最近の会合は、オンラインで行われる。そのほとんどが、Zoom(ズーム)を使ってのもの。あっという間に、このアプリが社会に入り込み生活に定着した。その普及の迅速さに、感覚がついていけない。振り返って、「コロナとともに蔓延したZoom(ズーム)」と思い起こす日が来るのだろう。
確かに便利ではある。しかし、どうも機械を介しての複数の遠隔会話は勝手が違う。場の空気を読めない。従って発言がしにくい。どうしても絞られた要件だけの発言となる。事務的な会議ではそれでよいわけだし、時間の節約にもなる。だが、談論風発して弾んだ話が思いがけない方向に進展して新しい方針として結実する、などという会合の妙味には乏しいのではないだろうか。まだ、単に慣れないせいなのかも知れないが。
昨日(5月8日)は、日民協の執行部会。ややぎこちないZoom(ズーム)での会議だが、要領よく発言する方に感心した。
テーマのひとつが、検察庁法改正問題。昨日(5月8日)に、唐突な衆院内閣委員会での審議入りである。立・国・社・共の野党が欠席のまま、自・公の与党に準与党の維新が加わっての審議強行と報告された。次回予定は13日、来週の水曜日とされている。野党は強く反発しているが成り行きは予断を許さない。13日までの運動が喫緊の重要事となっている。
報告の中に、法案の問題点が意識的に分かりにくくされているとの指摘があった。
「国家公務員法と検察庁法の二つの改正法案が意図的に抱き合わせにされているところが注意点。国家公務員の定年延長に問題はない。しかし、官邸が恣意的に検察庁幹部の定年延長人事を左右できるようにすることは大問題だ。官邸の非違を質すべき立場にある検察が、官邸に忖度する検察になり下がってしまう。」
「だから、国家公務員法改正法案と、検察庁法改正法案を分離して審議せよというのが、野党の主位的な主張だが、数の力のゴリ押しでなかなかそれが通らない」
「せめて、内閣委員会だけではなく、法務委員会との連合審議にせよというのが、野党の妥協線なのだが、これにすら耳を貸さないのが、本日の内閣委員会での審議強行」
改正案は、毒まんじゅうなのだ。餡にくるまれた毒が入っている。アベ内閣の、またまたの暴走。普段なら、大問題としてメディが大きく取りあげるところが、コロナ禍に隠れた格好で報道がまことに小さい。また、メディアが的確に問題点を把握していないのではないか。与党と維新の側も、問題が大きくならないうちに、コロナ禍に隠れて一気呵成にことを進めようという魂胆がありあり。まさしく、「火事場泥棒」。
ここで、ジャーナリストの丸山重威さんから的確な発言があった。
「分かりにくい抱き合わせ改正法案は、これまでも経験してきたところ。こんなときには、まずネーミングに工夫が大切。」「『検察庁法改正案に反対』では、訴える力がない。本質に切り込んだ法案のネーミングを考えなければ」「たとえば、『検察官人事コントロール法案』ではどうだろうか」
なるほど、おっしゃるとおりだ。火急の問題。あれこれ考えているよりは、この提案を生かしたい。
なお、共産党・山添拓議員からは、メーリングリストでこんな報告があった。
「今日(5月8日)は午前9時から、衆院内閣委員会で実質審議入りが強行されました。自民2名、公明、維新各1名が質疑し、野党の持ち時間は「空回し」せず休憩に入り、そのまま散会となりました。
与党も維新も、検察庁法について全く質問していません。そもそも法務省の政府参考人を誰も呼んでいませんので、ハナから審議するつもりはなく、世論の批判などおかまいなしに(あるいは批判を恐れて?)、国会審議でスルーと決め込んでいます。通常、批判のある法案であれば与党も一応気にして、政府に弁明させる質問を一問ぐらいはするものですが、それすらできなかったようです。」
**************************************************************************
本日(5月9日)の赤旗一面トップは、次のように、報じている。
「検察庁法改定案 与党が審議入り強行」「コロナの最中に 野党、抗議し欠席 衆院内閣委」
自民、公明などの与党は8日、衆院内閣委員会で、検察人事に内閣が露骨に介入する仕組みが盛り込まれた検察庁法改定案を含む国家公務員法等改定案の審議入りを強行しました。野党議員は、与野党の合意がないままの委員会開催と検察庁法改定案の審議入り強行に抗議し委員会を欠席しました。
野党側はこれまで、検察庁法の改定は憲法の要請に基づく三権分立にかかわる問題だとして、国家公務員法改定案と検察庁法改定案の切り離しを要求。検察庁法を所管する森雅子法相の出席を求めてきました。
ところが、与党側はこれらを拒否。与野党の合意がないままに委員長職権で委員会を開催し、改定案の審議入りを強行しました。
野党の内閣委員は同日、そろって記者会見し、日本共産党の塩川鉄也議員と、立憲民主党、国民民主党などの共同会派の大島敦(国民民主党)、今井雅人(無所属)両議員が抗議を表明しました。
塩川氏は、同改定案が昨年段階ではなかった検察官の勤務延長を突如盛り込んだ点について、この改定の出発点は、官邸に近いとされる黒川弘務東京高検検事長の勤務延長の閣議決定にあると指摘。「憲法の基本原則である三権分立と司法権の独立を脅かし、官邸の意のままになる検察人事を行い、その勤務延長にあわせようとするのが今回の法改定だ」と批判しました。
その上で、「審議を強行するのは、道理のない法改定についてまともに説明することができないことを認めたのと同然だ」と強調。「新型コロナ感染症対策に全力を挙げるべきときに、火事場泥棒的に悪法を強行する安倍政権の姿勢が厳しく問われる」と抗議しました。
**************************************************************************
35弁護士会「反対」検察官定年延長 「三権分立脅かす」
検察の独立性を侵す検察庁法改定案の審議を自民・公明と維新が衆院内閣委員会で強行する中、全国に52ある単位弁護士会の3分の2にあたる34都道府県の35弁護士会の会長が検察官の定年延長と同法案に反対する声明を発表したことが8日、本紙の集計でわかりました。
同法案をめぐっては、日本弁護士連合会の荒中(あら・ただし)会長が4月6日に反対する声明を発表。これを受けて、10を超える弁護士会で続々と声明が発表されています。
安倍晋三首相の地元、山口県弁護士会は先月23日に反対の会長声明をあげています。
声明では「この改正案が、最高検察庁次長検事などの役職人事に政府の介入を認めるものであって、検察官の独立性をより強く侵害し、三権分立を定める憲法秩序を脅かす」と指摘しています。
**************************************************************************
検察官の定年延長 有志団体「弁護士1500人が反対」と批判
(NHK2020年5月8日 17時)
検察官の定年延長を最長で3年まで可能にする検察庁法の改正案に反対する団体がオンラインで会見を開き、団体の活動に賛同する弁護士が全国で1500人に上ることを明らかにしたうえで「新型コロナウイルスの影響が広がる中、拙速に国会での審議を進めるべきではない」と訴えました。
検察官の定年を段階的に65歳に引き上げ、定年延長を最長で3年まで可能にする検察庁法の改正案は、国家公務員の定年を引き上げるための法案と合わせて8日から衆議院内閣委員会で審議が始まりました。
