(2022年3月4日)
この事件については、本年1月19日前回口頭弁論期日までの進行を、同日付の当ブログで報告した。
https://article9.jp/wordpress/?p=18387
前回のブログでも言及したとおり、この訴訟、たいへんに興味深い展開になっている。この事件の被告は、法人としてのNHK(日本放送協会)と、個人としての森下俊三(経営委員会委員長)の二人。この被告両名の応訴姿勢が明らかに齟齬をきたしているのだ。森下側は、自分の行為に違法はないとムキになっている体なのだが、NHKの姿勢は頗る微妙、決して森下に同調していない。「NHKが、経営委員会に意見を言う権限はない」としながらも、むしろ言外に「森下には困ったものだ」と言わんばかりの主張。真っ当ならざる森下と、真っ当に見えるNHKの主張が対照的なのだ。
本件における最重要の請求は、「2018年10月23日経営委員会議事録の開示」である。この会議で、経営委員会は上田良一NHK会長を呼びつけて厳重注意を言い渡している。明らかにNHKの良心的看板番組「クローズアップ現代+」が、日本郵政グループによる「かんぽ生命保険の不正販売問題」に切り込んだ報道をしたことに対する牽制であり、続編の制作妨害を意図した恫喝である。
これは、経営委員会による番組制作への介入であって、放送法32条に違反する違法な行為である。国会の同意を得て内閣総理大臣が任命した12人の経営委員が、このような明白な違法行為を行っているのだ。
日本郵政グループの上級副社長・鈴木康雄と意を通じて、この違法な「会長厳重注意」をリードした中心人物が、当時経営委員会委員長代行だった森下俊三である。こんな違法をやっているのだから、議事録は出せない。しばらく非公開の秘密扱いとされていた。
この問題議事録の開示を求めて、本件訴訟提起前に5度に渡る「文書開示の求め」があったが、ことごとく斥けられた。そこで、本件原告らは、「もしまた不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、NHKに対して、通算6度目となる「文書開示の求め」の手続に及んだ。そして、所定の期間内に開示に至らなかったため、21年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく同年7月9日に至って「議事録と思しき文書」が開示されたのだ。
これだけで大きな成果と言ってよい。この「議事録」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄(元総務事務次官)と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが、動かぬ証拠として明確になったからだ。この局面では明らかに、経営委員会の無法にNHK執行部と番組制作現場が蹂躙されている構図である。結局は腐敗した安倍晋三長期政権が関わる人事の全てがおかしかったのだ。
もっとも、この「議事録と思しき文書」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではないという。NHKが「議事録草案」と呼ぶものである。放送法41条で、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされている、適式の「議事録」については、いまだに不開示ということになる。
何よりも重要なのは、この「議事録草案」は、NHKのホームページ上に公表されていないことである。41条が要求する議事録は公表されなければならない。公表されない議事録は、開示請求に応じた文書とは言えない。
そこで、前回期日の準備書面で、原告は被告森下に対して「今後速やかに、本件経営委員会議事録を適式に作成の上、NHKのホームページ上に公表すべき予定ないしは意向があるか」と質問して回答を求めた。
ところが、被告森下は、端的にこの質問に回答しない。
議事運営規則上、「議事録の公表については、規則によって、経営委員会で決定することになっている」「そのため議事録の公表は、経営委員長だけの判断ではできない」。そのため、「非公表を判断する権限は、経営委員会委員長ではなく経営委員会が有している」という、難解な理由が掲記されている。一見すると、被告森下自身は公表を望んでいるのに、経営委員会が委員長の意向に抵抗して非公表に固執しているというがごとくであるが、そんなことはあり得ない。
そこで、原告は、再度被告森下に、「被告森下自身の意向を尋ねたい」「『草案』をそのままでもよし、あるいは今後速やかに正式なものとして作成の上でもよし、問題の議事録をNHKホームページ上に公表すべき予定ないしは意向があるか」と書面で再質問した。また被告NHKに対しては、「森下が議事録を公表するとした場合、これにしたがうか」と尋ねてもいる。
この進行段階で、昨日(3月3日)主張を整理するための進行協議期日(オンライン)となった。
この進行協議では、裁判長が原告に代わって積極的に両被告代理人に質問した。
まず、NHKに対する問題議事録の公表についての態度を問い、これに対してNHKは「経営委員長の指示に従うだけである」との回答だった。
さらに、裁判長と森下側代理人との間で、概ね以下の質問と回答があった。
裁判長「森下さんとしては公表するのか?」
森下側「経営委員会が判断するので、なんとも言えない」
「大変パワフルな方と聞いているが、森下さんご自身の意向は?」
「経営委員会の判断事項であり、意見はない」
「公表の検討をしているのか?」
「以前非公表の決定をしており、開示等、事後的事情で、これを覆せるかどうか検討することになる」
「検討しているということか?」
「覆す検討をするかどうかも含めて検討する」
「結局、公表しないということでもなく、公表するでもなく、わからないということか?」
「何も言えない」
結局、次回期日までには、森下において、経営委員会としての進捗を報告するとのことになった。
なお、予定のとおり、原告は損害賠償請求の根拠の根幹となる違法性に関する主張の書面を3月30日までに提出する。
次回口頭弁論期日は、4月27日(水)午後2時、103号で開廷。
この期日には、原告の主張を10分間パワーポイントを使ったプレゼンの予定。
(2022年2月3日)
NHK・OBの皆川学さんから、下記のご意見を添付したメールをを頂戴した。皆川さんとは、NHKに対する要請や抗議の行動を重ねるなかで知り合った。お話しを聞けば現職の時代はNHKのエライさんだったのだが、そのような素振りは見せない。
いま、市民運動の一端をになって、「真っ当なNHKたれ」と古巣NHKに対する厳しい批判を絶やさない。真っ当でないことが多すぎるのだ。叱責が続くことはやむを得ない。そして最近もう一つ、叱責せざるを得ないことが重なった。あの河?直美が絡んだ、オリンピック反対デモに対する侮蔑字幕問題である。
これはいったいどんな問題なのだろうと思っていたところに、皆川さんが「正解」を提示してくれたというスッキリ感がある。なるほど、この「字幕捏造問題」と呼ぶべき事態には、こんな理由があったのだ。
