澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

マイナンバー さわらぬ神に 祟りなし

この国の政府と国会は、私の望んでいない法や制度を次から次へと作り出す。特定秘密保護法・戦争法・原発再稼働・TPP…。マイナンバー制もその一つだ。正式名称は「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下、「番号法」)だそうだが、いよいよ本格的に動き出す。かつては国民総背番号制としての嫌われもの。住基ネットは完全に失敗した。マイナンバー制も国民には何のメリットもない。むしろ、危険なデメリットに充ち満ちている。

総務省は、ひそかに私にも12ケタのナンバーを付けたようだが、余計なお世話だ。いや、失敬きわまる。政府が勝手に付けた識別番号を、私は「マイ」ナンバーとは認めない。そんな番号は知りたくもない。もしかしたら、777777777777というラッキーナンバーであるのかも知れないが、生涯知ることはないだろう。認知しないで無縁で暮らすことにする。

年金番号や顧客管理番号は、私という人格に付されたナンバーではない。事務整理の必要性から、納得できる合理性に支えられた、特定の名簿に付された便宜上の番号だと認識できる。しかし、「行政手続における特定の個人を識別するための番号」とは、氏名と同じく私という人格の特定に、包括的かつ永続的に使われる。そんなものは要らない。まっぴらご免だ。

私が長年顧問を務めたある会社の法務部長のことを思い出す。彼は、その会社を退職したあと県会議員に立候補し、無所属ながら見事に当選した。ところが、在任中に思いがけないスキャンダルを起こして、彼のブログが炎上した。それは、彼が公立病院に通院した際、氏名でなく受付番号で呼び出されたことに立腹して、「自分にはちゃんとした氏名がある。番号での呼出アナウンスは自分の人格を傷付けるものだ」という主旨の抗議をし、その旨をブログにも書いたのだ。「ここは刑務所か!。名前で呼べよ。」というトーン。

たちまち、これに反論が相次いだ。「議員にあるまじき傲慢な態度」「上から目線のものの言い方」「氏名を言わないのはプライバシーへの配慮ではないか」。ブログの炎上がきっかけで、フジテレビのワイドショー番組での強引な取材となった。彼は追い詰められ遂に自殺に至った。

県議としての彼のものの言い方に批判すべきところがあるとは言え、自殺にまで追い詰められるほどのことではなかったろうに。一般論としては「番号ではなく氏名を」という彼のポリシーに共感する。彼のブログには、「確かに個人名を伏せてほしい患者はいるでしょう。そうした方には、“匿名希望”とか、“番号呼び出し希望”と、○印欄を付けるたった数文字を追加すれば済むことでしょう。」という記事もあるのだ。今は亡き彼を弔う気持ちも込めて、「番号制度(マイナンバー制度)の中止と利用拡大のとりやめを求める運動」に加わろうと思う。

私が信頼する税理士の組織として「税経新人会」がある。その会のマイナンバー制度に関するリーフレットをいただいた。マイナンバーを利用する必要はないという趣旨。これがよくできている。

このリーフの最初にマイナンバー制度のイメージが図式化されている。これによると、これまでの税や社会保障における「個別番号」は、すべて「氏名に番号がついていた」。しかし、「マイナンバー」は違う。「番号に情報がつき、氏名も情報のひとつ」だという。なるほど、そういうものか。政府が、ナンバーを通じて国民のすべての情報を取得し管理するシステムなのだ。そんな制度の完成は「1984年」の悪夢ではないか。

このリーフのメインの記事は、三つの「Q&A」である。
Q1 何のためにつくられたのでしょうか?
Q2 番号は提出しなければ不利益があるのでしょうか?
Q3 事業者は、従業員の番号を収集しなければならなないのでしょうか?

「Q1」は、マイナンバー制度の趣旨目的について。「政府のウソ」と、「本当の目的」が語られている。
「Q2」は、求められたマイナンバーを提出しなければならないのか、ということ。これがみんなの知りたいこと。
そして、「Q3」は事業者に向けた説明。「従業員の番号の収集は義務のようだが、収集したくない場合にはどうすればよいのか」に対する解答。

番号法自体は個人(番号をもつ本人)に何の義務も課していない。事業者には形式的には従業員の番号収集義務があるものの強制力はない。むしろ、これを収集してしまうと、面倒なことになる。番号の漏洩は犯罪なのだから、最初から番号の収集などしない方がずっと賢明なのだ。

