澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

情けなや。【不適】マーク刻印の森下俊三を経営委員再任 ー これが我が国の「民主主義」。

(2021年2月10日)
公共放送NHKは日本最大のメディアであって、そのありかたは国民の「知る権利」に計り知れない影響力をもつ。ということは、健全なNHKは日本の民主主義を支え、堕落したNHKは民主主義を貶める。そのNHKの最高意思決定機関はNHK会長でも理事でもなく、経営委員会である。経営委員12人の職責は、重大である。

経営委員会自身が、「NHKには、経営に関する基本方針、内部統制に関する体制の整備をはじめ、毎年度の予算・事業計画、番組編集の基本計画などを決定し、役員の職務の執行を監督する機関として、経営委員会が設置されています。」と述べている。

各経営委員は、衆参両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する。NHK会長は、経営委員会によって任命される。経営委員会は、会長に対する監督権限も罷免の権限も握っているのだ。その経営委員会委員長の任にあるのが、森下俊三である。総務省や官邸におもねってNHKの良心的な番組制作潰しに狂奔し、現場をかばおうとしたNHK会長を脅したとんでもない人物。

誰が見ても、ジャーナリズムの何たるかも、公共放送のありかたも分からない、経営委員不適格者。このとんでもない人物が罷免されないばかりか、首相も国会も続投させるという。まさしく、日本の民主主義の愚かさを物語っている。

昨日(2月9日)の衆院本会議は、NHK経営委員会人事を議事に上程し、この明らかな不適格者である森下俊三の経営委員再任を賛成多数で可決した。立憲民主・共産・国民民主の野党3党は反対したが、多勢に無勢で再任を阻止することはできなかった。

そして本日、まことに情けなくも、参院本会議においても、数の暴力が正論を押しのけた。額にくっきりと【不適】のマークが刻印されている森下俊三が、経営委員として再任された。経営委員長職は互選だが、事情通の語るところでは、この委員不適格者が経営委員長になるという。

ことは、公共放送の人事である。政争の具とせずに、全会一致が望ましいところである。同時にはかられた森下以外の他の3名の候補者は全会一致だった。この菅内閣と与党の、NHK支配に固執する強引さは恐ろしさを感じさせる。

あの安倍政権時代には、NHK経営委員として百田尚樹や長谷川三千子などの真正右翼が送り込まれた。これに対する、市民運動やNHK内部からの激しい抵抗がつづいた。その安倍が退陣した今もなお、菅義偉政権によるNHK支配が継続していることを嘆かざるを得ない。

なお、毎日新聞は、森下俊三を次のように、紹介している。また、「森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める各界有志」の通知と、森下再任に明確に反対した朝日・毎日新聞の社説を引用しておく。

 森下氏は委員長代行時代の2018年、かんぽ生命保険の不正販売を報じたNHK番組を巡り、日本郵政グループの抗議に同調して番組を批判し、当時の会長への厳重注意を主導。放送法が禁じる委員の番組介入の疑いが強い行為をした。注意の際の経営委議事録についても、NHKの情報公開の審議委による全面開示の答申などを実質的に尊重せず、概要しか公開していない。こうした問題を理由に、立憲民主、共産、国民民主党は、森下氏の再任に反対した

**************************************************************************
2021年2月8日
NHK経営委員 各位

森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める
アピール文ほかをお送りします

森下俊三氏をNHK経営委員に再任しないよう求める各界有志
(名簿は同封別紙)

皆様におかれましては、NHK経営委員会委員として重責を担われ、ご多用のことと存じます。
森下俊三氏の経営委員としての任期が今月末で満了するのを受けて、私たちは同封のようなアピール文、「日本郵政がNHKに圧力を加えるのに加担し、放送法に違反した森下俊三氏が、NHK経営委員に再任されることに断固反対します!」をまとめ、アピールへの賛同者名簿と賛同者から寄せられたメッセージを添えて、1月29日に各党党首ならびに衆参総務委員会委員全員宛てに郵送しました。

つきましては、これら3点の文書を経営委員各位にもお送りいたします。

今朝(2月8日)の『朝日新聞』1面記事によれば、「NHK個人情報保護・情報公開審議委員会」は、かんぽ問題を巡る経営委員会議事録の要約のみの開示は認められない、全面開示すべきという答申を出しました。これを受けて貴委員会は明日2月9日に開催される経営委員会で、この問題に関する対応を協議されるものと思われます。
その際には、私たち有志の意見を、前もってぜひ一読いただくようお願いします。そのうえで、かんぽ問題をめぐって失墜した貴委員会の信頼回復のための最後の機会というべき明日の会合において、
(1)貴委員会が犯した数々の放送法違反を真摯に反省されること、
(2)放送法に違反する経営委員会の個別番組への干渉と続編放送の妨害、議事録の公開拒否を主導した森下経営委員長の責任を明確にされること、
(3)上田良一氏を厳重注意した議論の経緯が分かる経営委員会議事録の全面開示を決定すること、
を強く求めます。