「表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク」ニュースレター第8号
NHKはなぜ字幕を捏造したのか
皆川学(表現ネット共同代表 NHK・OB)
「デモ参加者には、日当が出ている」といった情報は、古くは60年安保の頃から、近くは沖縄基地反対運動に対する「ニュース女子」番組まで繰り返し流布されている典型的なデマである。これをまともに取り上げるメディアなどあろうはずがない。ところが昨年12月26日に放送されたNHK「BSスペシャル 河?直美が見つめた東京五輪」では、顔にモザイクをかけられた匿名の男性が「実はお金をもらって動員されている」との字幕テロップ付きで紹介されていた。
不審に思った多くの視聴者からの問い合わせで、NHKが内部調査をしたところ、男性の証言は確認されたものではないことが判明し、NHKは謝罪放送を行った。 NHKは「担当者の取材不足が原因で、捏造の意図はない」と弁明しているが、本当にそうだろうか。担当ディレクターが経験不足であったとしても、局内で幾重にも繰り返される試写の段階で、チェックを担当する上部管理職がこの低劣な定番デマ情報をそのまま見逃したとは考え難い。事件は局内手続きにあったのではなく、もっと深いところから発したと思われる。
この番組には、そのほかに看過できない問題シーンがある。コロナ渦での児童の五輪観戦動員などに反対して、教育関係者で構成される「都教委包囲・首都圏ネット」が昨年5月にJOC前で反対行動を行った場面が紹介された。そこでは河?直美氏が柱の陰で恐る恐るのぞき見しているシーンがあり、その直後に河瀬氏の「五輪は私たちが招致したもの」「オリンピックに関わっている人がそこで一生懸命にやっている。その人に寄り添うことは人間として当たり前」というコメントが入っている。まるで「オリンピック反対は人間のすることではない」との印象を与えるような構成である(首都圏包囲ネットは、この件で1月18日にNHKへの抗議を行い、その模様は包囲ネットとレイバーネットのHPで視聴可能)。
当該番組はいわゆる「メイキング物」で、表現活動やイベントの完成される過程を追うスタイルをとるが、取材対象者から特段に許された条件で撮影するため、対象者との距離を取ることが難しく、往々にして「ヨイショ」番組に堕すことがある。コロナ禍での五輪開催には、国民の6~8割の人々が反対していた。そのなかで「関わっている人々に寄り添」っている河瀬氏の活動を称賛するためには、一方で反対している入る人々を否定的に描くシーンがあったほうが効果的だ。そのような構成上の必要から、上記の二つのシーンが番組に埋め込まれたものと推測する。取材対象者との距離が取られていない。
本ニュースレター前号で田島泰彦氏も指摘していたように、大手メディアがオフィシャルパートナーとして五輪開催に構造的に組み込まれて五輪翼賛報道に終始し、NHKも五輪開催の是非をめぐる「NHKスペシャル」の放送延期、長野県で行われたトーチリレー(「聖火リレー」とはいわない)での沿道からの五輪反対の音声の30秒カットなど、五輪反対の声が電波に載らないよう腐心していた。
謝罪放送後の記者会見でも、正籬副会長は「不確かな内容の字幕を出していたことは間違いない」が、「全くそうした事実がなかったのかということについてははっきりしない」と、金で動員されていた可能性はまだありうると、担当ディレクターをかばっている。現場ディレクターからNHKトップまで、「金をもらってのデモ神話」を信じているおぞましさ。組織を挙げた確信犯的番組だったのではないだろうか。少なくとも、オリ・パラを推進・翼賛する組織方針の延長上にこの事件は起きた。「五輪翼賛番組」の「五輪」が、「戦争」という言葉に置き換えられた時のことを思うと慄然とする。
私(澤藤)も、「都教委包囲・首都圏ネット」のデモには何度か参加したことがある。一見して、「実はお金をもらって動員されている」デモではあり得ない。「そこでは河?直美氏が柱の陰で恐る恐るのぞき見しているシーンがあり、その直後に河瀬氏の『五輪は私たちが招致したもの』『オリンピックに関わっている人がそこで一生懸命にやっている。その人に寄り添うことは人間として当たり前』というコメントは噴飯物である。これが、オリンピックという化け物の正体であり、この化け物に取り込まれたのが河瀬でありNHKなのだ。その最後をリフレインしておきたい。NHKよ、襟を正して聞け。
現場ディレクターからNHKトップまで、「金をもらってのデモ神話」を信じているおぞましさ。組織を挙げた確信犯的番組だったのではないだろうか。少なくとも、オリ・パラを推進・翼賛する組織方針の延長上にこの事件は起きた。「五輪翼賛番組」の「五輪」が、「戦争」という言葉に置き換えられた時のことを思うと慄然とする。
(2022年1月21日)
昨日(1月20日)、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」という、ふざけた党名の政党が、党名を変更して「NHK受信料を支払わない国民を守る党」となった。この政党、発足当時は「NHK受信料不払い党」であったが、「NHK受信料を支払わない方法を教える党」や「嵐の党」などと党名変更を繰り返してきた。今回6度目の党名変更という。通称は「N党」あるいは「N国」だが、自らは略称を「NHK党」に統一してくれと言っている。さぞや、NHKには迷惑な話。
党首が立花孝志(元参議院議員)、副党首が丸山穂高(元衆院議員議員・維新所属)というから、どのみち碌なものではない。なお、丸山のホームページを覗いて少しだけ驚いた。その略歴欄に「副党首などを歴任」との記載はあるが、どこの党とは書いていない。N党の副党首とは書きたくないのだ。副党首ですら、所属党名を名乗るのは恥ずかしいと見える。そんな程度の政党でしかない。
私も、NHKを相手とする訴訟に関与してはいるが、けっしてNHKをぶっ潰すべきだとは思っていない。立花のような乱暴な遣り口にも眉をひそめざるを得ない。こんな政党の同類と思われるのは、甚だ心外である。NHKには、ジャーナリズムの本道に立っていただきたい。さらには公共放送にふさわしい「公正で豊かな」番組の放映と、それを可能とする運営を望む立場。
そのN党の党首・立花孝志が、昨日東京地裁において威力業務妨害などの罪名で有罪判決を受けた。量刑は、懲役2年6か月、執行猶予4年である。相当の厳刑と言わねばならない。
認定事実は次のようなものと報じられている。相当にタチが悪い。
(1) 2019年にN国党(当時)を離党した二瓶文徳中央区議に「こいつの人生潰しにいきますから」とユーチューブ上で発言した脅迫
(2) NHK集金人の持つ情報端末にある契約者情報を不正に取得してインターネット上に拡散させると脅し、NHKの業務を妨害したという不正競争防止法違反と威力業務妨害
この事件の論告で、検察は「立花が、不正に取得した情報は50件に上り、結果は重大だ」として、懲役2年6月、罰金30万円を求刑していた。弁護側は最終弁論で「正当な政治活動だった」と無罪を主張したが、結果は厳刑と言ってよいだろう。
