澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

子曰く、必らず已むを得ずして、アベ政権を去らん。

私は、「論語」をたいしたものとは思わない。所詮は底の浅い処世術としか理解できないと公言して、顰蹙を買うことがしばしばである。しかし、警句として面白いとは思う。どうにでも自分流に解釈して便利に使えばよいのだ。多分、使い手によっては、切れ味が出てくるのだろう。アベ政治への批判についても使える。

よく知られている顔淵編の次の一節。

子貢問政、子曰、足食足兵、民信之矣、子貢曰、必不得已而去、於斯三者、何先、曰去兵、曰必不得已而去、於斯二者、何先、曰去食、自古皆有死、民無信不立。

子貢、まつりごとを問う。子曰く、食を足らし、兵を足らし、民これを信ず。
子貢曰く、必らず已むを得えずして去らば、この三者において何をか先にせん。
曰く、兵を去らん。
子貢曰く、必らず已むを得ずして去らば、この二者において何をか先にせん。
曰く、食を去らん。いにしえより皆死あり、民、信無くんば立たず。

私なりに訳せば、以下のとおり。
子貢が孔子に政治の要諦を尋ねた。
「経済を充実させ、軍備を怠らず、民意の支持を得ることだね」
「その三つとも全部はできないとすれば、まずどれを犠牲にしますか」
「そりゃ、軍備だね」
「残りの二つも両立は無理だとすれば、どちらを犠牲にすべきでしょうか」
「経済だよ。民生の疲弊はやむを得ないが、民衆の信頼がなければそもそも政治というものが成り立たないのだから」

孔子は、政治の要諦として、「食(経済)」・「兵(軍備)」・「民の信」の3者を挙げた。おそらくは、きわめて常識的な考え。しかし、面白いのは、重要性の順序が必ずしも、常識のとおりではないこと。政治の中心的課題を「民のため」の政治というにとどまらず、「民からの信頼」と考えている。もちろん民主主義ではない。しかし、読み方次第では、その思想的萌芽を感じさせる一文ではないか。

アベ政権は、平和主義を放擲して戦争法までつくり、近隣諸国の危険性を鼓吹して国民の不安を煽り、軍事予算を増額するというのだから「兵(軍備)」の充実にだけはご執心だ。

しかし、既に「食(経済)」を足らしむことにおいて失敗している。アベノミクスがアホノミクスであることについては、誰の目にも明らかになりつつある。経済を投機化したことによって、実体経済は停滞し、格差貧困は拡大し、株価の維持まで危うくなっている。

さらに、最大の問題は「民の信」である。アベ政権が、そして政権与党が、国民の信に耐え得るか。安倍自身もこの点は、気にしているようだ。過日不倫騒動で辞任した宮崎議員について問われた際に、「信なくば立たず」と口にしている。宮崎の辞任の弁にも「信なくば立たず」があった。宮崎がやめることで「信が立った」か。とんでもない事態である。閣僚の妄言はあとを絶たない。これは民主主義の問題であり、立憲主義の問題でもある。

要するに、「兵」だけが突出して、「食」も「信」も、アベ政権にはない。孔子の教えに逆行しているのだ。そこに、直接に民意を問う国政選挙が迫ってきている。アベ政権を総体としてとらえ、分析し、迫った参議院選挙の投票行動の意義を見定めなければならない。こんな事態で、明文改憲を許す議席をアベ政権に与えてはならない。

私も編集委員の一人となっている「法と民主主義」は、4月号を、アベ政権の総体を問う特集とする。
特集の編集責任者は、清水雅彦さん(日本体育大学教授・憲法学)。以下のラインナップで、すべての執筆者のご承諾をえた。発売は、4月20日頃となる予定。是非、ご期待いただき、憲法の命運に関わる大切な選挙にご活用をお願いしたい。

もし孔子が世にあれば、必ずやこれを薦める内容になるはず。そしてこう呟くことになる。

子曰く、必らず已むを得えずして、アベ政権を去らん。

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2016年『法と民主主義』4月号(№507)
特集●アベ政権を問う〈仮題〉
■企画の趣旨
今号は、4月号ながら、憲法記念日近くに発行される予定です。この間の安倍政権による憲法破壊を批判的に検討し、憲法理念の実現に向けた理論提供を行う憲法特集号として位置づけております。ただし、憲法の個別テーマを扱った論文が各号に掲載されていることを受けて、今号では、これまであまり触れていないテーマをとりあげております。安倍政権の総体を問う特集になることを期待し、企画いたしました。
■特集企画の構成執筆予定者(敬称・略)
特集にあたって(特集リード) 清水雅彦(編集委員)
安倍政権下の憲法情勢森英樹(名古屋大学名誉教授・憲法学) 2015年国会で戦争法の制定を強行するなど、この間のconstitutional change を進めてきた安倍政権が、いよいよconstitutionのchangeの必要性を堂々と何度も主張するようになった。このような安倍政権下で進む憲法情勢について検討していただく。
アベ改憲論を問う──緊急事態条項論の検討 植松健一(立命館大学法学部教授・憲法学)
参院選で与党3分の2以上の議席確保を狙い、場合によっては衆参同日選挙もありうる中で、安倍政権が主張している緊急事態条項論や改憲論について、これまでの憲法学における国家緊急権論やドイツなど外国との比較から検討していただく。
アベの政治手法を問う──安倍政治の検討 西川伸一(明治大学政治経済学部教授・政治学)
従来の自民党政治には見られなかった強権的で異論を認めず、極右色の強い安倍政治の内容・特徴や、メディアへの圧力、極端な内閣法制局人事等への介入など、その独特の「お友だち」の活用と批判派の排除といった政治手法について検討していただく。
選挙を問う?衆参同日選挙、小選挙区制度などの検討 小松浩(立命館大学法学部教授・憲法学)
場合によってはありうる衆参同日選挙の問題点や、衆議院の小選挙区制度の問題点について、この間の定数是正違憲訴訟やご専門のイギリス(可能であれば、他国も)との比較に触れつつ、検討していただく。
若者の政治参加を問う? 18 歳選挙権と政治教育などの検討 安達三子男(全国民主主義教育研究会事務局長)
今後の18歳選挙権の実施と文部科学省による高校生の政治活動についての新通知などについて、『18歳からの選挙Q&A』(同時代社)の執筆者の立場から、文部科学省や教育委員会の問題点などについて検討していただく。
◆『一億総活躍社会』を問う?社会福祉・医療政策の検討 伊藤周平(鹿児島大学法科大学院教授・社会保障法)
安倍政権が打ち出した「一億総活躍社会」論によって、国民の生活と権利はどうなるのか、この間、急激に進む医療介護保険「改革」や「子育て支援新制度」などの社会保障、医療制度改革の動向とあわせて検討していただく。
◆市民は問う─その1 菱山南帆子
◆市民は問う─その2 武井由起子(弁護士)

「法と民主主義」の各号のご紹介やご注文は、下記のURLへ。
http://www.jdla.jp/index.html
(2016年2月28日)

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