東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)が今年(2017年)1月2日放送の「ニュース女子」について、BPOが「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表した件。これは看過してはならない大きな事件であり問題なのだ。
問題がメディアのあり方に関わる重大事なのに、主要紙の社説が揃わないことに不安が残る。中央紙では、12月16日に朝日と東京が、17日には毎日が、いずれも格調の高い社説を書いた。それぞれに立派なものだ。読み易く分かりやすくもある。しかし、読売・産経は書かない。日経までもだ。メディアの使命に関して、余りにも感度が鈍いのではないか。地方紙では、沖縄の2紙が鋭い論評を書いているが、その余には目立つものが少ない。神戸新聞が目についた程度だが、これも気にかかる。
まずは、このような沖縄の基地建設反対運動に関してのデマとヘイトに充ち満ちた劣悪な「報道」が、地上波メディアに垂れ流されていることに戦慄を覚えなければならない。この感覚が大切だと思う。これを見て、「テレビなんぞは、どうせこの程度のもの」と甘く見てはならない。
デマとヘイトは、民衆をあらぬ方向に煽動する力をもちうる。ナチスもそうだった。天皇制政府も同じだった。このような番組の跋扈を芽のうちに摘み、蔓延を押さえ込まなくては、民主主義の基礎が崩される。隣国との協調も地域の安定も危うくなりかねない。視聴者には真実を知る権利がある。デマとヘイトによっての世論操作を許してはならない。この点に、すべてのメディアが敏感になって相互批判をしなければならない。
そして、この事件の構造と問題点を押さえなければならない。
「沖縄の新基地建設反対運動は、在日勢力によって操られた暴力的で恐ろしいもの」というのが、問題番組のコンセプトである。単に事実無根というに止まらず、特定の意図をもって運動への妨害を意図したものと指摘せざるを得ない。これが「デマ」という所以である。このデマは、情報の受け手に民族差別の潜在意識あることを前提に、これを利用し差別感情に訴えようとする企図が生み出したものだ。これを卑劣な「ヘイト」という所以なのだ。
このデマとヘイトの低劣番組を制作したのが、DHCテレビジョン(当時の社名は、DHCシアター、DHCのオーナー吉田嘉明が会長)である。これが、地上波局であるMXテレビに持ち込まれた。DHCテレビジョンの親会社であるDHCの提供番組としてである。MXテレビは、こんな劣悪番組をノーチェックで放送したのだ。この事件が起こってから、「完パケ」という業界用語が有名になった。放送される内容と同様の「番組完成バージョンのパッケージ」という意味のようだ。MXテレビ側は、「完パケ」を見ることすらしていなかった。これが、BPOから重大失態とされている。放送してよい内容かどうか、点検(「考査」)しなければならない立場にあったのに、内容を見てもいなかったというのだ。
なぜ、こんな失態が生じたか。ここが最大の問題点だ。メディアの良心がカネの力に屈しているのだ。もっと正確に言えば、カネを持っているスポンサーが、地上波テレビの番組内容を支配する構造が問題なのだ。
MXテレビといえば東京都お抱え局という印象があるが、最近10年で東京都からの広告料収入がトップだったのは、2011年決算期だけ(東京都11.4%、DHC11.0%)。あとは、DHCがダントツである。DHC1社で、全広告収入の20%を超える年もあるのだ(2013年決算では21.8%、2015年決算では21.0%)。このスポンサーのカネの力には逆らえないというメディアの体質をどう変えるか。メディアの報道内容の資本からの自由や、メディアの良心を制度的にどう保障するのか。そこがロードスなのだ。なんとか、ここで跳ばなければならない。
目についた、各紙の社説の表題だけを紹介しておきたい。
☆朝日社説(12月16日)
BPO意見書 放送の倫理が問われた
http://www.asahi.com/articles/DA3S13275732.html?ref=editorial_backnumber
☆東京新聞社説(12月16日)
沖縄基地番組 事実は曲げられない
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017121602000155.html
☆毎日社説(12月17日)
MXテレビにBPO意見書 放送業界の大きな汚点だ
https://mainichi.jp/articles/20171217/ddm/005/070/019000c
☆日沖縄タイムス 社説(12月16日)
[BPO倫理違反指摘]番組内容自ら再検証を
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/184877
☆琉球新報 社説(12月17日)
BPO意見書 東京MXは直ちに謝罪を
https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-632204.html
☆神戸新聞社説(12月17日)
BPO意見書/放送への危機感がにじむ
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201702/0009921688.shtml
結局のところ、MXテレビは、大スポンサーであるDHCにものを言えない立場にあった。そのために、DHCが制作したデマとヘイトの低劣番組を一切の検証なしに垂れ流して、メディアとしての信用を失墜したのだ。もしかしたら、他のメディアにも、同様の事情があるのかも知れない。だから、DHC批判につながる、「ニュース女子」批判の見解を堂々と述べることができないのではないか。そんな心配が杞憂であることを望む。
私自身が被告になったDHCスラップ訴訟を通じて見えてきているものは、DHCとその代表者吉田嘉明が、カネの力による民事訴訟の濫発によって、自分への批判を封殺しようとしていることだ。
「ニュース女子問題」と「DHCスラップ訴訟」。カネの力による言論への介入という点では、同根なのだ。デマやヘイトを駆逐しようという良識が、あるいはこの上ない貴重な表現の自由が、カネの横暴に屈するようなことがあってはならない。
(2017年12月19日)
今回の「ニュース女子」問題でのBPO決定にDHCがどう関与しているか。確認しておきたい。
☆DHCの子会社に、「DHCテレビジョン」という番組制作会社がある。旧商号は、「DHCシアター」。DHCのオーナー吉田嘉明が代表取締役会長となっている。
社歴の概要は、以下のとおり。
株式会社DHCテレビジョン/ DHC Television Co.,Ltd.
1995年11月22日 株式会社シアター・テレビジョン設立
2015年1月1日 株式会社DHCシアターに社名変更
2017年4月1日 株式会社DHCテレビジョンに社名変更
代表取締役会長 : 吉田嘉明
☆「東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)」は、2017年1月2日に沖縄の基地反対運動について特集した番組「ニュース女子」を放送した。これは「DHCテレビジョン」(当時は、「DHCシアター」)の持ち込み番組で、スポンサーはDHCであった。
☆この番組に放送倫理上の問題があるとして、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が2017年2月に調査を開始し、同年12月14日に下記の意見書公表に至った。
なお、BPOの放送人権委員会には辛淑玉氏が同番組によって人権を侵害されたとして救済の申立をし審理中だが、まだ結論に至ってない。
☆東京メトロポリタンテレビジョン『ニュース女子』沖縄基地問題の特集に関する意見
2017年12月14日 放送局:東京メトロポリタンテレビジョン
放送倫理検証委員会は、「東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)『ニュース女子』が2017年1月2日に放送した沖縄基地問題の特集を審議してきたが、このたび委員会決定第27号として意見書をまとめ公表した。
当該番組はTOKYO MXが制作に関与していない“持ち込み番組”のため、放送責任のあるTOKYO MXが番組を適正に考査したかどうかを中心に審議した。
委員会は、
(1)抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった、
(2)「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを制作会社に確認しなかった、
(3)「日当」という表現の裏付けの確認をしなかった、
(4)「基地の外の」とのスーパーを放置した、
(5)侮蔑的表現のチェックを怠った、
(6)完パケでの考査を行わなかった、
の6点を挙げ、TOKYO MXの考査が適正に行われたとは言えないと指摘した。そして、複数の放送倫理上の問題が含まれた番組を、適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと判断した。
☆これに対して、TOKYO MXは、次の反省のコメントを発表している。
BPO放送倫理検証委員会決定について
1. 本日、BPO放送倫理検証委員会より、番組「ニュース女子」沖縄基地問題の特集に関し、審議の結果、委員会の判断として、以下の委員会決定が通知されました。
【BPO放送倫理検証委員会 決定内容(概要)】
本件放送には複数の放送倫理上の問題が含まれており、そのような番組を適正な考査を行うことなく放送した点において、TOKYO MXには重大な放送倫理違反があったと委員会は判断する。
2. 上記、BPO放送倫理検証委員会決定に対する当社のコメントは以下の通りです。
本日、BPO放送倫理検証委員会より、当社が本年1月2日に放送した情報バラエティ番組「ニュース女子」沖縄基地問題の特集について、審議の結果、重大な放送倫理違反があったとの意見を受けました。
当社は、本件に関し、審議が開始されて以降、社内の考査体制の見直しを含め、改善に着手しております。改めて、今回の意見を真摯に受け止め、全社を挙げて再発防止に努めてまいります。
☆ところが、DHCテレビジョンには、反省の色がまったく見られない。
朝日の報道では、
「DHCテレビジョン(旧・DHCシアター)」は14日、朝日新聞の取材に対し、「1月に出した見解と相違ございません」と回答した。
1月の見解では「(日当について)断定するものではなく、疑問として投げかけており、表現上問題があったとは考えておりません」「(基地反対派の取材をしないのは不公平との批判について)言い分を聞く必要はないと考えます」「今後も誹謗(ひぼう)中傷に屈すること無く、日本の自由な言論空間を守るため、良質な番組を製作して参ります」などとしていた。
毎日の報道では
DHCテレビジョンは以前から、公式サイトで「数々の犯罪や不法行為を行っている集団を内包し、容認している基地反対派の言い分を(取材で)聞く必要はないと考える」「今後も誹謗(ひぼう)中傷に屈すること無く、日本の自由な言論空間を守るため、良質な番組を製作していく」などの見解を公表。同社は14日の取材に「見解に変わりはない」と答えた。
☆ 最大取引先のDHCに疑義を唱えにくい環境
毎日新聞12月15日朝刊は、東京MXの本件不祥事の原因について、次のとおりの指摘をしている。
沖縄県の米軍基地反対運動を取り上げたバラエティー・情報番組「ニュース女子」に「誤解や偏見をあおる」などの批判が出ている問題で、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会(委員長・川端和治弁護士)が14日公表した、東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)への意見書。BPO検証委の意見書によると、放送前に番組をチェックしたMXの考査担当者は、抗議活動をする側への取材がないことに疑問を全く感じず、内容をインターネットなどで確認しただけ。「反対派の連中」など、からかう表現にも意見をつけなかった。確認したのは制作中の段階のみで、完成品は見なかったという。
MXは検証委が審議入りを決めた2月、番組の「事実関係において捏造、虚偽があったとは認められない」とする見解を発表。検証委の一部委員からは「放送の自律の放棄じゃないか」との声まで上がったという。自社の放送番組審議会の要請を受ける形で、沖縄の基地問題の「報道特別番組」を制作、放送したが、今回の問題について検証する番組を「制作する予定はない」としている。
「ニュース女子」はスポンサーによる持ち込み番組で、しかもDHCはMXの売上額の11.5%(2016年度の有価証券報告書)を占める最大の取引先だ。関係者は「DHCに疑義を唱えにくい環境があるのでは」と指摘する。
民放テレビ局の幹部は「公共の電波を預かる放送責任を自覚してほしい」と語気を強める。7月に「考査部」を設置し、体制強化に努めているというMXだが、今後の再発防止策について、視聴者が納得できる説明をする責務があるはずだ。
☆MXのDHCからの広告収入額と全収入額に占める割合と順位の推移は、以下のとおり。
2009年.3月決算 1,458(百万円)18.4%? 1位
2010年3 月決算 1,044(百万円)13.9%? 1位
2011年3月決算 824(百万円) 11.0%?? 2位(1位は東京都の11.4%)
2012年3 月決算 1,803(百万円)19.2%? 1位
2013年3月決算 2,636(百万円)21.8%? 1位
2014年3月決算 1,592(百万円)12.5%? 1位
2015年3 月決算 3,303(百万円)21.0%? 1位
2016年3 月決算 2,359(百万円)14.3%? 1位
☆12月16日に朝日と東京新聞が、17日には毎日が社説で取り上げた。いずれも、きちんとした内容になっている。読み易く、分かりやすくもある。
☆問題放送を繰り返させないために。
*なによりも、DHCへの批判が必要だ。MXテレビは、曲がりなりにも反省の姿勢を示している。「今回の意見を真摯に受け止め、全社を挙げて再発防止に努めてまいります。」と言っている。しかし、DHCにもDHCテレビにも、反省の色はない。
MXテレビが反省しても、反省しないDHCの持ち込み番組を切ることができるか。大スポンサーの金の力が絡んでいるだけに、容易なことではない。これは、世論の風向き次第だ。
ところで、DHCは、脈絡もなく反日批判、在日批判を始める不思議な会社。
同社の公式ホームページに、「会長メッセージ」が2通掲載されている。下記のURLを開いて、ぜひ多くの人にお読みいただきたい。私(澤藤)も、「反日の徒」とされている模様である。また、恥ずかしげもなく民族差別を公にしている。DHC・吉田嘉明の人格をよく表している。
https://top.dhc.co.jp/company/image/cp/message1.pdf
https://top.dhc.co.jp/company/image/cp/message2.pdf
以下は、その一部である。
本物、偽物、似非ものを語るとき在日の問題は避けて通れません。この場合の在日は広義の意味の在日です。いわゆる三、四代前までに先祖が日本にやってきた帰化人のことです。
そういう意味では、いま日本に驚くほどの数の在日が住んでいます。同じ在日でも日本人になりきって日本のために頑張っている人は何の問題もありません。立派な人たちです。問題なのは日本人として帰化しているのに日本の悪口ばっかり言っていたり、徒党を組んで在日集団を作ろうとしている輩です。いわゆる、似非日本人、なんちやって日本人です。政界(特に民主党)、マスコミ(特に朝日新聞、NHK、TBS)、法曹界(裁判官、弁護士、特に東大出身)、官僚(ほとんど東大出身)、芸能界、スポーツ界には特に多いようです。芸能界やスポーツ界は在日だらけになっていてもさして問題ではありません。
影響力はほとんどないからです。問題は政界、官僚、マスコミ、法曹界です。国民の生活に深刻な影響を与えます。私どもの会社も大企業のー員として多岐にわたる活動から法廷闘争になるときが多々ありますが、裁判官が在日、被告側も在日の時は、提訴したこちら側が100%の敗訴になります。裁判を始める前から結果がわかっているのです。
似非日本人はいりません。母国に帰っていただきましょう。
*DHC批判の手段としては、消費者がDHC商品を買い控えることが一番だ。
消費者運動は、消費生活における商品選択行動を通じて、よりよい社会を作ろうとする。単に、安くて品質性能のよい商品を求めるだけでなく、もっと広く民主主義的な選択を実践する。武器製造業者への牽制、環境の保護、ブラック企業の排除、歴史修正主義加担企業への制裁など…。
DHCがスポンサーとなり、その子会社が作った沖縄差別・民族差別丸出しのこんな放送を許さないためには、制裁のためにDHCの商品を買わなければ良いのだ。化粧品もサプリも、代替商品はいくらでもある。スラップ常習企業でもあるDHCへの制裁を、全国の消費者に呼びかけたい。
(2017年12月17日)