これについて法改正に反対する有志の弁護士で作る団体が8日、オンラインで記者会見を開き、「改正案は検事長らの定年延長の判断を内閣や大臣に委ねるもので、検察の政治的中立性や独立性を脅かす」と訴えました。
そのうえで、呼びかけを始めた4月下旬からのおよそ2週間で、活動に賛同する弁護士が、日弁連(日本弁護士連合会)の会長や副会長経験者を含め全国で1500人に上ったことを明らかにしました。
(2020年5月9日)
毎日新聞の仲畑万能川柳、これが常にも増して面白い。憂さ晴らしに、川柳はもってこいである。本日(5月8日)選の中に次の一句。
コロナうつ万柳詠んで吹き飛ばせ 尾道 瀬戸の花嫁
のみならず、このご時世ネタは尽きない。この万柳のためだけに、毎日新聞を定期購読しているファンもあると聞く。むべなるかな、この川柳欄に群がる投稿者たちは独特の部分社会を形作っている。社会の本流からは少しはずれた、それゆえに健全な部分社会。
※最近の句で目立ったのは、マスクネタである。
マスク二枚配りみんなの口封じ 浦安 さやえんど
これは秀逸。愚かな意図を見抜いた上で、笑い飛ばしている。
アベマスク家族4人であみだくじ 鹿沼 鹿沼土
ハズレの二人がバツゲームとして使うことになる。
マスクよりお似合いですよ「頰っ被り」 戸田 小松多代
もちろん、マスクを配ったあの人のこと。
二枚ずつアベノマスクの二百億 北九州 エミリー
当初は200億の報道だった。いずれにしても愚かの極み。
10万とマスクのどっち先か賭け 静岡県 増田謙一郎
布マスク変えられないか前広に 千葉県 姫野泰之
散会時マスク総理は即外す 東京都 後藤克好
躊躇なくマスク二個とは情けない 町田 不銹鋼
一世帯一人もいれば七人も 宗像 水芭蕉
売れる程手作りマスク上手くなり 寝屋川 ヒロポン
マスクかけ佐保姫別れの袖を振り 埼玉県 磯貝満智
春うららマスクの形に日焼けして 柏原 年中無給
香港のマスク禁止は終わったの? 大野城 ぶび子
完売の文字が褪せても来ぬマスク 多治見 和宇茶中
※マスク以外のコロナ禍も笑いのネタに
二週間いつまでたっても二週間 東京都 新井文夫
捲(めく)っても出口見えないカレンダー 茨城県 清水方子
検査する代わりコーヒー嗅がされる 青森 よしのまち
オナラして臭い感じて安心し 大阪 板はん
コーヒーのたびに匂うか確かめる 東京 緑カレー
恐ろしやコロナ対策銃を買う 西宮 軒の小雀
取った税貸してあげると言う政治 海老名 しゃま
言い訳のアベオンステージNHK 別府 タッポンZ
志村さん「だいじょぶだあ?」って言ってたじゃん 千葉 ペンギン
オレなんざもともと距離を置かれてる 行田 ひろちゃん
ニュースから消えて下さいコロナの字 大田原 武田正子
メモを読む総理に空気読まぬ嫁 福岡 猫懐
クラスター→オーバーシュート→ロックダウン 交野 令和の令子
怖いのはコロナニュースに慣れたとき 神奈川 カトンボ
新聞が痩せた戦中思い出す 神奈川県 金澤紀六
ステイホーム肥後で申せば「籠城じゃ」 長崎県 前田一笑
あるんだね皆テレワークできる社も 宝塚 おーい銅将
ウイルスは「やってる感」では騙せない 東京 三次
コロナ禍も議員歳費はご安泰 水戸 むっちゃん
コロナから知る全国の知事の顔 岐阜 金子錆男
消毒をした手でノブを触るドジ 和歌山 松原まつこ
予定表消してばかりだこの春は 高槻 風頼坊
ひと月の長さ感じる新コロナ 山形 かみやじい
こんな時弱い人から解雇され 相模原 アンリ
日本語で怖さがわかる都市封鎖 茨木 イシマリ
我も彼もマクベスのごと手を洗う 熊本 しゅ
こんな事あるんやなあと空見上げ 伊丹 しずく
世界から握手抱擁消える日が 芦屋 言閑マダム
目に見えぬコロナこわくてひきこもる 三豊 泣きっ子
呼吸器もベッドも足らぬ医療大国 白石 よねづ徹夜
※川柳子は安倍晋三にも優しい
万柳の良いとこ安倍の支持もいる 白石 よねづ徹夜
もう既に「あきれ夫人」と呼ばれてる 川崎 さくら
後手後手の旦那のたまう「前広」と 神奈川県 安藤隆喜
取る気ない責任だから軽く言え 東京 城山光
※9月始業もネタになる。
新入生引き受けますと秋桜(コスモス)が 埼玉県 磯貝満智
これは優しい。コスモスがサクラにささやいている。
袴(はかま)から浴衣に変わる卒業式 埼玉県 金子雄一
なるほど。それも楽しい。
九月から始業コロナが薄笑い 東京都 大和田淳雄
これは恐い。9月からの始業などできるものかと鬼のよう。
※ そして健全な精神は森友事件を忘れない。赤木さんのことも。
悪代官しっぽ切りまで部下にさせ 鹿沼 鹿沼土
部下死んだかまっちゃおれぬ出世道 周南 石丸壽人
忖度は懲戒受けても出世する さいたま 高本光政
権力の凄まじさ遺書見せつける 日立 北の馬場
忖度は人を殺すと皆知った 福岡 ナベトモ
もういいよ事実を言っても佐川さん 豊川 雨ニモ負太
起訴不起訴凄い力の検事さん 兵庫 新ポスト
(2020年5月8日)
5月3日・憲法記念日に何紙かの紙面に目を通した。その中で、神奈川新聞の投書欄の記事が目についた。
■信頼できる首相が欲しい 中村祐一 74 (厚木市)
緊急事態宣言を先月7日発令した安倍首相は会見で「どうか正しい情報に基づいて冷静な行動を心よりお願いする」と国民に呼び掛けた。おやっ!? と思った。
森友・加計に財務省の文書改ざん、「桜を見る会」、東京高検検事長の定年延長問題。選挙演説中に聴衆をののしり、国会審議中に答弁席から下劣なやじを飛ばす。国のトップとして責任感も品位もない首相に呼び掛けられても素直に「はい、分かりました」と受け入れる気持ちにはなれない。
緊急経済対策で国民に「一律10万円給付」との会見では、プロンプターに映る官僚の作文を棒読み。これでは国民の胸には響かない。現金給付を巡る政治的混乱について 「私自身の責任であり、国民に心からおわびを申し上げたい」と陳謝。なぜ「おわび申し上げる」と言わないのか、私には理解できない。
新型コロナウイルス対策で、ドイツのメルケル首相の国民に語りかける誠実で説得力のある言葉に、私は同国民がうらやましい。つくづく心から尊敬し信頼できる首相が欲しい。
なるほど、まったくそのとおりと思いつつも、反面、軽々に同意してはならないとの思いもある。国家の主人公は、飽くまで国民であって、政治的なリーダーではない、と考えるからである。
私も、ドイツ国民を羨ましいと思う。が、それは真っ当な国民の代表者を選任する能力を備えている点において、である。
「安倍晋三 その存在こそが国難だ」という認識が国民の一定部分に定着して久しい。それでもの長期政権である。この人には、その能力にも、資質にも、品性にも、政治姿勢にも、とるべきところはない。文化的素養は乏しく、なによりも政治家としてのビジョンにもパッションにも欠ける。
この人が一番生き生きし、はつらつとしているのは、「ニッキョーソ!」とか、「キョーサントー」と、大臣席に着席して野次を飛ばしているとき。神妙に国民に語りかけるときは、投書子の指摘のとおり、プロンプターに映る官僚の作文を棒読み。学級委員が作文を読んでいる風情で、国民の胸に響くものがない。
安倍晋三を支える右翼勢力の好みは、儒教にいう「徳治」であろう。しかし、安倍晋三に、民を感化する「徳」の一片もあろうはずはない。近年これほど政治の私物化が目に余る政治家はいない。