判決のあとの会見で立花は「政治思想で行った犯罪なので一切反省していない。」「執行猶予の理由を裁判所に明確に説明してもらいたいので控訴する」「執行猶予が付けばなにも変わらない。党首を辞めるどころか、懲罰もない」「裁判官はある意味、これからも(NHKと)戦ってくれと言っているのかな」「僕自身は有罪になる可能性は承知のうえでやっている」「刑事罰を受けるんじゃないかなと想定しながら動いている」などと放言している。
政党名が不真面目であるだけでなく、その活動も、乱暴で不真面目きわまるのだ。
ところが、そんな不真面目政党も、政党助成法にもとづく政党交付金を受給している。
政党助成法による政党交付金の受給要件は、
?国会議員5人以上
?国会議員1人以上で、直近の衆院選か参院選、またはその前の参院選で選挙区か比例区での得票率が2%以上――のどちらかを満たすこと。
N党は2019年参院選挙で?の要件を満たし、以後次の金額の交付を受けている。
19年 6983万円
20年 1億6751万円
21年 1億7053万円
そして、今年も2億1100万円の受給が予定されている。もちろん、税金を財源としてのもの。
何とも腹立たしく不愉快な事態だが、こんな不真面目政党に投票する有権者が存在するのだから如何ともしがたい。もっとも、N党は現在参議院議員1名だけである。そして、昨年の衆院選得票率は1.4%であった。
今夏の参院選、課題の一つがこのN党の議席をゼロとすることができるか。有権者の真面目さが問われている。
(2022年1月19日)
本日午後、東京地裁103号法廷で「NHK文書開示等請求」訴訟の第2回口頭弁論期日。原告(受信契約者)ら代理人の佐藤真理弁護士が弁論を担当した。
この訴訟、たいへんに興味深い展開になっている。この事件の被告は、法人としてのNHK(日本放送協会)と、個人としての森下俊三(経営委員会委員長)の二人。この被告両名の応訴姿勢が明らかに異なっている。森下は、自分の行為に違法はないとムキになっているのだが、NHKの姿勢は頗る微妙、決して森下に同調していない。むしろ、言外に「森下には困ったものだ」と言わんばかりの主張。真っ当ならざる森下と、真っ当に見えるNHKの主張が対照的である。
原告はNHKに対してかなり広範な文書開示を請求しているが、そのメインとなるものは、「上田NHK会長に厳重注意を言い渡した2018年10月23日開催の経営委員会議事録」である。この議事録の開示を求めて本件訴訟提起前に5度に渡る「文書開示の求め」があったが、ことごとく斥けられた。
そこで、本件原告らは、「もしまた、不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、「文書開示の求め」の手続に及び、所定の期間内に開示に至らなかったため、21年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく同年7月9日に至って「議事録と思しき文書」が開示されたのだ。
おそらくは、これだけで大きな成果と言ってよい。この「議事録」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが明確になったからだ。この局面では明らかに、経営委員会の無法にNHK執行部と番組作成現場が蹂躙されている構図である。結局は安倍政権以来、政権が関わる人事の全てがおかしいのだ。
もっとも、この「議事録と思しき文書」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではない。NHKが「議事録草案」と呼ぶものである。放送法41条で、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされている、適式の「議事録」については、いまだに不開示ということになる。真実、放送法の規定に反して、いまだに適式の議事録が作成されておらず、公表もされていないとすれば、森下の責任は重大である。その理由はどこにあるのか。森下主導の経営委員会が、放送法(32条)に違反して、番組(「クローズアップ現代+」)制作に介入していることが明らかになることを恐れたからである。
責任は、経営委員会、なかんづく委員長・森下俊三にある。無法・横暴な経営委員会とその委員長によって、NHK執行部と番組制作現場の報道の自由が蹂躙されている構図である。NHKは、一昨日乙1号証として「放送法逐条解説・29条部分」を提出して、文中の「経営委員会は、協会(NHK)の最高意思決定機関として設置したものである」という記述にマーカーを付けている。NHK執行部が、経営委員会にもの申すなどできようもない、という内心の溜息が聞こえる。
NHKが暴走することのないよう、放送法は、NHKの最高意思決定機関として経営委員会を置き、その重責を担う経営委員12名を「国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」という制度設計をした。当然に良識を備えた経営委員の選任を想定してのことである。ところが、この経営委員会が、とりわけその委員長が、政権の思惑で送り込まれ、明らかな違法をして恥じない。この事態に、内閣と国会とはどう責任をとろうというのだ。
本日陳述の原告第1準備書面の末尾は、以下の「被告森下に対する求釈明」である。
1 被告森下は、準備書面(1)(16ページ) において、「1315回の経営委員会において本件ガバナンス問題を審議するに先立ち、…その議事経過および資料を非公表とすることを協議して確認した」と主張している。しかし、同委員会議事内容の「粗起こし」と説明されている丙14には、そのような記載はまったくない。
録音を止めて協議し確認に至ったのか。後刻、この部分の録音を消去したのか。あるいは、他になにか事情があるのか。「丙14に非公表とすることを協議して確認した」形跡のないことの理由を明らかにされたい。
また、誰からどのような提案があって、どのような意見交換を経て、そのような確認に至ったのかを明らかにされたい。
2 被告森下も、適式な経営委員会議事録については、NHKのホームページ上 に公表すべきことを認めている。(準備書面(1) 12ページ)
今後速やかに、第1315?1317回の本件各経営委員会議事録を適式に作成の上、NHKのホームページ上に公表すべき予定ないしは意向があるか。
その回答を待ちたい。
なお、ここまでの訴訟進行の経過は下記のとおりである。
対NHK文書開示請求訴訟進行経過
?2021年6月14日 第1次提訴 (原告104名・被告2名)
☆被告NHKに対する文書開示請求
開示対象は2グループの文書
その主たるものは、下記経営委員会議事録。
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
☆被告両名に対する各損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、各1万円)