Q1 何のためにつくられたのでしょうか?
 政府は、?行政の効率化?国民の利便性向上?公平・公正な社会の実現が目的としていますが、
 実際は・・・
?「行政の効率化(費用対効果)」
 費用対効果の試算は明確に示されていません。システムの不具合が続出し改修費用が膨らんでいます。民間企業の負担経費を一切考慮していません。実態は巨額な公共事業です。当初国の基本システム開発だけで3000億円以上、1700自治体を含めると1兆円以上かかり、今後膨大な維持費と開発費がかかっていきます。その大半が入札のない随意契約です。
?「国民の利便性」
 政府のいう利便性→年間1回、一生1回のごくわずかな添付書類の削減にすぎません。その代償として、国民はカードの逸失や情報漏れに気を遣いながら、常時携帯を余儀なくされます。
?「公平・公正な社会の実現」
 現行制度改正・運用で可能です。「公正」の対象は庶民です。番号制度では、パナマ文書で明らかなように、海外に流失した企業・富裕層の資金に対する捕捉はできません。また税収では、本来負担能力のある企業利益・株式等の配当・譲渡などに相応の課税をすべきです。また番号制では、政治家の不正は捕捉できません。

本当の目的は・・・
 国民の財産を含めたプライバシー情報の管理と医療・介護・年金の給付制限です。
真の目的は、すでに成立している改正法に見るように、預金に番号をつけ、国民個々人の資力調査と個人情報の集中的管理と利用です。政府財政制度等審議会で、「マイナンバーの利活用で、預金等の金融ストックも勘案した負担能力判定の仕組みを導入」が提案されました。例えば一定の預金者は医療費や介護保険の保険料や自己負担を増やすなどです。
 民間企業にも個人番号カードや番号利用を認めていき、クレジットカード・社員証・交通系ICカード(スイカなど)など民間カードとのワンカード化やスマートホンにその機能をもたせるなど検討しています。また顔写真などの生体情報の登載も予定して、2020年東京オリンピックなどの警備に利用しようとしています(内閣府IT戦略本部のロードマップ案)。

Q2 番号は提出しなければ不利益があるのでしょうか?
 番号法では、個人に提出義務を規定していませんし、提出しないことによる不利益の記載もありません。番号を記載しなければならないというのは、国税通則法や年金法などに記載されていますが、罰則はありません。漏えいの危険があり、悪用される危険がある番号を出しませんという意思表示をしましょう(収集を求める方は、その内容を記録に残せばよいことになっています)。

<書面で意思表示する場合の例>
        殿               月  日
 貴殿より「個人番号の記載は国税通則法等で定められたもの」であることの説明を受けましたが、私は、漏えいなどの不安を感じるため、個人番号を提出しません。
? 氏名

Q3 事業者は、従業員の番号を収集しなければならなないのでしょうか?
番号法では、事業者に対し、収集の義務を規定していません。事業者は、番号を取集した場合は、漏えいしないように「安全管理措置」をとるために経費が増大し、神経を使うことになります。また漏えいした場合は、報告義務、刑事罰・罰金など責任は増大します。これらの負担と責任を考えると収集しないことが一番の「対策」です。

<番号を収集しないことをお知らせする例>
従業員の皆さんへ      年  月  事業主より
 2016年1月より番号(マイナンバー)制度が実施されています。年末調整や労働保険の手続きで、皆さんの番号を預かり書類に記入することとなっています。
しかし事業者には、番号法で番号の収集義務がないのもかかわらず、番号の記載された書類(コピーなど)について収集すると、厳重な管理(安全管理措置)が義務付けられています。安全管理措置の内容は、多岐にわたり、手間とコストがかかり、中小の企業にとっては、とても対応できるものではありません。万が一漏えいした場合は、4年以下の懲役または200万円以下の罰金となっています。日本年金機構からの情報漏えいにも見るように、高度な対策していたにもかかわらず個人情報が漏れてしまい、また最近でもこのような事件(犯罪)はたえません。
 よって、今回事業所としては、検討・熟考した結果、万全の安全管理措置がとれませんので、当面番号をお預かりしないで、税務・社会保険などの書類には番号なして提出することとしました。番号の記載がなくても書類が受理されないということはありません。
また通知カードと一緒に「個人番号カードの申請書」が送られてきます。申請書写真を貼って申し込むと、「個人番号カード」を区市町村の役所で受けることになります「個人番号カード」とはICチップ付きプラスチック製で、表面に氏名、住所、生年月日、性別の4情報と顔写真、裏面に番号が記載されます。
 政府は、この普及を進め、国民に日常不断に携帯させ、いろいろな機会に使用させるように考えています。そうなるとカード紛失等の機会も増え、犯罪に使われることも懸念されます。
 以上のことを考えて、「個人番号カード」の取得は慎重にしてください。「個人番号カード」の取得は強制ではありません。