「修身斉家治国平天下」こそが、天皇制教育が拠って立つイデオロギーであった。この視点から安倍晋三はどうであろうか。「嘘つきは、安倍の始まり」と囁かれているほどなのだから修身失格である。だから、「あきれ夫人」の暴走を押さえての斉家は望むべくもない。その結果、国は治まらず、天下は乱れているのだ。
尊敬される人物とは、真・善・美を語ることができなければならない。敬愛される政治家とは、正義と友愛を体現していなければならない。安倍晋三ほど、この条件に真逆な人物も少ない。安倍晋三ほど尊敬や敬愛とは無縁な政治家もいない。
それゆえ、良識ある国民からは、疎まれ蔑まれているのが安倍晋三である。にもかかわらず、有権者の総体は、この「ミスター国難」「ミスター不徳」を是認し、政権の座に留めている。だから、引きずり降ろすことができない。
もっとも、政権トップの資質という点では、トランプと安倍晋三は、兄たりがたく弟たりがたし。価値観だけでなく、嗜好も品性も政治姿勢もよく似ている。アメリカ国民もお気の毒ではないか。いや、サウジアラビヤも、ハンガリーも、ポーランドも、トルコも、ブラジルも、実はお気の毒な国民は、全世界に目白押しだ。ロシアも、中国も、北朝鮮も大同小異。
他国の国民には「お気の毒」というしかないが、自国のリーダーは、私たちの手で変えることができる。「信頼できる首相が欲しい」ではなく、「安倍晋三には退陣願って、信頼できる真っ当な首相に変更しよう」。多くの人と力を合わせて、そのための算段を工夫しよう。
(2020年5月6日)
NHK・Eテレに、「バリバラ」というユニークな番組がある。これがいま、俄然注目の的。毎週木曜夜8時からの放送。今夜の視聴率は、さぞかし跳ね上がるものと思われる。
バリアフリーの「バリ」と、多様性のバラエティの「バラ」を組み合わせたタイトルのようだ。障害者・LGBT・在日など、センシティブなマイノリティの問題を、本音を隠すことなく、明るく問題提起する。下記の番組ホームページをご覧いただきたい。そのパワーに圧倒される。
http://www6.nhk.or.jp/baribara/about/
この番組は、趣向を凝らして視聴者に次のように呼びかけた。
【招待状】バリバラ「桜を見る会?バリアフリーと多様性の宴?」
開宴:今夜8時
場所:EテレおよびNHKプラス
招待客:2019年多様性の推進に功績のあった方々(伊藤詩織さん、崔江以子さんなど)
日々多様性推進に貢献頂いている視聴者の皆さまは、密を避けるためリモート出席をお願いします。
バリバラ「桜を見る会」のその1は、4月23日に放送となった。その2が、4月30日本日放送の予定。
私は一切テレビを見ないので、これまでこの番組の存在は知らなかった。その世界では著名な番組ではあろうが、社会全体としておそらくはマイナーな存在だろう。それが、俄然注目されるに至ったのは、またまた右翼諸君の活躍のお蔭である。
いつの頃からか、私のメールアドレスにメルマガ「週刊正論」が送信されるようになった。その4月29日号が、「問題の番組内容」をこう説明している。
【再放送中止となったNHK番組『バリバラ』の内容とは】
番組冒頭、額に虻(アブ)のおもちゃをつけた内閣総理大臣アブナイゾウが「公文書 散りゆく桜と ともに消え」と詠みます。「バリバラ」では、「桜を見る会」にバリアフリーと多様性に貢献した方として、伊藤詩織氏(ジャーナリスト・ドキュメンタリー作家)、崔江以子氏(チェ・カンイヂャ、在日コリアン3世)、小林寶二・喜美子夫妻(旧優性保護法国賠償訴訟原告)を招きました。「バリバラ国、滑稽中継」と題したコーナーでは、「某国の副総理」という「無愛想太郎」が答弁に立ちます。
質問者「外国ルーツの方は生きづらい社会なんです。こんなのが美しい国と言えますか。新型コロナウイルスで、アジア人差別が増えています。どうお考えになりますか」
無愛想太郎「質問っていうのは正確を期してほしいね。ウイルスっていうのは英語圏では言わないんだ。ヴァイルス。ヴァイルスっていうの、えー。BじゃなくてVの発音ね。下唇をしっかりかんで、ヴァイルス。爆発させてヴァイルス。飛ばすの、ヴァイルス」
続いて「アブ内閣総理大臣」が登場します。
質問者「『パラサイト』という韓国映画が、今回外国映画としては初のアカデミー賞作品賞を受賞しました。これ大きいことです」
アブナイゾウ「質問通告がごじゃいませんでしたので、いずれにいたしましても、トランプ大統領と私は同盟国のトップリーダーでごじゃいまして、意見が完全に100%一致したところでごじゃいます」
質問者「100%一致、何回言えば気が済むの。まったく質問に答えていません、この人は」
アブナイゾウ「そんなあんた、いつまでもデンデンいう事じゃない」
質問者「デンデンじゃないよ。ウンヌンというんだよ」
《字幕で云々×でんでん ◎うんぬん》
司会者「なんだか日本と似たような状況もありますよね」
「週刊正論」は、以上を公共放送として問題の内容というのだが、要は「アベ批判・麻生批判が怪しからん」というだけのこと。取るに足りない。
話題になってから、私もネットで動画を拝見した。全体として、たいへん真面目な構成の問題提起番組となっている。マイノリティにとって生きづらいこの社会のあり方をえぐり出して、対等者としてマイノリティを遇しようというその心意気に共感せざるを得ない。NHKにも大した人たちがおり、大した番組を作っている。共感を通り越して、敬意を表すると言わねばならない。
この放送を快しとしない人びとがこれに噛みついた。NHKは敢然と現場を守る姿勢を取らず、予定されていた4月26日の再放送を別番組差し替えて中止してしまった。中止の決定は、放送予定の2時間半前だったという。
この番組に最初に噛みついたのは、石井孝明(Ishii Takaaki)という、その筋では良く知られた人物。下記の「訴訟・トラブル」欄を参考にされたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/石井孝明_(ジャーナリスト)
また、この人については以前このブログでも取りあげたことがある。
https://article9.jp/wordpress/?p=10068
この人は、バリバラの放送のあったその日の内に、こうツィートしている。
「NHKなめとんのか? 何これ? 反政府番組じゃないですか。健全な批判でなく。障害者の名を語って。これは抗議すべきでしょう。」
「NHKなめとんのか?」は、安倍・麻生になり代わっての不規則発言。「これは抗議すべきでしょう」は、安倍・麻生の立場からする不満の表明。そして、「なめとんのか」は、安倍・麻生の知性や品性にマッチした、まことに適切でふさわしい表現。
これも要するに「政府批判だから怪しからん」というだけの低次元。さすがに、政府批判自体を咎めることには気が引けたか、「健全な批判なら許せもするが、障害者の名を語っているから、抗議すべきだ」という文脈にした。もしかしたら、「障害者の名を語って」は、「障害者の名を騙って」のミスプリかも知れない。しかし、番組の安倍・麻生批判は、「障害者の名を語って」も、「障害者の名を騙って」もいない。
番組の安倍・麻生批判は、2点ある。一つは、「散りゆく桜とともに消えた」公文書管理の杜撰さである。そして、もう一つは「マイノリティ差別」に対するあまりに鈍感な政府の姿勢である。いずれも、故あっての正当な批判である。NHKにもジャーナリズムの魂がなくてはならない。この程度の権力者批判もできないのでは、NHKはジャーナリズム失格である。再び大本営発表の伝声管に先祖返りしてしまうことを本気で恐れねばならない。