?同年 7月9日 NHK「3会議の議事録草案」原告らに開示
(?同年 9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合)
?同年 9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は開示済み)
?同年 9月21日 被告森下 答弁書
?同年 9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
?同年 9月24日 原告 甲1の1?4 NHK開示文書提出
◎同年 9月28日 第1回口頭弁論期日
(西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
?同年 12月 3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
?同年 12月 3日 被告森下 準備書面(1)「本件各文書はいずれも開示済」と言いながら、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認している。
?同日 被告森下丙1?32号証 提出
?2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
?同年 1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
◎同年 1月19日(本日)第2回口頭弁論期日
本日の法廷で陳述の原告第1準備書面の概要は以下のとおり。
?被告森下の原告に対する不法行為成立要件についての下記求釈明事項3点に対する回答をメインとするもの
?(1) 違法行為の特定
経営委員として及び経営委員会委員長としての議事録作成・公表すべき義務を定めた放送法41条違反(その動機として32条違反)に連なる一連の行為が、行政法規違反というだけでなく民事的な違法ともなっている。
?(2) 被侵害権利は、受信契約に基づく各原告の情報開示請求権であるが、これは国民の「知る権利」を具体化した民事的請求権である。
?(3) 慰謝料請求額を1万円とした根拠は、請求金額の常識的な最低額としての金額設定である。
今後の日程は、
2月末日までに被告森下が求釈明に回答の準備書面を提出、
その内容を踏まえて、原告からの本格書面を提出。
次回第3回口頭弁論期日は、4月27日(水)午後2時開廷。
その頃には第6波収束を願うばかり。
(2021年10月9日)
NHKを被告とする情報公開請求訴訟に関連して、「NHK情報公開・個人情報保護センター」との文書のやり取りが頻繁である。私どもの窓口は醍醐聰さんで、同センターから醍醐さん宛の文書が入ってくるが、この日付が元号を使わず、すべて西暦表示であることを興味深く眺めていた。
迂闊にも気付かなかったが、この西暦表示は、情報公開センターだけではない。NHKの内部文書は、すべて西暦表示に切り替わっているようである。少なくも、経営委員会関係の文書も、理事会の文書も、すべて西暦表示に統一されている。
情報公開請求で開示された文書の一つに、「監査委員会監査実施要綱」という細則がある。その改正の経過が、「平成28年7月26日」の次が、「2020年1月1日」なのだ。この間のどこかで、元号表示から西暦表示への切り替えが行われている。
この切り替えはいつだったのだろうか。推理すれば、最もあり得るところは元号の替わり目を避けるタイミングではないかということ。元号の替わり目は2019年における、「平成31年4月⇒令和1年5月」という中途半端な時期。だとすると、同年の3月末日で平成という元号の使用をやめて、新年度の始まる4月から西暦表示にしたのではないか。つまり、「平成30年度の末日である平成31年3月末日」までを元号表示とし、その翌日つまり、「2019年度の最初の日である2019年4月1日」から西暦表示を始めたのだろう。
こう見当を付けて調べて見たら、ドンピシャリだった。NHKの最高意思決定機関である経営委員会も、これに附随する監査委員会も、NHKの理事会も、すべての文書議事録は、2019年4月1日以降は西暦表示に統一されている。このことは、あまり話題になっていないが、注目すべき出来事だと思う。
つまり、NHKは少なくとも内部の事務文書では、平成から令和という元号に切り替える煩わしさを避けて、令和は使わないことにしたのだ。
この切り替えの時期の経営委員会議事録も、理事会議録も、西暦表示への切り替えについて語るところはない。ひっそりと切り替えたという印象。おそらく、この変更は周到に練られ準備されてのことだろう。この決断はNHKのビジネスの効率化に役だったものと思われる。
もっとも、NHKは放送ではいまだに元号を使っている様子なのだが、追々と西暦表示に変わって行くことになるだろう。
ところで、情報公開文書の中に、西暦表示に関して次のような興味深い文書がある。
「 確 認 書
2020年4月1日から2021年3月31日までの、日本放送協会の経営委員会委員としての職務執行について、「経営委員会委員の服務に関する準則」に定められた内容を理解し、それに基づき行動したことを報告します。
第6粂(機密保持)については、経営委員会委員の職を退いた後もこれに基づき行動します。」
定型文書の書式が西暦表示であり、これに森下俊三以下の経営委員が年月日を記入して、署名している。経営委員は12名だが、開示されたものは期をまたがって入れ替わった委員を含む14名。森下俊三以下13名が素直に、署名の日を西暦表示にしていることが、印象的。
中で、「令和3年4月6日」と元号表記にこだわっている人がたった一人、おそらくは、その思想の発露と思われる、長谷川三千子委員である。
(2021年9月28日)
NHKを、真に独立したジャーナリズムに育てようという壮大な市民運動。その一環としてのNHK情報公開請求訴訟。本日、東京地裁103号法廷で、その第1回期日が開かれた。
コロナ禍のさなか、おそらく傍聴希望者は少数に留まるという予想ははずれた。傍聴券は抽選となった。漏れた方にはお詫びするしかない。午後1時からの議員会館での報告集会も盛会だった。
法廷では、予定の通り、下記の原告と原告代理人(計4名)の口頭意見陳述が行われた。
(1) 西川幸さん(視聴者の立場から)
(2) 長井暁さん(副原告団長・元NHKチーフプロデューサー)
(3) 醍醐聰さん(原告団長・東大名誉教授)
(4) 澤藤大河弁護士(原告ら訴訟代理人)
代理人意見陳述要旨を掲載して、報告としたい。
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原告ら代理人意見陳述要旨
原告ら代理人弁護士澤藤大河
先に 3 名の原告がお話しした通り、この訴訟の目的はNHKに正しく情報公開制度を運用させ、それを確立することにあります。
組織は往々にして、腐敗します。腐敗した自らの組織とその幹部を守るために、あらゆる手段を使い、その責任の所在を隠そうとします。