たまたま、BPOの放送倫理検証委員会が、「ニュース女子」の放送に、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表したタイミングで、DHCスラップ2次訴訟の法廷が開かれた。以下に本日の毎日朝刊の記事を引用しておく。
《「対象となったのは1月2日放送の「ニュース女子」。沖縄県の米軍ヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設に対する抗議活動を「過激派デモの武闘派集団」と表現したほか、抗議活動で救急車が止められたなどと伝え、放送後に「事実関係が誤っている」と批判が出ていた。検証委は2月に審議入りを決めた。
「ニュース女子」は、スポンサーの化粧品会社「DHC」が番組枠を買い取り、子会社の制作会社「DHCシアター」(現DHCテレビジョン)などが制作した番組を放送してもらう「持ち込み番組」。意見書では、検証委が沖縄で現地調査し、救急車の運行妨害などの放送内容に十分な裏付けがないと指摘。取材の有無の確認や侮蔑的表現の修正を求めるべきだったとした。
意見書は、放送前の考査を「放送倫理を順守する上での“最後のとりで”」とし、「とりでは崩れた。修復を急がなければならない」と厳しく批判した。
MXは「今回の意見を真摯(しんし)に受け止め、全社を挙げて再発防止に努める」とのコメントを出した。
DHCテレビジョンは以前から、公式サイトで「数々の犯罪や不法行為を行っている集団を内包し、容認している基地反対派の言い分を(取材で)聞く必要はないと考える」「今後も誹謗(ひぼう)中傷に屈すること無く、日本の自由な言論空間を守るため、良質な番組を製作していく」などの見解を公表。同社は14日の取材に「見解に変わりはない」と答えた。》
このDHCの反社会的な姿勢には、国民的な糾弾が必要ではないか。このようなメディアの存在は、民主主義の土台を掘り崩しかねない。
本日の法廷での、光前弁護団長の反訴状の要旨陳述と、私の意見陳述は以下のとおり。この訴訟、十分に勝てそうな気がする。そして、閉廷後報告集会での木嶋弁護士の報告も、私たちにとって力強いものだった。
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平成29年(ワ)第30018号事件(本訴)
同年(ワ)第38149号事件(反訴)
反訴状の要旨
東京地方裁判所民事1部 御中
本訴被告・反訴原告 代理人弁護士 光 前 幸 一 他
第1 本訴訟の意義
本件は、政治資金規正法が国民に「不断の監視と批判」を求めている事項に関する言論を、裁判という手段で封じ込めることの是非を問うものです。おそらく、この裁判は、わが国において、一般市民の公共的言論に対する、経済的強者や権力者による裁判利用の限界、というテーマの司法判断において、エポックメーキングとなる筈です。
第2 請求原因
1 本件の概要
本件は、反訴被告らが、名誉毀損訴訟という手段で、公共事項に関する反訴原告の論評を抑圧しようとしたという事案です。すなわち、反訴被告吉田は、みんなの党の代表者であった渡辺喜美衆議院議員の政治姿勢を批判するため、週刊誌に、渡辺代議士に8億円を貸付けたがその一部が返済されていないという事実を公表したところ、反訴原告は、政治家へのこのような巨額貸付は、自己の利益のために政治をカネで買う行為であって許されないとの批判・論評を自己のブログに掲載しました。すると、反訴被告らは、反訴原告の批判・論評は名誉毀損であるとしてブログからの削除や総額2000万円の損害賠償を求め、反訴原告がこのような名誉毀損訴訟は「スラップ訴訟」として許されないと反論するや、さらに、この反論も名誉毀損だとして、賠償額を総額6000万円にまで増額したというものです。
2 本件における反訴被告らの責任原因
ア 勝訴の見込みへの熟慮を欠いた訴訟提起の禁止
憲法32条が保障する裁判を受ける権利とても、濫用はゆるされません。問題はいかなるときに濫用となるかですが、最高裁は、昭和63年1月23日の判決で、勝訴可能性についての熟慮を欠いた訴訟提起による敗訴を、裁判濫用の1つの指標としています。
イ 不当な目的での裁判利用の禁止
勝訴の可能性についての熟慮を欠いた訴訟提起は、勝訴以外の、他の目的での訴訟提起の意図を推認させます。そして、裁判の他目的利用は、その目的如何によっては、裁判濫用の典型的ケースとなります。
また、確認訴訟に即時確定の利益が求められているのと同様、名誉毀損訴訟の場合も、裁判まで起こして権利を回復するに足りるだけの紛争としての成熟性をもつものか、すなわち、事前交渉での解決の可能性を検討した上での提訴か否かが、裁判の目的を推し量る重要な要素となります。名誉毀損事件において通常行われる事前折衝を欠いた訴訟提起は、訴訟の目的が、権利の回復以外にあることを窺わせるものです。
ウ 裁判という手段による公正な論評の抑圧禁止
さらに、国民の主権利益に直結する公共性の強い言動に対する批判や論評を裁判で抑制しようする場合、論評の正当性(または違法性)をどちらの当事者に立証させるべきかという問題があります。民主主義社会における言論の自由の重要性を踏まえれば、公共性の高い事項の論評については、抑制しようとする側が、論評の違法性を立証できない限り、これを裁判では抑制できないという法理の存在を確認すべきです。
すなわち、民主主義の根幹をなす、高度に公共的な事項に関する公正な論評への裁判権の行使は、本来、抑制的でなければならず、これを無視した訴訟提起は、当該論評が違法であることを立証できない限り、「スラップ訴訟」として違法になると考えるべきです。
3 反訴被告らの違法行為、責任
ア 勝訴の見込みへの熟慮を欠いた訴訟提起
一般の読者が、反訴原告のブログを普通の注意力をもって読めば、これが、週刊誌に公表された渡辺代議士への8億円の貸付という行為の評価・論評、及び、反訴被告らの訴訟提起に関する評価・論評あると理解することは明らかです。このブログが、政治資金規正法の重要性と問題点を分かり易く解説し、政治家とカネについての監視と批判を怠ってはならないこと、この監視と批判を抑圧しようとする行為に屈してはならないことへの呼びかけを意図していることも容易に理解できるものです。このような意見表明が正当な論評となることは、わが国の判例法理においても既に確立しています。それにもかかわらず、反訴被告らは、勝訴についての十分な検討をしないまま、総額6000万円もの損害賠償請求訴訟を起こし、一審、控訴審、最高裁と敗け続けました。
イ 不当な目的での訴訟提起
反訴被告吉田が、週刊誌に渡辺代議士への資金貸付を公表するや、同被告の言動を批判する論者が多数現われ、反訴被告らは、反訴原告が知るだけでも、10件の名誉毀損訴訟をほぼ同時に提起しています。しかも、その提訴は、何の事前交渉もないまま、週刊誌が発売されてから、ほぼ3週間程度の期間内に実行されています。そして、その殆どが、敗訴判決と仄聞しています。これらの事実は、反訴被告らが勝訴の可能性を熟慮しないまま、勝訴以外の他の目的、すなわち、自己の言動を批判する言論は一切許さないという不当な目的で訴訟提起したことを十分に裏付けるものです。
反訴被告吉田が、自社のウェブに掲載した平成28年2月21日付「スラップ訴訟云々に関して」と題する記事(乙9の2)には、次の記載があります。
「渡辺騒動の後、澤藤被告を始め数十名の反日の徒により、小生および会社に対する事実無根の誹謗中傷をインターネットに書き散らかされました。当社の顧問弁護士等とともに、どのケースなら確実に勝訴の見込みがあるかを慎重に熟慮、検討した上で、特に悪辣な十件ほどを選んで提訴したものです。専門の顧問弁護士が確実に勝てると思って行ったことです。やみくもに誰も彼もと提訴したわけではありません」。
この記事は、反訴原告に対する訴訟が、東京高裁でも敗訴となった直後に公表されたものです。この記事を読むと、反訴被告吉田も、裁判の濫用の何たるかを十分に認識していることを窺わせますが、しかし、その弁解は、弁護士に責任転嫁した、およそ、信じがたいものです。
反訴被告吉田は、別の記事(乙9の1)で、「私どもの会社も大企業の一員として多岐にわたる活動から法廷闘争となるときがありますが、裁判官が在日、被告側も在日のときはこちら側が100%の敗訴になります」と陳弁しているので、10件の関連訴訟の多数の敗訴という結果についても、同様な弁解を繰り返すのかもしれませんが、まともに取り上げる人はいないでしょう。
ウ 公正な論評の抑圧
反訴被告らの訴訟提起は、国民の主権利益に直結する事項に関する反訴原告の公益目的の論評(それは、政治資金規正法が国民に求めているものでもある)を、裁判という手段により抑制しようとしたものですが、反訴被告は、反訴原告の論評が違法であることを立証できていません。反訴被告らの訴訟提起は、反訴原告の公共性の極めて高い公正な論評を侵害、抑圧するスラップ訴訟として違法なものです。
4 反訴原告の損害
反訴被告らの訴訟提起、その後の請求額増額による応訴の負担は、経済的にも、精神的にも甚大でした。弁護士である反訴原告は、反訴被告の言論抑圧に屈してはならないという職業的使命から、反訴被告らの訴訟提起の問題性を、ブログに公表しましたが、反訴被告らは、これに対しても、請求額を6000万円にまで増加して、ブログの差止めを求めてきました。このような反訴被告らの裁判権行使の有りさまは、反訴原告のブログ(乙7)にあるとおり、石流れて木の葉が沈むに等しいもので、これによる反訴原告の損害は、家族ともども限界を超えるものでした。本裁判では、その損害の一部である金660万円の賠償を請求しています。
以上
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反訴原告本人として、澤藤から意見を陳述いたします。
3年前の5月。思いがけなくも、私自身を被告とする典型的なスラップ訴訟の訴状送達を受けました。原告はDHC・吉田嘉明。請求金額は2000万円。屈辱的な謝罪文の要求さえ付されていました。この上なく不愉快極まる体験。こんな訴訟を提起する人物か存在することにも、こんな訴訟を受任する弁護士が存在することにも、腹立たしい思いを禁じえません。
この請求額は、3か月後の同年8月に6000万円に跳ね上がりました。経過から見て明らかに、DHC・吉田は、高額な損害賠償訴訟の提起という手段をもって、私に「黙れ」「口を慎め」と恫喝したのです。
私の怒りの半ばは私憤です。私自身の憲法上の権利を侵害し言論による批判を封じようというDHC・吉田に対する個人としての怒り。しかし、半ばは公憤でもありました。訴訟に精通している弁護士の私でさえ、自分自身が被告となれば戸惑わざるを得ません。応訴には、たいへんな負担がかかることになります。
訴訟とは無縁に生活している一般市民が、私のようなスラップの提訴を受けた場合には、いかばかりの打撃を受けることになるか。このような負担を回避しようという心理が、言論の萎縮を招くことになります。結局は強者が提起するスラップが効果を発揮することで、この社会の不正を糾弾する言論が衰微することにならざるを得ません。私は、「けっしてスラップに成功体験をさせてはならない」と決意しました。
公憤としての私の怒りや不快の根拠は、私が考える訴訟制度や弁護士のあるべき姿とはおよそかけ離れた訴訟が提起されたことにあります。言うまでもなく、訴訟本来の使命は、権利侵害の回復にあります。法がなければ弱肉強食の社会、法がなければ強者が弱者の権利を蹂躙します。法がなければ、権利を侵害された弱者は泣き寝入りを強いられるばかり。法あればこそ、弱者も強者と対等の秩序が形成され、弱者の権利侵害を救済することが可能となります。その権利侵害を回復する手続として民事訴訟制度があり、裁判所があって法曹の役割があるはずではありませんか。
DHC・吉田の私に対する提訴は、この訴訟本来の姿とは、まったくかけ離れたものと言うほかはありません。権利救済のための提訴ではなく、市民の言論を妨害するための民事訴訟の提起。これこそがスラップなのです。
侵害された権利の回復を目的とせず、別の目的を以てする提訴は、必ず社会的経済的な強者によって起こされます。彼らには、訴訟追行に要する費用負担というハードルがないからです。勝訴の見通しがなくとも、提訴自体によって威嚇効果を見込めるのなら、費用を度外視した訴訟提起が可能なのです。これが濫訴を可能とする背景事情です。
DHC・吉田は私にスラップ訴訟を提起し、最高裁まで争って敗訴確定となりました。しかし、敗訴しただけでなんの制裁も受けていません。もともと勝訴の見込みのない訴訟を提起して敗訴したというだけのこと。提訴の目的であった、批判の言論を封じ込めようとする狙いに関しては、敗訴になっても達成していると言わねばなりません。いわば、やり得になっているのです。
一方私は、スラップ訴訟による攻撃を訴訟手続においては防御しました。しかし、応訴にかけた費用も手間暇も回復できていません。「DHC・吉田を批判すると、スラップをかけられる」という社会的な言論萎縮効果も払拭されていません。
このような不公正の事態を放置したのでは、経済的強者によるスラップは横行し、言論は萎縮することにならざるを得ません。本件の反訴請求は、そのような民事訴訟本来の制度の趣旨を逸脱したスラップを許容するのかどうかの分水嶺となる訴訟であることをご認識いただきたいのです。
裁判官の皆様にお願いします。まずは、スラップ訴訟においてDHC・吉田が違法と主張した私の5本のブログをよくお読みいただきたいのです。ぜひとも、細切れにせず全体をお読みください。その上で、この内容の言論を、「名誉毀損訴訟を提起されてもやむをえないものと考えるのか」。それとも、「こんな程度の言論を提訴して損害賠償請求の対象とすべきではない」と考えるのか、ご自分の憲法感覚に問うていただきたいのです。
通常の判断能力の持ち主であれば、DHC・吉田のスラップ訴訟の提起に、勝訴の見込みが皆無であることは、よく分かっていたはずなのです。それでも、あえて高額訴訟を提起したのは、自分に対する批判の言論を封じ込めようとする狙いをもってしたということ以外にはあり得ません。しかも、私が恫喝に屈せず、提訴自体批判し始めたら、4000万円の請求拡張です。ぜひとも、4000万円の請求拡張の根拠とされた2本のブログを吟味願います。自分に対しての批判を嫌っての請求の拡張以外にあり得ないことがよくお分かりいただけるものと思います。
そして、お考えいただきたいのです。もし仮に、本件スラップの提訴が違法ではないとされるとしたら、吉田嘉明を模倣した、本件のごときスラップ訴訟が濫発される事態を招くことになるでしょう。社会的な強者が自分に対する批判を嫌っての濫訴が横行するそのとき、市民の言論は萎縮し、権力者や経済的強者への断固たる批判の言論は、後退を余儀なくされることにならざるをえません。この社会の言論は衰微し、およそ政治批判の言論は成り立たなくなります。そのことは、権力と経済力が社会を恣に支配することを意味します。言論の自由と、言論の自由に支えられた民主主義政治の危機というほかはありません。スラップに成功体験をさせてはならないのです。
憲法理念に則った訴訟の進行と判決とを期待いたします。
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閉廷後の報告集会は、東京弁護士会の会議室で行われた。木島日出夫弁護士からの報告レジメを掲載する。
当日の木嶋弁護士報告レジメは、以下のとおり。
長野県伊那市細ヶ谷地区・太陽光発電スラップ訴訟報告メモ
2017.12.15 弁護士 木嶋日出夫
1 スラップ訴訟(恫喝訴訟)の提起から判決まで
?2014年2月25日 原告株式会社片桐建設が、被告土生田勝正に対し、6000万円の損害賠償請求訴訟を長野地裁伊那支部に提起。
提訴理由は、被告が科学的根拠のないデマで原告会社の名誉を毀損し、A地区に太陽光発電設備設置を断念させたというもの。その損害は2億4969万円と主張。
?2014年8月4日 被告は、原告会社に対し200万円の損害賠償請求反訴を提起。本訴提起が、被告に対する不法行為(スラップ訴訟)であると主張。要件が狭すぎることは承知の上で、昭和63年1月26日付最高裁判決の論理に拠った。
?2015年10月28日 判決。本訴請求を棄却。反訴請求のうち損害賠償50万円を容認。(判例時報平成28年6月11日2291号)原・被告とも控訴せず、判決は確定。
2 判決の要旨(反訴請求について)
?住民説明会において、住民が科学的根拠なくその危惧する影響や危険性について意見を述べ又はこれに基づく質問をすることは一般的なことであり、通常は、このことを問題視することはない。
?このような住民の反対運動に不当性を見出すことはない。
?少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得た。
?A区画への設置の取り止めは、住民との合意を目指す中で原告が自ら見直した部分であったにもかかわらず、これを被告の行為により被った損害として計上することは不合理であり、これを基にして一個人に対して多額の請求をしていることに鑑みると、原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたい。
?本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く。
3 スラップ訴訟を抑止するために?本件判決の意義と問題点?
