(2021年3月6日)
本日(3月6日)の毎日新聞夕刊の第5面(放送欄)に、「問われる公的機関の自覚」の大きな横見出し。「公的機関」とはNHKのこと。「NHKよ。汝に公的機関としての自覚はあるのか」と、問うているのだ。
https://mainichi.jp/articles/20210306/dde/018/040/006000c
もっとも、自覚を問われているのは、けっしてNHK全体ではない。その最高意思決定機関である経営委員会であり、なかんずく経営委員長の森下俊三である。もっとも、この人に公的機関幹部たるの自覚を求めることは無意味といわざるを得ない。既に経営委員としての資質を欠落していることが明らかなのだから、速やかに辞職してもらわねばならない。
毎日記事の見出しは、「NHKかんぽ報道問題 審議委が議事録全面開示再び答申 元委員・宍戸常寿教授に聞く」と続いている。新事実の報道はないが、問題点を上手にまとめている。読者は、「元委員・宍戸常寿教授」と一緒に、怒らざるを得ない。NHKとは、経営委員会とは、そして森下俊三とは、なんて酷いんだ、と。その酷さは、政権の酷さに直結している。
私なりに、経過と問題点を噛み砕いて説明してみよう。まず、何があったか。
◇ NHKは2018年4月の「クローズアップ現代+」で、かんぽ生命保険の不正販売を報道した。これは、スクープであっただけでなく大規模な消費者被害摘発報道としてNHKの制作現場の能力と意気込みを示した優れた番組であった。NHKの健在を示す表彰ものと言ってよい。
◇ ところが、これに加害者側の日本郵政グループが噛みついた。7月に、「クローズアップ現代+」が続編の放送を予告し、情報を募るネット動画を投稿したところ、「悪役その1」が登場した。元総務次官で日本郵政筆頭副社長の鈴木康雄。NHK経営委員会に、番組続編報道予告の削除を要求した。
◇ このような外部からの理不尽な攻撃から、番組制作現場を守るのが、NHK本部や経営委員会の役割である。とりわけ、放送法上NHKは、「予算、事業計画を総務大臣に提出しなければならず、総務大臣はこれに意見を付し、内閣を経て国会に提出し、その承認を受けなければならない」。NHKは総務省には弱い立場にある。だからこそ、元総務次官や郵政グループの圧力に屈してはならない。
◇ しかし、「悪役その1」に同調したNHK経営委員会は10月の会合で、当時の上田良一会長を厳重注意とした。この議事をリードしたのが、森下俊三経営委員長代行(当時)、「悪役その2」の登場である。上田会長は事実上の謝罪文を郵政側へ届けさせた。厳重注意を行った経営委会合で委員複数が番組を批判したことも明らかになり、放送法が禁じる委員の番組介入が疑われている。
◇ こうして、番組続編の放送は無期延期となり、情報を募るネット動画は削除された。立派な番組を作った現場は、悪役の2人とその取り巻きによって、一時的にせよ、押し潰された。いったい、どんな議論によって「石流れ、木の葉沈む」理不尽な結論に至ったのか。誰がどんな発言をしたのか。議事録を見たい。議事録を見せろ。
◇ 放送法41条は、経営委員会の会義議事録の作成と公開を義務付けている。ところが、経営委員会は議事の要約は出しても議事録は出さない。そこで、毎日新聞社が、NHK自身の定めによる情報公開制度に基づいてこの議事録を請求した。NHK本部や経営委員会が公開を拒否した場合、NHKが設置する第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」(以下、「審議委」という)がその当否を判断する。審議委は2020年5月、経営委議事録を全面開示すべきだとする答申を出した。
◇ それでも、経営委員会はこれに従わない。そこで審議委の元委員でもある宍戸常寿・東京大大学院教授(憲法・情報法)らが2回目の情報公開請求をした。これに対して、この2月改めて再度の全面開示答申が出た。これが、経営委員会が挙げてきた公開できない理由を全て否定した立派な内容。これについて、毎日新聞が宍戸教授から、要点を聞いているのが、以下の本日夕刊の記事。
◆ 宍戸教授の今回の答申についての総括的な感想は、「前回の答申の後、経営委が挙げた『開示できない理由』を全て否定し、かなり踏み込んだ内容だ。審議委の強い思いを感じる」。
◆ 答申が特に問題視したのは、前回の全面公開答申に対し経営委が要約した文書しか開示しなかったこと。今回の答申では「要約された文書は開示の求めの対象文書との同一性を失ったもの」として、「制度の対象となる機関自らが手を加えることは制度上予定されておらず、対象文書の改ざんというそしりを受けかねない」と経営委を厳しく批判した。宍戸教授は「そもそも情報公開制度は、対象文書をありのままに見せることが大前提。答申では、不開示の理由があったとしても、対象文書の全部または一部を黒塗りにし、不開示部分が分かるように回答するものだとも述べている。情報公開について一から教えてくれている、教科書のような答申だ」と話す。
◆ 放送法41条の存在にもかかわらず、経営委は内規を根拠に議事録全体の公開を拒んできた。しかし、今回の答申では「当該組織体が非公表としたことだけで(議事録が)当然不開示になるということではない」と指摘。「視聴者から開示請求があった場合は、その都度、情報公開の可否について当審議委員会の審議に付される必要がある」と強調した。宍戸教授は、この記述に注目。「経営委が『非公開にしたい』と思うものを、いくらでも非公開にできるわけではないと言っている。審議委の存在も含め、NHK全体の情報公開制度やガバナンスが成り立つことを強調した」と指摘する。
◆ また答申では、当時委員長代行だった森下氏ら複数の経営委員が放送法違反の番組介入が疑われる発言をし、会長を厳重注意していたことなどが国会やメディアで取り上げられ、「NHKの公共性、透明性、経営委の議事の経過などに疑念が呈されている」ことにも言及。受信料で運営される公共放送として「視聴者に対する十分な説明責任が求められている」とも述べた。宍戸教授は「これでも審議委の答申を無視するならば、開示しない理由を国民に説明する責任がある。経営委の公的機関としての自覚が問われている」と話す。
市民運動としての第3次の情報公開請求の取り組みが準備中である。仮に、それでも情報公開に応じないようなら、提訴の工夫があってしかるべきである。経営委員会・森下俊三、なにゆえにかくも頑なであるのか、NHKと総務省の闇は果てしなく深い。
(2021年2月16日)
私は、スポーツの観戦に興味がない。母校が出場した高校野球だけが例外だった。甲子園は同窓会の場でもあったから顔を出したが、それ以外にはスポーツ観戦の記憶がない。子供が幼いころ、アンドレア・ジャイアントの興行を見に行ったことがある。あれをスポーツと言えば、もう一つの例外であったろうか。
スポーツのルールをよく知らない。とりわけ、「氷上のチェス」といわれるカーリングである。話題となってもついていけないし、何が面白いかさっぱり分からない。
ところが、昨日(2月15日)の朝のこと、寝床で聞いていたラジオのスポーツニュースで目が覚めた。カーリング日本選手権の女子決勝、北海道銀行が平昌五輪銅メダルのロコ・ソラーレに7?6で勝利したという。この報告だけなら面白くもおかしくもないのだが、その解説に驚いた。
こんなことは常識なのだろうか。カーリングの試合には『審判がない』のだそうだ。各自がフェアプレー精神にのっとって試合を行うことが当然とされ、ルール違反は飽くまで自己申告制だという。問題あれば、審判の裁定ではなく競技者間の協議で解決するのだとか。私には初耳のこと。スポーツは野蛮と決めつけてきたは間違いか。なんと成熟したスポーツの世界があるものだろうか。
報じられた試合は、北京オリンピック出場もかかっていた。道銀は、この試合に敗れれば確定的に出場権を失うのだという。当事者にとっては大事な試合。
その大事な試合の競り合いの中での第4エンド、A選手のラストショットがハウスの中心にピタリとみごとに決まって道銀勝利の流れがつかめたという局面。ここで、スイープしていた同じチームのB選手のブラシがストーンにわずかに当たったのだという。これはファウル。せっかくの得点のチャンスが失われただけでなく、反則点として相手チームに2点を献上することになった。この反則が、審判の指摘によるものではなくB選手の自己申告なのだという。
ラジオの解説によれば、ここで後れをとった道銀チームの誰もがBの自己申告を当然として動じることはなかったという。健気に声を掛け合って全員で前向きに試合を進め、1点を追う最終第10エンドで2点を奪って逆転劇を演じた、というハッピーエンド。正直のところ詳細はよく把握しきれないが、できすぎたお話。
自チームの不利を承知でファウルを自己申告した道銀選手のフェアプレーに拍手を送りたい。しかも、ラジオの解説によれば、ビデオをよく見ると、錯綜した状況ではあったが実はファウルではなかったようなのだという。それほど微妙な「ファウル」の自己申告だったのだ。
言うまでもなく、北海道銀行とそのカーリング・チームとは、「別人格」である。銀行業務と選手のプレーとは、もちろん別のことである。しかし、このフェアプレーは銀行のイメージを大いに高めたに違いない。道銀の行員が、顧客を欺したり、告知すべきことを故意に隠したりはしないだろう。きっとフェアな姿勢で接してくれる、こういう企業イメージが形作られた。
かつて、三菱銀行などが融資とセットで変額保険を売った。銀行の堅実なイメージを信頼してリスク商品を売り付けられた顧客は怒った。最近では、日本郵政の職員が、官業時代の郵便局の固いイメージを信頼した多くの顧客に「かんぽ生命の保険商品」を不正販売した。スルガ銀行の例もある。今や、金融機関の信用の劣化はとどまるところを知らず、昔日とは隔世の感がある。しかし、北海道銀行だけは、率直・正直・フェアでクリーンなイメージを獲得した。
企業は消費者に選択をしてもらわねばならない立場だから、その顧客に対するイメージは重要である。通常、企業は消費者の好イメージを求めて行動する。
DHCという企業が、デマやヘイトやスラップやステマで、何重にも自らのイメージを傷つけていることが信じがたい。会長吉田嘉明は、化粧品や健康食品の販売をしながら「ヤケクソくじ」などという不潔なネーミングをしている。フェアもクリーンも皆無である。こんな企業が真っ当な経営をしているとはとても思えない。
そして、NHKである。森下俊三というトンデモ人物を経営委員として再任させたことは、ジャーナリズムとしてのNHKにとって致命的なイメージダウンである。森下再任の人事は、官邸・総務省にしっかりと紐付けられ、これに抵抗できないNHKというイメージを天下に植え付けた。官邸と自公与党の愚行というしかない。
このような汚濁の世の中で、道銀カーリングチームのなんと爽やかなこと。まさしく、泥中に咲いた蓮の華さながらである。
(2021年2月10日)
公共放送NHKは日本最大のメディアであって、そのありかたは国民の「知る権利」に計り知れない影響力をもつ。ということは、健全なNHKは日本の民主主義を支え、堕落したNHKは民主主義を貶める。そのNHKの最高意思決定機関はNHK会長でも理事でもなく、経営委員会である。経営委員12人の職責は、重大である。
経営委員会自身が、「NHKには、経営に関する基本方針、内部統制に関する体制の整備をはじめ、毎年度の予算・事業計画、番組編集の基本計画などを決定し、役員の職務の執行を監督する機関として、経営委員会が設置されています。」と述べている。
各経営委員は、衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する。NHK会長は、経営委員会によって任命される。経営委員会は、会長に対する監督権限も罷免の権限も握っているのだ。その経営委員会委員長の任にあるのが、森下俊三である。総務省や官邸におもねってNHKの良心的な番組制作潰しに狂奔し、現場をかばおうとしたNHK会長を脅したとんでもない人物。
誰が見ても、ジャーナリズムの何たるかも、公共放送のありかたも分からない、経営委員不適格者。このとんでもない人物が罷免されないばかりか、首相も国会も続投させるという。まさしく、日本の民主主義の愚かさを物語っている。