このような腐敗を許さず、民主的な運営をさせる要諦は、運営の透明化にあります。その透明化の切り札が情報公開です。民主的であることを標榜する組織は、積極的に内部情報を公開するとともに、要求あれば特定された文書の開示請求に応じなければなりません。説明責任遂行に伴う情報公開の全うこそが、あらゆる組織の民主的運営の土台というべきです。
今、情報公開請求裁判は数多く起こされています。その訴訟の形式は、多くは行政機関・あるいは独立行政法人を対象とした行政訴訟です。
「行政機関情報公開法」、あるいは「独立行政法人等情報公開法」に基づいて文書開示を請求し、不開示決定を得た場合に、その「不開示という行政処分」の取り消しを求める訴訟なのです。
しかし、NHKには、どちらの法律の適用もありません。「独立行政法人等情報公開法」は、192にも上る独立行政法人あるいは特殊法人を対象としていますが、NHKは意識的に適用外とされています。
これは、決してNHKについて情報公開する必要がないからではありません。NHK自らが組織した「NHK情報公開研究会」は 2000 年 11 月に、「NHKの情報公開のあり方に関する提言」を発表しています。NHKの情報公開制度を基礎づけた重要な文書です。
ここには、以下のような格調高い文章で、NHKが社会的に大きな意義を持った存在であるべき事が高らかに唱われています。
「放送や新聞などのマスメディアは、いわゆる社会の公器として公的な役割を担っており、とりわけNHKには、国民共有の財産である電波を利用し、視聴者が直接負担する受信料によって運営される公共放送であることから、より高い公共性とそれに伴う説明責務(アカウンタビリティ)が求められる。」「NHKの持つ説明責務は、政府や行政機関のそれとは異なり、NHK自身が視聴者に対して負っている「視聴者に対するNHKの説明責務」であることを、NHKはまず深く認識することが重要である。」
要するに、NHKは、政府や行政機関とは異なり、マスメディアとして視聴者に対して直接説明責任を負っているということです。情報公開法が制定された際の「特殊法人情報公開検討委員会」では、NHKは、「政府の諸活動としての放送を行わせるために設立させた法人ではない」とされ、特殊法人等情報公開法の対象法人とはしないことが確認されています。
これも、NHKが政府の下請宣伝機関ではなく、独立したマスメディアであり、その独立性が非常に重要であることを確認しているといえます。
情報公開の重要性を自覚したNHKは、視聴者への説明責務を果たすために、内規として独自の情報公開制度を定めました。今回、原告らが情報公開を求めたのは、この制度を利用したものです。ところが、NHKの姿勢は、これらの情報公開制度について、これはあくまでも内規に過ぎず、法的な効果をもつものではないとでも言わんばかりです。「裁判所に持ち込まれることなどあり得ない」というNHKや経営委員会の思い込みが、これまでの開示請求に対する不誠実な対応の原因の一つと考えられます。
これは、法的には、非常に影響の大きな、重要な争点です。ある者が義務を負いそれを認めているのに、義務を負う根拠が自分で決めた内規であるということで、司法判断を免れるということが許されるのでしょうか。司法判断を受けなくて済む領域を自ら勝手に設定することができるものでしょうか。
裁判を受ける権利は憲法上保障されており、勝手に司法判断を拒否できるものではありません。NHKが視聴者に対する情報公開制度を作り、この制度の存在を公表し、実際に運用してきました。そうである以上、この制度を遵守することが、NHKと視聴者との間の受信契約の内容となっている、と私たちは考えています。
また、これら内規は、NHKが行政機関ではなく、政府から高い独立性をもって特別な報道機関としてその任務を果たすために、情報公開諸法の対象から外されたことから制定されたはずのものです。報道の自由を支えるために情報公開諸法の対象から外されたのです。それなのに、この内規が、報道現場を経営陣がコントロールし、政府に迎合する報道をするための手段として使われている奇妙なねじれが生じています。
行政訴訟ではなく、民事訴訟として、受信契約にもとづく文書開示請求権の行使として請求するこれまでに前例のない訴訟が、本件なのです。
さらに、この訴訟は、NHKだけを被告にしているのではありません。NHK経営委員会森下俊三現委員長を、二人目の被告として、個人に対する損害賠償請求もしています。
NHKの最高機関は、「NHK経営委員会」です。経営委員会が、会長の任命権限を持ち、罷免する権限も持っています。その経営委員会委員長が、元総務事務次官からの要請を受けて、明らかに「かんぽ生命不正報道」の番組制作を妨害して、制作現場に土足で踏み込んだのです。明らかな放送法違反であり、民事法上も違法な行為をなしたのです。
この訴訟で開示を求めている中心的な文書は経営委員会議事録です。その議事録が出せない、あるいは議事録の公開が遅延したのは、現委員長森下俊三の番組制作妨害が議事に関わっているからだというのが、私たちの主張です。この点に関しては、被告森下氏の認否にもよりますが、今後の訴訟活動として、被告森下氏の不法行為を十分に主張するつもりです。経営委員長として議事録を作成せず公開しなかったことが不法行為です。
そして、議事録不開示の動機は、森下氏が番組制作・放送妨害に介入したことを隠蔽するためです。本件においては、隠蔽しようとしたという動機も重要です。故意不法行為であることや動機の悪質性は慰謝料の増額事由となるからです。
最後に申し上げますが、私たちはNHKを敵視していません。政府から独立し、民主的で透明な運営がなされる良質のジャーナリズムを支える存在として、その価値を発揮することを望んでいます。本件訴訟はNHKに透明な運営をもたらすために極めて重要な意義があります。
裁判所においては、本件訴訟は、NHKという大きな報道機関の運営を正常化し透明性を確保させるという重大な意義があることを、是非ご理解いただきたいと思います。
(2021年9月24日)
NHKを行政のくびきから解放して、真に独立したジャーナリズムに育てようという壮大な市民運動。その一環としてのNHK情報公開請求訴訟にご注目とご支援をお願いいたします。
その第1回期日が目前です。当日のスケジュールは以下のとおり。
日時 9月28日(火)午前10時40分から約1時間
法廷 東京地裁103号(1階の「大法廷」)
(傍聴には、10時20分からの抽選が予定されています。しかしコロナ禍のさなか、おそらく満席にはならないと思われます)
法廷では、下記の原告と原告代理人(計4名)の口頭意見陳述が行われます。
(1) 西川幸さん(視聴者の立場から)
(2) 長井暁さん(副原告団長・元NHKチーフプロデューサー)
(3) 醍醐聰さん(原告団長・東大名誉教授)
(4) 澤藤大河弁護士(原告ら訴訟代理人)
その後、下記のとおり報告集会を行います。こちらにもぜひご参加を。
時間 13:00 ?