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以下は関係の法条を抜粋。

番号法6条
(事業者の努力)個人番号及び法人番号を利用する事業者は、基本理念にのっとり、国及び地方公共団体が個人番号及び法人番号の利用に関し実施する施策に協力するよう努めるものとする。

番号法14条
(提供の要求)個人番号利用事務等実施者は、個人番号利用事務等を処理するために必要があるときは、本人又は他の個人番号利用事務等実施者に対し個人番号の提供を求めることができる。

※個人(番号の本人)の義務規定はなく、事業者も軽い努力義務にとどまる。本人に個人番号の提供を「求めることができる」であって、義務規定とはなっていない。

 

国税通則法124条
(書類提出者の氏名、住所及び番号の記載等)国税に関する法律に基づき税務署長その他の行政機関の長又はその職員に申告書、申請書、届出書、調書その他の書類を提出する者は、当該書類にその氏名、住所又は居所及び番号(番号を有しない者にあつては、その氏名及び住所又は居所)を記載しなければならない。(以下略)

※一応、「記載しなければならない。」というのだから法的な義務ではある。しかし、強制の手段はなく、もちろん罰則もない。

 

「国税庁の番号制度概要に関するFAQ」
Q2-3-2申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号を記載していない場合、税務署等で受理されないのですか。
(答)税務署等では、番号制度導入直後の混乱を回避する観点などを考慮し、申告書等にマイナンバー(個人番号)・法人番号の記載がない場合でも受理することとしていますが、マイナンバー(個人番号)・法人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務ですので、正確に記載した上で提出してください。

※「番号を記載しないと受理しないのか」という問への解答は、「番号の記載がない場合でも受理する」である。「正確に記載した上で提出してください」は税務当局の要望である。
(2016年12月11日)

「リーマンに濡れ衣着せて頬被り」?この頬被りを許すのか、世界が日本の有権者を見守っている。

昨日(5月28日)の朝日川柳欄。入選7句のうち、3句が同じテーマ。さすがに達者な出来映え。

 リーマンもショックで逃げる景気観(東京都 秋山信孝)
 消費税延期のためのG7(大阪府 片柳雅博)
 珍説を咎めず客がおもてなし(埼玉県 小島福節)

アベの思惑の透け方。アベの姑息。アベの狡さと間抜けさ。そのすべてが、川柳子の好餌となっているのだ。
川柳だけでない。社説も辛辣だ。
「首脳宣言で「財政出動」と「経済危機」への言及にこだわり続けた日本のリーダーの姿勢は世界にどう映ったか。議長として指導力はある程度重要だとしても、我田引水では信頼を失いかねない。」
「首相の会見はいかにも我田引水が過ぎる印象だが、それが許されてしまうのも議長国だからだ。各国が持ち回りで議長を務めるため「お互い大目に見よう」との配慮が働くといわれる。議長国の恣意が強くなりすぎると、サミットの意義を低下させかねないことを肝に銘ずべきだ。」(
東京新聞)

本日(5月29日)の毎日朝刊も、アベには無遠慮に「伊勢志摩サミット 『リーマン級』に批判相次ぐ」との記事を掲載している。

「27日閉幕した主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で、安倍晋三首相が『世界経済はリーマン・ショック前に似ている』との景気認識をもとに財政政策などの強化を呼びかけたことに対し、批判的な論調で報じる海外メディアが相次いだ。景気認識の判断材料となった統計の扱いに疑問を投げかけ、首相の悲観論を『消費増税延期の口実』と見透かす識者の見方を交えて伝えている。」

毎日が紹介する海外メディアの批判記事は、英紙フィナンシャル・タイムズ、英BBC、仏ルモンド紙、米経済メディアCNBC、中国国営新華社通信などである。

たとえば、「BBCは27日付のコラムで『G7での安倍氏の使命は、一段の財政出動に賛成するよう各国首脳を説得することだったが、失敗した』と断じた。そのうえで『安倍氏はG7首脳を納得させられなかった。今度は(日本の)有権者が安倍氏に賛同するか見守ろう』と結んだ。」「ルモンドは、「安倍氏は『深刻なリスク』の存在を訴え、悲観主義で驚かせた」と報じた。首相が、リーマン・ショックのような事態が起こらない限り消費税増税に踏み切ると繰り返し述べてきたことを説明し、『自国経済への不安を国民に訴える手段にG7を利用した』との専門家の分析を紹介した。」「CNBCは『増税延期計画の一環』『あまりに芝居がかっている』などとする市場関係者らのコメントを伝えた」という具合。