昨日(2月9日)の衆院本会議は、NHK経営委員会人事を議事に上程し、この明らかな不適格者である森下俊三の経営委員再任を賛成多数で可決した。立憲民主・共産・国民民主の野党3党は反対したが、多勢に無勢で再任を阻止することはできなかった。
そして本日、まことに情けなくも、参院本会議においても、数の暴力が正論を押しのけた。額にくっきりと【不適】のマークが刻印されている森下俊三が、経営委員として再任された。経営委員長職は互選だが、事情通の語るところでは、この委員不適格者が経営委員長になるという。
ことは、公共放送の人事である。政争の具とせずに、全会一致が望ましいところである。同時にはかられた森下以外の他の3名の候補者は全会一致だった。この菅内閣と与党の、NHK支配に固執する強引さは恐ろしさを感じさせる。
あの安倍政権時代には、NHK経営委員として百田尚樹や長谷川三千子などの真正右翼が送り込まれた。これに対する、市民運動やNHK内部からの激しい抵抗がつづいた。その安倍が退陣した今もなお、菅義偉政権によるNHK支配が継続していることを嘆かざるを得ない。
なお、毎日新聞は、森下俊三を次のように、紹介している。また、「森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める各界有志」の通知と、森下再任に明確に反対した朝日・毎日新聞の社説を引用しておく。
森下氏は委員長代行時代の2018年、かんぽ生命保険の不正販売を報じたNHK番組を巡り、日本郵政グループの抗議に同調して番組を批判し、当時の会長への厳重注意を主導。放送法が禁じる委員の番組介入の疑いが強い行為をした。注意の際の経営委議事録についても、NHKの情報公開の審議委による全面開示の答申などを実質的に尊重せず、概要しか公開していない。こうした問題を理由に、立憲民主、共産、国民民主党は、森下氏の再任に反対した。
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2021年2月8日
NHK経営委員 各位
森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める
アピール文ほかをお送りします
森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める各界有志
(名簿は同封別紙)
皆様におかれましては、NHK経営委員会委員として重責を担われ、ご多用のことと存じます。
森下俊三氏の経営委員としての任期が今月末で満了するのを受けて、私たちは同封のようなアピール文、「日本郵政がNHKに圧力を加えるのに加担し、放送法に違反した森下俊三氏が、NHK経営委員に再任されることに断固反対します!」をまとめ、アピールへの賛同者名簿と賛同者から寄せられたメッセージを添えて、1月29日に各党党首ならびに衆参総務委員会委員全員宛てに郵送しました。
つきましては、これら3点の文書を経営委員各位にもお送りいたします。
今朝(2月8日)の『朝日新聞』1面記事によれば、「NHK個人情報保護・情報公開審議委員会」は、かんぽ問題を巡る経営委員会議事録の要約のみの開示は認められない、全面開示すべきという答申を出しました。これを受けて貴委員会は明日2月9日に開催される経営委員会で、この問題に関する対応を協議されるものと思われます。
その際には、私たち有志の意見を、前もってぜひ一読いただくようお願いします。そのうえで、かんぽ問題をめぐって失墜した貴委員会の信頼回復のための最後の機会というべき明日の会合において、
(1)貴委員会が犯した数々の放送法違反を真摯に反省されること、
(2)放送法に違反する経営委員会の個別番組への干渉と続編放送の妨害、議事録の公開拒否を主導した森下経営委員長の責任を明確にされること、
(3)上田良一氏を厳重注意した議論の経緯が分かる経営委員会議事録の全面開示を決定すること、
を強く求めます。
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(朝日社説・2月7日)
「NHK経営委 委員長再任に反対する」
ガバナンスが機能せず正論を平然と握りつぶす体制を、この先も続けるつもりなのか。公共放送への不信を深める人事を、認めるわけにはいかない。
政府は先月、NHKの森下俊三経営委員長(元NTT西日本社長)を委員に再任する案を国会に提示した。衆参両院で同意が得られれば、委員12人の互選によって再び委員長職に就く可能性が大きい。
だが森下氏がNHKの事業運営をチェックする経営委員、ましてやそのトップにふさわしくないのは、この間の言動から明らかだ。国会は与野党の立場を超え、国民が納得できる結論を導き出さなければならない。
経営委では近年、看過できない出来事が相次いでいる。
かんぽ生命保険の不正販売に切り込んだNHKの番組をめぐり、日本郵政が18年に苦情を申し立てた際、経営委はこれを受け入れ、当時の上田良一会長を厳重注意とした。郵政幹部と面会した後、制作手法を批判し、処分に至る流れをリードしたのは、委員長代行だった森下氏とされる。放送法が禁じる個別番組の編集への干渉が、公然と行われたと見るべきだ。
それだけではない。19年に委員長に昇格した森下氏の下、経営委はこの時の議事録の公開を拒んだ。NHK自身が設ける第三者機関が昨年5月、事案の重要性に鑑み全面開示すべきだと答申したが、それでも応じないため、第三者機関は4日付で改めて同旨の答申を出した。
放送法違反が疑われる行いで現場に圧力をかけ、さらには視聴者の知る権利も踏みにじる。その中心にいるのが森下氏だ。放送法が経営委員の資格として定める「公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者」にあたるとは、到底思えない。
政府の対応もおかしい。
新年度のNHK予算案に付けて国会に提出した意見で、武田良太総務相は経営委の議事録にも触れ、「情報公開を一層推進することにより、運営の透明性の向上を図り、自ら説明責任を適切に果たしていくこと」をNHKに求めた。森下氏の再任案はこの要請と矛盾する。
経営委をめぐっては、委員の選出過程の不透明さに加え、運営や判断に過ちがあってもそれを正す方法が限られることが、かねて問題になってきた。外部からの不当な介入を防ぎ、NHKの独立性と自律性を守るために設けた仕組みやルールが、本来の趣旨に反して今回のような暴走の素地になっている。
今回の問題を、経営委の組織や人事はどうあるべきか、社会全体で再考する機会とする必要がある。NHKの存立の根幹に関わる重要なテーマだ。
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(毎日社説・2月9日)
「NHK経営委員長人事 再任では公共性守れない」
これでは公共放送への不信感は増すばかりだ。
今月末に任期切れを迎えるNHKの森下俊三経営委員長を、委員に再任する人事案を政府が国会に提示した。
衆参両院で同意が得られれば、委員の互選の結果、再び委員長に就任する可能性が高い。しかし、その資質には大いに問題がある。
かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡り、NHK経営委員会は当時の上田良一会長を厳重注意した。日本郵政グループからの抗議に、当時委員長代行だった森下氏らが同調した。
ガバナンス不足が理由とされたが、森下氏は「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ」と上田氏を前に発言していた。
放送法はNHKの最高意思決定機関である経営委が個別の番組に介入することを禁じている。制作手法などを批判する発言は番組への事実上の介入にあたり、放送法に抵触する恐れがある。
続編の放送は一旦、延期され、番組による不正販売被害の告発が妨げられた。ジャーナリズムの責務を理解しているか疑わしい。
森下氏はさらに、厳重注意に関係する議事録の公開に応じていない。NHKが設置している第三者機関である情報公開・個人情報保護審議委員会が全面開示すべきだと答申したにもかかわらず、切り貼りした公表済み文書を出しただけで済ませた。
業務の透明性の確保、視聴者への説明責任をないがしろにする行為は目にあまる。
武田良太総務相はNHK予算案に付けて国会に出した意見で、情報公開を推進し、運営の透明性の向上を図ることを求めている。
それに照らし合わせても、適任の人事案と言えるのだろうか。
NHKは来年度からの次期経営計画で、業務のスリム化を打ち出した。ラジオや衛星波のチャンネル統合の方針は、サービス低下が懸念される。視聴者の方を向いた改革になるか、公共放送のあり方が問われる正念場だ。
放送法は経営委員の資質として、「公共の福祉に関し公正な判断」ができることを挙げている。公正さが疑われる森下氏の再任は信頼回復の取り組みに逆行する。
(2021年1月29日)
森下俊三氏のNHK経営委員再任に強く反対する各界有志 記者会見
2021年1月29日(金)10時30分?12時
衆議院第一議員会館
出席者
小田桐 誠(ジャーナリスト/大学講師)
小玉美意子(武蔵大学名誉教授)
澤藤統一郎(弁護士)
醍醐 聰 (「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」代表/東京大学名誉教授)
長井 暁(NHK・OB/大学教員)
皆川 学(表現の自由を市民の手に全国ネット事務局/元NHKプロデュ?サー)
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NHKの信頼回復のために、森下俊三経営委員再任を許してはならない。
弁護士・澤藤統一郎
ことの発端は、「クローズアップ現代+」の「かんぽ保険の不正販売問題」報道である。これに、日本郵政の鈴木康雄上級副社長が噛みついた。日本郵政のバックには総務省があり、さらには政権のご威光があった。
NHKという公共放送の自主権への露骨な政治干渉である。この干渉は、NHKの受難ではあったが、一面NHKに対する国民の信頼回復のチャンスでもあった。
2001年「ETV・問われる戦時性暴力」番組改竄問題において、安倍晋三ら右派議員の政治圧力に屈したNHKは、良識ある国民からジャーナリズムとしての信頼を失い、「アベチャンネル」という揶揄にさえ甘んじる存在となった。
しかし、「かんぽ保険の不正販売」報道は、NHKが日本郵政とそのバックの政治勢力の威光を忖度することなく、「アベチャンネルとは言わせない」という、番組制作者のジャーナリズム魂を示すものであった。このような番組制作の姿勢こそがNHKに対する国民の信頼を復活する所以であり、当然に予想される外圧から全組織をあげて貴重な番組制作の現場を守り抜かねばならない。ところが、この番組制作に対する圧力は、意外なところから生じた。それが経営委員会である。
経営委員会は、「NHKのガバナンス上の瑕疵」という訳の分からぬ理由で会長厳重注意として露骨な番組潰しを進行させた。このことによって、NHKに対する国民の信頼回復のチャンスがあえなく潰された。この番組潰しを、一貫してリードした森下俊三委員(当時委員長代理・現委員長)の責任は極めて重大である。
同氏は、外部からの圧力の防波堤となるべき立場にありながら、番組潰しに狂奔したと言うべきで、ジャーナリズムの責務、NHKの使命、経営委員会の職責をまったく理解していないと判断せざるをえない。
いまNHKの報道姿勢の公正さにも運営の透明性にも、国民からの信頼は地に落ちた感さえある。その信頼回復のためには、同氏の委員長辞任だけでなく、経営委員即時辞任が必要であった。その実現ないままに、まさかの再任を許してはならない。
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2021年1月29日
各党党首 各位
衆参総務委員会委員 各位
日本郵政がNHKに圧力を加えるのに加担し、
放送法に違反した森下俊三氏が、
NHK経営委員に再任されることに断固反対します!