場所 参議院議員会館 B108会議室
この訴訟の原告は104名の受信契約者(視聴者)、被告はNHKと森下俊三(経営委員長)の2名。被告NHKに対しては「文書の開示」を請求し、被告森下には文書開示を懈怠した責任者として損害賠償をせよという内容。
被告NHKに対して開示を求める最重要の文書が、「2018年10月23日のNHK経営委員会議事録」。放送法41条は、「委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」と、経営委員会委員長の任にある者に経営委員会の会議議事録の作成と公表を義務付けている。しかも、「遅滞なく」である。
ところが、法律で明確に定められたこの義務は、履行されていない。なぜか。経営委員会にとって都合が悪いものだから出せない、と考えざるを得ない。
この日の経営委員会で何が行われたのか。森下主導で経営委員会は、当時の上田良一NHK会長に「厳重注意」を言い渡した。これは、NHKの良心的番組「クローズアップ現代+」が取りあげた「日本郵政のかんぽ生命不正販売問題」の制作妨害の意図によるものである。
つまり、NHKの最高意思決定機関である経営委員会が、外部勢力(日本郵政)の意を受けて、NHKの番組潰しを画策したのだ。経営委員会は具体的な番組の制作に干渉してはならない、とする放送法32条に違反する、明らかな違法行為。
この文書については、これまで5件の開示請求(NHKの手続では「開示の求め」という)があり、NHKが委嘱した「情報公開審議委員会」は5度に渡って、NHKに公開すべしと答申したが、NHK(実質的には経営委員会)が答申を拒否した。
そこで、原告らが、「仮に今度も開示を拒否されたら提訴する」ことを宣言して、開示の求めを行い、所定の期限までに開示に至らなかったことで、提訴に及んだのがこの訴訟なのだ。
原告らは今年の4月7日に「開示の求め」を行い、提訴は6月14日となった。その後、7月9日になって、『議事録』が開示された。提訴の効果として、一定の前進あったことの評価はやぶさかではない。
しかし、実は問題が解決したわけではない。もし、この『議事録』が放送法の定める議事録だとすれば、当然に公表されなければならないところ、この議事録は文書開示の求めをした当事者には写しが交付されているが、誰もが見ることができるように「公表」されていない。通常、公表はNHKのホームページに掲載されるが、今に至るもその掲載はない。
しかも、この議事録には「別紙」が付されて、「これは経営委員会の確認を経ていない」旨が明記されている。果たして、7月9日交付を受けた文書が、原告らが開示を求めた文書であるかについては、いまだ納得しえない。そんな経緯の中で、第1回法廷を迎える。
なお、被告森下の答弁書は、9月21日の夕方ファクス送信されてきた。請求の趣旨に対する答弁だけで、何の内容もないもの。被告NHKの答弁書は9月22日の夕刻だった。こちらは、さすがに内容のあるものだった。
そのNHKの答弁は、「既に請求された情報開示は実行されている」というものだが、原告が納得できるようにはなっていない。原告は、文意必ずしも明確とは言えないとして翌23日付の求釈明書を提出している。28日の法廷は、この点のやり取りが中心となる。
NHKの答弁書を一瞥して、それなりの真摯さを印象づけられた。いたずらに論点をはぐらかしたり、挑発的な、あるいは居丈高な姿勢はない。認めるところは認めるという穏当な答弁。
この訴訟にはメディアの関心が集中しており、メディアの背後にはNHKのあり方を憂慮する広範な国民が存在している。私は、NHKがそのことを意識してこその、この答弁書の姿勢だと思う。
そしてもう1点。原告は、決してNHKを非難し追及しているわけではない。むしろ、励ましているのだ。この件では、元総務次官の日本郵政上級副社長・鈴木康雄と、当時は経営委員長代行だった森下俊三との二人が、良心的番組潰しの両悪役である。NHK執行部は、番組制作の現場を守ろうとして力が足りなかったと言ってよい。原告らは、森下とNHK執行部との責任の強弱を明確に区分して認識している。NHKには、そのような原告の思いが伝わっているのだとも思う。
(2021年9月13日)
日本最大のマスメディアであり、世論の形成にこれ以上の影響力を持つ組織はないと思われるのが公共放送・NHK。一面「放送の自由」を掲げるジャーナリズムでありながら、放送法という法律に設立と運営の根拠をもつ特殊法人として、強く行政の規制を受けざるを得ない微妙な存在。市民が育てなければならない
そのNHKに、情報公開の面から切り込む、初めての「NHK情報公開請求訴訟」の第1回口頭弁論期日が迫ってきました。
日時 9月28日(火)午前10時40分から約1時間
法廷 東京地裁103号(1階の「大法廷」)
(傍聴は抽選が予定されています)
弁護士の意見陳述だけでなく、原告団長の醍醐聰(東大名誉教授)さん、副団長の長井暁さん(元NHKチーフ・プロデューサー)、西川幸さん(視聴者の立場から)の3人が、口頭での意見陳述をします。
コロナ禍さなかの口頭弁論ですが、是非傍聴をお願いします。傍聴席の抽選は予定されていますが、当初の予想よりは傍聴者は少なそう。もちろん、どなたも抽選に参加できます。身分証明も不要です。終了後には、小集会も予定しています。
組織の民主化の要諦は、運営の透明化にあります。その透明化の切り札は情報公開に尽きます。民主性を標榜する組織は、積極的に内部情報を関係者に提供するとともに、要求あれば特定された文書の開示請求に応じなければなりません。説明責任遂行に伴う情報公開の全うこそが、すべての組織の民主的運営の土台というべきです。