?最高裁判決の論理にとどまっていては、スラップ訴訟を抑止することは困難
判例時報の評釈でも指摘されているが「もっとも、その発言が、誹謗中傷など不適切な内容であったり、平穏でない態様でされた場合などには違法性を帯びるとの規範を示した」とされていることは、見逃せない問題である。
どこまでが違法性を帯び、どこまでが違法性がないといえるのか、本判決は、なんらの具体的基準を示していない。
本件事案は、その必要性がないほど、被告の行為や発言内容に違法性が認められなかったのであるが、この判決の射程は必ずしも明らかではない。
?反訴請求で認められた慰謝料50万円では、抑止力としてはきわめて不十分
反訴請求で認容される損害額は、経済力を持った企業や行政に対し、スラップ訴訟の提起を抑止させるほどの金額にならない。本件でも、原告会社は控訴せず、すぐに「損害」全額の支払いをしてきた。
本件判決は、地元のマスコミが報道し、建設業界の業界誌でも紹介されるなど、社会的に一定の広がりを見せた。地元伊那市において、太陽光発電設備についてガイドラインを施行し、緩やかな「規制」を始めた。しかし被告会社に真摯な反省は見られない。
?スラップ訴訟の提起を抑止するには、新しい法的枠組みが必要(2016年1月消費者法ニュース106号)
以上
私(澤藤)自身が被告とされた「DHCスラップ訴訟」。今、「DHCスラップ第2次訴訟」となり、これに反訴(反撃訴訟)で反撃している。
その事実上の第1回口頭弁論期日が12月15日(金)。どなたでも、なんの手続も必要なく、傍聴できます。ぜひ、多数の方の傍聴をお願いいたします。
13時30分 東京地裁415号法廷・東京地裁4階(民事第1部)
反撃訴訟訴状(反訴状)の陳述
光前弁護団長が反訴の要旨を口頭陳述
澤藤が反訴原告本人として意見陳述
閉廷後の報告集会を東京弁護士会504号室(5階)で行います。
報告集会では、木嶋日出夫弁護士(長野弁護士会)から、「伊那太陽光発電スラップ訴訟」での勝訴判決(長野地裁伊那支部2015年10月26日判決)の教訓についてご報告いただきます。
同判決は、「判例時報」2291号(2016年6月11日発行)に、「事業者の、反対住民に対する損害賠償請求本訴の提起が、いわゆるスラップ訴訟にあたり違法とされた事例」と紹介されているものです。
「DHCスラップ2次訴訟」に当て嵌めれば、「DHC・吉田の澤藤に対する損害賠償請求訴訟の提起が、いわゆるスラップ訴訟にあたり違法とされた事例」ということになります。
同日閉廷後 14時?15時30分 報告集会
東京弁護士会504号室(5階)
光前弁護団長から、訴状(本訴・反訴)の解説。
木嶋日出夫弁護士 伊那太陽光発電スラップ訴訟勝利報告
澤藤(反訴原告本人)挨拶
☆伊那太陽光発電スラップ訴訟概要
(長野地裁伊那支部・2015(平成27)年10月28日判決)
原告(反訴被告)株式会社片桐建設
被告(反訴原告)土生田さん
被告(反訴原告)代理人弁護士 木嶋日出夫さん
本訴請求額 6000万円 判決は請求棄却
反訴請求額 200万円 判決は50万円認容
双方控訴なく確定
☆木嶋日出夫弁護士紹介
1969年 司法研修所入所(23期・澤藤と同期)
1971年 司法研修所卒業 弁護士登録(長野県、旧林百郎事務所)
1974年 自由法曹団長野県支部事務局長
1976年 日本弁護士連合会公害対策委員
1979年 長野県弁護士会副会長
1990年 第39回衆院選当選(日本共産党公認・旧長野3区・1期目)
1996年 第41回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・2期目)
2000年 第42回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・3期目)
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当日法廷での私(澤藤)の意見陳述の要旨は、今のところ、以下のとおりとなる予定。但し、いかにも長すぎる。当日調整の要あり。
「弁護士の澤藤です。弁護士ですが、本件では訴訟代理人ではなく、本訴被告・反訴原告の立場にあります。
3年前の5月。思いがけなくも、私自身を被告とする典型的なスラップ訴訟の訴状送達を受けました。原告はDHC・吉田嘉明。請求金額は2000万円。交通事故死亡慰謝料にも匹敵する金額です。屈辱的な謝罪文の要求さえ付されていました。この上なく不愉快極まる体験。こんな訴訟を提起する人物か存在することにも、こんな訴訟を受任する弁護士が存在することにも、腹立たしい思いを禁じえません。
しかも、この請求額は、同年8月に3倍の6000万円となりました。一家の支柱が交通事故死した場合の慰謝料も3000万円には達しません。その2倍を超える金額の請求。明らかにDHC・吉田は、高額な損害賠償訴訟の提起という手段をもって、私に「黙れ」「口を慎め」と恫喝したのです。
私の怒りの半ばは私憤です。私自身の憲法上の権利を侵害し言論による批判を封じようというDHC・吉田に対する個人としての怒りです。しかし、半ばは公憤でもありました。訴訟に精通している弁護士の私でさえ、自分自身が被告となれば戸惑わざるを得ません。応訴には、たいへんな負担がかかることになります。訴訟とは無縁に生活している一般の方が、私のようなスラップの提訴を受けた場合には、いかばかりの打撃になるか。このような負担を回避しようという心理が、言論の萎縮を招くことになります。結局は強者が提起するスラップが効果を発揮することで、この社会の不正を糾弾する言論が衰微することにならざるを得ません。
私は、スラップに成功体験を与えてはならない、と決意しました。
公憤としての私の怒りや不快の根拠は、私が考える訴訟制度や弁護士のあるべき姿とはおよそかけ離れた訴訟が提起されたことにあります。言うまでもなく、訴訟本来の使命は、権利侵害の回復にあります。この社会は、法がなければ弱肉強食が習い。強者が弱者の権利を蹂躙します。法がなければ、権利を侵害された弱者は泣き寝入りを強いられるばかり。法あればこそ、弱者も対等となる社会秩序が形成され、弱者の権利侵害を救済することが可能となります。その権利侵害を回復する手続として民事訴訟制度があり、裁判所があって法曹の役割があるはずではありませんか。
ですから、裁判制度本来のユーザーは社会的な弱者であると私は考えて参りました。労働事件・消費者事件・行政訴訟・国家賠償・医療過誤・公害事件・戦後補償訴訟・あらゆる差別是正事件…、すべて弱者が泣き寝入りを強いられることのないように権利侵害回復の場となってこそ、司法と司法に携わる者本来の使命が果たされることになります。民事訴訟における平等原則は、けっして形式的平等であってはならず、その当事者の社会的力量の格差に十分な配慮をした実質的平等でなくてはなりません。形式的平等とは、実は著しい不公正にほかならないのですから。
名誉毀損訴訟においても事情は同様です。政治的・社会的強者は、提訴せずとも名誉毀損の言論に対する対抗言論の手段を持っています。社会的弱者の側にある者は、そのような手段を持ちません。だから、司法は社会的弱者の側にこそ開かれていなければならならず、政治的・社会的強者に対する関係でハードルを下げる必要はないのです。
ところが、侵害された権利の回復を目的とせず、別の目的を以てする提訴は、必ず社会的経済的な強者によって起こされます。彼らには、訴訟追行に要する費用負担というハードルがないからです。勝訴の見通しがなくとも、提訴自体によって威嚇効果を見込めるのなら、費用を度外視して訴訟提起が可能なのです。これが濫訴を可能とする背景事情です。
DHC・吉田は私にスラップ訴訟を提起し、最高裁まで争って敗訴確定となりました。しかし、敗訴しただけでなんの制裁も受けていません。もともと勝訴の見込みのない訴訟を提起して敗訴したというだけのこと。提訴の目的であった、批判の言論を封じ込めようとする狙いに関しては、敗訴になっても達成していると言わねばなりません。いわば、やり得になっているのです。
一方私は、スラップ訴訟による攻撃を訴訟手続においては防御しました。しかし、応訴にかけた費用も手間暇も回復できていません。「DHC・吉田を批判すると、スラップをかけられる」という社会的な言論萎縮効果も払拭されていません。
このような不公正の事態を放置したのでは、経済的強者によるスラップは横行し、言論は萎縮することにならざるを得ません。本件の反訴請求は、そのような民事訴訟本来の制度の趣旨を逸脱したスラップを許容するのかどうかの分水嶺となる訴訟であることをご認識いただきたいのです。
本件の訴訟の構造は、先に訴訟代理人の光前弁護士に述べていただいたとおりです。形の上では、1988年1月の最高裁判決の枠組みに則った主張と挙証を重ねていくことになります。しかし実は、問題の本質、あるいは実質的な判断基準は、別のところにあるように思われるのです。
まずは、先行する本件スラップ訴訟においてDHC・吉田が違法と主張した私の5本のブログをよくお読みいただきたいのです。ぜひとも、細切れにせず全体をお読みください。その上で、この内容の言論を、名誉毀損訴訟を提起されてもやむをえないものと考えるのか、それとも、こんな程度の言論を提訴して損害賠償請求の対象とすべきではないと考えるのか、憲法感覚が問われる問題だと思うのです。
憲法が言論の自由を特に重要な基本権とし、その保障を高く掲げたのは、誰の権利も侵害しない、「当たり障りのない言論」を自由だと認めたのではありません。敢えて言えば、当たり障りのある言論、つまりは誰かの評価を貶め、誰かの権利を侵害する言論であっても、社会的な有用な言論について、自由であり権利であると保障することに意味があるのです。
弱者を貶めて強者に迎合する言論を権利として保障する意味はありません。言論の自由とは、本来的に権力者や社会的強者を批判する自由として意味のあるものと言わざるを得ません。私のブログにおける表現は、反訴被告吉田嘉明らを批判するもので、吉田嘉明らの社会的評価の低下をきたすものであることは当然として、それでも憲法上の権利の保障が認めらなければなりません。
実質的な判断の決め手となるべきものは、憲法21条の重視のほかには、以下の各点だろうと思われるのです。第1点が言論のテーマ、第2点が批判された人物の属性、第3点が本件では、私が論評の根拠とした事実の真実性が余りに明らかであること。そして第4点が提訴後の4000万円の請求の拡張です。
その第1点は、私のブログでの各記述が政治とカネにまつわる、典型的な政治的言論であることです。
私は、反訴被告吉田嘉明が、政治資金規正法の理念に反して自分の意を体して活動してくれると期待した政治家に、不透明な巨額の政治資金を「裏金」として提供していたことを批判したのです。このような政治的批判の言論の保障は特に重要で、けっして封殺されてはなりません。
第2点は、本件ブログの各記述の批判対象者となった反訴被告吉田嘉明の「公人性」がきわめて高いことです。その経済的地位、国民の健康に関わる健康食品や化粧品販売企業のオーナーとしての地位、労働厚生行政や消費者行政に服すべき地位にあるというだけではありません。政治家に巨額の政治資金を提供することで政治と関わったその瞬間において、残っていた私人性をかなぐり捨てて、高度の公人としての地位を獲得したというべきです。このときから強い批判を甘受すべき地位に立ったのです。しかも、吉田は自ら週刊誌の誌上で巨額の政治資金を特定政治家に提供していたことを暴露しているのです。金額は8億円という巨額、政治資金規正法が求めている透明性のない「裏金」です。反訴被告吉田嘉明が批判を甘受すべき程度は、この上なく高いといわざるを得ません。
そして第3点が、本件ブログの各記述は、いずれも反訴被告吉田自身が公表した手記の記載を根拠として推認し意見を述べているものであって、意見ないし論評が前提として依拠している事実の真実性については、ほとんど問題となる余地がなかったことです。加えて、本件ブログの各記述は、いずれも前提事実からの推認の過程が、きわめて明白であり、かつ常識的なものであることです。
反訴被告吉田はその手記において、行政規制を不当な桎梏と感じていることを表明しています。企業とは、何よりも利潤追求のための組織です。企業経営者が、行政の対企業規制に明確な不満を述べて、規制緩和を標榜する政治家に政治資金を提供したら、これはもう、規制緩和を推進することによる利潤の拡大を動機とするものと相場が決まっています。
このような常識的な推論に、立証を求められる筋合いはありません。まさしく、推論を意見として述べることが政治的言論の自由保障の真髄と言うべきで、反訴被告吉田は、対抗言論をもって弁明や反批判をすべきであったのに、判断を誤ってスラップ訴訟の提起をしたのです。
そして、第4点です。私は、弁護士の使命として、口をつぐんではならないと覚悟して、ブログで「DHCスラップ訴訟を許さない」シリーズを書き始めました。途端に、請求が拡張され、6000万円に跳ね上がりました。この経過自体が、本件提訴のスラップ性を雄弁に物語っていると考えています。
つまり、通常の判断能力の持ち主であれば、DHC・吉田のスラップ訴訟の提起に、勝訴の見込みが皆無であることは、よく分かっていたはずなのです。それでも、あえて高額訴訟を提起したのは、自分に対する批判の言論を封じ込めようとする狙いをもってしたということ以外にはあり得ません。しかも、私が恫喝に屈せず、提訴自体批判し始めたら、4000万円の請求拡張です。ぜひとも、4000万円の請求拡張の根拠とされた2本のブログを吟味願います。自分に対しての批判を嫌っての請求の拡張以外にあり得ないことがよくお分かりいただけるものと思います。
明らかに、本件スラップ訴訟の提訴は、違法といわざるを得ません。そして、お考えいただきたいのです。もし仮に、本件スラップの提訴が違法ではないとされるとしたら、吉田嘉明を模倣した、本件のごときスラップ訴訟が濫発される事態を招くことになるでしょう。社会的な強者が自分に対する批判を嫌っての濫訴が横行するそのとき、市民の言論は萎縮し、権力者や経済的強者への断固たる批判の言論は、後退を余儀なくされることにならざるをえません。この社会の言論は衰微し、およそ政治批判の言論は成り立たなくなります。そのことは、権力と経済力が社会を恣に支配することを意味します。言論の自由と、言論の自由に支えられた民主主義政治の危機というほかはありません。スラップに成功体験をさせてはならないのです。
最後に、本件の判断を射程距離に収めると考えられる、憲法21条についての最高裁大法廷判決(昭和61年6月11日・民集40巻4号872頁(北方ジャーナル事件))の一節を引用いたします。