BBCがいう「安倍氏はG7首脳を納得させられなかった。今度は(日本の)有権者が安倍氏に賛同するか見守ろう」は重い。こんな、政権を許すのか、実は世界から日本の有権者が見つめられているのだ。

解説記事も辛口。
サミットを締めくくる議長会見。安倍首相は「リーマン・ショック」という言葉を7回も使って「世界経済のリスク」を強調したうえで、「アベノミクスのエンジンをもう一度、最大限ふかしていく決意だ。消費税率の引き上げの是非を含めて検討する」と踏み込んだ。
 首相が「リーマン級のリスク」を主張するのは、これまで、消費増税を延期する例として、2008年に起きたリーマン・ショックや大震災を挙げてきたからだ。しかも、G7で合意した「世界経済のリスク」に対応するため、という理由であれば、自らの看板政策であるアベノミクスが失敗したという批判も避けられるというわけだ
。」(朝日)

「安倍首相がこじつけとも言えるデータを示して『危機に陥るリスクに立ち向かう』と強調した背景について、ある金融市場関係者は『日本経済は不調が続いているが、アベノミクスが失敗しているとは口が裂けても言えない。景気対策の財政出動をするためには、リーマン・ショック級のデータを示すしかなかったのだろう』と指摘している。」(共同)

この各紙の厳しさは、アベノミクス失敗についてのものではない。これを糊塗し、誤魔化し、責任転嫁しようという安倍政権の姿勢への批判の厳しさである。

当然のことながら、「野党は首相への批判を強めている。」と報じられている。
「民進党の岡田克也代表は記者会見で『アベノミクスの失敗を糊塗するため、サミットの場が使われたとすれば罪は重い。ここまでやるか』と厳しく批判した。」
「共産党の志位和夫委員長も記者団に『日本の経済情勢こそリーマン・ショック前の状況だ。自らの失政の責任を世界経済に転嫁するというのは成り立つ話ではない』と述べた。」という。

「信なくば立たず」というではないか。愚直でも、その言動に嘘やごまかしのない限りは政治家の政治生命が断たれることはない。言っていることが姑息で、狡くて、信頼できないとなれば、もはや政治家として立つことはできない。

昨日から今日の紙面を埋めた、安倍の言動への評価の言葉を拾えば、我田引水・恣意・こじつけ、G7の利用、責任転嫁…。首都の知事は、都民の信を失って、水に落ちた。およそ知事としての勤めが果たせる状況にない。アベも同じではないか。彼の言動に信の根拠となるべきものはない。都合のよいデータをつなぎ合わせて、自己弁護の材料としているだけだ。

それにしても、冒頭に引用した3句。この3句が、すべてを語り尽くしている。川柳の説得力恐るべし、である。なお、タイトルの1句は、恥ずかしながら拙句である。残念ながら入選句ではない。
(2016年5月29日)

軽減税率適用とは、追いはぎに勘弁してもらったフンドシに過ぎない。

落語では、良民から身ぐるみ剥ごうという山賊だの追いはぎだのが活躍する。彌次郎や、庚申待ち、饅頭怖いなどのサブストーリーの定番。メインストーリーとしての追いはぎ噺としては蔵前駕籠がおなじみ。この話、時代や場所が特定されている。

文楽や志ん生の録音を聞いていると、「御一新のときの上野戦争」という言葉が出て来る。江戸の庶民にとって、御一新とは、薩長という化外の地からの軍隊が押し寄せてきた戦争だったという実感があるのだろう。

その当時のこと。世情は混乱を極め、蔵前通りには夜な夜な追いはぎが出没していた。追いはぎは吉原通いの籠を襲ってこう言う。

「我々は由緒あって徳川家にお味方する浪士の一隊。軍用金に事欠いておるのでその方に所望いたす。吉原で使う汚い金を、我々が清く使ってやるのだ。命が惜しくば、身ぐるみ脱いで置いてゆけ。武士の情け。フンドシだけは勘弁してやる」