各界有志一同(賛同者名簿 別紙)
NHK経営委員長の森下俊三氏が、今国会で経営委員に再任されることが承認され、経営委員長を続投する見通しになったとする新聞報道に接し、我々は驚きと怒りを禁じ得ません。
森下氏は、「かんぽ保険の不正販売問題」を取り上げるNHKの「クローズアップ現代+」の放送を止めさせようとする日本郵政の鈴木康雄上級副社長の要請を受け、2018年10月23日に開かれた経営委員会が、「郵政3社にご理解いただく対応が出来ていないことは遺憾」「視聴者目線に立った適切な対応を行う必要がある」などと、上田良一NHK会長を「厳重注意」するのを主導した人物です。毎日新聞の報道(2020年6月29日)によれば、当時経営委員長代行だった森下氏はこの時、「今回の番組の取材は極めて稚拙で、取材をほとんどしていないということ。4月の番組は郵政には取材を全然していない」「番組の作り方の問題と執行部は考えるべきだ。ネットをうのみにしたのは問題だ」「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ。納得していないから、経営委に言ってくる。本質的なところはそこで、向こうは今も納得していない」と述べています。これは、経営委員が個別番組の編集に関与することを禁じた放送法第32条に明らかに違反する行為です。
さらに、森下氏は、いわれのない会長厳重注意をした経営委員会の議事録を、全面公開すべきとの「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」の答申をも無視して、非公開に固執する経営委員会の議論を主導しました。こうした森下氏の言動は、「放送法」第41条が定めた議事録の作成、すみやかな公表に違反する異常・無法な行為です。
この「会長厳重注意」の2日後の10月25日、「クローズアップ現代+」から「かんぽ保険の不正販売問題」の内容を全てカットすることが決められ、番組は内容を変更して10月30日に放送されました。
本来は外部からの圧力の防波堤となるべき経営委員が、日本郵政がNHK執行部に圧力を加えるのに加担し、その結果、放送内容が変更された事実は大変重大です。しかも、この「会長厳重注意」によってNHKはその後「かんぽ保険不正販売問題」について長く放送せず、ようやく放送したのは日本郵政が問題を認めた後の、2019年7月の事でした。
その間も被害者は増え続けていました。いつでも放送できるだけの材料を持ちながら、問題を放送しなかった公共放送NHKは、「被害者を見捨てた」と言われても仕方がありません。
このような事態を引き起こした森下経営委員長の責任は誠に重大です。私たちはこのような人物をNHK経営委員に再任することに断固反対いたします。
〔個人賛同者〕
岩崎貞明(『放送レポート』編集長)
右崎正博(獨協大学名誉教授)
太田武男(政府から独立したNHKをめざす広島の会)
小田桐誠(ジャーナリスト/大学講師)
小野政美(教育ジャーナリスト/愛知県元教員)
加藤 剛(日本ジャーナリスト会議会員)
黒古一夫(筑波大学名誉教授/文芸評論家)
河野安士(「NHK問題大阪連絡会」代表)
小玉美意子(武蔵大学名誉教授)
小中陽太郎(元NHKテレビディレクター/作家・評論家)
小林 緑(国立音楽大学名誉教授/元NHK経営委員)
小山帥人(ジャーナリスト)
阪口徳雄(森友事件真相解明の会共同代表/弁護士)
佐久間敬子(弁護士)
佐々木江利子(児童文学者・日本児童文学者協会会員)
佐藤真理(弁護士/奈良NHK裁判弁護団長)
澤藤統一郎(弁護士)
清水雅彦(日本体育大学教授)
白井浩子(元大学教員)
杉浦ひとみ(弁護士)
須藤春夫(法政大学名誉教授)
砂川浩慶(立教大学社会学部教授/メディア総合研究所所長)
関 耕平(島根大学法文学部教授)
醍醐 聰(「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」代表/東京大学名誉教授)
田島泰彦(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)
田中重博(「NHK問題とメディアを考える茨城の会」代表/茨城大学名誉教授」)
鶴田廣巳(関西大学名誉教授)
長井 暁(NHK・OB/大学教員)
永田浩三(武蔵大学教授/元NHKプロデューサー)
浪本勝年(立正大学名誉教授)
根本 仁(元NHKディレクター)
長谷川勝彦(元NHKアナウンサー)
松村高夫(慶應義塾大学名誉教授)
皆川 学(表現の自由を市民の手に 全国ネット事務局/元NHKプロデューサー)
安川寿之輔(名古屋大学名誉教授)
山中 章(三重大学名誉教授)
〔団体賛同者〕
「NHKとメディアを考ええる会(兵庫)」(共同代表 貫名初子・長尾粛正)
「NHKメディアを考える京都の会」(共同代表 倉本頼一・隅井孝雄・中島晃)
「NHK問題を考える奈良の会」(共同代表 佐藤真理・池田順作)
「NHKを考えるふくい市民の会」(世話人 伊藤洋子・金森洋司・佐野周一)
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賛同者メッセージ
「ジャーナリズムの法的・社会的使命を負うNHK経営委員長という立場にありながら、その責務に背を向け続け、ただひたすらNHKを政権の広報機関にすべく活動してきた森下俊三氏が経営委員長に再任されることなど常識では考えられないことです。森下氏が再任されるとすれば、その時は【みなさまのNHK】の看板は外すべきでしょう。」
(根本 仁・元NHKディレクター)
「森下俊三氏は、「かんぽ生命保険の不正販売」を取り上げた『クロースアップ現代+』をめぐって、上田会長への厳重注意を行うことにより、放送法違反である放送現場への介入を行い、被害を拡大させた張本人です。そうした人物が公共放送の最高意思決定機関の長に再び就くことは断じて許されません。政権への忖度を繰り返すNHKが、本来あるべき姿に立ち戻るために、森下氏に代わる新たな経営委員長が選出されることを強く希望します。」
(永田浩三・武蔵大学教授/元NHKプロデューサー)
「よこしまな圧力に加担して、NHKの放送をねじ曲げた森下委員長の責任は重大です。再任は断じて許されません。」
(小山 帥人・ジャーナリスト)
「日本郵政グループの不当な圧力に沿って積極的に放送番組への介入を行うとともに、NHK会長を厳重注意とする放送法違反を行ったばかりでなく、速やかな経営委員会の議事録開示を求めるNHK情報公開・個人情報保護審議委員会の答申を無視して、議事録を未だに公開しないという二重の放送法違反の行為を繰り返す元凶である森下俊三経営委員の再任には絶対反対です。「森下再任」はNHKを危篤状況に陥れます。」
(浪本勝年・立正大学名誉教授)
「表現の自由、報道の自由の維持・発展を使命とする機関にあってはならない行動です。経営委員長としての資質を欠くものと言わざるをえません。権力者や上層部の圧力を感じながらも頑張っている現場の職員の貴重な志に答えること、それが経営委員長の責務です。」
(佐久間敬子・弁護士)
「いまNHKの報道姿勢の公正さにも運営の透明性にも疑惑を禁じえず、国民からの信頼は地に落ちた感さえあります。その責任は、一に経営委員長森下俊三氏の言動にあり、これまで同氏の即時退任要請が天の声となってきました。その国民の声に敢えて逆らうごとき同氏再任予定との報には驚くほかありません。NHKの信頼回復のために、絶対に反対いたします。」
(澤藤統一郎・弁護士)
「放送法に違反する人物を再任することは、公共放送であるNHKにとって、また国民の知る権利、メディアの政府監視、民主主義の観点などから、許されないと考えます。」
(田中重博・NHK問題とメディアを考える茨城の会代表/茨城大学名誉教授)
「番組制作の手法にまで踏み込んで批判し、現場への介入を行った森下経営委員長の放送法違反は明白です。当然公開すべき経営委員会議事録を隠し通そうとする姿勢を見ても、公共放送の経営に責任を持つ立場である経営委員長の資格はありません。その続投人事をすんなり認める他の経営委員や政府にも、猛省を求めます。」
(岩崎貞明『放送レポート』編集長)
「NHKは安倍政権の擁護のために政治部の岩田記者などに話させ、実に政権よりの報道をしてきた。菅政権になっても、岩田なる記者が出なくなったようだが、政権擁護の基本姿勢は変わらない。」
(阪口徳雄・弁護士)
「再任する理由や審議の経過は国民に明らかになっているのでしょうか。疑問です。」
(佐々木江利子・児童文学者/日本児童文学者協会会員)
「経営委員会は、昨年5月にNHK情報公開・個人情報保護審議委員会の「2018年10月23日作成の議事録を開示すべき」との答申を無視しました。「ガバナンスが効いていない」のは、経営委員会自身です。経営委員全員が辞任すべき事態です。」
(皆川 学・表現の自由を市民の手に 全国ネット事務局/元NHKプロデューサー)
「公共放送の何たるか、公共放送がいかにあるべきかについて見識も理解もまったく欠如した人物を、NHK経営委員会の長に再任することは到底容認できません。権力の意向をうかがい、忖度し、ひたすら阿るような人物は公共放送に関わるべきではないと考えます。再任は、公共放送の役割を決定的に貶めるだけでなく、番組改善に努力しているNHK職員、また視聴者、国民全体に対する冒涜であり、暴挙です。」
(鶴田廣巳・関西大学名誉教授)
「森下俊三氏のNHK経営委員再任に断固反対します。
彼は経営委員が個別番組の編集に関与することを禁じた放送法第32条に明らかに違反する発言・行為をした。彼はこう述べているという。「今回の番組の取材は極めて稚拙で、取材をほとんどしていないということ」「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ」彼は非難されるべき郵政の利益を守ろうとしたのみではない。非難されるべき郵政を告発しようとした取材現場を攻撃し貶めようとしたのだ。許されない行為である。」
(長谷川勝彦・元NHKアナウンサー)
「今回の問題、国家権力制限規範である憲法を研究する者として看過できません。ジャーナリズムに権力監視の役割を期待しているからです。日本郵政は株式会社化されましたが、前身は郵政省という国家機関です。また、当時の鈴木康雄日本郵政上級副社長は元郵政・総務官僚でした。このような国家権力の側にいた人物の要請に応えた森下俊三氏に、権力監視が期待されるNHKの経営委員を務める資格はありません。再任に断固反対します。」
