澤藤統一郎の憲法日記

改憲への危機感から毎日書き続けています

「浜の一揆」訴訟控訴審結審の法廷で

仙台高等裁判所第1民事部御中

控訴人ら訴訟代理人弁護士 澤 藤 大 河

 H30年(行コ)第12号 サケ刺網漁不許可取消請求等控訴事件の結審に際して、最終準備書面に当たる準備書面(7)における主張の骨格を要約して、以下のとおり意見陳述をいたします。

第1 何がどのように問われているのか
1 漁民がサケを獲ることは基本的権利である
海洋を回遊するサケは無主物であって、これを捕獲することは、本来誰もが自由になしうることです。漁民が生計を立てるためにサケ漁を行うことは、憲法上の基本権(営業の自由)として保障されなければならず、その制約には、厳格に合理的な必要性が要求されます。この点の認識が、本件を考察する出発点でなくてはなりません。

2 サケ採捕に対する制約は2点の根拠ある場合に限られる
法と岩手県知事規則は、沿岸の刺し網漁を県知事の許可漁業とした上で、漁民からの刺し網漁許可の申請に対しては、許可すべきことを原則にしつつ、「漁業調整の必要」と「資源の保護培養の必要」がある場合に限り、これを不許可とすることができると定めました。従って、本件各許可申請を不許可として、控訴人らのサケ採捕によって生計を維持する権利を制約するには、この2点の具体的な根拠を行政庁において明確にし、挙証し得た場合に限られることになります。そのいずれも、成功してはいません。

第2 「漁業調整の必要がある」とはいえない
1 法が予定する漁業調整の理念
二平章氏の意見書(甲22)は以下のとおり述べています。
「漁業調整とは、漁業主体間の利害対立状況の調整ですが、次の理念のもとに行われるべきです。
第一は漁業者の優先です。他人を使用して事業として漁業を行う者よりも、実際に漁業を行う者を優先するということ。
第二に弱小零細漁民の保護です。大きな漁業者の事業的な利益よりは、零細漁民の生存権的な利益を優先させるべきです。
一方的にどちらを勝たせるとか、すべての利益を一方に独占させるという意味ではなく、利害の対立や摩擦を調整するための指針としてこの二つの理念があるのです。」
これが、戦後の経済民主化立法として、農地改革と軌を一にする、漁業法の理念であり、漁業の「民主化」を目的に掲げた漁業調整のありかたなのです。

2 現実はどうなっているのか
その法の理念に照らして、岩手県沿岸におけるサケ漁をめぐる漁業主体間の利害対立状況の現実は、「サケは大規模な定置網漁業者だけに捕らせる。刺し網を希望する小型漁船漁業者には一匹も捕らせない」という、不公平の極みではありませんか。漁業者優先の理念も、零細漁民の保護の理念もまったく無視されています。無理無体,理不尽がまかり通っているとしか言いようがありません。
強者を保護するために、弱者の権利を奪い取る、この倒錯した政策に納得できるはずはありません。しかも、このような不公平による軋轢、不平・不満は1980年代から顕在化しているのです。司法が、この偏頗な行政の不見識に加担するようなことがあってはなりません。

3 誰と誰との利害の調整なのか
定置網漁業者に優先権はありません。しかも、被控訴人提出の資料によれば、岩手県沿岸には82ケ統の定置網があります。そのうち、個人経営が12ケ統、漁業生産組合経営8ケ統、有限会社経営6ケ統、漁協・個人共同経営10ケ統となっています。その余の46ケ統が、海水面漁協の単独経営です。
つまり、漁業調整において、控訴人らと対峙している業者の半数近くが純粋に私人なのです。私的な事業者の利益確保のために、控訴人らが譲らねばならない理屈はありえません。

4 孵化放流事業の振興策は刺し網禁止を合理化しない
浜の有力者たちは、個人として、生産組合を形成する形で、あるいは、有限会社を作って、「自らは孵化事業に関わることなく」、定置網漁による利益を得ています。
また、孵化事業のサイクルは、母川に稚魚を放流した時点で完結します。この稚魚は無主物で、孵化放流事業者が優先して採捕する権利などまったくありません。
さらに、控訴人らはすべて漁協の組合員です。漁協が経営する孵化事業の成果である成鮭の採捕という「直接の利益」を等しく享受すべき立場にもあります。
なお、各孵化事業の経費は、いずれも公的資金の投入と漁獲高の7%に当たる分担金の拠出によってまかなわれています。刺し網も同一の条件になるものと考えられ、そのような運営で何の支障も生じようがないのです。