**************************************************************************

(朝日社説・2月7日)

「NHK経営委 委員長再任に反対する」

 ガバナンスが機能せず正論を平然と握りつぶす体制を、この先も続けるつもりなのか。公共放送への不信を深める人事を、認めるわけにはいかない。
政府は先月、NHKの森下俊三経営委員長(元NTT西日本社長)を委員に再任する案を国会に提示した。衆参両院で同意が得られれば、委員12人の互選によって再び委員長職に就く可能性が大きい。
だが森下氏がNHKの事業運営をチェックする経営委員、ましてやそのトップにふさわしくないのは、この間の言動から明らかだ。国会は与野党の立場を超え、国民が納得できる結論を導き出さなければならない。

経営委では近年、看過できない出来事が相次いでいる。
かんぽ生命保険の不正販売に切り込んだNHKの番組をめぐり、日本郵政が18年に苦情を申し立てた際、経営委はこれを受け入れ、当時の上田良一会長を厳重注意とした。郵政幹部と面会した後、制作手法を批判し、処分に至る流れをリードしたのは、委員長代行だった森下氏とされる。放送法が禁じる個別番組の編集への干渉が、公然と行われたと見るべきだ。
それだけではない。19年に委員長に昇格した森下氏の下、経営委はこの時の議事録の公開を拒んだ。NHK自身が設ける第三者機関が昨年5月、事案の重要性に鑑み全面開示すべきだと答申したが、それでも応じないため、第三者機関は4日付で改めて同旨の答申を出した。
放送法違反が疑われる行いで現場に圧力をかけ、さらには視聴者の知る権利も踏みにじる。その中心にいるのが森下氏だ。放送法が経営委員の資格として定める「公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者」にあたるとは、到底思えない。

政府の対応もおかしい。
新年度のNHK予算案に付けて国会に提出した意見で、武田良太総務相は経営委の議事録にも触れ、「情報公開を一層推進することにより、運営の透明性の向上を図り、自ら説明責任を適切に果たしていくこと」をNHKに求めた。森下氏の再任案はこの要請と矛盾する。

経営委をめぐっては、委員の選出過程の不透明さに加え、運営や判断に過ちがあってもそれを正す方法が限られることが、かねて問題になってきた。外部からの不当な介入を防ぎ、NHKの独立性と自律性を守るために設けた仕組みやルールが、本来の趣旨に反して今回のような暴走の素地になっている。
今回の問題を、経営委の組織や人事はどうあるべきか、社会全体で再考する機会とする必要がある。NHKの存立の根幹に関わる重要なテーマだ。

**************************************************************************

(毎日社説・2月9日)

「NHK経営委員長人事 再任では公共性守れない」

 これでは公共放送への不信感は増すばかりだ。
今月末に任期切れを迎えるNHKの森下俊三経営委員長を、委員に再任する人事案を政府が国会に提示した。
衆参両院で同意が得られれば、委員の互選の結果、再び委員長に就任する可能性が高い。しかし、その資質には大いに問題がある。

かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組を巡り、NHK経営委員会は当時の上田良一会長を厳重注意した。日本郵政グループからの抗議に、当時委員長代行だった森下氏らが同調した。
ガバナンス不足が理由とされたが、森下氏は「本当は、郵政側が納得していないのは取材内容だ」と上田氏を前に発言していた。
放送法はNHKの最高意思決定機関である経営委が個別の番組に介入することを禁じている。制作手法などを批判する発言は番組への事実上の介入にあたり、放送法に抵触する恐れがある。
続編の放送は一旦、延期され、番組による不正販売被害の告発が妨げられた。ジャーナリズムの責務を理解しているか疑わしい。
森下氏はさらに、厳重注意に関係する議事録の公開に応じていない。NHKが設置している第三者機関である情報公開・個人情報保護審議委員会が全面開示すべきだと答申したにもかかわらず、切り貼りした公表済み文書を出しただけで済ませた。
業務の透明性の確保、視聴者への説明責任をないがしろにする行為は目にあまる。
武田良太総務相はNHK予算案に付けて国会に出した意見で、情報公開を推進し、運営の透明性の向上を図ることを求めている。
それに照らし合わせても、適任の人事案と言えるのだろうか。

NHKは来年度からの次期経営計画で、業務のスリム化を打ち出した。ラジオや衛星波のチャンネル統合の方針は、サービス低下が懸念される。視聴者の方を向いた改革になるか、公共放送のあり方が問われる正念場だ。
放送法は経営委員の資質として、「公共の福祉に関し公正な判断」ができることを挙げている。公正さが疑われる森下氏の再任は信頼回復の取り組みに逆行する。

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2021. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.