(2020年4月30日)
アベノマスク。構想発表時点から「歴史的愚策」「466億円の無駄遣い」と評判が悪かった。いま配布が始まって、あらためて悪評を重ねている。「やっぱり、アホノマスク」という声もある。
報道によると、厚生労働省が18日、国内全戸への発送に先立って配布された妊婦向けの布マスクの一部に汚れが付着するなどの不良品が見つかったと発表。学校や介護施設等への発送分にも虫や髪の毛が混入されているものが見つかり、17日時点で80市区町村から1901件の報告があったという。不良品の数は合わせておよそ6700枚であったという。
これだけの問題が生じているのに、「発注先や製造元のメーカーなどの製品情報を政府がひた隠しにしている」ことにも疑問の声が噴出している。メディアが、厚生労働省や電話相談窓口に問い合わせても、「公表していない」と口を閉ざし、立憲民主党の蓮舫議員からの問い合わせにも応じていないという。それはおかしい。おかしいという根拠の一つとして、「PL法」を挙げたい。
消費者保護分野での主要法の一つとして、「製造物責任法」がある。その通称が「PL法」。PLとは、「製造物責任(Product Liability)」をいう。
かつて、資本主義の興隆期には企業活動の自由が称揚され、法体系はそのようなものとして作られた。民法の過失責任主義は、企業が製造する製品によって消費者事故が生じ被害が発生しても、「(企業に)過失なければ責任なし」として多くを免責した。この過失責任主義を大転換して、消費者に生じた商品事故が製品の欠陥によるものと認められる限りは、企業は「製造物責任(Product Liability)」を負わねばならないとした「PL法」は画期的な立法とされた。
では、「過失」と「欠陥」はどう違うのか。本質的で実践的な問題だが、本日論じようというテーマではない。
申しあげたいのは、「製造物責任(Product Liability)」を負う主体が、「製造業者」(当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者)だということ。製造業者は「その引き渡したものの欠陥に」責任をもたねばならない。(法第3条)
消費者運動に携わった我々は、「製造物責任法」を消費者保護立法と位置づけ、消費者に商品事故が生じた場合の救済法と捉えた。その責任追及の実践が、市場から欠陥商品を駆逐し消費者の安全に資することになると考えた。
事実上、「製造物責任法」とは、「商品安全に関する企業の責任法」である。典型的には、企業は消費者に選択されることを念頭に製品を製造し、これを商品として流通に置く。製造物が市民の手に渡るのは、市場において消費者が商品として購入することを通じてのことである。
ところが、製品としての不具合が報じられているアベノマスクは通常の商品流通とは異なる経路で全市民に届けられる。市民は、消費者としての市場での選択とは無関係にマスクを入手することになる。言わば、選択権のないまま押し付けられるのだ。しかし、そうではあっても、このマスクの製造業者に「製造物責任(Product Liability)」は免れない。法は、製造業者に「その引き渡したものの欠陥に」責任を課しているのであって、商品として流通におくことを要件としていないからである。
だから、アベノマスクの欠陥によって、「人の生命、身体又は財産を侵害」する事故が生じた場合には、このマスクの製造業者(メーカー)に、PL法上の製造物責任が生じることになり、無過失でも損害賠償義務を負うことになる。その責任主体のメーカー名を秘匿することは、国が,被害者の裁判を受ける権利を奪うに等しい。もっとも6700枚のマスクの「不良」が必ずしも「欠陥」ではない。しかし、その可能性は否定し得ないのだ。
法的責任もさることながら、肌に密着する衛生用品を使用するに際して、どこの誰が作ったものであるかが不明確であってはならない。このマスクの配布を受けた者には、消費者と同様にマスクの仕様・性能と製造業者について「知る権利」がある。
消費者の選択において、製造業者が示す商品の性能や安全性に関する情報は不可欠なものである。少なくとも、どこの誰が作ったものであるかの明示はなくてはならない。アベノマスクの場合は、企業の製造物責任と行政の説明責任とが重畳していると考えなければならない。
ところが、である。アベ政権は、アベノマスクの製造元を明らかにしようとしないのだ。何らかの不都合あってのことであろう。しかも、この件に関しては「アベノマスク対アサヒノマスク」論争に発展して、アベは墓穴を掘っている。「アサヒノマスク」の方は何から何まで明らかにされており、その値段の根拠には誰もが納得せざるを得ない。これとの対比で、アベノマスク製造業者の非公表は、ますます不自然となっている。
このマスク論争の発端は、朝日嫌いの軽忽な右翼評論家の「朝日新聞が2枚で3300円のぼったくりマスクを販売中! 買っちゃダメだよ!」というツイートに、安倍晋三が乗ってしまったことであったという。情けなや、みっともなや。これが、日本国首相のレベルである。
天下の愚策として配布されたアベノマスク。その製品としての欠陥と製造元の秘匿は、実はアベ政権そのものの欠陥と秘密主義を象徴するものとなっている。
(2020年4月21日)
安倍の悪事は多過ぎて、追いかけるだけでも目が回る。コロナだけに気を取られてはいけない。モリ・カケ・サクラ、テストにカジノにカワイ。その全てと関わるのが、幹部検察官人事に介入しようという検察庁法改正案。国家公務員の定年延長法案と抱き合わせとなっている。それが、昨日(4月16日)衆議院で審議入りした。こんなにも評判の悪い、こんなにも不当性見え見えの法案が、堂々と国会で審議されている。
塩川鉄也議員(共産)は、衆院本会議で質疑。これが、分かり易い。
「発端は安倍政権が1月に黒川弘務東京高検検事長の定年を延長させる閣議決定をしたことだ」「戦後、日本国憲法のもとで制定された検察庁法は、検事の定年延長は認めなかった。それは、検察官人事への政治の恣意的な介入を阻止し、検察官の独立性確保のためだ」「違法な閣議決定につじつまを合わせるため検察官の役職定年に例外を設け、内閣が認める時は63歳を超えても、さらには退官年齢(65歳)を超えても検事長などのまま勤務させることができるという抜け穴まで設けたもので許されない」「今回の法案は、検察官人事への介入を通じて内閣が恒常的に司法の一角に対する支配をを可能とすることで、憲法の基本原理である権力分立を破壊するもの」と批判した。まったくそのとおりだ。
**************************************************************************
ところで、16日に法案の審議入りが予想されるとして、法律家6団体が、15日に記者会見を開いた。それがズーム(Zoom)を用いた「ウェッブ会見」だと報告を受けた。ふーむ、世は遷っている。
2020年4月14日
「国家公務員法等の一部を改正する法律案(検察庁法改正案)」
に反対する法律家団体の共同記者会見に関する取材と報道のお願い
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮里 邦雄