いま、情報公開請求裁判は数多く起こされています。その訴訟の形式は、行政訴訟です。「行政機関情報公開法」、あるいは「独立行政法人等情報公開法」に基づいて文書開示を請求し、不開示決定を得た場合に、その「不開示という行政処分」の取り消しを求める訴訟なのです。
しかし、NHKには、どちらの法律の適用もありません。「独立行政法人等情報公開法」は、192にも上る独立行政法人あるいは特殊法人を対象としていますが、NHKは意識的に適用外とされています。NHKは、内規によって独自の情報公開制度を定めていますが、これは飽くまでも自主規制規則に過ぎず、法的な効果をもつものではない、というのがNHKの姿勢です。「裁判所に持ち込まれることなどあり得ない」というNHKや経営委員会の思い込みが、これまでの開示請求に関する不誠実な対応の原因の一つと考えられます。
NHKが視聴者に対する情報公開制度を作り、この制度の存在を公表し、実際に運用してきた以上は、この制度を遵守すべきことが、NHKと視聴者との間の受信契約の内容となっている、というのが私たちの主張の柱です。
行政訴訟ではなく、民事訴訟として、受信契約にもとづく文書開示請求権の行使としての、これまでに前例のない裁判が、「NHK情報公開請求訴訟」なのです。是非、ご注目ください。
なお、この訴訟は、NHKだけを被告にしているのではありません。あの、悪名高い、NHK経営委員会森下俊三委員長を、二人目の被告として、この人に損害賠償請求をしています。
NHKの最高機関は、「NHK経営委員会」です。経営委員会が、会長を任命もし、罷免もする権限をもっています。その経営委員会委員長が、元総務事務次官からの要請を受けて、明らかに「かんぽ生命不正報道」の番組制作を妨害して、制作現場に土足で踏み込んだのです。明らかな放送法違反です。
この訴訟で開示を求めているメインの文書は経営委員会議事録です。その議事録が出せない、あるいは議事録の公開が遅延したのは、委員長森下俊三の番組制作妨害が議事に関わっているからだというのが、私たちの主張です。
NHKを、真のジャーナリズムに育てようという、壮大な国民運動の一環としてのNHK情報公開請求訴訟にご注目とご支援をお願いいたします。
(2021年7月27日)
昨日(7月26日)の毎日新聞8面に、青島顕記者の[NHK経営委の議事録]についての解説記事。「全面開示まで2年も」「第三者機関答申 一時ほご」の見出しが付けられている。「ほご」は、「反故(ないし反古)」のこと。NHK経営委は、NHKが自ら定めた情報公開制度における第三者機関からの全面開示答申を一時は反故にした。そのため、問題の議事録がようやく公開されるまで2年もかかったという内容。
https://mainichi.jp/articles/20210726/ddm/004/040/023000c
私の確信するところでは、経営委員会に議事録公開の決断をさせたものは、本年4月における「不開示の場合には提訴」を予め宣言しての市民100名余による文書開示請求であり、6月の文書開示請求訴訟の提起である。残念ながら、毎日記事はこの点についての言及がない。
とは言え、この毎日記事は、(NHKというよりは)経営委員会の隠蔽体質と情報公開制度への無理解を鋭く批判する内容になっている。この件の報道については当紙(毎日)が先鞭をつけてきたとの自負が前面に出て微笑ましいが、毎日の功績は誰もが認める立派なもの。
この記事を読んであらためて思う。行政文書の開示請求への拒絶が問題となるのは、文書の公開を不都合とする行政当局者の姿勢の故である。結局のところ、公開を不都合とする行政の実態があり、これを隠蔽しなければならないからなのだ。国民の目の届かないところで、国民に知られては困る行政が進められていることが根本の問題なのだ。
情報公開とは、国民の利益のために行政に不都合な情報の公開を強制する制度である。この制度の改善と活用は、行政の透明性を高め、歪んだ密室行政を是正するために不可欠である。
NHK(日本放送協会)は行政機関ではなく、「独立行政法人等情報公開法」の適用対象となる「独立行政法人等」にも該当しない。しかし、情報公開法に倣った情報公開制度を自ら作っている。その制度の趣旨は、情報公開法と変わるところはない。「視聴者・国民の目の届かないところで、視聴者・国民に知られては困るようなNHKの運営が行われないように、NHK経営委や執行部に不都合な情報の公開を強制する制度である。この制度の進展と活用は、NHK運営の透明性を高め、歪んだNHK運営を是正する」ことにつながる。
この点を、毎日記事は、NPO法人情報公開クリアリングハウス三木由希子理事長の次のコメントを引いて批判してしている。まったくそのとおりと思う。
「(行政であろうと、独法であろうと、またNHKであろうとも)公共性のある組織の情報公開のあり方を、経営委は理解できていなかった。それが問題の根本にある」
さらに、毎日記事が批判の対象としたのが、今月8日、経営委が問題の議事録を全面開示を前にホームページに発表した下記の見解。
「18年当時の経営委での非公表を前提としたやりとりが、経営委のあずかり知らぬところで、マスコミに報じられたことは大変遺憾。ガバナンスの基本である情報管理の徹底に向けて、更なる機密保持の強化を検討する」
ここでいう「マスコミ」が毎日を指すことは周知の事実。毎日が、黙っておられるはずはない。経営委の「ガバナンスの基本である情報管理の徹底に向けて、更なる機密保持の強化を検討する」は、本来漏れてはならない個人情報等についていうべきこと。公表すべきにもかかわらず隠蔽を批判された文書について、開き直っての「機密保持強化宣言」は、「文書隠蔽強化宣言」にほかならない。
この点について毎日記事は、次の三木由希子の批判のコメントを引用している。
「危険な考え方だ。知らされるべき公益性があれば報じるのが報道機関の役割だ。『機密保持の強化』は単なる隠蔽工作の強化にならざるを得ない」