「主権が国民に属する民主制国家は、その構成員である国民がおよそ一切の主義主張等を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としているのであるから、表現の自由、とりわけ、公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならないものであり、憲法21条1項の規定は、その核心においてかかる趣旨を含むものと解される」
この最高裁大法廷判例が説示する「公共的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利」との憲法理念に則った訴訟の進行と判決とを期待いたします。
以上
(2017/12/12)
私(澤藤)自身が被告とされ、反訴で反撃している「DHCスラップ2次訴訟(反撃訴訟)」。事実上の第1回口頭弁論期日は12月15日(金)。どなたでも、なんの手続も必要なく、傍聴できます。ぜひ、多数の方の傍聴をお願いいたします。
13時30分 東京地裁415号法廷・東京地裁庁舎4階(民事第1部)
反撃訴訟訴状(反訴状)の陳述
光前弁護団長が反訴の要旨を口頭陳述
澤藤が反訴原告本人として意見陳述
閉廷後の報告集会を東京弁護士会504号室(5階)で行います。
報告集会では、木嶋日出夫弁護士(長野弁護士会)から、「伊那太陽光発電スラップ訴訟」での勝訴判決(長野地裁伊那支部2015年10月26日判決)の教訓についてご報告いただきます。
同判決は、「判例時報」2291号(2016年6月11日発行)に、「事業者の、反対住民に対する損害賠償請求本訴の提起が、いわゆるスラップ訴訟にあたり違法とされた事例」と紹介されているものです。「DHCスラップ2次訴訟」に当て嵌めれば、「DHC・吉田の澤藤に対する損害賠償請求本訴の提起が、いわゆるスラップ訴訟にあたり違法とされた事例」ということになります。
同日閉廷後 14時?15時30分 報告集会
東京弁護士会504号室(5階)
光前弁護団長から、訴状(本訴・反訴)の解説。
木嶋日出夫弁護士 伊那太陽光発電スラップ訴訟代理人報告と質疑
澤藤(反訴原告本人)挨拶
☆伊那太陽光発電スラップ訴訟概要
(長野地裁伊那支部・2015(平成27)年10月28日判決)
原告(反訴被告)株式会社片桐建設
被告(反訴原告)土生田さん
被告(反訴原告)代理人弁護士 木嶋日出夫さん
本訴請求額 6000万円 判決は請求棄却
反訴請求額 200万円 判決は50万円認容
双方控訴なく確定
☆木嶋日出夫弁護士紹介。
1969年 司法研修所入所(23期・澤藤と同期)
1971年 司法研修所卒業 弁護士登録(長野県、旧林百郎事務所)
1974年 自由法曹団長野県支部事務局長
1976年 日本弁護士連合会公害対策委員
1979年 長野県弁護士会副会長
1990年 第39回衆院選当選(日本共産党公認・旧長野3区・1期目)
1996年 第41回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・2期目)
2000年 第42回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・3期目)
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当日の木嶋弁護士報告レジメは、以下のとおり。
長野県伊那市細ヶ谷地区・太陽光発電スラップ訴訟報告メモ
2017.12.15 弁護士 木嶋日出夫
1 スラップ訴訟(恫喝訴訟)の提起から判決まで
?2014年2月25日 原告株式会社片桐建設が、被告土生田勝正に対し、6000万円の損害賠償請求訴訟を長野地裁伊那支部に提起。
提訴理由は、被告が科学的根拠のないデマで原告会社の名誉を毀損し、A地区に太陽光発電設備設置を断念させたというもの。その損害は2億4969万円と主張。
?2014年8月4日 被告は、原告会社に対し200万円の損害賠償請求反訴を提起。本訴提起が、被告に対する不法行為(スラップ訴訟)であると主張。要件が狭すぎることは承知の上で、昭和63年1月26日付最高裁判決の論理に拠った。
?2015年10月28日 判決。本訴請求を棄却。反訴請求のうち損害賠償50万円を容認。(判例時報平成28年6月11日2291号)原・被告とも控訴せず、判決は確定。
2 判決の要旨(反訴請求について)
?住民説明会において、住民が科学的根拠なくその危惧する影響や危険性について意見を述べ又はこれに基づく質問をすることは一般的なことであり、通常は、このことを問題視することはない。
?このような住民の反対運動に不当性を見出すことはない。
?少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得た。
?A区画への設置の取り止めは、住民との合意を目指す中で原告が自ら見直した部分であったにもかかわらず、これを被告の行為により被った損害として計上することは不合理であり、これを基にして一個人に対して多額の請求をしていることに鑑みると、原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたい。
?本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く。
3 スラップ訴訟を抑止するために?本件判決の意義と問題点?
?最高裁判決の論理にとどまっていては、スラップ訴訟を抑止することは困難
判例時報の評釈でも指摘されているが「もっとも、その発言が、誹謗中傷など不適切な内容であったり、平穏でない態様でされた場合などには違法性を帯びるとの規範を示した」とされていることは、見逃せない問題である。
どこまでが違法性を帯び、どこまでが違法性がないといえるのか、本判決は、なんらの具体的基準を示していない。
本件事案は、その必要性がないほど、被告の行為や発言内容に違法性が認められなかったのであるが、この判決の射程は必ずしも明らかではない。
?反訴請求で認められた慰謝料50万円では、抑止力としてはきわめて不十分
反訴請求で認容される損害額は、経済力を持った企業や行政に対し、スラップ訴訟の提起を抑止させるほどの金額にならない。本件でも、原告会社は控訴せず、すぐに「損害」全額の支払いをしてきた。
本件判決は、地元のマスコミが報道し、建設業界の業界誌でも紹介されるなど、社会的に一定の広がりを見せた。地元伊那市において、太陽光発電設備についてガイドラインを施行し、緩やかな「規制」を始めた。しかし被告会社に真摯な反省は見られない。
?スラップ訴訟の提起を抑止するには、新しい法的枠組みが必要(2016年1月消費者法ニュース106号)
以上
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※木嶋弁護士レジメのとおり、この判決は「昭和63年1月26日付最高裁判決」の論理に拠って、判断し「本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」から違法と結論した。
その結論に至る判断の過程で、
「少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得たといえる」
「(不合理な損害を計上して)一個人に対して多額の請求をしていることに鑑みると、原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたいところである」
「以上のことからすると、原告は、通常人であれば容易にその主張に根拠のないことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したものといえ、本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる」との判示が注目される。
これらの点が、DHCスラップ2次訴訟(反撃訴訟)に生かせる。
※また、木嶋弁護士レジメが、「本件判決は、地元のマスコミが報道し、建設業界の業界誌でも紹介されるなど、社会的に一定の広がりを見せた。地元伊那市において、太陽光発電設備についてガイドラインを施行し、緩やかな「規制」を始めた。しかし被告会社に真摯な反省は見られない。」と言っているのが注目される。
スラップ訴訟を提起した片桐建設は、訴状において、「企業イメージの悪化が直ちに、住宅建設の売り上げ悪化につながる」と主張している。被告の発言によって、「企業イメージが悪化し、営業損害もこうむったというのである。
しかし、スラップ訴訟提起の結果、片桐建設の企業イメージは、「スラップ企業」として有名になって大きく傷ついた。このことが教訓だと思う。
DHCについても、「スラップ常習企業」として、多くの人の批判と非難による社会的制裁が必要であり重要なのだ。
(2017年12月9日)
一昨日(11月22日)東京高裁第11民事部(野山宏裁判長)が名誉毀損訴訟で注目すべき判決を言い渡した。私は判決書きを入手していないので、複数報道を読む限りでのことだが、判決中の説示とされているものが裁判官の心証をよく表している。この判決はスラップの提訴を違法と言うに紙一重だ。あるいは、スラップ違法にもう一歩、という印象なのだ。
訴訟の内容は、週刊文春の記事によって名誉を毀損されたとするイオンが提起した損害賠償等請求事件。一審はイオンの勝訴だったが、控訴審では実質的に逆転判決となった。ここまでを時系列で整理してみる。
☆「週刊文春」2013年10月17日号が、「『中国猛毒米』偽装 イオンの大罪を暴く」とする、記事を掲載。記事は、三重県の卸売会社が中国産米を混ぜた米を国産米と偽装して販売していた問題をめぐって、「イオンが偽装米の納入に関与して、この米を使った弁当やおにぎりなどを販売していた」と報じるもの。この号の広告を新聞やウェブサイトにも掲載した。
☆イオンが、文春記事に対抗する形で、反論の社告や意見広告を掲載。
☆イオンが「週刊文春」発行元の文芸春秋社を被告として、東京地裁に1億6500万円の損害賠償請求訴訟を提起。損害として、信用毀損相当額だけでなく、「文春記事に対する反論の社告や意見広告掲載料」を計上したことで高額請求訴訟となった。また、ウェブサイトの広告掲載の削除も求めた。
☆2016年12月16日 東京地裁一審判決(沢野芳夫裁判長)。
文春に2490万円の支払いと、ウェブ広告の削除を命じた。文芸春秋は即日控訴。
同判決は、「見出しを含めた記事と広告の大部分が真実とは認められず、名誉毀損に当たる」と判断。「社会的信用を失わせた損害として600万円」、「イオンが新聞紙上に社告や意見広告を出すためにかかった広告掲載料の一部約1670万円」も、文芸春秋の不法行為と因果関係を有する名誉回復に必要な損害と認めた。
この判決に対する被告文春側の対メディア・コメントが次のとおり。
「この判決は、大企業が資金力に物を言わせて報道に圧力をかけることを容認するものだ。著しく不当な判決」「イオンの意見広告は、イオンが独自の判断で出したものであり、当社がその費用を負担する理由はない」
☆2017年11月22日? 控訴審判決
判決は、当該記事本文の内容を真実と認定して逆転の判断となった。但し、タイトルについてだけ、「イオンによる猛毒米の販売という誤った印象を抱かせる」と名誉毀損を認めて、110万円の損害賠償と「猛毒』の2文字についてだけの削除を命じた。反論のためイオンが新聞各社に掲載した意見広告費用の賠償については、「言論や表現を萎縮させ、好ましくない」と述べ排斥した。
興味深いのは、NHKが報じた《「記事は真実」 東京高裁 週刊文春の賠償額を大幅減》という次の記事。
「22日の2審の判決で東京高等裁判所の野山宏裁判長は、記事の内容は真実だとして1審の判決を変更したうえで『食品の安全に関して問題を提起する良質の言論で、裁判を起こすことで萎縮させるのではなく、言論の場で論争を深めていくことが望まれる』と指摘しました。」
産経も《「訴訟ではなく言論で対抗を」東京高裁裁判長、異例の言及 名誉毀損、二審は大幅減額 文春のイオン中国産米報道》というタイトルで、判決書中の次の判示を報じている。
「野山宏裁判長は記事本文は真実で『問題提起をする良質の言論』だとして違法性はないと判断。名誉毀損は広告の一部のみに認め、約2490万円の賠償などを命じた1審東京地裁判決を変更、認容額を110万円に大幅減額した。」
「野山裁判長は記事『食品流通大手に価格決定権を握られた納入業者が中国産などの安価な原料に頼り、食の安全にリスクが生じているのではないかと問題提起するもの』と指摘。表現の自由は憲法で保障されており、『訴訟を起こして言論や表現を萎縮させるのではなく、良質の言論で対抗することで論争を深めることが望まれる』とした。」
高裁野山判決が興味を惹くのは、原判決に対する被告(文春)のコメント、「この判決は、大企業が資金力に物を言わせて報道に圧力をかけることを容認する著しく不当な判決」に、向きあった判断をしていることだ。この文春コメントは、イオンの提訴をスラップと評しているに等しい。
この点を野山判決は次のように判示した。
「記事本文は真実で『食品流通大手に価格決定権を握られた納入業者が中国産などの安価な原料に頼り、食の安全にリスクが生じているのではないかと問題提起する良質の言論』と評価し」たうえ、これを憲法で保障された表現の自由の範疇の言論ととらえて、『訴訟を起こして言論や表現を萎縮させるのではなく、良質の言論で対抗することで論争を深めることが望まれる』」
形の上では、イオン側の一部勝訴だから、提訴の全部をスラップとは言い難い。それでもなお、東京高裁の判決が、「訴訟を起こして言論や表現を萎縮させるのではなく、良質の言論で対抗せよ」と言ったことの意味は重い。
判決は、敢えて「訴訟を起こして言論や表現を萎縮させる」という言葉を用いている。「訴訟を起こして言論や表現を萎縮させる」ことこそ、スラップの意図であり効果にほかならない。資力において対抗言論を行使し得ない人はともかく、資力十分な者が言論で批判された場合には、「訴訟を起こして言論や表現を萎縮させてはならず、『良質の言論には良質の言論で対抗せよ』」というのだ。これが、表現の自由を保障した社会の真っ当なあり方なのだ。
DHCスラップ訴訟は、この見地から、提訴自身を違法というべきである。私のブログは、まぎれもなく「良質な政治的言論」である。「政治とカネ」「規制緩和と消費者の利益」などについて問題提起をするものであり、DHC・吉田に対する「良質な言論による批判」にあたる。これに対して、条件反射のごとく、スラップ訴訟を提起したのがDHC・吉田であった。東京高裁野村判決は、これをたしなめ、「訴訟を起こして言論や表現を萎縮させてはならない」「良質の言論には良質の言論で対抗せよ」と言っているのだ。これが、訴訟実務の現下の趨勢であることに間違いがない。