自 由 法 曹 団 団 長 吉田 健一
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議 長 北村 栄
日本国際法律家協会 会 長 大熊 政一
日本反核法律家協会 会 長 佐々木猛也
日本民主法律家協会 理 事 長 右崎 正博
改憲問題対策法律家6団体連絡会事務局長 弁護士大江京子
お問い合わせ先 弁護士 江夏大樹
1 検察庁法改正案が衆院で審議入り
政府は,「国家公務員法の一部を改正する法律案(検察庁法改正案)」を,4月16日に衆議院で審議入りする方針を固めました。
検察官は,「公益の代表者」であり,内閣総理大臣を含む政権中枢の権力犯罪に対しても捜査・起訴権限を付与された準司法官的な地位を有する国家機関であることから,政権からの独立性・公正性が制度的に保障されなければなりません。しかしながら,検察庁法改正案では,すべての検察官の定年及び定年延長について国家公務員法の規定が適用されること,内閣ないし法務大臣の広範な裁量により定年延長ができることを規定し,次長検事,検事長,検事正,上席検察官に役職定年制を導入するとともに,内閣ないし法務大臣の広範な裁量に基づき役職定年を延長する規定が盛り込まれています。この改正案では,検察官全体の人事に政権が恒常的に介入することが合法化することになります。
2 新型コロナ感染が広がる中での検察庁法改正
現在、新型コロナの感染拡大が止まらない中、内閣ないし法務大臣が検察人事に介入するという極めて問題のある検察庁法改正案を国会で審議する必要は全くありません。
また、安倍内閣は現在、自民党の河井克行前法相、河井案里参院議員に対する公職選挙法違反事件や元自民党の秋元司衆院議員に対するカジノを含む統合型リゾート(IR)事業の汚職事件が直撃している上に、自身も森友問題や桜を見る会に関連する支出を政治資金収支報告書に記載していない等の様々な疑惑が浮上しており、捜査の対象となる立場です。そうすると、今回の検察庁法の改正は新型コロナの混乱に乗じて、自身への疑惑の追及を回避する仕組み作りにあるとの謗りを免れません。
そこで,私たちは,4月16日に予定されている検察庁法改正案の国会審議入りを前に,同法案の問題点を明らかにし,同法案の廃案を訴えるために共同記者会見を行うことといたしました。
日時: 4月15日午後3時?4時(予定)共同記者会見
手段: Zoomのウェビナー機能を用いて行います。
参加方法:幹事社の毎日新聞の方に参加URLをメールで送ります。
? Zoomのウェビナーでは参加者がパネリスト(発言可)と一般視聴者(視聴のみ)に分かれます。
? 各メディアの方でご参加いただける方は事前に江夏(enatsu@tokyolaw.gr.jp)に「お名前」と「お使いになるアドレス(Zoomに登録したアドレスの場合はそちらのアドレス)」をお伝えください。パネリストとして記者会見にご招待いたします。
? 本記者会見は一般の方々も視聴者として参加することを可能としました。
? Zoomの参加方法にご不明な点がありましたら江夏までお問い合わせください。
会見出席者:各団体からの発言をご依頼するとともに、各野党の国会議員の先生方に発言をしていただく予定です。
是非,取材をして頂くと共に,報道の程,お願い致します。
(2020年4月17日)
今夕(4月7日)緊急事態宣言という。これも重大事だが、コロナ禍での大騒ぎを奇貨としての安倍の諸疑惑逃れを許してはならない。桜疑惑、森友文書改竄疑惑、カジノ疑惑、河井夫妻疑惑…。そして、そのすべてに関わるものが幹部検察官人事介入疑惑である。
ことの発端は、黒川弘務東京高検検事長についての違法な定年延長。露骨なえこひいき人事であった。これを指摘された安倍は反省するどころではない。いま開き直って検察庁法改正を含む国公法改正を強行しようとしている。今後は、「合法的に」内閣の裁量によって幹部検察官の人事に介入しようというのだ。
昨日(4月6日)、日弁連がようやくこの問題に会長声明を発した。「法の支配と権力分立を揺るがすと言わざるを得ない」と踏み込んで批判している。各地の単位弁護士会のうち、既に22会がこの問題について、実務法律家の立場から反対意見を表明している。日弁連としてはやや遅きに失したという声もあるが、荒中新会長の決断に敬意を表したい。
声明も言うとおり、刑事司法の根幹を揺るがし、三権分立の大原則をも崩壊させかねない大問題である。安倍政権への国民の信頼がなくなることは些事であるが、刑事司法への国民の信頼が失われることは、憂慮すべき由々しき事態である。
なお、本年3月5日、日本民主法律家協会を含む法律家9団体が、「東京高検検事長黒川弘務氏の違法な任期延長に抗議する法律家団体共同声明」を公表しており、4月2日付けで日本民主法律家協会が、下記の「検察官の独立を侵す検察庁法改正案に反対する声明」を出している。これをご紹介しておきたい。
**************************************************************************
検事長の勤務延長に関する閣議決定の撤回を求め、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明
政府は、本年1月31日の閣議において、2月7日付けで定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について、国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3第1項を根拠に、その勤務を6か月(8月7日まで)延長する決定を行った(以下「本件勤務延長」という。)。
しかし、検察官の定年退官は、検察庁法第22条に規定され、同法第32条の2において、国公法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、同法の特例を定めたものとされており、これまで、国公法第81条の3第1項は、検察官には適用されていない。
これは、検察官が、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しており、犯罪の嫌疑があれば政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならず、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。
したがって、国公法の解釈変更による本件勤務延長は、解釈の範囲を逸脱するものであって、検察庁法第22条及び第32条の2に違反し、法の支配と権力分立を揺るがすものと言わざるを得ない。
さらに政府は、本年3月13日、検察庁法改正法案を含む国公法等の一部を改正する法律案を通常国会に提出した。この改正案は、全ての検察官の定年を現行の63歳から65歳に段階的に引き上げた上で、63歳の段階でいわゆる役職定年制が適用されるとするものである。そして、内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは、役職定年を超えて、あるいは定年さえも超えて当該官職で勤務させることができるようにしている(改正法案第9条第3項ないし第5項、第10条第2項、第22条第1項、第2項、第4項ないし第7項)。
