪の外形的構成要件要素の充足に疑問の余地なく、かつ故意の存在も当然に推認される。また、本罪は抽象的危険犯とされ、具体的な業務への支障の発生を要件とするものではない。したがって、被告発人たかすぎの同大学に対する業務妨害罪の構成要件該当性は明らかである。
5  なお、同じ罰条(刑法233条)には、「虚偽の風説の流布」と並んで、「偽計による」業務妨害の構成要件が規定されている。
   「虚偽の風説の流布」と「偽計」との関係については、虚偽の風説の流布も偽計の一態様であるとし、偽計の概念の中に虚偽の風説の流布が含まれるとする見解が妥当であるとされており、(同書 693頁 18~20行目)本件を「偽計による業務妨害」として把握することも可能と思われる。
   しかし、本件の場合には、虚偽の風説の流布に該当することが明らかな事例であるから、偽計による業務妨害罪によらずして、典型性の高い虚偽の風説の流布による業務妨害罪として立件すべきが相当と考えられる。

第四 本件犯行の背景と告発の動機
1 同大学の非常勤講師である植村氏が元朝日新聞の記者としていわゆる従軍慰安婦問題の記事を書いたのは1991年(平成3年)8月11日付の朝日新聞大阪本社版朝刊であるが、それが捏造記事であるとして植村氏を糾弾、社会的に抹殺せんとする動きが2014年(平成26年)2月6日付週刊文春(同年1月末発行)の「“慰安婦捏造”朝日新聞記者がお嬢様女子大教授に」と題する記事以降急速に強まった。
植村氏の解職を求める電話等が植村氏本人にではなく、その雇用主になる予定の神戸松蔭女子学院大学に対して1週間で250通集中するという事態が発生し、それによって同大学は植村氏に対し、教授に迎え入れられる状況ではない、学生募集に支障がでるとの判断を示し、同大学内に何の繋がりも持たなかった植村氏は、教授就任を諦めざるを得なかった。植村氏は同大学教授への就任のため朝日新聞社を退社する手続をとっており、同年3月末、同社を退社となった。
2 その後、植村氏が北星学園大学の非常勤講師として勤務していることが知られるところとなり、同氏の解職を求める電話、メール、手紙が同大学に集中することになった。
  それらの中でも電話によるものは特に業務への妨害性が高いが、ネットでは抗議や要求等をする電話のことは「電凸」(電話突撃の略で、「でんとつ」と読む)と称されており、本人ではなく雇用主や広告主などの第3者に対して電凸することが、意図的に煽られている。その方が圧倒的に高い効果を得られるからと言われている。
被告発人たかすぎの本件2回の電凸行為は、同大学への架電して大学側の対応を自ら録音しておいて、それをYouTubeにアップロードして社会に公開し、誰もが閲覧、聴取可能なようにしたというところに極めて大きな特徴がある。
  本件電話1のYouTube閲覧者数は12月8日現在で42,135名、本件電話2のYouTubeに関しては7,922名であって、個人が他の手段では到底達することができない多数への伝播となっている。そればかりではない。YouTubeにアップされた被告発人たかすぎの電凸ファイルは、
  保守速報(http://hosyusokuhou.jp/archives/39576639.html)
  嫌韓ちゃんねる(http://ken-ch.vqpv.biz/no/1206.html)等
 のブログにダウンロードされて、そこで閲覧可能となり、そこでも電凸が煽られて電凸が更に広まっていくという事態が進行している。
  以上のとおり、被告発人たかすぎの本件各電凸は、同大学に対する電凸攻撃を煽り、そそのかす役割を果たしているものである。そして、その役割は現時点でも日々継続している。
3 被告発人たかすぎの本件犯行の動機は、偏に植村氏の言論が自分の主義主張に反していたからということだけを理由に、植村氏に私的なリンチを加えて、社会的抹殺することを企て、そのための手段として同大学から失職させることを目的として、本件各電凸行為をおこなっているのである。
  植村氏は、現在実質的に生計の道を断たれた状態にあり、それに加えて同大学の非常勤講師としての職をも失わせようという被告発人たかすぎの本件犯行は、非人道的なものとして犯状極めて悪質と言わなければならない。
  また、被告発人たかすぎの本件各行為は、植村氏の言論とは全く関係のない雇用主である同大学の業務を妨害するという極めて卑劣なものである。本件「電凸行為」は同大学の新入生勧誘等の業務を具体的に妨害することなど、業務の支障は大きくこの点でも不当卑劣、犯状悪質と言わざるを得ない。
被告発人たかすぎの本件行為等の結果、同大学に対する抗議電話やメールは累計2000件以上だという。同大学が被告発人たかすぎの行為によって、多大な業務上の妨害を受けていることは明らかである。雇用主に電凸しそれをインターネットで伝播することによって被告発人たかすぎは、その不当な目的達成のため、信じられないほど大きな効果を獲得しているのである。
この日本の社会の平穏を確立し、自由に語り自由に書ける安心な国として維持してゆくために、本件のごとき犯罪の防遏に対する捜査機関の果敢な決断が、今、求められていると我々は考える。
本件犯行に対して、可及的速やかに厳正な捜査を遂げて、被告発人たかすぎの処罰を求めるものである。

第五 立証方法(略)

(2014年12月27日)

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