DHCスラップ2次訴訟の先行きに、明るい兆しが見えている。憲法21条「表現の自由の保障」の旗は我々の側にある。堂々と訴訟を進行させたいと思う。
言論の自由を大切に思う多くの人たちのご支援を期待している。
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私(澤藤)自身が被告とされているDHCスラップ2次訴訟(反撃訴訟)。事実上の第1回口頭弁論期日は12月15日(金)。ぜひ、多数の方の傍聴をお願いいたします。
閉廷後の報告集会は東京弁護士会504号室(5階)で行います。
報告集会では、木嶋日出夫弁護士(長野弁護士会)に、伊那太陽光発電スラップ訴訟の教訓について、ご報告いただきます。
以下は当日のスケジュールです。
13時30分 東京地裁415号法廷(民事第1部)
反撃訴訟訴状(反訴状)の陳述
光前弁護団長が反訴の要旨を口頭陳述
澤藤が反訴原告本人として意見陳述
閉廷後 14時?16時 報告集会
東京弁護士会504号室(5階)
光前さん・小園さんから、訴状の解説。
木嶋日出夫さん 伊那太陽光発電スラップ訴訟代理人報告と質疑
澤藤(反訴原告本人)挨拶
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伊那太陽光発電スラップ訴訟概要
(長野地裁伊那支部・2015(平成27)年10月28日判決)
原告(反訴被告)片桐建設
被告(反訴原告)土生田さん
被告(反訴原告)代理人 弁護士木嶋日出夫さん
本訴請求額 6000万円 判決は請求棄却
反訴請求額 200万円 判決は50万円認容
双方控訴なく確定
☆長野県伊那市の大規模太陽光発電所の建設計画が反対運動で縮小を余儀なくされたとして、設置会社が住民男性(66)に6000万円の損害賠償を求めた事件。
長野地裁伊那支部・望月千広裁判官は本訴の請求を棄却し、さらに男性が「反対意見を抑え込むための提訴だ」として同社に慰謝料200万円を求めた反訴について、「会社側の提訴は裁判制度に照らして著しく正当性を欠く」と判断し、同社に慰謝料50万円の支払いを命じた。
☆判決は、最高裁判決の論理を前提とし、「(片桐建設の)本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる」「本件訴えの提起が違法な行為である」と判示して慰謝料50万円を認容した。
また、「少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得たといえる」「原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたいところである」との判示が注目される。この点は、DHCスラップ2次訴訟(反撃訴訟)に生かせると考えられる。
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木嶋日出夫弁護士紹介。
1969年 司法研修所入所(23期・澤藤と同期)
1971年 司法研修所卒業 弁護士登録(長野県、旧林百郎事務所)
1974年 自由法曹団長野県支部事務局長
1976年 日本弁護士連合会公害対策委員
1979年 長野県弁護士会副会長
1990年 第39回衆院選当選(日本共産党公認・旧長野3区・1期目)
1996年 第41回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・2期目)
2000年 第42回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・3期目)
(2017年11月24 日・連日更新第1699 回)
DHCスラップ2次訴訟(反撃訴訟)の口頭弁論期日は12月15日(金)。ぜひ、多数の方の傍聴をお願いいたします。
閉廷後の報告集会の場所が決まりました。東京弁護士会504号室(5階)です。
報告集会では、木嶋日出夫さん(長野弁護士会)に、伊那太陽光発電スラップ訴訟の教訓について、ご報告いただきます。
以下は当日のスケジュールです。
13時30分 東京地裁415号法廷(民事第1部)
反撃訴訟訴状(反訴状)の陳述
光前弁護団長が反訴の要旨を口頭陳述
澤藤が反訴原告本人として意見陳述
閉廷後 14時?16時 報告集会
東京弁護士会504号室(5階)
光前さん・小園さんから、訴状の解説。
木嶋日出夫さん 伊那太陽光発電スラップ訴訟代理人報告と質疑
澤藤(反訴原告本人)挨拶
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伊那太陽光発電スラップ訴訟概要
(長野地裁伊那支部・2015(平成27)年10月28日判決)
原告(反訴被告)片桐建設
被告(反訴原告)土生田さん
被告(反訴原告)代理人 弁護士木嶋日出夫さん
本訴請求額 6000万円 請求棄却
反訴請求額 200万円 50万円認容
双方控訴なく確定
☆長野県伊那市の大規模太陽光発電所の建設計画が反対運動で縮小を余儀なくされたとして、設置会社が住民男性(66)に6000万円の損害賠償を求めた事件。
長野地裁伊那支部・望月千広裁判官は本訴の請求を棄却し、さらに男性が「反対意見を抑え込むための提訴だ」として同社に慰謝料200万円を求めた反訴について、「会社側の提訴は裁判制度に照らして著しく正当性を欠く」と判断し、同社に慰謝料50万円の支払いを命じた。
☆判決は、最高裁判決の論理を前提とし、「(片桐建設の)本件訴えの提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものと認められる」「本件訴えの提起が違法な行為である」と判示して慰謝料50万円を認容した。
また、「少なくとも、通常人であれば、被告の言動を違法ということができないことを容易に知り得たといえる」「原告において、真に被害回復を図る目的をもって訴えを提起したものとも考えがたいところである」との判示が注目される。
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木嶋日出夫弁護士紹介。
1969年 – 司法研修所入所(23期・澤藤と同期)
1971年 – 司法研修所卒業 弁護士登録(長野県、旧林百郎事務所)
1974年 – 自由法曹団長野県支部事務局長
1976年 – 日本弁護士連合会公害対策委員
1979年 – 長野県弁護士会副会長
1990年 – 第39回衆院選当選(日本共産党公認・旧長野3区・1期目)
1996年 -第41回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・2期目)
2000年 – 第42回衆院選当選(日本共産党公認・長野4区・3期目)
(2017年11月16日)
昨日(11月10日)、DHCスラップ第2次訴訟弁護団は、東京地裁民事第1部に損害賠償請求の反訴状を提出した。平成29年(ワ)第30018号債務不存在確認請求事件(原告DHC及び吉田嘉明・被告澤藤)を本訴とする反訴であるが、これでようやく攻守ところを変えて、私(澤藤)が反訴原告、DHCと吉田嘉明の両名が反訴被告となった。反スラップ訴訟の水準を示す内容の訴状となっている。
この反訴を、とりあえず「DHCスラップ反撃(リベンジ)訴訟」とネーミングしておこう。この反撃の経過をしっかりと公開して、あらゆるスラップ訴訟被害者の参考に供したい。この反訴状は本文20頁、訴状としては簡潔なものとしたが、全文掲載にはやや長文なので、抜粋して紹介する。
請求原因に記載の一連の経過は、DHC・吉田嘉明の前件スラップ提訴が言論の萎縮を狙ったものであることをあらためて浮き彫りにしている。この典型的なDHCスラップに対する反撃訴訟での勝訴は、スラップの抑止に大きな役割を果たすことになる。弁護団の意気込みと力量も十分で、私にも勇気と闘志が湧いてくる。
(2017年11月11日)
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第1 請求の趣旨
1 反訴被告ら(DHCと吉田嘉明)は,反訴原告(澤藤)に対し,連帯して660万円及びこれに対する2014年8月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え
2 訴訟費用は反訴被告らの負担とする
3 仮執行の宣言
第2 請求の原因
1 当事者
(1) 反訴原告
反訴原告は,東京弁護士会に所属する弁護士である。1971年に弁護士登録し,これまで日本民主法律家協会事務局長,日弁連消費者問題対策委員長,東京弁護士会消費者委員長などを務めてきた。
2013年3月からインターネット上に「澤藤統一郎の憲法日記」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し,現在に至るまで1日も欠かすことなく,市民の基本的人権にかかわる様々な社会問題についての意見をブログに掲載している。
(2) 反訴被告ら
反訴被告株式会社ディーエイチシー(以下「反訴被告DHC」という。)は,化粧品の製造販売等を目的とする,資本金33億7729万円の会社であり、反訴被告吉田嘉明(以下「反訴被告吉田」という。)は,反訴被告DHCの代表取締役会長である。
2 反訴被告らによる前訴提起と請求の拡張
(1) 反訴被告吉田の告白事実に対する反訴原告のブログによる批判
反訴原告は、2014年3月27日発売の雑誌「週刊新潮」に掲載された反訴被告吉田の手記(反訴被告吉田が、「みんなの党」の党首であった渡辺喜美衆議院議員(当時。以下「渡辺議員」という。)に密かに8億円余りを貸し付けていたこと等を暴露し、同議員の不明瞭な貸付金使途や変節等を批判するもの。以下「本件手記」という。乙1)や、これに反論した同議員の「ヨッシー日記」と題するウェブサイト上に掲載された同年3月31日付のブログ(乙2)、さらには、同議員の「みんなの党」の党首辞任を取り上げた同年4月8日付の全国紙6社の社説について、本件ウェブサイトに以下の3本のブログ記事を掲載した(乙3の1?3)。
? 2014年3月31日付けの「『DHC・渡辺喜美』事件の本質的批判」と題するもので、反訴被告吉田が渡辺議員に密かに8億円ものカネを貸し付けた行為は、政治を金で買おうとしたものであり、渡辺議員とともに反訴被告吉田の行為も徹底的に批判すべきであるとし、政治資金・選挙資金を透明化する必要性を訴えたもの(乙3の1。以下「本件ブログ1」という。)。
? 同年4月2日付の「『DHC8億円事件』大旦那と幇間 蜜月と破綻」と題するもので、渡辺議員が「ヨッシー日記」に記載した反訴被告吉田からの金銭受領に関する種々の弁明を批判するとともに、政治家とこれを金で操る資本家(スポンサー)との関係を批判したもの(乙3の2。以下「本件ブログ2」という。)。
? 同月8日付の「政治資金の動きはガラス張りでなければならない」と題するもので、渡辺議員が党代表を辞任したことに関する全国紙の各社説が、政治家とそのスポンサーの密かな金のやり取りの問題や、政治資金規正法の不備について論じないことを批判したもの(乙3の3。以下「本件ブログ3」という。)。
(2) 反訴被告らによる訴訟の提起
2014年4月16日、反訴被告らは、別紙訴状を東京地方裁判所に提出して反訴原告に対する訴訟を提起し(乙4)、反訴原告の本件ブログ1ないし3における記述が反訴被告らの名誉を毀損するとして、反訴原告に対し、反訴被告各自に対する1000万円(計2000万円)の支払いと、名誉毀損部分の記述削除、謝罪広告等を求めた(同裁判所平成26年(ワ)第9408号。以下「前件訴訟」という。)。
(3) 前件訴訟に対する反訴原告による批判
反訴原告は、前件訴訟は、反訴被告吉田に対する批判的な言論を封じることを目的とする、いわゆる「スラップ訴訟」であるとして、以下の3本のブログを本件ウェブサイトに掲載した(乙5の1?3)。
? 2014年7月13日付の「いけません 口封じ目的の濫訴ー『DHCスラップ訴訟』を許さない・第1弾」と題するもので、前件訴訟の提訴対象となったブログ1?3の内容を紹介し、民主主義社会における言論の自由、批判の自由の重要性を述べた上で、反訴被告らによる前件訴訟の提起が反訴原告の言論を封殺しようとしたものであると批判したもの(乙5の1。以下「本件ブログ4」という。)。
? 同月14日付の「万国のブロガー団結せよ?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第2弾」と題するもので、市民ブログによる情報発信の今日的意義や重要性を説き、経済的強者が市民の意見表明の委縮させる意図をもって行うスラップ訴訟への反対表明を呼びかけたもの(乙5の2。以下「本件ブログ5」という。)。
? 同月15日付の「「言っちゃった 金で政治を買ってると」?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第3弾」と題するもので、毎日新聞の読者川柳欄に投稿・掲載された「言っちゃった 金で政治を買ってると」という句(乙5の4)や丸山眞男の著述を引用しながら、前件訴訟の本質と、市民の政治的権力が一部の経済的権力によって蹂躙されないための批判の自由の重要性、その批判を封じようとするスラップ訴訟への批判の重要性を述べたもの(乙5の3。以下「本件ブログ6という」。)。
(4) 反訴被告らによるブログによる批判活動中止の要求と請求額の増額
ア 反訴原告の本件ブログ4ないし6について、反訴被告らは、前件訴訟の2014年7月16日付第1準備書面(乙6)において、反訴原告は反訴被告らへの名誉毀損を繰り返し、前件訴訟が不当提訴である旨を一般読者に訴えかけ、反訴被告らの損害を拡大させているとして、反論は裁判で述べれば足りると主張し、本件ブログによる批判の中止を求めた。
イ これに対して反訴原告は、反訴被告らの要求は言論(批判)の自由を封殺するものであるとの意見を前件訴訟において述べるとともに、本件ブログにおける反訴被告らへの批判を継続した。
同年8月8日には「『政治とカネ』その監視と批判は主権者の任務だ?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第15弾」と題するブログ記事を掲載して、改めて政治資金規正法の立法趣旨を説き、反訴原告吉田から渡辺議員に密かに交付された8億円は政治資金でありながら届出がなされない点において「裏金」であり、その授受を規制できないとする解釈は政治資金規正法をザル法に貶めることにほかならないと批判し、さらに、この批判は主権者として期待される働きであり反訴被告らが前件訴訟を提起したのは間違っている、と論じた(乙7。以下「本件ブログ7」という。)。