しかし、この改正案によれば、内閣及び法務大臣の裁量によって検察官の人事に介入をすることが可能となり、検察に対する国民の信頼を失い、さらには、準司法官として職務と責任の特殊性を有する検察官の政治的中立性や独立性が脅かされる危険があまりにも大きく、憲法の基本原理である権力分立に反する。
よって、当連合会は、違法な本件勤務延長の閣議決定の撤回を求めるとともに、国公法等の一部を改正する法律案中の検察官の定年ないし勤務延長に係る特例措置の部分に反対するものである。
2020年(令和2年)4月6日
日本弁護士連合会
会長 荒 中
**************************************************************************
検察官の独立を侵す検察庁法改正案に反対する声明
2020年4月2日
日本民主法律家協会
第1 はじめに
2020年3月13日、政府は、検察官のいわゆる定年延長(以下、原則として勤務延 長と呼ぶ。)などを盛り込んだ検察庁法の改定を含む「国家公務員法等の一部を改正する法律案」(以下、法案という。)を閣議決定し、国会に提出した。
検察官について、法案は、
?検察官の定年を検事総長と同じ65歳に段階的に引き上げる、
?63歳に達した検事正、検事長、次長検事につきいわゆる役職定年制を導入する、
?役職定年を超える任用の特例を認める、
?定年年齢に達した検察官について「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由」があると認める場合に勤務延長を認める、
というものである。
しかしながら、法案のうちとりわけ??については、時の政治権力による検察人事への不当な介入、それによる検察行政への不当な影響をもたらすという危険を多分に有する。これは、法の支配・法治国家という近代国家の基本原則をゆるがせにすることでもあり、到底容認することができない。
第2 正当な立法事実の不存在と法案による違法な事実の追認
1 法案には、そもそも、正当な立法事実が存在していない。一般の公務員の場合、職務の内容、その執行される場所が多岐・広範であることから、いわゆる余人をもって代えがたいなどの状況もありうる。従って、それに対処するために定年延長が必要な場合があることは事実である。しかし、検察官の場合、検察事務・検察行政ないし法務行政のいずれであれ、その職務内容や執行の場所は一般の行政に比して限局されている。また、検察官同一体の原則に基づく事務委任・事務引取移転により、検察官の行う事務作業を円滑に維持することが可能で、現にそのように実施されてきた。戦前の裁判所構成法の下で一時期存在していた判検事の定年延長制度を、戦後の裁判所法・検察庁法が引き継がなかったのも、裁判所構成法の立法当初指摘された勤務延長を認める必要性が現実には存在しなかったことに由来する。ある検察官の定年退職によりこれらの事務が阻害されたとの事実ないしそのおそれの存在は、まったく示されていない。正当な立法事実の存在自体が、極めて疑わしい。2019年10月末に内閣法制局が一度了承した検察庁法改正当初案においては、勤務延長などに関する規定はなく、法務省が2019年10月にまとめた説明資料でも、「(検察官は)柔軟な人事運用が可能」で、「公務の運営に著しい支障が生じるなどの問題が生じることは考え難く、…(特例)規定を設ける必要はない」と明記している。
2 法案は、2020年1月31日に閣議決定された黒川弘務東京高検検事長のいわゆる定年延長問題に端を発したものである。黒川氏は現行の検察庁法に基づき2月に定年退職する予定であったところ、安倍政権は、「検察官は国公法の定年延長を適用されない」という従前の法解釈を変更し、これに基づいて黒川氏の定年が半年間延長された。これは、「首相官邸に近い」とされる同氏を次期検事総長に就任可能とする措置だとも言われている。しかし、このような解釈変更とそれに基づく勤務延長措置がきわめて恣意的であり、違法・不当であることは、われわれを含む法律家9団体が先に発表した2020年3月5日付「東京高検検事長黒川弘務氏の違法な任期延長に抗議する法律家団体共同声明」、各報道機関の論調をはじめ、各方面からすでに多数指摘されているところである。すなわち、国家公務員法の規定する勤務延長制度は検察官には適用されないとしてきた従来の解釈を、官邸の独断により正規の手続もなく変更するという違法手段によって、たった1人のためにだけ勤務延長が強行され、これにより政治権力による検察への介入に対する防波堤が崩されることとなった。これを契機として準備されたと思われるこの法案は、立法事実を欠くのみならず、上記のような違法・不当な措置を、立法という形をとって「合法化」するものである。社会状況の変化などで法解釈が変更されることはありうるとしても、法案はそのような要請に基づくものでない。きわめて不公正かつ邪悪な意図に基づくものである。
第3 時の政府による検察支配のための法案
1 検察官は、内閣に属する行政権を担う行政官であるが、その職務は司法権の行使と密接に関係する。このため、検察官が行う事務を統括する検察庁も、通常の行政機関とは異なる「特別の機関」(国家行政組織法8条の3)とされている。また、検察官は、いわゆる独任官庁として自己の良心に従った事件処理を行うべきことも要求されている。かかる特殊性から、検察官には、一般公務員よりも手厚い、裁判官に近い身分保障が付与され、停職・免職事由は法定の事由に限られる(検察庁法25条)。これらは、政治権力が検察に対して不当に介入することを防止し、検察官が自己の良心に従って独立した判断を行うことを可能とするためであるが、法律に事由を明定することによって検察官人事の客観性・透明性を担保する機能をも有する。法務大臣のいわゆる具体的指揮権の対象を検事総長に限った(同14条)のも、検察に対する政治的影響を極力排する趣旨からである。このことは、日本に限らず世界的な要請である。
各国の検察官が参加する組織である「国際検察官協会」(INTERNATIONAL ASSOCIATION OF PROSECUTORS)の策定した「専門職責任と検察官の基本的な権利義務に関する宣言の基準」(STANDARDS OF PROFESSIONAL RESPONSIBILITY AND STATEMENT OF THE ESSENTIALDUTIES AND RIGHTS OF PROSECUTORS)なども、検察官の不羈独立・公平を強く求めている。定年制も、人事の新陳代謝を確保しつつ、年齢という客観的基準のみで検察官の身分を失わせる点で、きわめて公正な制度であり、政治権力の検察への恣意的な介入を防ぐ機能を有している。日本において特殊な定年制を導入してきた官職の多くは、独立性・専門性の高い職種で、検察官の定年制も、そのような職務の特殊性に由来するものであった。司法権の地位と機能を強化した日本国憲法の下では、判検事の独立性はきわめて重要であり、定年制も、判検事の人事に対する政治権力の介入を防止するという趣旨から理解されるべきである。政治権力の検察への介入、あるいは検察権限の政治的利用が市民社会や国家の在り方にきわめて悪い影響を与えることは、大逆事件、帝人事件、造船疑獄事件をはじめとする多くの事件が示すとおりである。現在の検察庁法も、そのような弊害を引き起こさないことを重要な柱としている。しかし、法案による勤務延長や役職定年の延長は、以上の原則に逆行する。
