澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「浜の一揆」訴訟、仙台の法廷で。

2019年2月12日

平成30年(行コ)第12号 サケ刺網漁不許可取消請求等控訴事件

 意 見 陳 述 要 旨

仙台高等裁判所第1民事部 御中

控訴人ら訴訟代理人弁護士  澤  藤  大  河

 本日陳述の準備書面(3) (4) 及び(5)の3通は、いずれも本件の主たる争点であるサケ刺網漁不許可要件としての「漁業調整の必要」の有無に関して、被控訴人への反論を行うものです。この間の、被控訴人との論争を通じて、本件の法的主張の枠組みと主要な争点が明確になってきたものと考えます。
以下に、4点の主要な争点に限って、要約して口頭で意見を陳述いたします。

☆ まず、漁業法の目的規定である第1条「漁業の民主化」をめぐる論点です。
控訴人らは、漁業法第1条を、あるべき漁業秩序の理念の表現と主張してきました。
これに対して、被控訴人は「漁業の民主化」とは手続的原則に過ぎない、と反論しています。しかし、「民主化」の理念が、形式的手続に留まるものであるはずはありません。「漁業の民主化」を形式的手続的理念のみに押し込めてしまえば、「民主化」は目的理念を喪失した無内容なものとなってしまいます。
漁業法の制定は、戦後の経済民主化の一環として、農地改革とならぶものです。農業における「経済民主化」は、小作人に一定の土地を与えることで、独立農業経営主体を作り出すことを主眼としたものでした。「漁業における民主化」とは、漁民に海面の一区画を付与することに代えて、適切な漁業調整を通じて、独立漁業経営主体の形成を可能とすることにあります。ですから、漁業調整とは、単なる手続的概念ではありません。被控訴人は、「民主化とは、構成員が一人一票など対等な立場で漁業調整機構の運営に参加することの手続的保障」だと言いますが、それでは不十分なのです。実体的に零細漁民の生計の維持が可能となるよう調整の目的をもたねばなりません。本件では、漁業法が定める「民主化」という目的に照らして漁業調整が行われたか、そのことが鋭く問われているのです。

☆ 次いで水協法4条の問題です。最初に、この論争の局面を確認しておきます。
本件における漁業調整は、いったい誰と誰との漁業利害を調整しているのでしようか。「控訴人ら漁民と漁協」の調整ではありません。飽くまで、「控訴人ら漁民と定置網漁業者」との間の調整なのです。乙15によれば、岩手沿岸の定置網は82ケ統を数えます。そのうち漁協経営のものが漁協と個人との共同経営を含めて56ケ統、およそ3分の2に過ぎません。残りの26ケ統、3分の1は漁協の関わりのない定置網事業者なのです。
控訴人ら漁民が、漁協との関わりのない定置網事業者、しかもサケの孵化放流事業とも無縁なこれらの定置網事業者との関係で、その事業者の利益を擁護するために、サケ刺し網漁を禁止とされる正当性はおよそ考えられないところです。
そのことを前提とした上で、控訴人ら全員が所属している漁協の定置網事業との競合の関係をどう考えるべきか。それが問題の局面です。控訴人らは、漁協に自営定置を止めろなどとは言っていません。漁協の定置網漁の漁獲に差し支えるから、組合員である原告ら漁民にはサケ刺し網漁は一切禁止という漁業調整のあり方は、本末転倒で違法だと言っているのです。
水協法4条は、「漁協とは組合員のために直接の奉仕をすることを目的とする存在」と定めています。本来、漁民と競合する事業を行うことは想定されていないのです。二平氏の意見書が指摘するとおり、「漁協が組合員構成員の漁業を直接侵害する場合には、自営事業を行うことは、法的な目的に反する」というほかありません。いかなる法人も、法の目的に反した行為はできません。仮に漁協が漁業を営むための法17条の手続要件が具備されたとしても、4条違反を治癒することはできないのです。結局、サケ固定式刺し網漁許可申請を不許可とにする理由として、漁協の定置網漁に支障を生じるという事情を挙げて、「漁業調整の必要有り」として不許可にすることは違法と言わざるを得ません。
なお、被控訴人は、関連して「県内の定置漁業者は公的資金投入を受けた孵化放流事業の担い手でもあり、投下資本回収の必要がある」と言っています。「県内の定置漁業者が公的資金投入を受けた孵化放流事業の担い手」というのは明らかな間違いですが、孵化放流事業者がサケを優先的に漁獲する権利はありません。公的資金と賦課金とで経営されているのであれば、なおさらのことです。

☆ サケ延縄漁業が、刺し網漁の代替性を有するについては、詳細に述べたところです。被控訴人には、誠実に追加の資料を提出していただくよう求めます。
この論争で浮かびあがってきた論点があります。どうして、行政は漁民に対して、非効率的な漁法は許可して、効率的な漁法は許可しないのか。漁獲上限がない延縄漁は許可して、10トンを上限とするサケ刺し網漁は許可できないのか、という疑問です。控訴人らは、いずれも年間最大漁獲高10トンを上限とする許可を申請していますから、効率がよいから、取り過ぎて資源枯渇をきたすという不許可の理由は成り立ちえません。
何よりも、行政が漁民に対して、あえて非効率な漁法を強制して、効率的な漁法を禁止することは、合理的な理由を欠くものとして、漁民の憲法上の職業選択の自由を侵害するものと言わざるを得ません。

☆ 最後に、漁協による自営定置の利益還元について述べます。
現在、被控訴人は直接的な還元があるとの主張ではなく、定置網事業の利潤が漁協の運営コストに充当されることで、組合員の負担を減らす間接的な還元がなされていると主張しています。しかし、この「間接的還元」論は倒錯した論理と言わざるを得ません。
漁業者の漁業経営を成り立たせることが最優先事項です。漁協は漁民の生活を成り立たせるためにのみ存在するのです。漁業者の収入から、漁協の会計を支えることがあるべき姿です。ところが、サケ漁を漁民から取りあげ、漁協がサケを獲って、漁協のコストを差し引いたものが、間接的に還元されている、という「論理」は、法の予定していないところで、倒錯と言わざるを得ないのです。
更に根本の問題は、漁協から組合員への「還元」の有無や内容ではなく、「還元」の前提となっている、組合員のサケ漁の権利を剥奪して、漁協が独占している構造の正当性の問題です。なぜ、小型漁船漁業者の自らサケを採る権利を奪うことができるのかということなのです。控訴人らの主張は、これを正常に復して、サケ漁の利益を組合員の手に取り戻そうというものです。しかも、全部の収益を組合から取り戻そうというのではなく、年間10トンの漁獲に限ってのささやかな要求であることを、ご理解ください。

☆ なお、本件許可申請を不許可とする事由として、漁業調整の必要」と並んで、「サケ資源の維持培養の必要」があります。この点については、控訴人としては基本的には原審での井田齊氏の意見書と証言で立証は十分と考えていることを申し添えます。

(2019年2月12日)

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Published in 火曜日, 2月 12th, 2019, at 22:00, and filed under 未分類, 浜の一揆.

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