(清水雅彦・日本体育大学教授)
「森下俊三氏のNHK経営委員再任を絶対に認めることはできません。森下氏は「かんぽ保険問題」の番組に放送法違反の介入を行っただけでなく、当時のNHK会長への厳重注意を検討した経営委員会議事録の開示をいまだに拒んでいます。森下氏はNHKの報道の自由をないがしろにした恥ずべき行為をした人物です。経営委員としての資質をまったく欠いており再任に強く反対します。」
(須藤春夫・法政大学名誉教授)
「放送法で禁じられた個別番組に口を出し、「官製値下げ」経営計画を決める”百害あって一理なし”の森下経営委員長。再任など論外。国会の見識が問われる。」
(砂川浩慶・立教大学社会学部教授/メディア総合研究所所長)
「メディアに関する世論調査(新聞通信調査会)では、どの世代でもNHKテレビへの信頼度は民放テレビよりも高く、60代70代においては圧倒的です。市民はマスメディアからの情報をたよりに「かろうじて」主権者たり得ているのです。
それゆえマスメディア自らが矜持を持つべきです。
報道の核心である番組編集の自由(放送法3条)に圧力をかけた森下氏を、NHKはなお委員に留めるのですか。」
(杉浦ひとみ・弁護士)
「以前なら自重されていたような暴挙が平然と行われるようになっています。そのことに鈍感になることが一番怖いと思います。諦めずに声を挙げ続けるしかないということですね。」
(浮田 哲・羽衣国際大学現代社会学部教授)
「森下俊三氏は放送法が禁じている番組制作への介入や経営委員会の議事録の隠蔽などを平然と行い、NHKを政府の広報機関にするべく、政権への忖度・追随・同調に励んでいます。
ジャーナリズムの使命と責務についてなど、一度でも考えたことがあるのでしょうか。このような人物を経営委員長の座に置くことは断じて許されません。」
(池田恵理子・アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)/元
NHKディレクター)
「NHKにおいて、経営委員会幹部が政権寄りの立場を改め、真実を報道することに徹すれば、世界と日本の隅々に張り巡らされた取材のネットワーク、視聴率があることから、この日本を人が人を大切にする暖かい国に変える大きな力になります。アピールに賛同します。
報道と制作の現場で歯を食いしばって頑張っている人達へ。
皆さんの存在を心ある人々は知っています。くじけないで良心を根拠として、日々を過ごしてください。」
(梓澤和幸・弁護士)
「森下俊三NHK経営委員再任は国民・視聴者への挑戦です。放送法に違反した人物を、あえて選任することは放送法を無視しても構わないという国民への裏切り公認です。許すことはできません。」
(「NHKとメディアを考える会(兵庫)」共同代表・長尾粛正)
「法的にも倫理的にも公共放送の守り手として最もふさわしくない森下氏がこれ以上経営委員長としてとどまるなら、NHKは致命傷を負うことになります。すでに政権の広告塔と化したニュースに加え、良心的な記者や製作者が守ってきた多くの番組も失われかねません。再任反対を強く求めます。」
(石塚直人・元読売新聞記者)
「これ以上の報道の自由への侵害を許してはなりません。時代の流れを戦前の戻そうとするような自民党の政治に何時になったらこの国の人びとは決別できるのでしょうか。」
(大鹿康廣・退職教員)
「放送法違反に当たる行為を繰り返してきた森下俊三氏をNHK経営委員に再任するなら、違反行為をお咎めなしとして追認することにつながります。また、そうした人物が経営委員に居座るなら、NHKへの信頼も大きく損なわれます。法の支配とメディアの健全性という観点から、同氏の再任に強く反対します。」
(小野塚知二・東京大学経済学研究科教授/東京大学アジア研究図書館長)
「公共放送の使命を果たそうと必死になって努力した同僚たちの、その熱意と使命感を踏みにじり、番組の放送を妨害し、被害を拡大させる結果を招いた森下氏の行為は、到底許されるものではありません。
森下氏が経営委員長を続ければ、私たち現場の職員は、いつまた番組に介入されるかわからないという不安にさらされるでしょう。NHKの現役職員として、森下氏の経営委員再任に強い危機感を持って反対します。」
(匿名希望NHK現役職員A)
「趣旨に賛同させて頂きます。再任はNHKの将来性、存在意義に影響する事を懸念します。NHKの多様性を守りたい。反対いたします。」
(匿名希望NHK現役職員B)
「アピールに賛同致します!上層部への忖度が蔓延するNHKの職場環境を変えていくためには、まず経営委員会から放送法を遵守する強い姿勢を示す必要があります。森下経営委員長の委員再任に反対です。」
(匿名希望NHK現役職員C)
「森下経営委員長再任に反対するアピールに賛同します。森下氏は経営委員会の透明性を失わせ、国民のNHKの運営への信頼を失わせる行動を意図的かつ継続的に行っていることが、公表された情報だけで十分判断できると思います。」
(匿名希望NHK現役職員D)
「森下氏の再任は、かんぽ問題の経緯を注視してきた多くの職員の、士気やモチベーションに悪影響を与えます。反対します。」
(匿名希望NHK現役職員E)
「森下経営委員長の委員再任の緊急アピールに賛同します。」
(匿名希望NHK現役職員F)
「NHKの現役職員です。かんぽ問題では、被害者救済という確固たる目的を持って取材を重ね放送も決まっていたにもかかわらず、介入により放送が実現しませんでした。そのショックは大きく、職員の中にトラウマとして蓄積しています。森下氏の再任によって、また介入が起きるのではないか、視聴者第一の報道姿勢が揺いでいくのではないかと恐れています。視聴者の信頼低下を防ぐためにも、森下氏の経営委員再任に反対します。」
(匿名希望NHK現役職員G)
「視聴者に信頼される公共メディアたるべく、私たちは日々現場で放送の仕事に向き合っています。変わりゆく情報環境に対応するための改革。受信料の価値を最大化するための努力。ファクトをつかむための地を這う取材。深いテーマをわかりやすくお届けするための知恵と工夫。そうやって私たちは1ミリずつ、公共メディアとしての「信頼」を積み上げています。しかし森下経営委員長は、こうした現場の積み上げを台無しにしてきました。森下氏による番組への介入が制作現場に及ぼした混乱と不信は、未だに現場に深い陰を落としています。そして当該の議事録すら、全うに公開すらしないその姿勢。視聴者からの信頼を毀損する人物を経営委員長として再任することに、1人のNHK職員として納得ができません。断固反対いたします。」
(匿名希望NHK現役職員H)
(2020年10月22日)
このたび第203臨時国会の冒頭に、衆参両院の各議長宛に、下記の請願書を提出します。また、請願書提出にあたっての院内集会をお知らせします。内容は、「NHK経営委員長・森下俊三氏の、経営委員としての職務上の重大な義務違反を究明して、同人の経営委員罷免を求める」請願です。
NHKの在り方に深い関心を寄せている、研究者、弁護士、ジャーナリスト、NHK・OB、各地の視聴者団体関係者ら39名が構成する「森下俊三氏に係る国会請願世話人会」(事務担当・醍醐聰さん)が運動の主体となって、2200名余の賛同者連名での請願になります。私も請願者の一人に加わりました。
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森下俊三氏のNHK経営委員としての職務上の重大な義務違反を
究明するよう求める請願書
一 請願要旨
かんぽ生命保険の不正販売を取り上げたNHKの番組制作に関するNHK経営委員会の対応、とりわけ森下俊三経営委員長の対応には「放送法」第36条(経営委員の罷免)に挙げられた「職務上の義務違反」に明確に該当する次のような行為があった。
(1)森下氏は2018年10月23日の経営委員会でかんぽ生命保険の不正販売を取り上げた「クローズアップ現代+」(2018年4月24日放送)に関して、「今回の番組の取材は極めて稚拙で、取材をほとんどしていない」、「郵政側が納得していないのは取材内容だ。納得していないから、経営委に言ってくる。本質的なところはそこで」などと発言した。それは実際の取材・番組の経過を誤認したものであるにとどまらず、「放送法」第32条が禁じた経営委員による番組編集へのあからさまな干渉に当たることは明らかである。
(2)2018年10月23日の経営委員会で、当時経営委員長職務代行者の職にあった森下氏は石原進経営委員長(当時)とともに、NHK執行部のガバナンス上の問題を殊更にあげつらって、上田良一会長(当時)に「厳重注意」をするに至る議事を主導した。
上記の経営委員会で、それほど重要な議論が交わされたにもかかわらず、経営委員会は、その事実を『毎日新聞』が2019年9月26日朝刊で報道して以降も隠し続けた。
しかも、森下氏は経営委員長としての職にありながら、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会が今年5月22日に、当日の議事録等を全面開示すべきと答申したことも無視して、議事録等の開示請求者に対して、肝心の部分を省いた公表済みの議事概要の寄せ集めを送付するという極めて不真面目な対応をした。
以上のような経緯から、森下氏が、「放送法」第41条で経営委員長の職責と定められた経営委員会の議事録の遅滞なき公表を怠ったことは明らかである。
以上指摘した2つの事項は、森下俊三氏に、「放送法」第36条が経営委員を罷免できる事由として挙げた「職務上の義務違反」があったことを意味する。
(3)本年3月31日に開かれた参議院総務委員会では、2020年度のNHKの収支予算、事業計画及び資金計画を承認するにあたって、4会派から共同提案された19項目にわたる附帯決議案が賛成多数で決議された。その第1項目には「経営委員会は、本委員会の審議を踏まえ、経営委員会の放送番組の編集への介入の疑念について、十分な総括と反省を行い」とあるが、NHK経営委員会、特に森下経営委員長は、番組編集への介入ではないかとの指摘に対して、「意見、感想を述べたに過ぎない」と開き直り、「十分な総括と反省」からは、ほど遠い状況である。