2 検事総長などの検察最高幹部は、内閣により任免され天皇により認証される(検察庁法15条1項)。この点で、政治権力が検察官人事に関与することは事実である。しかし、免職は法定事由に限られ、任用も、具体的な検察事務などとは関係なく当該検察官の人格識見に基づくものである点で、恣意的な介入の度合いは相対的に少ない。これに対し、法案によれば、検事正を含む検事・副検事については法務大臣の定める準則、検事長・次長検事・検事総長については内閣の定めるところにより、当該検察官にかかる「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由」を考慮して、それぞれ勤務延長や役職定年延長の措置を執るというものである。この点で、政治権力が具体的な検察事務などに踏み込んで勤務延長などの要否・当否を判断することが、可能となる。このことはまた、政治権力の絡む事件の捜査・公判について、いわゆる「忖度」などによる検察官の萎縮効果をもたらしうることとなり、検察の不羈独立や公平は画餅に帰しかねない。特に、検事総長などの検察最高幹部は、政治権力と接触することが多い地位であるだけに、一層の不羈独立・公平が求められる。にもかかわらず、法案によれば、内閣の意向でその地位を左右することが可能となる。検察は、権力者の番犬に成り下がることとなる。
第4 結論―法案は廃案とすべきである
以上のように、法案は、その必要性を欠き、むしろ、百害あって一利のないものというべきである。そして、法案が提起された背景をも見るならば、そこには、法の支配・法治主義という近代国家の原則を理解せず、むしろそれに敵対的で、絶対王政的な人の支配に親和的で、現にそのような政権運営をあらゆる方面で行ってきた現政権の姿勢を如実に表わしたものというべきである。従って、法案は速やかに廃案とされるべきであり、われわれはそのために最大の努力を尽くすものである。
以上
(2020年4月7日)
昨日(3月29日)付毎日新聞の「声」欄に掲載された短文の投書に目を惹かれた。
「自民党支持の皆さんへ」という表題。投書者は、広島の年金生活者、75才の男性である。
森友学園への国有地売却に関する財務省の決裁文書を巡り、改ざんを強いられて2018年3月に自殺した近畿財務局の男性職員。「僕の契約相手は国民」が口癖だったというこの人の「遺書」を読み、キャリア官僚の傍若無人さに怒りを覚え、筆を執りました。
この投稿者の文体は常連のものではない。自殺した近畿財務局の男性職員の手記に心を打たれ、この人を死に追いやった者の傍若無人さに怒りを抑えきれずに、投書したのだ。
改ざんの詳しい経緯をつづった男性職員の手記が公表されても、安倍晋三首相と麻生太郎財務相は「再調査は必要なし」との姿勢です。自民党の国会議員と自民党を支持する皆さんにうかがいます。これでよいと思っていますか。
投書者の怒りは、男性職員を死に追いやった最高責任者に向けられている。この期に及んで、「再調査は必要なし」というその姿勢のこの二人が元兇、この二人こそ糾弾すべき真の対象である。しかし、投書の呼びかけは、この元兇の二人ではなく、この二人を政治的に支えている「自民党の国会議員と自民党を支持する皆さん」に向けてなされている。
男性職員の奥さんがコメントした通り、2人は「調査される側」であり、再調査は不要と発言する立場にはありません。また、改ざん問題で処分を受けた当時の財務省幹部はそれぞれ駐英公使や横浜税関長などになったとのこと。国民をばかにしていると思いませんか。今の不条理な政治を変えられるのは自民党支持者しかいないと思います。議員の方は正義感を発揮してください。
投書者は、安倍・麻生への怒りを抑えて、静かに自民党支持者に問いかける。決して、その責任を追及する口調ではない。飽くまでも、問いかけである。良識や理性をもつ人間にとって否定しようのない問をもっての訴えである。
この投書者は、心の底から、「今の不条理な政治を変えられるのは自民党支持者しかいない」と思っているのだ。それは、裏返せば、「今の不条理な政治をもたらした責任は、安倍や麻生を支持したあなた方にある」ともなるが、直截にそうは言わない。
問題点を的確に指摘して、穏やかに語りかけること。実は、このような姿勢が、人を説得し、政治を転換するために最も有効なのかもしない。この投書者の、冷静さ、穏やかさ、礼儀正しさを学びたい。
同日の「松尾貴史のちょっと違和感」が同じ問題をテーマに取りあげている。こちらは、直截で歯切れがよい。タイトルが「職員自死の質疑中ニヤニヤ私語 この品性に命預けられるか」というもの。松尾貴史も、安倍・麻生に心底憤っている。以下は、その抜粋である。
自身の発した「私や私の妻が関わっていたのであれば総理大臣も国会議員も辞める」という言葉が引き金になって、改ざんや隠蔽を強いられた近畿財務局職員の赤木俊夫さんが自死を選ばざるを得ないと思ってしまったことに、ひとかけらの罪の意識も感じない安倍晋三総理大臣や、組織のトップである麻生太郎財務大臣の、あれこれ言い訳を作って面会や墓参から逃げる様を見て、「こんなひきょう者たちに生命と生活を預けなければならない」という憤りは、日に日に高まり募る一方だ。
赤木さんの死に関する質問をされているときに、当の安倍氏はニヤニヤ笑いながら麻生氏と私語を交わしていたのが、彼の人柄、品性を象徴的に表している。
世界の危機が訪れている今、国民の命を守らなければならない立場に、こんな不誠実な人物を据えていていいはずがない。国民には休校や卒業式の中止をさせている中、自分は自民党総裁としてではなく、内閣総理大臣として防衛大学校の卒業式に出席し、祝辞に憲法改定の意欲を盛り込むという憲法99条違反の越権行為をする。もういいかげんに彼を辞めさせなければならない。
まったく同感であって、付言することもない。真っ当な政治の要諦は、国民からの信頼にこそある。自分に深く関わるこの件で、一人の官僚が自ら死を遂げたのだ。その死に関わる質問の場で、「ニヤニヤ笑いながら麻生氏と私語を交わし」ていたという。こういう政治指導者の品性の低劣は許しておけない。もういいかげんに彼を辞めさせなければならない。もちろん、その通りなのだ。
先に引用した投書子のように、穏やかに自民党支持者に問いかける姿勢も学びたいし、松尾貴史のように、安倍・麻生本人にストレートな手痛い批判をする、その切れ味も学びたい。心して、二兎を追うこととしよう。
(2020年3月30日)
本日(3月25日)の毎日新聞第8面「みんなの広場」欄に、市民感情を代表する投書が掲載されている。タイトルが、「こんな日本に誰がした」というもの。大阪の主婦・岡田マチ子さんの叫ぶがごとき文章である。
このタイトルだけでおよその見当がつく。「こんな日本」とは、「ウソとゴマカシが横溢し、正直者が苦しむ日本」である。「誰がした」か? 今さらいうまでもなく、「ウソとゴマカシが横溢した、こんな日本のトップ」である。もっとも、この『誰』は、一人とは限らない。投書は2人の名を挙げている。佐川宣寿と安倍晋三である。
もう我慢できない。平気でうそをつき、権力者の顔色をうかがい、国税庁長官に上り詰めたその人物に。
まったく同感だ。私も我慢ができない。「平気なうそ」にも、「権力者の顔色をうかがう」その卑屈な姿勢にも。そして、そのような人物の一群が、この国の権力者を支えていることにも。