ウ そうしたところ、反訴被告らは、同年8月29日、別紙訴えの追加的変更申立書を裁判所に提出し、本件ブログ4及び7における記述が反訴被告らの名誉を毀損するなどとして請求の原因を追加するとともに、反訴原告に対する従前の請求額を三倍増し、請求金額を反訴原告各自につき3000万円(計6000万円)に拡張した(乙8の1。以下「本件請求拡張」という。)。
なお、本件請求拡張後の請求の原因については、同日付の「原告第2準備書面」(乙8の2)が全面的に引用されている。
3 前件訴訟の経過と顛末
(1) 反訴被告らの敗訴確定
2015年9月2日、東京地方裁判所は、反訴原告の訴え却下の申し立ては斥けた上で、反訴被告らの請求を全面的に棄却する判決(甲1。以下「本件一審判決」という。)を下した。
反訴被告らは、本件一審判決を不服として、2015年9月15日、東京高等裁判所に控訴を申し立てた。
2016年1月28日、東京高等裁判所は、反訴被告らの控訴を棄却する判決(甲2。以下「本件控訴審判決」という。)を下した。
2016年2月12日、反訴被告らは、本件控訴審判決を不服として最高裁判所に上告受理申立書を提出した。
最高裁判所は、同年10月4日付で上告不受理決定(甲3)をなした。これにより、前件訴訟における反訴被告らの敗訴が確定した。
(2) 関連訴訟等
ア 反訴被告らは、前件訴訟の提起と同時期に、反訴被告吉田の告白記事を契機としてなされた反訴被告らの言動を批判するブログもしくは雑誌記事に対し、反訴原告が知り得たものだけでも9件の名誉毀損訴訟を提起している。これら訴訟は、概ね反訴被告らが敗訴している。
イ また、反訴被告らは、前件訴訟の控訴審判決が出るや、2016年2月12日、反訴被告DHCのウェブサイト上に、反訴被告吉田が執筆した「会長メッセージ」と題する文章を掲載した。
上記文章において、反訴被告吉田は、政界、官僚、マスコミ、法曹界には在日が多く、裁判官も在日、被告側も在日のときには提訴したこちら側が100%の敗訴になる、と主張した(乙9の1)。
ウ さらに、同月21日には、反訴被告らは、反訴被告DHCのウェブサイト上に、反訴被告吉田が執筆した「スラップ訴訟云々に関して」と題する文章を掲載した。
上記文章において、反訴被告吉田は、反訴原告を「虚名の三百代言ごとき」「反日の徒」などの侮辱的表現を用いて罵倒したうえ、「どこの国の人かわからないような似非日本人が跳梁跋扈している世の中には私は断固反対します」と述べていた(乙9の2)。
4 前件訴訟提起と本件請求拡張の違法性
(1) 最高裁判所の判例
最高裁1988(昭和63)年1月26日判決(民集42巻1号1頁)は、訴訟提起が違法となる場合について、以下のとおり判示している。
「民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。」
(2) 前件訴訟等の違法性
前件訴訟において反訴被告らが主張した権利が事実的、法律的根拠を欠くものであったことは、すでに反訴被告らの請求を棄却する判決が確定したことによって明らかであるが、反訴被告らの前件訴訟の提起及び本件請求拡張(以下、両者を合わせて「前件訴訟等」という。)は、わが国の判例法理を無視した正当な論評に対する不合理(敗訴必然)な訴訟行為であり、通常人であれば、反訴被告らの主張する権利等が事実的、法律的根拠を欠くものであることを、容易に知り得たものである。
また、仮にそうでないとしても、反訴被告らの前件訴訟等は、勝訴判決により権利を回復することを主たる意図としたものではなく、反訴被告らに対する批判者を被告の席に座らせること、また、その可能性を示すことによる批判言論の封殺を意図してなされたものであり、上記最高裁判決が言うところの「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」違法な行為に当たるものである。とりわけ、本件請求拡張による請求額の増額は、この点が顕著である。
以下、詳述する。
(3) 反訴被告らの主張する権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
ア 本件ブログ1ないし3を対象とする請求について
(ア)本件ブログ1ないし3が論評であること
本件ブログ1は、反訴被告吉田が本件手記により週刊誌に自ら告白した事実をもとに、反訴被告吉田の行為は政治を金で買おうとしたものであり、渡辺議員とともに反訴被告吉田の行為も徹底的に批判されなければならない、との意見を表明したものである(乙3の1)。
また、本件ブログ2及び3は、本件手記の内容と関連のある渡辺議員の「ヨッシー日記」や全国紙の社説の論評について反訴原告の意見を表明するとともに、これに付随して、本件ブログ1で述べた反訴被告吉田の告白事実に対する批判を再述したものに過ぎない(乙3の2?3)。
本件ブログ1ないし3が、いずれも、主に反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実を前提とする、反訴原告の意見を表明した論評であり、反訴被告吉田の告白事実とは無関係な事実の一方的な摘示や、告白された事実とは無関係な事実を前提になされた批判でないことは、本件ブログの一般的な読者において容易に認識しうるものであった。
(イ)公正な論評の法理が確立した判例となっていること
意見表明による名誉毀損の場合には、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であるときには、論評の範囲を逸脱したものでない限り、違法性はなく、むしろ健全な民主主義の発展にとっては必要不可欠な行為だとするのが「公正な論評の法理」であり、わが国における確立した判例(最高裁1989(平成元)年12月21日判決(民集43巻12号2252頁など)となっているところである。
(ウ)権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
本件ブログ1ないし3において反訴原告が行った論評は、政治家と規制の厳しい健康食品を製造・販売する大企業の代表者との不明朗で多額な金銭貸付の違法性、政治資金規正法を厳格化する必要性の有無など、いわゆる「政治とカネ」の問題に関係する、民主主義の根幹に関わる極めて公共性の高いテーマに関する主張であった。これが公益目的の論評であることは、その内容からしても、また、本件ウェブサイトがこれまでに取り上げてきたテーマとその真っ当な論述内容からしても、疑う余地のないところである。
そして、反訴原告が論評の前提とした事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実や、公刊されている新聞紙上に掲載された記事、反訴被告DHCにおいて過去に存在した事実、又は公知の事実であったから、論評の前提事実の真実性については、前件訴訟等においてそもそも検討する必要のないものであった。
このように、本件ブログ1ないし3は、公益目的であること、前提事実に真実性があることがいずれも明らかであったから、公正な論評の法理により違法性が否定されることも明らかであった。
したがって、反訴被告らの、前件訴訟等における、本件ブログ1ないし3が反訴被告らの名誉を毀損する旨の主張は、事実的、法律的根拠を欠くものであることを、通常人であれば容易に知ることができた。
(エ)反訴被告らがあえて前件訴訟を提起したこと
反訴被告らは、本件ブログ1ないし3が反訴被告吉田の告白事実を邪推して誤った事実を摘示するものだと主張し、その表現の一部を捉えて反訴被告らの名誉を侵害しているとし、さらに加えて、各論評は公共の事実に関するものではなく、公益目的でもないとまで強弁して、前件訴訟を提起した。
反訴被告らは、その主張する権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえて前件訴訟等を行ったものである。
イ 本件ブログ4及び7を対象とする請求について
(ア)本件ブログ4及び7が論評であること
本件ブログ4は、反訴被告らが前件訴訟を提起したことを前提事実として、民主主義社会における言論の自由、批判の自由の重要性を述べるとともに、前件訴訟の提起は反訴原告の言論を封殺しようとするものだと批判する意見を表明したものである(乙5の1)。
本件ブログ7は、政治資金規正法の立法趣旨から、反訴原告吉田から渡辺議員に8億円もの貸付を行った行為が規正できないのでは政治資金規正法をザル法に貶めることになると批判し、さらに、そのような批判の声を挙げることは主権者として期待される働きであり、これに対して反訴被告らが前件訴訟を提起したことはスラップであり間違っている、との意見を表明したものである(乙7)。
本件ブログ4及び7が、いずれも反訴被告らが前件訴訟を提起した事実や反訴被告吉田の告白事実を前提とする、反訴原告の意見を表明した論評であることは、本件ブログの一般的な読者において容易に認識しうるものであった。
(イ)権利等が根拠を欠くことを容易に知り得たこと
本件ブログ4及び7において反訴原告が行った論評は、本件ブログ1ないし3でも論じた政治とカネの問題に加え、そのような問題について批判し声を上げることが重要であることや、経済的強者が批判を封じる目的で提起するスラップ訴訟が許されるべきでないという、表現の自由と裁判制度のあり方の問題に関するものであり、いずれも公共性の極めて高いテーマに関する主張であって、その内容に照らし、公益を目的とする論評であることは明らかであった。
また、反訴原告が論評の前提とした事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら週刊誌に告白した事実に加え、反訴被告らが前件訴訟を提起した事実であり、真実性に疑いの余地はなかった。
このように、本件ブログ4及び7は、公益目的であること、前提事実に真実性があることがいずれも明らかであったから、公正な論評の法理により違法性が否定されることも明らかであった。
したがって、反訴被告らの、前件訴訟等における、本件ブログ4及び7が反訴被告らの名誉を毀損する旨の主張は、事実的、法律的根拠を欠くものであることを、通常人であれば容易に知ることができた。
(ウ)反訴被告らがあえて本件請求拡張を行ったこと
反訴被告らは、前件訴訟はスラップ訴訟であり訴権を濫用するものだとした反訴原告の本件ブログ4ないし6による論評に対して、反訴被告らの名誉侵害を拡大するもので許されないとしてその中止を求め、反訴原告がこれに異議を述べて批判を継続するや、本件ブログ4及び7に反訴被告らの名誉を棄損する部分があるとして、従前の請求額を三倍増する本件請求拡張を行った。
反訴被告らは、その主張する権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえて本件請求拡張を行ったものである。
ウ 小括
以上のとおり、反訴被告らの前件訴訟等は、権利等が根拠を欠くものであることを通常人であれば容易に知り得たにもかかわらず、あえてなされたものであるから、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く違法なものというべきである。
(4) 前件訴訟等の主たる目的が批判的言論の封殺にあったこと
ア 十分な検討を行った形跡がないこと
反訴被告らの請求に事実的、法律的根拠があるか否かについて、反訴被告らが十分な検討を行った形跡はない。
反訴原告が本件ブログ1ないし3を掲載したのは、それぞれ、2014年3月31日、同年4月2日、同月8日のことであった。これに対して、反訴被告らが前件訴訟を提起したのは同月16日、本件ブログ3の掲載からわずか8日後であった。
また、反訴原告が本件ブログ4及び7を掲載したのはそれぞれ同年7月13日、同年8月8日であったが、反訴被告らが本件請求拡張を行ったのは同月29日であり、本件ブログ7の掲載から21日後であった。
このように、反訴原告が本件各ブログを掲載してから反訴被告らが前件訴訟等を行うまでの期間は極めて短かった。
また、この種の事案においては、訴訟提起前に本件各ブログの削除を求める通知を送付するなどして事前交渉を行うことが通常となっているが、反訴被告らは、事前交渉を経ることなく、突然前件訴訟を提起している。
反訴被告らが十分な検討を行った形跡がないことは、前件訴訟等が反訴被告らの権利救済を目的とするものではなく、反訴原告を提訴による精神的、経済的負担によって威嚇し、反訴原告の批判的言論を封殺する目的のものであったことを裏付けるものである。
イ 本件請求拡張を行ったこと
反訴被告らは、前件訴訟の提起後、前件訴訟はスラップ訴訟であって裁判の濫用であるとした反訴原告の論評(本件ブログ4ないし6)に対して、反訴被告らの名誉侵害を拡大するもので許されないとしてその中止を求め、反訴原告がこれに異議を述べて批判を継続するや、本件ブログ4及び7が原告の名誉を毀損するなどとして、従前の請求額を三倍増する本件請求拡張を行った。
しかし、本件ブログ4及び7における吉田の告白事実に対する批判部分は、本件ブログ1ないし3の再述(要約)にすぎず(反訴原告はブログ中にこのことを明記している)、論旨の中核はスラップ訴訟批判である。
しかるところ、前件訴訟がスラップ訴訟に当たるという指摘は、論評以外の何物でもない。この論評の前提事実に真実性が備わり、論評の公共性、公益目的性の各要件を充足していることも論を待たない。
結局、反訴被告らは、反訴原告のスラップ訴訟に関する論評を封じる目的だけの理由から、その請求額を、名誉毀損の裁判では到底容認される見込みのない6000万円にまで増額し、反訴原告を威圧しようとしたのである。
ウ 反訴被告らが前件訴訟等を含め合計10件の訴訟を提起していたこと
反訴被告らは、本件名誉毀損訴訟を提起した際、これとほぼ同時に、反訴被告らに対する批判的言論を行った者に対する9件の名誉毀損訴訟を提起していた。
この事実は、反訴被告らが、反訴被告らに対する批判的な言論を許容しないという姿勢をとり、批判的言論の具体的内容いかんにかかわらず名誉毀損訴訟を提起する方針をとっていたことを示している。
エ 本訴における反訴被告らの主張
反訴被告らの前件訴訟等の目的が反訴原告の言論封殺にあったことは、本訴の訴状における文言の端々にも現われている。