5 形式的な民主主義手続は刺し網禁止を合理化するか
県内漁業者の総意でサケの固定式刺し網漁が禁止に至ったという経緯はありません。そもそも県漁連や海区漁業調整委員会は、実質において、一部の県内有力漁業者の利益実現のための機構で、県内漁民の意見の集約機能を持つものではありませんでした。サケの孵化事業は、県内の有力漁業者が、自らの持つ大規模定置網漁業の利益をもたらすものとして発展させたものです。従って、固定式刺し網漁業によるサケの採捕全面的禁止は、県漁連や海区漁業調整委員会の幹部を兼ねた、有力業者が自らの利益のためにしたもので、提出の陳述書や書証のとおりなのです。
控訴人らは、長く漁民個人のサケ漁の解禁を求め、その実現のための手続的変革の努力もしてきました。現在の岩手県海区漁業調整委員会の公選委員に、原告らのうちの2人を当選させて送り込んでもいます。しかし、それでも事態はまったく変わりません。その本来の権利実現のためには、司法手続によって、本来の権利を実現するしかない事態なのです。

6 漁協の自営定置は刺し網禁止の理由になり得ない
被控訴人のこの点の立論は、定置網漁業者がすべからく漁協だという前提において既に誤っています。また、控訴人らは、漁協の自営定置を止めよと主張していません。「自営定置の漁獲減少の恐れがあるから、組合員の漁業許可を許さないというのは水協法4条に照らして本末転倒だ」と言っているのです。漁協が、組合員の漁業経営を圧迫する恐れのある事業をできるはずはありません。

7 隣接道県との協議の必要も刺し網禁止の理由になり得ない
隣県宮城でも、岩手同様、孵化放流事業もあり、定置網漁も行われている。しかし、刺し網も許可されています。仮に、協議の必要があれば、許可の上で協議をすればよいだけのことで、隣接道県との協議の必要があることが、刺し網禁止の理由とはなり得ないことが明白です。

8 親魚確保のためとする刺し網禁止の理由はなり立たない
井田齊意見書と証言に詳細ですが、採卵のための親魚としては,河川親魚の確保が重要であって、海産親魚に頼るのは邪道なのです。河川親魚の確保のためには、しかるべき時期に複数回河口を開けて、成鮭が母川を遡上する機会を作ることになります。その点において、定置も刺し網も本来的な優劣はありません。
また、控訴人らは定置網漁を止めよとの主張はしていなません。飽くまで共存しようという態度で一貫しているのですから、仮に何らかの事情で海産親魚の捕獲が必要な場合は、定置網漁が引き受ければよいだけのことで、刺し網を禁止する理由になり得ないことは明白なのです。

第3 サケ資源の保護培養上の必要性があるとはいえない
1  固定式刺し網漁は、サケを取り尽くさない
被控訴人は「刺し網が漁獲効率が高い漁法であり、それゆえにサケ資源を取り尽くす」と言います。しかし、その主張自体が具体性を欠けるものとして失当であること、そもそも「漁獲効率の高い漁業」は許可できないという発想が間違っていること、なによりも「漁獲効率の高い漁業の解禁は,サケ資源の確保に悪影響が大きい」との主張が、サケに関しては、間違いというよりは虚偽であることは明らかというべきです。

2  固定式刺し網漁は、孵化放流事業に支障をきたさない
次いで、「刺し網では、親魚として利用することができないこと」が挙げられますが、これも苦し紛れの弁明でしかありません。河川親魚としての確保こそが重要であって、そのためには、定置も刺し網も本来的な優劣はありません。井田意見書と、井田証言に明らかなところです。

3 控訴人らへの刺し網漁の許可は際限のない参入者を生まない
本件各申請に許可を与えた場合、これに続いて他の漁民からの許可申請があるか否か、申請があるとしてどの程度の人数になるかは、分からないというしかありません。これを予測する合理的な根拠も資料もないからです。
しかし、「分からないから不許可」というのは基本権をないがしろにした不合理極まる結論というほかはありません。判断すべきは、処分時点での当該申請を許可すれば、サケ資源の保護培養に支障が生じるか否かの一点であって、将来の不確実な事情を許可申請者に不利益に考慮することは許されません。現実には、多くの漁船がこぞって参入することなどあり得ないことは、数字を挙げて反駁したところです。
合理的で必要な最小限の規制はあって然るべきですが、現状の全面禁止を維持する合理性はありません。

4 判断の基準点を動かしてはならない
なお、判断の基準時は本件不許可の時点です。その後の事情を,行政が恣意的に考慮すべきではありません。また、三陸大津波や台風の被害は、控訴人らにも深刻な影響を及ぼしています。
だからこそ、控訴人らのサケ刺し網漁の解禁要求は切実なものであることをご理解ください。

  以上のとおり、漁業調整の必要も、サケ資源の保護培養の必要もあるとはいえないに拘わらず、本件各申請を不許可とした各処分はすべて違法として取り消されなければなりません。原判決を破棄して、請求認容の判決を求めます。

(2019年12月3日)

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