森友学園への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で2018年3月に自殺した近畿財務局の男性職員の奥さまが、真実を求めて国と元国税庁長官の佐川宣寿氏を相手取り訴訟を起こした。
権力を持つ者に不都合な真実は常に隠されている。厚いベールに覆われて、容易に真実に近づくことができないのだ。そのベールを剥ぎ取って、権力を持つ者に不都合な真実を明るみに曝け出すことが提訴の狙いである。そうしてこそ、亡くなった人の無念を晴らすことができようというもの。
17年2月17日、国会中継を見ていた。森友疑惑に関して安倍晋三首相は「私や妻が関係していたら首相も国会議員もやめる」と語気を荒らげた。首相の奥さまが学園の予定する小学校の名誉校長に就任していたというのに。
佐川宣寿の背後に安倍晋三がいる。安倍が佐川に不都合な文書の改竄を指示したのか、あるいは佐川が安倍の意向を勝手に忖度したに過ぎないのか。いずれにせよ、安倍の私益を擁護するために、佐川が文書改竄を指示し末端職員が違法行為の実行を余儀なくされたのだ。
男性職員の手記によるとその9日後、上司から改ざんを指示される。指示の大本は当時、財務省理財局長だった佐川氏だという。新聞記事にある「『僕の契約相手は国民』が口癖だった」のくだりで活字がにじむ。
この手記は涙なくしては読めない、というのが真っ当な市民感情。安倍や麻生には、血も涙もない。手記で名前を上げられた佐川も、中村も、田村も、杉田も、そして美並も池田も、その後はみんな見事に出世している。公文書改竄で自ら命を断った者と、悪事をともにして出世した人びととのなんたるコントラスト。
森友問題、加計問題、桜問題、東京高検検事長定年延長問題……。こんな日本に誰がした。安倍氏をおいて他にない。
安倍晋三の罪は重い。国政を私物化し、国政をウソとゴマカシで固めたのだ。「こんな日本」の「こんな総理」に、国民の支持がいまだに4割を超える。その国民の責任も大きい。森友、加計、桜、検事長定年延長…、これだけあって何ゆえ「こんな総理」が生き延びているのだ。「こんな日本に誰がした」は、今切実な発問である。
(2020年3月25日)
安倍晋三は昨日(3月22日)、防衛大学校の卒業式に臨んで訓示をした。卒業生「諸君」にではなく、彼らを「諸官」と呼んで、幹部自衛官の使命を語った。防衛大学校の伝統としての上級生から下級生への陰湿なイジメが世の話題となる中でのことだが、もちろん、そんなことはおくびにも出さない。「真剣なまなざし、凛々しい姿。本当に、頼もしく思います」という調子で、聞くだに恥ずかしい。
かなり長い、冗長な訓示。まとまりに欠け、切れ味はよくない。大学校側の起案か官邸側の作文かは知らないが、コロナ禍のこの時期の屋内大人数イベントでの長広舌は、危機管理上望ましくない。むしろ、なくもがなの訓示の内容。
それでも、この時期に安倍が何をいうのか。メディアは聞き耳を立てた。各紙の見出しは以下のとおり。彼が何を言ったか。この見出しでつかめる。実は、それ以上の中身はない。
朝日 首相、自衛隊の憲法明記に改めて意欲 防衛大卒業式で
毎日 首相が防衛大卒業式で訓示 クルーズ船防疫「完璧な任務遂行」と賛辞
日経 首相、日米同盟の強化強調 防衛大卒業式で訓示
読売 憲法9条に自衛隊明記、首相が改めて意欲
産経 首相、防大卒業式で憲法改正で自衛隊明記に意欲
赤旗 派兵抗議行動を非難 防大卒業式 首相、9条改憲執念
私が、興味を惹かれた2個所を抜粋して引用しておきたい。
A「本年は、日米安全保障条約の改定から60年となります。日米同盟は、外交・安全保障の主軸となり、日本の平和国家としての歩みを確かなものとし、安定した成長を実現する基盤となりました。
当時、条約の改定を巡っては、戦争に巻き込まれるといった激しい批判がありました。それでも、先人たちは、50年、100年先を見据え、敢然と行動しました。
平和安全法制の制定を巡っても、同様の議論がありました。しかし、互いに助け合える同盟は、その絆を強くする。この法制によって、日米同盟は、かつてなく強固なものとなり、厳しい国際環境にあって、大きな抑止力となっています。
日米同盟は、これまでも、これからも、我が国の外交・安全保障の基軸です。日米同盟を真に実効あるものにできるかは、諸官の双肩にかかっています。地域の公共財としての日米同盟の更なる強化に向けて、我が国の果たし得る役割の拡大を図っていく。各自が常に、その高い自覚の下に職務に邁進し、日米の紐帯を揺るぎないものとしてください。」
B「本年1月からは、中東海域において、情報収集活動が始まりました。2月2日、私は、護衛艦『たかなみ』に乗艦し、中東の地に向かう隊員たちを直接激励する機会を得ました。使命感に燃え、整然と乗り込む隊員の姿を、大変、誇らしく思いました。
一点、残念だったのは、御家族が見守る一角に、憲法違反、とプラカードが掲げられていたことです。隊員の幼い子供たちも、もしかしたら、目にしたかもしれない、どう思うだろうか。そう思うと、言葉もありません。隊員たちが、高い士気の下で、使命感を持って任務を遂行できる。そうした環境を作っていかなければならない。改めて、強く感じています。」
Aは、私にはこう聞こえた。
「本年は、日米安全保障条約の改定から60年となります。当時は戦後20年、戦争を悪とし絶対の平和を求める世論が、わが国に満ちていました。好戦的なアメリカとの条約の改定は、戦争に巻き込まれる危険を引き受けることである。あるいは再び加害国になる恐れも覚悟しなければならない、といった圧倒的な世論の反対がありました。それでも、政権を握っていた岸信介や自民党内の保守派は、敢然とこの世論を抑え込み、封じ込めました。今も論争は続いていますが、結局は日米同盟が、外交・安全保障の主軸となり、日本の安定した成長を実現する基盤となりました。日米同盟は、これまでも、これからも、我が国の外交・安全保障の基軸です。あのとき、連日の国民的なデモの鎮圧に自衛隊は出動寸前で踏みとどまりました。しかし、将来、同様の事態があったときは、諸官は国民世論の如何にたじろぐことなく、自信をもって暴徒の鎮圧にあたらなけれはなりません。そうして,日米の紐帯を揺るぎないものとしてください。」
Bについては、彼は本来こう言うべきだったろう。
「本年2月2日、私は護衛艦『たかなみ』に乗艦し、中東の地に向かう隊員たちを直接激励する機会を得ました。その際、見送りをされる隊員のご家族とならんで、抗議の意思を表明される少なからぬ人びとをお見受けしました。その人たちは、「中東派遣反対」「中東へ行かないで」「むりやり行かすな自衛隊」「自衛隊員の命をまもれ」などと、横断幕やプラカードを掲げていらっしゃいました。もちろんその方たちは「自衛隊は憲法違反」「自衛隊の海外派遣は違憲」との信念をお持ちと拝察いたします。
言うまでもないことですが、勇躍して中東に向かう自衛隊員も、自衛隊を海外に派遣すべきではないと抗議をされる人びとも、同じ日本国民です。我が国は、民主主義と自由を国是としており、いかなる政治的な思想・信条もその表現も自由なのです。諸官は、「自衛隊の存在は違憲だ」という表現が自由に行われる日本であればこそ、この国を守る価値があることを肝に銘じなくてはなりません。
隊員の幼い子供たちも、『自衛隊は違憲』という見解をもった同胞にも献身する自衛隊であることの誇りを伝えていただかねばならない。改めて、そう強く感じています。」
(2020年3月23日)