また、附帯決議の第2項では「経営委員会は、その意思決定過程に至る過程について、公表を原則に適切な議事録等の作成を行うこと」とされた。しかし、経営委員会、特に森下経営委員長は、その後も、自由な意見交換に支障が出るのを避けるためと釈明して議事録の非公開に固執している。これは、全面公開すべきというNHK情報公開・個人情報保護審議委員会の答申に背くと同時に、前記の参議院総務委員会の附帯決議第2項を無視するものである。
なお、このような経営委員会の釈明は、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会の答申第798号において、次のように明快かつ説得的に一蹴されている。
NHKの経営委員会は「視聴者・国民に対し自らの経営委員としての言動については、広く説明責任を負っていると言わなければならない。特に、NHK会長に係るガバナンスの問題というような重要な運営上の問題について、各委員がどのような意見を持ち、どのような議論が行われ、どのような結論に達したのかについては、より強く透明性が求められることは論をまたない。少なくとも、本件を、議事録非公表の場でなければ各経営委員が率直な意見が言えないような類の問題と位置づけるべきものではない。」
よって私たちは、NHK経営委員の任命と罷免に係る国会同意人事に参画する貴院が、「放送法」第32条、第36条、第41条の定めに照らして、森下俊三氏に、NHK経営委員あるいはNHK経営委員長としての職務に係る重大な義務違反があった事実を徹底的に究明するよう求めるとともに、経営委員の任命権者であり、罷免の発議権者である内閣総理大臣に対し、森下俊三氏をNHK経営委員の職から罷免するよう求める措置を講じられるよう請願する。
二 請願事項
1.貴院のしかるべき委員会に森下俊三氏を参考人として招致し、森下氏に、本件請願書要旨に記したような「放送法」に違反する行為、職務上の義務違反に相当する行為があった事実を徹底的に究明すること。
2.森下俊三氏をNHK経営委員から罷免するよう、内閣総理大臣に意見を提出すること。
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放送法では、個別の番組には介入してはいけないはずのNHK経営委員会が、かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組に対して、当時の上田NHK会長に「厳重注意」をしたこと、その経緯を示す経営委員会の議事録を公開しないことについて、多くの視聴者やメディアから批判されているにも関わらず、頬かむりのまま動かない。
表題のような「請願書」の国会提出を期して、以下の集会を開きます。この時期に、一見、地味に見える請願であり、集会でありますが、表現の自由を侵す重大な問題なので、国会でも十分究明して欲しいということで、衆参両院に請願書を提出することになりました。全国で39名の世話人の努力で請願者は2200人を超えています。
請願書提出にあたっての院内集会
日 時: 2020年10月26日(月) 16時?17時30分(予定)
会 場: 衆議院第二議員会館 多目的会議室(1階)
※15時45分から玄関で入館証をお渡しします。
世話人会からの出席者:
岩崎貞明(「放送レポート」編集長)
小田桐 誠(ジャーナリスト/大学講師)
小玉美意子(武蔵大学名誉教授)
杉浦ひとみ(弁護士)
楚山大和(「日本の政治を監視する上尾市民の会」代表)
醍醐 聰(「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表)
長井 暁(NHK・OB/大学教員)
日巻直映(「郵政産業労働者ユニオン」中央執行委員長)|
ご出席の衆参両院の紹介議員へ請願書を提出します。
なお集会参加者は、ご自身の体調管理とマスク着用などの対策をお願いいたします。
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「世話人会」(事務担当・醍醐聰さん)から、各賛同者への連絡の一部をご紹介します。
☆両院への請願の意味・効果を改めて考える参考情報をお知らせします。
衆議院のHPにある「請願の手続き」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/tetuzuki/seigan.htm
を見ますと、「3.請願文書表の作成・配布・委員会付託」の項に次のように書かれています。
「請願書が提出されますと、請願文書表が作成・印刷され、各議員に配付されます。請願文書表には、その内容が周知されるよう、請願者の住所・氏名、請願の要旨、紹介議員名、受理の年月日、署名者数などが記載されます。請願は請願文書表の配付と同時に、請願の趣旨に応じて適当の常任委員会または特別委員会に付託されます。」
衆議院議事部請願課に電話して確認しましたところ、
「『各議員』とは衆議院議員全員のことです」
とのことでした。
請願が「採択」に至らない場合にも、受理されれば、紹介議員を通じて私たちが提出した「請願の要旨」がそのまま印刷されて、全衆議院議員に配られます。
参議院の場合も、「請願の審査」の項で同じ解説がされています。
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/seigan.html
このように見てきますと、今回の請願は、地味ではありますが、NHK経営委問題/森下問題に対する関心を改めて衆参両院の全議員に喚起するうえで、重要な機会になるのではないかと思います。
☆なお、各議員に配布される「請願文書表には、その内容が周知されるよう、請願者の住所・氏名・・・・が記載されます」という一文がありますが、衆議院議事部請願課に問い合わせたところ、この場合の「請願文書表」に住所・氏名が記載されるのは請願代表者のみと確認しました。
請願者を紹介議員ごとにグループ分けした場合は、グループごとに代表者を決めますので、各議員に配られる「請願文書表」にはグループごとの代表者の氏名・住所が記載されます。
代表者以外の請願者名簿は紹介議員を通じて両院に提出しますが、全衆議院議員に増し刷り配布されることはありません。
☆NHK経営委員会と森下俊三経営委員長の背信行為には目に余るものがあります。
背信行為というのは、
* 報道の自由の防波堤であるべきNHK経営委員会が、あろうことか、かんぽ不正販売に警鐘を鳴らしたNHKの「クロ現+」(2018年4月24日放送)に対する不正行為の当事者(日本郵政)からのクレームを取り次ぎ、NHK会長に「厳重注意」という名目で圧力をかけた問題です。
* しかも、NHK経営委員会は、厳重注意をした会合の議事録を隠し続け、「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」の開示すべきという答申さえも無視して、いまなお、公表を拒み続けています。
* 全国各地の視聴者団体は、これまで再三、議事録の公開と森下経営委員長の辞任を求める申し入れや署名を提出してきましたが、ことごとく要求を踏みにじられました。
しかし、ひるんでいるわけにはいきません。それならと、私たちは背信を主導した森下経営委員長に焦点を当て、臨時国会に、「森下俊三氏の放送法違反・職務上の重大な義務違反を徹底究明するよう求める請願書」を各議院に提出いたします。
(2020年7月6日)
コロナ禍再び拡大の虞れの中、風雨激しきを衝いて、本日またまたNHK放送センターに出向いた。応接の経営委員会事務局職員に下記2通の要望書を提出し、趣旨を説明してきた。
要望書の一通は、NHKの在り方を民主主義に重要な問題として考え行動しようという全国の市民運動23団体連名の申し入れ。もう一通は、研究者・弁護士・ジャーナリストら有志21名の申し入れ。
両者に共通する主要な申し入れの主旨は2点である。その資格ないことが明らかになった森下俊三NHK経営委員長に改めて経営委員の辞任を求めるということ。そしてもう1点は、上田良一NHK会長を厳重処分とした2018年10月23日の経営委員会議事録の速やかな公表を求める、ということ。
いずれも3回目の申し入れになるが、この時期緊急に本日を選んで改めての申し入れとなったのは、われわれにとっての新事実が明らかになったからだ。
とりわけ、6月29日毎日新聞朝刊のトップ記事が、質も量も圧倒的なものだった。「『NHKの大問題』前会長抗議」「経営委、法抵触か 議事全容判明」という大見出し。3面に解説記事を載せ、8面にほぼ全面を使っての生々しい「議事全容」を掲載している。
この記事の衝撃を受けて、全国の関連市民団体と有志が、それぞれ7月7日経営委員会に間に合うよう、改めての「森下俊三氏辞任」「議事録全面開示」を申し入れたのだ。
「森下俊三氏辞任要求」に理のあることは、従前からのことだが、6月29日毎日新聞8面の生々しい「議事全容」を読むと、改めてこの人は、NHKのあり方についても、ジャーナリズムのなんたるかについても、およそなんの理解もない人物だとよく分かる。このような不適格者が安倍政権からNHKに送り込まれている。NHK経営委員不適格と言うよりは、ジャーナリズムに関わるべきではない。なるほど、経営委員会はこんな内容の議事録だからこそ公表したくないわけだ。
しかし今や、NHK自身が創設した情報公開制度において、「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が全面公表すべしと答申しているのだ。ことここに至って、非公開で押し通すことはできまい。明日の経営委員会に向けて、ダメ押しの申し入れなのである。
NHK(経営委員会)に申し入れの後、衆院第1議員会館で記者会見。けっして、多くの記者の参加を得たわけではないが、出席記者の質問はいずれも的確で活発だった。みのりのある1時間の小討論であった。報告者の側から記者の諸君に、「明日の経営委員会終了後のブリーフィングの際には、是非、本日(7月6日)付2通の申入書が、どのように議論され、どのような結論となったかを質問していただきたい」とお願いする場面もあった。明日の結果を待ちたい。
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2020年7月6日
NHK経営委員会委員長 森下俊三 様
NHK経営委員会委員 各位
改めて森下俊三氏の経営委員辞任と議事録の一般公開を要求する