例えば、反訴被告らは、本訴訴状の請求の原因第5項において、反訴原告の本件ブログについて「このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす行為が許容される事態は社会的に問題である」と主張しているが、この主張は、正当な論評とそれによる社会的評価の低下に関する判例法理に対して反訴被告らが未だに無理解であることを露呈させており、今後も反訴被告らを批判する正当な論評に対して反訴被告らが名誉棄損訴訟を提起するおそれのあることが懸念される。
さらに、請求の原因第7項には、反訴原告が「自身のブログにおいて、性懲りもなく、未だに原告らの提訴がスラップ訴訟である旨主張し続けており」との記載がある。前件訴訟等がスラップ訴訟であるか否かに関する本件ブログの記載が適法な論評であったことは、すでに判決において正当に認定されたところであるが、「性懲りもなく」との表現は、あたかも反訴原告の方が違法な行為をしているかのように示唆するものである。
これら請求の原因の記載は、反訴被告らが、反訴被告らに対する論評が適法なものであるか否かに関わらず許容する意志がなく、「事実無根の誹謗中傷」として提訴対象とする姿勢を有していることを示している。
なお、反訴原告は、健全な司法制度の維持、発展のためには、弁護士として、引き続きそのことを主張し続ける必要があると考えている。その内容の妥当性は、賢明な読者が判断するものである。
オ 小括
以上に述べた事実に加え、反訴被告らが前件訴訟等において本件ブログの公共性や公益目的性に関して行った不合理な強弁などに照らせば、反訴被告らは、批判的な言論を行った反訴原告を訴訟の被告とすることによって精神的、経済的その他の負担をかけることによる威圧効果を狙って前件訴訟等を提起したものと考えられる。
すなわち、前件提訴等は反訴原告の言論を封殺することを主たる目的としてなされたものであり、反訴被告らの権利救済を意図したものではなかった。
このような裁判の利用は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものであり、前掲の1988(昭和63)年最高裁判決が違法と判示するところである。
なお、反訴被告らは、本訴の訴状において、前件訴訟が不適法却下されなかったことをもって前件訴訟等の違法性を否定する主張をしているが、訴訟の却下要件と違法提訴の判断基準は異なるものである。
そもそも、裁判所が反訴原告のスラップ訴訟の主張を容れず実体判断に至った理由には、わが国でのスラップ訴訟に関する裁判例が乏しいことも一因としてあったと考えられるが、何よりも、(スラップ訴訟を規制する立法により訴訟却下の要件が法律により定められている諸外国の場合とは異なり)原告の請求がスラップ訴訟に該当するかどうかを判断するためには結局のところ本案の実体判断に入らざるを得ないというわが国の訴訟法の構造上の問題がある。
本件一審判決における実体判断の説示内容は、反訴被告らが名誉毀損に当たると主張した記述は反訴被告らに関係のない記述か、又は、反訴被告吉田の告白事実に関する意見であった、ということで一環しており、本件が、勝訴の見込みのないスラップ訴訟であったことを十分に窺わせるものとなっている。本件高裁判決の説示は、この点がなお一層顕著である。
(5) 本件提訴等は条理(「裁判を受ける権利」に優越する「言論の自由」)に違反する行為であったこと
仮に、反訴被告らに反訴原告の言論を封殺しようという目的があったとまでは認められないとしても、以下に述べるとおり、前件訴訟等は、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」というという条理に違反してなされた違法な行為(「裁判を受ける権利」に優越する「言論の自由」の侵害)であった。
ア 条理の存在
(ア)高度に公共的な事項や公人に対する批判的な意見ないし論評の重要性
憲法21条1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定めている。
表現の自由を支える社会的価値として、?個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値(自己実現の価値)と、?言論活動によって国民が政治的意志決定に関与するという民主政に資する社会的な価値(自己統治の価値)があり、これによって表現の自由は、他の諸権利よりも優越的な地位にあるものと位置付けられている。
さらに、表現の自由の意義として、各人が自己の意見を自由に表明し競争することによって真理に到達することができる、という「思想の自由市場論」が提唱されており、ここからも表現の自由の優越的地位を導くことができる。
高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は、権力者や社会的強者に対して主権者たる市民が世論を喚起して対抗するための重要な手段であり、表現活動の中でも特に「自己統治の価値」の側面を強く有するものである(本件ブログ6で引用されている丸山眞男の著述参照)。
したがって、高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は、表現行為の中においても特に重要なものとして手厚い保障を与えるべきとされる。
(イ)名誉毀損訴訟が表現活動を抑圧し萎縮させる効果を持つこと
公共的な言論に対して名誉毀損訴訟が提起されると、表現活動を行った者は否応なく被告の立場に置かれ、応訴を強いられることになる。訴訟を提起されることは、弁護士であるか否かを問わず、万人にとって極めて不快なことであり、応訴のために費やさなければならない金銭、時間、労力は決して小さなものではない。
さらに、提訴された当事者に限らず、社会一般の表現活動に萎縮効果をもたらすことも重大である。被提訴者がいわば見せしめとなり、同様の見解を持っていたマスコミや市民は「同じ目には遭いたくない」と思いから萎縮し、公共的な言論を控えることで世論は不活性化し、市民は共同体意識を失って民主主義は衰退するのである。
(ウ)小括
健全な民主主義を維持、発展させるためには、高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評は表現行為の中においても特別に保護される必要があるが、他方、裁判制度にアクセスし易い公人や経済的強者は、自己の批判を名誉毀損訴訟で封ずる誘惑に駆られることが多い。しかし、このような訴訟の提起を常に容認することは、表現者に過酷な応訴負担、マスコミを始めとした社会一般に言論萎縮の効果をもたらす結果となり、個人の自己統治、自己統治された個人の参加による民主主義の実現を失わせることとなる。
ここから、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」との条理が導かれるものである。
イ 前件訴訟等の対象がいずれも高度に公共的な事項や公人に対する批判的な意見ないし論評であったこと
本件ブログ1ないし3は、反訴被告吉田が週刊誌に公表した手記(国会議員に対する8億円という巨額資金の密かな貸付)を題材に、政治の過程における政治と金銭、いわゆる「政治とカネ」の問題について反訴原告の批判的な意見ないし論評を記載したものである。
「政治とカネ」の問題は、民主政の根幹に関わる重大なテーマであり、高度に公共的な事項といえる。
また、反訴被告DHCは、健康食品業界におけるトップ企業の一つとして社会に広く知られ、反訴被告吉田はそのオーナーかつ代表者で、政治家に対して8億円もの貸付けを行ったことを週刊誌に公表した者なのであるから、いずれも公人ないし公人に準ずる者であり、政治をその資金力で左右する可能性を持つ経済的強者である。
本件ブログ4及び7は、反訴被告らの本件提訴等について、これが言論封殺の効果を有するいわゆる「スラップ訴訟」に当たるとの観点から、批判的な意見ないし論評を記載したものである。
スラップ訴訟は、裁判制度のあり方や、表現の自由と裁判制度の関わり方に関するものであり、高度に公共的な事項に当たる。
ウ 前件訴訟等が条理に違反すること
以上のとおり、反訴原告の本件各ブログは、いずれも高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評であったところ、前件訴訟等は、この批判的な意見ないし論評に対して提起された名誉毀損訴訟である。
反訴原告の本件各ブログの前提事実は、反訴被告吉田が本件手記により自ら告白した事実や、前件訴訟が提起された事実などであり、いずれも真実性は明らかであった。
したがって、本件提訴等は、「高度に公共的な事項や公人・経済的強者に対する批判的な意見ないし論評については、前提事実に明らかな誤りがある場合でなければ名誉毀損訴訟を提起することは許されない」という条理に違反してなされたものであり、違法な行為であった。
5 反訴原告の損害
(1) 前件訴訟等に応訴するための弁護士費用:500万円
反訴被告らが前件訴訟を提起し、さらに本件請求拡張を行ったことにより、反訴原告は、弁護士を代理人として反訴被告らの請求を争わなければならなかった。本件名誉毀損訴訟では、計110名の弁護士が反訴原告の代理人に就任しているが、これら代理人に対する弁護士費用の支払いは、前件訴訟等の提起がなければ発生することのなかった費用である。
(旧)日弁連報酬等基準規程によれば、経済的利益の額が6000万円の場合における弁護士費用の標準額は、着手金249万円、報酬金498万円とされている(いずれも税別)。上記規定は2004年4月1日に廃止されたが、適正な弁護士費用を算定するための基準として、現在も広く用いられている。
本件名誉毀損訴訟では、反訴被告らの請求額6000万円が経済的利益の額となるから、記述の削除や謝罪広告等の請求を考慮しない場合でも、標準的な弁護士費用は着手金249万円、請求を排斥したことによる報酬金498万円(いずれも税別)である。
したがって、本件名誉毀損訴訟に応訴するための弁護士費用として反訴被告らの不法行為と相当因果関係のある損害は、少なくとも500万円を下るものではない。
(2) 精神的損害:500万円
反訴被告らが不当な前件訴訟等を行ったことにより、反訴原告は、応訴による肉体的、時間的、精神的負担を余儀なくされた。しかも、請求額が6000万円という高額なものだったことから、反訴原告の精神的負担は極めて大きなものとなった。
この反訴原告の精神的損害に対する慰謝料の額は500万円を下らない。
(3) 本訴訟提起のための弁護士費用:100万円
反訴被告らの不法行為に対する損害賠償請求のため、反訴原告は本件反訴を提起せざるを得なかった。反訴被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は100万円を下らない。
9 結語
よって、反訴原告は、不法行為に基づき、反訴被告らに対して、上記損害の一部請求として、連帯して660万円及びこれに対する反訴被告らが本件名誉毀損訴訟における請求を拡張した日である2014年8月29日から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払いをもとめる。
以上
既にお知らせしたとおり、DHC・吉田嘉明から2度目の提訴をされて、私(澤藤)はまたもや「幸福な被告」に逆戻りしています。
その裁判の事実上第1回(形式的には第2回)の口頭弁論期日が、12月15日(金)午後1時30分に予定されています。開廷場所は東京地裁の4階、415号法廷です。もちろん誰でも自由に傍聴できます。閉廷後には、弁護士会館で報告集会を予定しています。その部屋は1か月前にならないと決まらないのですが、決まり次第当ブログでご案内しますので、ぜひ、ご参集ください。
DHC・吉田嘉明の2度目の提訴の内容は、「債務不存在確認」請求事件です。普通の訴訟は、「怪しからんブログを削除せよ」、「謝罪文を掲載せよ」、「損害賠償の金銭を支払え」という作為や給付を求めるものですが、この訴訟はそういう普通の訴訟ではありません。ただ単に、「原告DHCも吉田嘉明も、被告澤藤に支払うべき債務はないことを裁判で確認していただきたい」という訴えなのです。迫力を欠いた裁判であることは言うまでもありません。
よほどの事情がない限り、こんな裁判は普通しません。相手から提訴されたら受けて立てばよいだけのことなのですから。どうして、吉田嘉明が自分の方からこんな裁判を仕掛けようという気になったのか、どうしてそんなにも焦ったのか。首を捻るばかり。本当によく分かりません。人はそれぞれですし、お金持ちの気持ちの忖度はなかなか難しいと思うばかりです。
DHC・吉田の最初の提訴は3年前の2014年4月。5月の半ばに訴状が届きました。あの訴状を読んだときの、なんとも形容しがたい不愉快な思いは忘れられません。この文明社会で、まさか自分の言論が理不尽に抹殺の対象となろうとは思いもよりませんでした。「言論には言論で対抗する」ことが原則です。しかも、DHC・吉田嘉明は巨大な規模の言論対抗手段をもっているのです。紙媒体でも、ネットでも、そして電波メディアでも。
沖縄基地反対闘争についてのフェイクとヘイトで有名になったDHCシアターや、虎ノ門テレビは彼の傘下にあります。
また、テレビ東京の筆頭株主以下の順序は、以下のとおりです。
1位・日本経済新聞、2位・吉田嘉明、3位・みずほ銀行、4位・三井物産、5位・日本生命…。
そのDHC・吉田嘉明が、言論の市場で対抗言論を行使するのではなく、私の言論を不快として、まったく唐突に2000万円の慰謝料請求の訴訟を起こしたのです。
違法だとされた私のブログは、次の3本。ぜひよくお読みください。いずれも、政治を金で買ってはならない、金で政治や行政を歪めてはならないという典型的な政治的批判の言論です。万が一にも、これが違法だとしたら、この世に意味のある言論の自由は絶えてなくなってしまうということがご理解いただけるはずです。
https://article9.jp/wordpress/?p=2371(2014年3月31日)
「DHC・渡辺喜美」事件の本質的批判
https://article9.jp/wordpress/?p=2386(2014年4月2日)
「DHC8億円事件」大旦那と幇間 蜜月と破綻
https://article9.jp/wordpress/?p=2426 (2014年4月8日)
政治資金の動きはガラス張りでなければならない
DHC・吉田の提訴は、誰が考えても言論封殺を目論んでのこと以外にはありえません。被告とされたのは私であり、直接攻撃を受けたのは、私の3本のブログです。しかし、影響はそれにとどまりません。DHC・吉田の意図は、自分に対する批判をすればこのように裁判を起こされてたいへんなことになるぞ、という見本を示しているのです。