NHK経営委員会は、追い詰められて渋々と、隠したかった議事録を公開した。しかし、その土壇場でのこの悪あがきである。はっきりしていることは、経営委員会は情報公開制度の趣旨をまったく理解していないことである。この会議の当時も、そして今にしてなお、である。
(2021年3月17日)
NHK番組「クローズアップ現代+」が、スクープとして放映した「日本郵政職員のかんぽ保険不正販売問題」。元総務次官の日本郵政上級副社長鈴木康雄が、この番組にクレームを付けると、NHK経営委員会は鈴木に迎合した。何と、鈴木の意を酌んで、上田良一会長を厳重注意としたのだ。経営委員会でその中心的役割を果たしたのが森下俊三。当時は委員長代行で、現委員長。
さて、経営委員会でのどのような議論を経て、異様な「会長厳重注意」に至ったのか。メディアが議事録の開示請求をしても、経営委員会がこれを出させない。第三者機関「NHK情報開示・個人情報保護審議委員会」が、5度にわたって「開示すべき」と答申したにもかかわらず、どうしても応じようとしない。
それなら、訴訟するしかないではないか。訴訟提起を構想して見ようということになった。以下がその試案である。
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NHKに対して経営委員会議事録等の開示を請求し、開示が得られなければ訴訟を提起しようと考えています。その際の訴訟における請求は以下の2点です。
?被告NHKに対する、経営委員会議事録開示請求
?被告森下俊三に対する、議事録不開示による損害賠償請求
その請求の根拠は、概要以下のとおりです。
《NHK情報公開制度と用語の整理》
※ NHKには、行政文書情報公開法の適用はない。
※ これに代わるものとして、NHKは情報公開に関する内規として、00年制定の「NHK情報公開基準」と、01年の「NHK情報公開規程」とを定めている。前者が綱領的に制度の概要と理念を示し、後者がそれを条文化したもの。
※ この内規では、情報公開法と同様に「情報公開」制度を「情報提供」「情報開示」とに二分している。「情報提供」は典型的にはホームページへの掲載という一般的なもので、「情報開示」は特定の視聴者からの特定の文書についての開示請求に応じるもの。
※「情報公開」制度における文書開示の請求を、NHKの内規では、文書についての「開示の求め」という用語を用いている。
※ 視聴者から文書の開示の求めがあった場合、開示を原則とするが、規程8条1項一?六号に該当する場合は例外とされる。
※ 視聴者は、「開示の求め」に対する判断に不服があれば、「再検討の求め」を行うことができる。(規程17条)
※ NHKは、「再検討の求め」があれば、「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」に意見を求め、「その意見を尊重して」最終的に開示・不開示の判断を行う。(規程21条)
《訴訟の全体像》
※ 訴訟の基本性格は、行政文書の公開請求に対する不開示決定を取り消す行政訴訟ではなく、視聴者がNHKに対する受信契約上の「文書開示請求権」にもとづいて、「当該議事録等」の文書の開示を求める民事訴訟となる。
※ 下記の民事訴訟ではあるが、情報公開法の理念を援用しての訴訟となる。
原告は、文書の「開示の求め」手続を経て、開示を拒否された視聴者
(今回は「再検討の求め」の手続を経ることなく提訴する。)
被告は2名。(1) 文書開示義務の主体であるNHKと、(2) 文書開示拒否の責任者である森下俊三
請求の趣旨 (1) 被告NHKは原告らに対して、各議事録を開示せよ
(2) 被告森下俊三は各原告に対して、それぞれ2万円を支払え
《被告NHKに対する文書開示請求の根拠》
☆原告と被告NHK間に受信契約が締結されている。
☆受信契約の効果として、被告NHKは原告視聴者に対し下記義務を負担している。
A「豊かで良い番組」(法1条)の放送を提供すべき義務(中心的債務)
B 視聴者の権利に関わる法令・内規を遵守すべき義務(付随的債務)
☆NHKの法令・内規の内、
視聴者の権利に関わるものについては、その履行が契約上の義務となる。
☆上記Bには、情報公開基準・同規程における「情報開示義務」を含み、NHKは、文書の開示の求めをした視聴者に対し、求められた文書の開示義務を負う。
☆開示請求権の根拠となる理念は、公開基準前文の「放送による表現の自由確保」と「視聴者に対する説明責務」にある。これが、具体的な開示可否の判断基準ともなる。当該議事録の開示は、まさしくその両者の検証に不可欠である。
☆開示請求権の要件は、当該文書が規程第3条の(役職員が業務上保有する)文書に該当することで足りる。開示が原則で、例外の主張は被告の抗弁となる。
☆開示の求めに対する応答が不開示であった場合、通例、再検討の求めに進んで、審議会の意見を待つことになる。しかし、本件議事録に関しては、既に5度の開示を指示する答申が出ており、不開示の不当違法は明らかである。
☆基準も規程も、「NHKは審議委員会答申を尊重して開示・不開示の判断を行う」と、《答申尊重義務》を明記している。NHKはこの《答申尊重義務》を履行して、開示しなければならない。
☆NHK側の不開示の理由は、「当該議事は非公表を前提とした審議・検討に関する内容で、これを公開したのでは今後の活発な議論の妨げになる」というものだが、既に審議会答申が十分な反論をしている。
《被告森下俊三に対する、文書開示拒否を理由とする請求》
★併せて、違法な文書不開示の責任者である森下俊三に対して、文書不開示によって原告に与えた精神的損害慰謝料1万円と、弁護士費用1万円を請求する。
★この請求は、契約の不履行による責任追及ではなく、不法行為に基づく損害賠償請求である。