NHKとメディアを考える東海の会/NHK・メディアを考える京都の会/NHK問題大阪連絡会/NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ/NHKとメディアを語ろう・福島/NHKとメディアを考える会(兵庫)/表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク/NHK問題を考える岡山の会/NHK問題を考える会・さいたま/時を見つめる会/NHKを考えるふくい市民の会/日本の政治を監視する上尾市民の会/マスコミを語る市民の会(宮城)/政府から独立したNHKをめざす広島の会/NHK問題とメディアを考える茨城の会/NHK問題を考える奈良の会/NHKを考える福岡の会/NHKとメデイアを考える滋賀連絡会/NHKとメディアの今を考える会/放送を語る会/ジャーナリズムを考える市民連絡会とやま/言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会/「日本郵政と経営委首脳によるNHK攻撃の構図を考える11.5シンポジウム」実行委員会
(1)『毎日新聞』は6月29日の朝刊で、NHK経営委員会が上田良一会長(当時。以下、役職名はすべて当時)を厳重注意した2018年10月23日の会合の「議事全容」を掲載しました。
これは、正規の議事録ではありませんが、『毎日新聞』NHK問題取材班が「複数の関係者」への独自の取材に基づいてまとめたもので、信憑性が極めて高い内容と考えられます。
「議事全容」を一読して、際立つのは、森下経営委員長代行者が石原進経営委員長とともに、経営委員の個別の番組への干渉を禁じた「放送法」第32条を蹂躙する発言を繰り返し、会長厳重注意に至る議事を強行した実態です。
その最たるものは、森下氏が、「今回の番組の取材は極めて稚拙で、取材をほとんどしていない」と番組編集と一体の取材をあからさまに攻撃すると同時に、「郵政側が納得していないのは取材内容だ。納得していないから、経営委に言ってくる。本質的なところはそこで・・・」と語ったくだりです。
これは、森下氏が、ガバナンス問題よりも取材を問題視し、個別の番組の編集に踏み込み、干渉する認識と意図があったことを示す何よりの証拠であり、森下氏の一連の発言が「放送法」第32条に違反するものであったことは、もはや弁明の余地がありません。
(2)さらに、森下氏のみならず、今も経営委員にとどまっている他の数名の委員が、個別の番組の取材・編集に干渉する発言をしていたことも見過ごせません。「クレームへの対応というより、番組の作り方で若干、誤解を与えるような説明があった」、「番組の作り方に公平さを欠く要因がなかったか」、「こういう問題では〔経営委も〕番組内容に踏み込まざるを得ない」といった経営委員の発言も、個別の番組への干渉を禁じた「放送法」に抵触することは明らかです。
(3)経営委員会が、会長厳重注意に至る議事録を全面開示するよう促した「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」(以下、「審議委員会」と略す)の道理ある答申にいまだに応えない間に、メディアが独自取材をもとに議事録に極めて近いやり取りを「議事全容」と題して報道したことは、情報公開の責務を果たさない経営委員会の背任を改めて浮き彫りにしたものです。
とりわけ、森下氏が、「放送法」第41条で議事録を遅滞なく公表する任を負わされた委員長の職責を省みず、「審議委員会」によって、事実上、ことごとく退けられた「経営委員会議事運営規則」に固執して、2018年10月23日の会合の議事録の公表を拒み続けてきた責任も重大です。
これによって、森下氏が経営委員会に対する視聴者、広くは社会の信頼を失墜させたことは、重大な背任と言わなければならず、もはや、森下氏に残された道は経営委員長の辞任にとどまらず、経営委員を引責辞任する以外、ありません。
そこで、私たちは以下のことを申し入れます。
申し入れ
〔1〕森下俊三氏は、「放送法」第32条を蹂躙する発言を繰り返すとともに、2018年10月23日の経営委員会議事録の公表を拒み続け、経営委員会が会長厳重注意という極めて異例の決議をした経緯の説明責任を果たさなかった責任を取って、直ちに経営委員を辞任するよう、重ねて要求する。
〔2〕経営委員会は「審議委員会」の道理ある答申を尊重して、開示の請求があった2018年10月23日の経営委員会議事録と配布資料を直ちに開示するとともに、それを経営委員会のHPにも掲載して、一般に公開するよう、重ねて要求する。
〔3〕2018年10月23日の経営委員会で、複数の経営委員が、森下氏ほど露骨ではないにせよ、委員が個別の番組の編集に干渉することを禁じた「放送法」第32条に抵触する発言をしたことも重大で、これら委員も猛省が必要である。この先の経営委員会で反省・自戒の意思を表明し、それを議事録に記載するよう、求める。
以上
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2020年7月6日
NHK経営委員長 森下俊三 様
同 経営委員各位
国民の知る権利に資するNHKを蝕む内部問題を許さない
?経営委員会の番組編集への介入と情報公開制度違反について?
研究者・法律家・ジャーナリスト・NHK退職者他有志
かんぽ生命保険の不正販売を報じた2018年4月のNHK番組「クローズアップ現代+」をめぐり、NHKの経営委員会において委員らが当時のNHK会長を番組内容に関わって厳重注意したことは、経営委員が個別の番組の編集に干渉することを禁じた「放送法」第32条違反を強く疑わせる問題である。NHKの社会に対する圧倒的な影響力を考えれば、国民の知る権利保障のためには、編集と経営は分離されなければならない。
この放送法32条違反の編集介入の事実を検証すべく、NHKの情報公開規定に基づき、2019年9月ある視聴者が「NHK経営委員会が2018年10日23日、上田良一会長に対して行った厳重注意について、経営委員会で行われた議論の内容が分かる一切の資料」の開示請求を行った。ところがこれに対して、NHKは「議論のための資料、および議事録(非公表部分)」については、「NHKの事業に関する情報であって、開示することによりNHKの事業活動に支障を及ぼす恐れがある」という理由で開示できないとした。しかし、請求者が不開示についての「再検討」を求めたところ、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会は「開示が妥当」と答申した。にもかかわらず、NHKは未だ開示していない。これは放送法29条1項1号ノがNHKの情報公開制度を予定し、また、NHK自らが、「視聴者から受信料を得ていることに鑑み視聴者に情報を公開し、放送による言論の自由を確保しつつ、視聴者に対する説明責任を果たす」ために情報開示基準をさだめている趣旨に明らかに反する。
今回、毎日新聞が6月29日朝刊において、複数の関係者の取材に基づき「NHK会長厳重注意 経営委の議事全容」を掲載した。そこでは、森下委員長代行(当時)は、「今回の番組の取材は極めて稚拙」だとか、「視聴者目線に立っていない」などと番組内容を批判し、監査委員会が「ガバナンス上の瑕疵は認められない」と報告しているにもかかわらず、郵政側が納得していないとの理由で、会長自身が直接対応することを強要している。また7月2日の朝日新聞「けいざい+」では、郵政側に経営委員会宛文書の送付を示唆したのは、森下氏自身であることも報じられている。
以上から、私たちは、上記国民の知る権利に資するべきNHKの存在意義に照らし、次の2点を森下俊三経営委員長ならびに経営委員会に要求する。
1.複数の経営委員が個別の番組の編集に干渉する発言をしたと言われている2018年10月23日の経営委員会の議事録(議事概要ではなく発言者の氏名、発言の内容を全文記した議事録)を全面開示すること。
2.NHKの番組編集の自由を侵害し、NHK自らが定めた情報公開制度を履践できない森下俊三氏は、経営委員長はもとより、経営委員の職も直ちに辞すること。
以上
研究者・法律家・ジャーナリスト・NHK退職者ほか有志賛同者名簿
梓澤和幸(弁護士)
池住義憲(元立教大学大学院教員)
池田文夫(言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会幹事)
小田桐 誠(ジャーナリスト/大学教員)
児玉勇二(弁護士)
小玉美意子(武蔵大学名誉教授)
小林 緑(国立音楽大学名誉教授・元経営委員)
佐藤真理(弁護士)
澤藤統一郎(弁護士)
白垣詔男(日本ジャーナリスト会議(JCJ)福岡支部長)
杉浦ひとみ(弁護士)
関口達夫(言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会事務局長)
醍醐 聰(東京大学名誉教授)
?野春廣(東海学園大学名誉教授)
田島泰彦(早稲田大学非常勤講師・元上智大学教授)
永田浩三(元NHKプロデューサー)
根本 仁(元NHKディレクター)
服部孝章(立教大学名誉教授)
皆川 学(元NHKプロデューサー)
(2020年6月27日)
昨日(6月26日)、東京地裁で注目すべき判決が言い渡された。「NHK映らないテレビ、受信契約の義務なし」「NHK視聴できない装置付けたTV、受信契約義務なし」などの見出しで報じられているもの。
「NHKのチャンネルは映らない構造のテレビで、民放だけを見ていてもNHK受信料を支払わねばならないのか。それとも、支払わなくてもよいのか」。その問題に「支払いの義務はない」と判断した初めての判決である。当然控訴されるだろうから、東京高裁や最高裁の判断に関心を寄せざるを得ない。
放送法第64条1項は、(受信契約及び受信料)について、「協会(NHK)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と受信契約締結義務を定め、
その上で、「ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送…に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。」とする。
NHKとの受信契約締結の義務主体(即ち、受信料支配義務者)は、「NHKテレビ放送を受信することのできる受像設備を設置した者」である。「NHKのテレビ放送を受信できないテレビをもっているだけでは、受信契約締結義務は生じないし、受信料支払い義務も生じない。誰が読んでも、放送法にはそう書いてある。