私は、この理不尽にけっして屈してはならない。徹底して闘おうと決意をしました。そして、ブログでのDHC・吉田批判をやめず、「DHCスラップ訴訟を許さない」シリーズを書き始めました。するとどうでしょう。DHC・吉田は、2000万円の請求を6000万円に請求を拡張したのです。行動で、言論封殺のための提訴であることを証明したのです。
裁判は、1審も2審も私が勝ちました。勝って当然の裁判なのですから。そして、DHC・吉田は無理を承知で、最高裁に上告受理申立をして不受理の決定があって確定しました。こんな理不尽な裁判で、大迷惑を掛けておいて、DHCも吉田嘉明も、一言の謝罪もありません。私は、不当な提訴で被った損害を賠償せよと、請求をしました。その金額は600万円、DHC・吉田が私に請求した金額の10分1というささやかなもの。
DHC・吉田は、この600万円を支払う義務がないことの確認を求めて提訴したのです。
ですから、新たな裁判(「DHCスラップ第2次訴訟」)の主たる舞台は、反訴になります。近々、反訴状を提出します。請求金額は、600万円に10%の弁護士費用を上乗せした660万円。
私も、既に50人を超した弁護団も、スラップ訴訟の提起が違法であることを明らかにすることで、政治的な批判の言論の自由を確立したいと意気込んでいます。12月15日の法廷では、反訴状を陳述することになります。ぜひ、傍聴にお越しください。
なお、みなさまにお願いがあります。DHCのように、スラップ訴訟を多発する企業には、消費者の行動で制裁を加えていただきたいのです。公害発生源となっている企業や、消費者問題を多発する企業、児童労働や劣悪労働条件の企業などには、自覚的な消費者集団による市場での批判の行動で、これを是正することが可能です。労働厚生行政による規制をきらうことを広言し、あるいは規制緩和推進の政治家に闇の金を渡し、これを批判されると、スラップで口封じをしようという、こういうスラップ常習企業には、民主主義社会を大切に思う立場の理性ある消費者の行動を通じて相応の制裁を課す必要があると思うのです。ぜひ、この点についてご協力ください。
**************************************************************************
以下が、まだ「反訴」提起前の、「本訴」についてのやり取り。
なお、原告の請求原因の全文は、以下のURLで読めます。
https://article9.jp/wordpress/?p=9149
原告DHC・吉田の「請求の原因」
1 原告らは、被告が、自身のブログ「澤藤統一郎の憲法日記」において、原告らの名誉を毀損する記述をしていたことから、平成26年4月16日、訴訟提起したが、平成27年9月2日、請求が棄却され、控訴も上告も棄却された。
2 平成29年5月12日、被告は、原告らの訴訟は、いわゆるスラップ訴訟であり、不当提訴であるから、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して600万円の支払いを求める内容証明郵便を送付し、原告らに600万円の債務が存在する旨主張した。
(以下3項?7項まで略)
8 よって、原告らは、被告に対し、原告らの被告に対する別紙訴訟目録1記載の訴え提起、同2記載の控訴及び同3記載の上告受理申立てによる損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。
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上記の訴状「第2 請求の原因」に対する、被告澤藤の認否
1 請求原因第1項のうち、「原告らが被告に対し、2014(平成26)年4月16日訴訟を提起したが2015(平成27)年9月2日請求が棄却され,控訴も上告も棄却された」こと、当該訴訟が「被告が主宰するブログ『澤藤統一郎の憲法日記』において,原告らの名誉を毀損する記述をしていると主張してのものであった」ことはいずれも認め、その余の事実は否認する。
2 同第2?4項はいずれも認める。
3 同第5項のうち、前訴において「原告らが名誉毀損だと指摘した被告のブログの記述は,違法性阻却事由により判決においては違法ではない旨判示されたものの,同時にその大半の記述が,原告らの社会的評価を低下させるとも判断されている」ことは認める。
これに続く「被告が弁護士でありながらも原告らの名声や信用を一般読者に対して著しく低下させたことは事実であり,このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす行為が許容される事態は社会的に問題である。」との記述は否認する。この記述は、訴訟上意味のないものであるばかりでなく、「事実無根の誹謗中傷」という点で明らかに事実に反する主張であり、「このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす」との表現は被告を侮辱するものである。
なお、「(被告のブログにおける当該表現)行為が許容される事態は社会的に問題である」との記述は、前訴の確定判決に対する原告らの拒絶の宣言であり、各審級の裁判所の判断に対する嫌悪の感情の吐露でもある。原告らは、前訴の判決から学んで反省するところがなく、確定判決を黙殺する点で、法や司法に対する軽視の姿勢をよく表しているというほかはない。
4 同第6項は認める。
5 同第7項のうち、被告が、甲7の1及び甲7の2と特定されたブログの記事を掲載していることは認める。
なお、ここでも、原告らは「性懲りもなく」と被告に対する侮蔑的な表現に及んでいる。前訴において敗訴したのは原告らであって被告ではない。法秩序から見て反省すべきは原告らであって被告ではない。「性懲りもなく」(再度の提訴に及んだ)と評されるべきは被告ではなく、明らかに原告らなのである。
6 同第8項は争う。
7 実務上、債務不存在確認請求訴訟の要件事実は、「被告が、請求の趣旨で特定された当該権利を有すると主張していること」で足りるとされている。これで、確認請求訴訟一般に必要な確認の利益の主張も十分である。
従って、本請求に必要な請求原因は、本来第2項(「平成29年5月12日、被告は、原告らの訴訟は、いわゆるスラップ訴訟であり、不当提訴であるから、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して600万円の支払いを求める内容証明郵便を送付し、原告らに600万円の債務が存在する旨主張した。」)だけで足りるものである。事情として付加するものがあるとしても第1項および第2項で十分である。
にもかかわらず、その余の第3?7項の記載があるのは、法的な主張の必要を超えて、被告を攻撃する過剰な意図あればこその叙述と言わざるを得ない。原告らの前訴提起の意図が、自らの権利救済の目的を超えて、被告を過剰に攻撃することによって自己を批判する言論を封殺しようとした姿勢と通底するものであることを指摘しておきたい。
(2017年10月27日)
昨日(9月8日)、盛岡での法廷と報告集会を終えて帰宅すると、待っていたのはDHCからの再度の訴状。3年半ぶり2度目の私宛の特別送達。これで、私は新たな事件の被告となった。
とりあえず、この新件を「DHCスラップ2次訴訟」と命名しておくことにしよう。
新たな提訴は、債務不存在確認請求事件。事件の表示は下記のとおり。
東京地方裁判所民事第1部C係
事件番号 平成29年(ワ)第30018号
債務不存在確認請求事件
原告 吉田嘉明 外1名
被告 澤藤統一郎
なお、訴状の日付は本年9月4日。
被告業を脱してしばらく経った。「次は原告業」となる予定だった。不当きわまる吉田嘉明とDHC両者の私に対するスラップの提訴自体が不法行為だ。吉田嘉明とDHCに対する損害賠償請求訴訟を提起して、「リベンジ訴訟」と名付けるつもりだった。その「リベンジ訴訟原告」が私の肩書になるはずだった。ところが、私は再度の被告業となってしまったわけだ。この点は予想外で、やや不本意。
しかし、前回の「DHCスラップ訴訟」で思いもかけない訴状を受けとったときの、何とも名状しがたい不愉快極まりない思いは今回はない。むしろ、新たな訴状を一読してなんとはなしに「笑っちゃった」というところ。
大金持ちを自称するDHCのオーナーのことである。もっと鷹揚な人物かと思い込んでいた。実業家として忙しくもあろう。私からの600万円の請求などは歯牙にもかけず、意識の隅にもないのかと思っていた。が、実はたいへん気にしていたわけだ。これは、望外のこと。600万円の請求を受けて、債務の不存在を確認しないと落ち着けないとは、思いもよらなかった。
私が、吉田嘉明とDHCの両者に、内容証明郵便による損害賠償請求を発信したのが、本年の5月12日。その6か月後には時効中断の効果がなくなって消滅時効が完成する。私も弁護団もそれぞれに多忙である。やるべきことは山のようにある。それでも、いずれ時効完成までには損害賠償請求の提訴をしなければならない。それまであと2か月余。吉田嘉明はその2か月が待ちきれなく、提訴に踏み切ったということなのだ。
細かいことだが、今回DHC側で提訴によって、印紙代と郵券代はDHC側が負担してくれたことになる。基礎的な資料も、甲号証として揃えてくれた。面倒な事務手続を負担してくれたのだから、この点は感謝すべきと言えなくもない。
何よりの感謝は、私の闘志を掻きたててくれたことだ。私は、性格的に「水に落ちた犬」は撃てない。吉田嘉明が敗訴確定で水に落ちた気分状態では、これを撃つことに躊躇せざるを得ない。しかし、仕掛けられた争いだ。遠慮は無用。ことここに至っては、絶対に、後に引けない。
このブログに目を留めた弁護士の皆様にお願いします。
表現の自由を擁護する立場から、訴訟活動支援の志あるかたは、弁護士澤藤統一郎まで、ご連絡をください。本事件は、言論への萎縮を意図した社会的強者のスラップを許さない、社会的意義のある法廷闘争だと考えています。
なお、以下に「DHCスラップ2次訴訟」の訴状をご紹介する。
今後も、訴訟の進展を当ブログでご確認いただきたい。
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訴 状
原告 吉田嘉明
原告 株式会社ディーエイチシー
原告ら訴訟代理人弁護士 今村憲
披告 澤藤統一郎
債務不存在確認請求事件
訴訟物の価額 金600万円
貼用印紙額 金3万4000円
請求の趣旨
1 原告らの被告に対する別紙訴訟目録1記載の訴え提起、同2記載の控訴及び同3記載の上告受理申立てによる損害賠償債務が存在しないことを確認する
2 訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
請求の原因
1 原告らは、被告が、自身のブログ「澤藤統一郎の憲法日記」において、原告らの名誉を毀損する記述をしていたことから、平成26年4月16日、訴訟提起したが、平成27年9月2日、請求が棄却され、控訴も上告も棄却された。
2 平成29年5月12日、被告は、原告らの訴訟は、いわゆるスラップ訴訟であり、不当提訴であるから、不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して600万円の支払いを求める内容証明郵便を送付し、原告らに600万円の債務が存在する旨主張した。
3 これに対し、原告らは、被告主張の損害賠償債務などない旨回答したものの、被告は、自身のブログにおいて、訴訟提起する旨繰り返し主張しているが、未だに訴訟提起しない。
4 なお、前訴第1審判決は、「被告は、本件訴訟について、いわゆるスラップ訴訟であり、訴権を濫用する不適法なものであると主張する。この点、本件訴訟において名誉毀損となるかが問題とされている本件各記述には、断定的かつ強い表現で原告らを批判する部分が含まれており、原告らの社会的評価を低下させる可能性かあることを容易に否定することができない。また、本件各記述が事実を摘示したものか、意見ないし論評を表明したものであるかも一義的に明確ではなく、仮に意見ないし論評の表明であるとしても、何がその前提としている事実であるかを確定し、その重要な部分が真実であるかなどの違法性阻却事由の有無等を判断することは、必ずしも容易ではない。そうすると、本件訴訟が、事実的、法律的根拠を全く欠くにもかかわらず、不当な目的で提訴されたなど、裁判制度の趣旨目的に照らして許容することができないものであるとまで断ずることができず、訴権を濫用した不適法なものということができない。このことは、本件各記述が選挙資金に関わることによって左右されるものではない。
したがって、本件訴訟をスラップ訴訟として却下すべき旨をいう被告の主張は、採用することができない。」と判示している。
5 また、原告らが名誉毀損だと指摘した被告のブログの記述は、違法性阻却事由により判決においては違法ではない旨判示されたものの、同時にその大半の記述が、原告らの社会的評価を低下させるとも判断されており、被告が弁護士でありながらも原告らの名声や信用を一般読者に対して著しく低下させたことは事実であり、このような事実無根の誹謗中傷をネットに書き散らす行為が許容される事態は社会的に問題である。
6 さらに、被告は、第1審の当初に提出した平成26年6月4日付け「事務遮絡」において、「次々回(第2回期日)の日程は、2か月ほど先に指定いただくようお願いいたします。その間に、弁護団の結成と反訴や別訴等の準備をいたします。」などと書き、訴訟係具申も反訴すると言いながら、結局反訴しなかった。
7 加えて、被告は、白身のブログにおいて、性懲りもなく、未だに原告らの提訴がスラップ訴訟である旨主張し続けており、当該ブログを読んだ一般人に、あたかも原告らが金銭債務を負っているかのような印象を与え続けている。
8 よって、原告らは、被告に対し、原告らの被告に対する別紙訴訟目録1記載の訴え提起、同2記載の控訴及び同3記載の上告受理申立てによる損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。
別紙
1 第一審
原告 吉田嘉明、株式会社ディーエイチシー
披告 澤藤統一郎
裁判所 東京地方裁判所民事第24部
事件番号 平成26年(ワ)第9408号
事件名 損害賠償等請求事件
2 控訴審
控訴人 吉田嘉明、株式会社ディーエイチシー
被控訴人 澤藤統一郎
裁判所 東京高等裁判所第2民事部
事件番号 平成27年(ネ)第5147号
事件名損害賠償等請求控訴事件
3 上告審
申立人 吉田嘉明、株式会社ディーエイチシー
相手方 澤藤統一郎
裁判所 最高裁判所第三小法廷
事件番号平成28年(受)第834号
(2017年9月9日)