ところが、この種の裁判は過去4回あって、全てNHKの勝訴、視聴者側の敗訴で終わっている。今回初めて、NHKの敗訴となった。NHKの衝撃はさぞや大きいに違いない。
問題は、「NHKの放送を受信することのできる受信設備」の解釈である。これまでの判決は、市販のテレビに加工してNHKの放送を受信できなくしても、復元の可能性ある以上は、「NHKの放送を受信することのできる受信設備であることに変わりはない」とした。
例えば、2016(平成28)年7月20日東京地裁判決はこういう。
「被告(受信料請求対象者)は,本件工事を行ったことにより,本件受信機で原告(NHK)の放送を受信することはできない状態にあると主張するが,…被告が本件工事の施工を依頼した者に復元工事を依頼するなどして本件フィルターを取り外せば,本件受信機で原告の放送を視聴することができるのであるから,…現に原告の放送を視聴することができない状態にあるとしても,これをもって,被告が『受信機を廃止すること等により,放送受信契約を要しないこととなった』ということはできない。」
昨日言い渡しのあった事件の内容は、報道によると以下のとおりである。
原告の女性は2018年、受信料を徴収されないようNHKが視聴できない装置を付けて樹脂などで固定したテレビを購入した。その上で、NHKを被告として、受信契約を結ぶ義務がないことの確認を求めて提訴した。
NHKは訴訟で「原告のテレビは放送を受信できる基本構造を維持している」「フィルターや電波の増幅器(ブースター)を使うなどの実験をした結果、原告のテレビでは『NHKを受信できる状態に簡単に復元できる』と主張した」などと主張したが、小川理津子裁判長は「専門知識のない原告がテレビを元の状態に戻すのは難しく、放送を受信できるテレビとはいえない」と判断した。「増幅器の出費をしなければ受信できないテレビは、NHKを受信できる設備とはいえない」とも判示したという。
原告はNHKの受信料の徴収に批判的な意見の持ち主とのことだが、判決は「どのような意図であれ、受信できない以上契約義務はない」と説示していると報じられている。この訴訟の原告代理人は高池勝彦弁護士。新しい歴史教科書をつくる会会長を務め、最右翼の歴史修正主義派として知られる人物。N国同様、右の側からNHKを揺さぶろうという提訴の意図が透けて見える。
しかし、この訴訟の原告や代理人の意図がどうであれ、私は歓迎すべき判決だと思う。放送法が、NHKと視聴者との関係を契約と制度設計している以上、NHKは視聴者に信頼され、視聴者に魅力ある内容の放送をする努力を尽くさなければならない。NHKを視聴しない者からも、取れるものなら受信料を戴こうという姿勢は情けない。民放番組だけを視聴しようという者に対してNHKに受信料を支払えとする判決は、制度の趣旨からも、法の条文の文言からもおかしいというほかはない。
これまで裁判所は、NHKに甘過ぎる判決を重ねてきた。ピリリと辛い判決は、NHKにとっての、ちょっぴり苦い良薬というべきだろう。
(2020年6月8日)
本日(6月8日)、NHKの視聴者団体が連名で、NHKと経営委員会に、情報公開に関する要望書を提出した。「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」の審議結果を尊重して経営委員会の議事内容に関する文書を開示せよ、という内容である。
NHKは行政機関でも独立行政法人でもない。従って、情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)の適用対象とはならない。しかし、NHKは公共放送機関として国民の知る権利や民主主義のあり方に大きな影響力を持つ存在である。当然に、視聴者・国民に対する説明責任を自覚すべき立場にあって、「NHK情報公開基準」「NHK情報公開規程」という独自の情報公開制度をもっている。
その骨格は、以下のとおりである。
(1) NHKの保有する文書の開示請求を「開示の求め」と言い、視聴者からの「開示の求め」には原則としてこれに応じる。
(2) しかし、NHKの事業活動に支障を及ぼすおそれがあるなどの理由がある場合は、「不開示」とすることができる。
(3) 不開示者に不服があれば、「再検討の求め」ができる。
(4) 「再検討の求め」には、第三者機関「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」が客観的・中立的な立場から審議し、NHKはその意見を尊重して再検討する。
(5) NHKが最終判断する。
今回の要望は、「情報公開審議委員会」の立派な意見を尊重して、それに従った判断を求めるというもので、概ね下記のとおりである。
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2020年6月8日
NHK会長 前田 晃伸 様
NHK経営委員長 森下 俊三 様
NHK経営委員 各位
NHK情報公開・個人情報保護審議委員会の5.22答申(第797号、第798号)を「尊重」して直ちに本件答申対象文書を開示するよう求める要求書
共同提出団体名(24団体)
NHKとメディアを考える滋賀連絡会/NHKとメディアを考える東海の会/NHK問題大阪連絡会/NHK・メディアを考える京都の会/NHK問題を考える奈良の会/NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ/「日本郵政と経営委首脳によるNHK攻撃の構図を考える11.5シンポジウム」実行委員会/NHKとメディアを語ろう・福島/NHKとメディアを考える会(兵庫)/表現の自由を市民の手に 全国ネットワーク/NHK問題を考える岡山の会/NHK問題を考える会・さいたま/政府から独立したNHKをめざす広島の会/放送を語る会/時を見つめる会/NHKをただす所沢市民の会/NHKとメディアの今を考える会/NHKを考える福岡の会/NHKを考えるふくい市民の会/言論の自由と知る権利を守る長崎市民の会/日本の政治を監視する上尾市民の会/マスコミを語る市民の会(宮城)/NHK問題とメディアを考える茨城の会/ジャーナリズムを考える市民連絡会とやま/
【事実経過】
視聴者が2019年9月26日、NHKに対して2つの文書
(1) 「2018年4月24日放送の『クローズアップ現代+』や日本郵政グループについて、NHK経営委員会で行われた議論の内容が分かる一切の資料」及び
(2) 「2018年度以降、NHK経営委員会が上田良一会長に対して行った厳重注意について、経営委員会で行れた議論の内容が分かる一切の資料」
の開示請求を行ったのに対し、NHKは「議論のための資料、および議事録(非公表部分)」については、「NHKの事業に関する情報であって、開示することによりNHKの事業活動に支障を及ぼす恐れがある」として開示できないとしました。
これに対し、視聴者が不開示とした部分について「再検討の求め」(NHK情報公開規程第17条)を提出しました。
この求めに対して、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会(委員長=藤原靜雄・中央大学大学院教授)は2020年5月22日、「一部開示ではなく開示が妥当」との答申(第797号及び第798号、以下5.22答申という。)を提出しました。
NHK情報公開規程第21条は「審議委員会の意見の尊重」との見出しのもとに、次のように規定しています。
「NHKは、審議委員会の意見を尊重して、再検討の求めに対する開示・不開示の判断を行う。」
本件に即してこの条文を適用するならば、「NHKは、審議委員会の意見を尊重して、再検討の求めに対する開示の判断を行う。」ことになります。
仮に、この条文に規定されている情報公開制度の趣旨に反して、NHKが5.22答申と「真逆の判断」を行い、それをNHKの最終判断であるとするならば、5.22答申及び審議委員会設置の意味(存在理由)は失われてしまいます。
ちなみに「NHK倫理・行動憲章」(2004年制定)においても、その「行動指針」で「視聴者のみなさまの信頼を大切にします。」として「NHK情報公開基準にのっとり、事業全般にわたる情報をわかりやすく、積極的に公開します。」と視聴者に約束していることを、本件判断に当たって、経営委員会は再確認していただきたいところです。
【今回の5.22答申の画期的な内容】
今回の5.22答申は、NHKの不開示理由を退け、経営委員の説明責任や経営委員会の情報公開に関する責任について、視聴者の立場を考慮したうえで、次のように明快な説示を展開しています。
「視聴者や広く国民の福祉のためわが国の公共放送の適正な運営と発展にそれぞれが重い責任を負うものである。したがって当然のことながら、視聴者・国民に対し自らの経営委員としての言動については、広く説明責任を負っていると言わなければならない。特に、NHK会長に係るガバナンスの問題というような重要な運営上の問題について、各委員がどのような意見を持ち、どのような議論が行われ、どのような結論に達したの
かについては、より強く透明性が求められることは論をまたない。少なくとも、本件を、議事録非公表の場でなければ各経営委員が率直な意見が言えないような類の問題と位置づけるべきものではない。会長を対象とする『役員の職務の執行の監督』という極めて重要な権限行使に係る議事において、すべての委員がその重要性を踏まえて発言しているはずのものである。…過去に会長に対して、経営委員会が『注意』や『申し入れ』を行った場合、その議事録は公表されている。したがって、本件文書が公開されることによって今後の同種の審議、検討または協議が円滑に行われることを阻害するおそれがある、とするNHKの見解は肯定できない。」
「本件対象文書が関係する一連の事件については、 新聞報道、国会での審議を通じ広く視聴者・国民の強い関心を招くに至っており、NHKの公共性、透明性、経営委員会の議事の経過等に対して一部で疑念が呈され、視聴者に対する十分な説明責任を果たすことが求められている状況を勘案すると、むしろ議事録を速やかに開示することが、今後のNHK及び経営委員会の運営にとっても必要なことと言っても過言ではなかろう。NHK情報公開制度は、受信契約の強制を伴う受信料徴収が行われており、かつ、公共放送を担う機関であるというNHKの立場を踏まえて構築された独自のものである。本件文書の開示はその目的に適うものであろう。」
【私たち視聴者団体の要求】
以上のことから、私たち視聴者団体は、5.22答申がNHK情報公開制度の目的に適ったものとして開示すべき本件関連文書について、直ちに請求者への開示を行うとともに、その一般公開を一刻も早く求めるものです。
私たち視聴者団体が強く求めるのは、今回開示を求めた請求者に開示する議事録、配布資料は、これを経営委員会のHP上でも公開し、視聴者・国民誰もが閲覧できるようにすべきである、ということです。
NHK・Eテレに、「バリバラ」というユニークな番組がある。これがいま、俄然注目の的。毎週木曜夜8時からの放送。今夜の視聴率は、さぞかし跳ね上がるものと思われる。
バリアフリーの「バリ」と、多様性のバラエティの「バラ」を組み合わせたタイトルのようだ。障害者・LGBT・在日など、センシティブなマイノリティの問題を、本音を隠すことなく、明るく問題提起する。下記の番組ホームページをご覧いただきたい。そのパワーに圧倒される。
http://www6.nhk.or.jp/baribara/about/
この番組は、趣向を凝らして視聴者に次のように呼びかけた。
【招待状】バリバラ「桜を見る会?バリアフリーと多様性の宴?」
開宴:今夜8時
場所:EテレおよびNHKプラス
招待客:2019年多様性の推進に功績のあった方々(伊藤詩織さん、崔江以子さんなど)
日々多様性推進に貢献頂いている視聴者の皆さまは、密を避けるためリモート出席をお願いします。
バリバラ「桜を見る会」のその1は、4月23日に放送となった。その2が、4月30日本日放送の予定。
私は一切テレビを見ないので、これまでこの番組の存在は知らなかった。その世界では著名な番組ではあろうが、社会全体としておそらくはマイナーな存在だろう。それが、俄然注目されるに至ったのは、またまた右翼諸君の活躍のお蔭である。
いつの頃からか、私のメールアドレスにメルマガ「週刊正論」が送信されるようになった。その4月29日号が、「問題の番組内容」をこう説明している。
【再放送中止となったNHK番組『バリバラ』の内容とは】
番組冒頭、額に虻(アブ)のおもちゃをつけた内閣総理大臣アブナイゾウが「公文書 散りゆく桜と ともに消え」と詠みます。「バリバラ」では、「桜を見る会」にバリアフリーと多様性に貢献した方として、伊藤詩織氏(ジャーナリスト・ドキュメンタリー作家)、崔江以子氏(チェ・カンイヂャ、在日コリアン3世)、小林寶二・喜美子夫妻(旧優性保護法国賠償訴訟原告)を招きました。「バリバラ国、滑稽中継」と題したコーナーでは、「某国の副総理」という「無愛想太郎」が答弁に立ちます。
質問者「外国ルーツの方は生きづらい社会なんです。こんなのが美しい国と言えますか。新型コロナウイルスで、アジア人差別が増えています。どうお考えになりますか」
無愛想太郎「質問っていうのは正確を期してほしいね。ウイルスっていうのは英語圏では言わないんだ。ヴァイルス。ヴァイルスっていうの、えー。BじゃなくてVの発音ね。下唇をしっかりかんで、ヴァイルス。爆発させてヴァイルス。飛ばすの、ヴァイルス」
続いて「アブ内閣総理大臣」が登場します。
質問者「『パラサイト』という韓国映画が、今回外国映画としては初のアカデミー賞作品賞を受賞しました。これ大きいことです」
アブナイゾウ「質問通告がごじゃいませんでしたので、いずれにいたしましても、トランプ大統領と私は同盟国のトップリーダーでごじゃいまして、意見が完全に100%一致したところでごじゃいます」
質問者「100%一致、何回言えば気が済むの。まったく質問に答えていません、この人は」
アブナイゾウ「そんなあんた、いつまでもデンデンいう事じゃない」
質問者「デンデンじゃないよ。ウンヌンというんだよ」
《字幕で云々×でんでん ◎うんぬん》
司会者「なんだか日本と似たような状況もありますよね」
「週刊正論」は、以上を公共放送として問題の内容というのだが、要は「アベ批判・麻生批判が怪しからん」というだけのこと。取るに足りない。
話題になってから、私もネットで動画を拝見した。全体として、たいへん真面目な構成の問題提起番組となっている。マイノリティにとって生きづらいこの社会のあり方をえぐり出して、対等者としてマイノリティを遇しようというその心意気に共感せざるを得ない。NHKにも大した人たちがおり、大した番組を作っている。共感を通り越して、敬意を表すると言わねばならない。
この放送を快しとしない人びとがこれに噛みついた。NHKは敢然と現場を守る姿勢を取らず、予定されていた4月26日の再放送を別番組差し替えて中止してしまった。中止の決定は、放送予定の2時間半前だったという。
この番組に最初に噛みついたのは、石井孝明(Ishii Takaaki)という、その筋では良く知られた人物。下記の「訴訟・トラブル」欄を参考にされたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/石井孝明_(ジャーナリスト)
また、この人については以前このブログでも取りあげたことがある。
https://article9.jp/wordpress/?p=10068
この人は、バリバラの放送のあったその日の内に、こうツィートしている。
「NHKなめとんのか? 何これ? 反政府番組じゃないですか。健全な批判でなく。障害者の名を語って。これは抗議すべきでしょう。」
「NHKなめとんのか?」は、安倍・麻生になり代わっての不規則発言。「これは抗議すべきでしょう」は、安倍・麻生の立場からする不満の表明。そして、「なめとんのか」は、安倍・麻生の知性や品性にマッチした、まことに適切でふさわしい表現。
これも要するに「政府批判だから怪しからん」というだけの低次元。さすがに、政府批判自体を咎めることには気が引けたか、「健全な批判なら許せもするが、障害者の名を語っているから、抗議すべきだ」という文脈にした。もしかしたら、「障害者の名を語って」は、「障害者の名を騙って」のミスプリかも知れない。しかし、番組の安倍・麻生批判は、「障害者の名を語って」も、「障害者の名を騙って」もいない。
番組の安倍・麻生批判は、2点ある。一つは、「散りゆく桜とともに消えた」公文書管理の杜撰さである。そして、もう一つは「マイノリティ差別」に対するあまりに鈍感な政府の姿勢である。いずれも、故あっての正当な批判である。NHKにもジャーナリズムの魂がなくてはならない。この程度の権力者批判もできないのでは、NHKはジャーナリズム失格である。再び大本営発表の伝声管に先祖返りしてしまうことを本気で恐れねばならない。
(2020年4月30日)
コロナウィルスは罪深い。人の命を奪うだけではなく、権力に代わって集会の自由を規制する。デモ行進も妨害する。検察庁法改正問題、森友文書改竄問題、河井夫妻選挙違反事件など、緊急の抗議行動が必要なのに、ままならぬのが実情だ。
間近となった5月3日の憲法記念日大集会も、今年は行われない。「新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、集会方式での開催は中止しますが、オンライン配信を5月3日13時より行います。ぜひご覧ください。」という主催者の急告。残念だが、「オンライン大集会」では迫力を欠く、明らかにアベの力が衰えつつあるこのときに、無念というしかない。
せめて、在宅でできることをしよう。外出しなくてもできることといえば、まずはメールや電話での発信である。そして、ネットでの署名運動。
民主主義と国民の知る権利を大切とお考えの皆さまに再々度のお願いです。NHK経営委員長森下俊三氏の辞任を求める署名運動は4月末まで。
未署名の方は、下記URLを開いて、ぜひともネット署名をお願いいたします。
http://bit.ly/2TM7pGj
あるいは、http://bit.ly/33gfSETから、署名用紙をダウンロードしていただき、郵送での署名をお願いいたします。
署名の集約状況は、本日(4月22日)現在で、累計5,615筆となりました。
この署名の内容については、4月17日の赤旗「おはようニュース問答」欄に、「NHK経営委員辞任署名が4000超えたね」という問答形式として紹介されている。分かり易いので、転載させていただく。
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晴男 NHK経営委員長の森下俊三氏の経営委員辞任を求める署名が、ネット含め4干人分以上集まったんだってね。
秋平 森下氏は、日本郵政グループの求めに応じて上田良一前会長への「厳重注意」を主導した人だね。
番組制作に干渉
晴男 そうだ。発端はNHKが「かんぽ生命保険」の不正販売を告発する番組を作ったからだけど、番組制作者をほめるどころか批判するとはお門違いもいいところだ。
秋平 放送法第3条では放送番組について「何人からも干渉され、又は規律されることがない」としている。32条ではNHK経営委員に対し「個別の放送番組の編集について、第3条の規定に抵触する行為をしてはならない」とある。
晴男 「厳重注意」の際、経営委員会では該当番組について「インターネットの情報は偏っているので、作り方に問題があるのではないか」などと語っていた。
秋平 その発言をしたのが森下氏とみられているね。国会で発言者を問われると、非公開を理由に答えないが、明確な否定もできていない。
晴男 NHK労組は中央委員長見解で「経営委員会の業務として執行した会議において個別番組についての言及があったならば、それは放送法違反の疑いがあるのではないか」と述べている。
資質が問われる
秋平 経営委員長どころか、経営委員としての資質が問われている。
晴男 同じように考える人は多いね。ネット署名に多くの意見が寄せられているけど「経営委員会がモノを申しただけで十分な圧力になる。…番組について話をする姿勢こそが、通常の圧力よりさらにたちが悪い」など本質をついているよ。
秋平 そもそも、放送が「自主自律」を求められるのは、戦中の「大本営発表」の痛苦の経験があるからだ。
晴男 軍部の意向に沿って戦果を誇張し、撤退を「転進」、全滅を「玉砕」と美化してみせた。
秋平 今のNHKの報道にも似たような部分を感じるよ。客観的事実ではなく官邸寄りの情報を流しているようだ。
晴男 権力を監視するのがメディアの役割ならメディアを監視するのが市民の役割。署名はもっと広がってほしいね。
(2020年4月22日)