命とフンドシを勘弁してもらった被害者は、「ご勘弁いただき、ありがとうございます。」と、腰をかがめて礼を言いながら這々の体で逃げ帰ってくる。

この話、消費税の軽減税率適用によく似ている。安倍政権はこう言っているのだ。
「我々は由緒あって財界にお味方する政権与党の一味。企業減税の財源に事欠いておるのでその方らに薄く広く所望いたす。その方らの浪費を我々が有効に使ってやるのだ。8%を10%にいたすからつべこべ言うな。つべこべ言うと福祉の財源はないものと思え。とはいうものの武士の情けだ。食料品だけは8%据え置きで勘弁してやる」

さて、このセリフに、民主主義時代の主権者はどう反応すべきだろうか。まさか、「お慈悲深いアベ様。食料品の消費税アップをご勘弁いただき、ありがとうございます。」などと言うことはあるまいと思うのだが。
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      クズとカミヤツデの復讐
たった独りで草刈りや蔓払いをしていると、時に憎しみのフォースを感じることがある。ぞっとして、まわりを見回す。と、めまいを感じてふらりとし、クズの根に足をはらわれ、倒れようとする首に蔓が巻き付いてくる。握っているカマが私の胸にザックリささる。しばらく後に、探しにきた者が首にクズの蔓の巻き付いた血だらけの遺体を発見する。

「あの方はずいぶん植物を痛めつけましたからね、復讐を受けたんですよ」と誰かがうなずきながら言うだろうか、言わないだろうか。

たかが植物とはいえ、クズの生命力は尋常ではない。古家を2年間放っておいたらすっかり緑に覆われ、食い尽くされしゃぶり尽くされ、5年たったらガラスとプラスチックしか残らないだろう。

クズもすごいが、今、私が頭を抱えているのはカミヤツデ。これは南方からの帰化植物。蔓はないのでどこかに巻き付くことはないが、地下茎がはいまわって、日当たりだけではなく日陰にも湿地にも辺りかまわず芽を出す。それがピンクの茎や葉に白いフェルトをまとって、むっくりと出てきたときは、あまりの可愛らしさに見過ごしてやろうかという気分にふとなってしまう。しかし情けはかけてはいけない。それを見過ごせば、重い敷石でもフェンスでも何のその、その下を通って四方八方に地下茎は拡がっていく。

冬も成長を続けるので、すぐに直径20センチにはなって、7メートルほどの高さに成長する。冬になるとそのてっぺんに、ヤツデとおなじで、カリフラワーのような白い蕾が現れてクリーム色の花がふんわりと咲く。寒い真冬なのに、いずこからかたくさんのハチやアブの類いが現れて乱舞する。そこまでは許せるが、堪忍ならんのは、径6,70センチメートルにもなろうかという天狗の羽うちわのようなとてつもない大きな葉っぱである。下の植物には陽が当たらなくなる。それが落葉すると、下の木々の上にべったりと張り付いて、悪魔のマントが覆ったかのようになる。取り除こうとすると、葉っぱ全体を覆っている白いフェルトが飛び散って、目といわず口といわずはいりこんで、ひどい喘息発作におそわれる。

可哀想だが、今年は一番の親玉と思われる木を伐採した。幹の真ん中は白い芯になっていて、そこを取り出して桂剥きにして紙を作ったといわれているように、ザクザクの柔らかさなので、切り倒すのは造作もなかった。問題は飛び散る綿埃だった。ゴーグルとマスクを装着していたにもかかわらず、胃がひっくり返るかと思われるような咳が出てしばらく止まらず、その後の身体中をおそった筋肉痛は酷いものであった。強い植物はただ滅ぼされるということはない。必ず恐るべき復讐をするのである。
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   DHCスラップ訴訟12月24日控訴審口頭弁論期日スケジュール
DHC・吉田嘉明が私を訴え、6000万円の慰謝料支払いを求めている「DHCスラップ訴訟」。本年9月2日一審判決の言い渡しがあって、被告の私が勝訴し原告のDHC吉田は全面敗訴となった。しかし、DHC吉田は一審判決を不服として控訴し、事件は東京高裁第2民事部(柴田寛之総括裁判官)に係属している。

その第1回口頭弁論期日は、
 クリスマスイブの12月24日(木)午後2時から。
 法廷は、東京高裁庁舎8階の822号法廷。
ぜひ傍聴にお越し願いたい。被控訴人(私)側の弁護団は、現在136名。弁護団長か被控訴人本人の私が、意見陳述(控訴答弁書の要旨の陳述)を行う。

また、恒例になっている閉廷後の報告集会は、
 午後3時から
 東京弁護士会502号会議室(弁護士会館5階)A・Bで。
せっかくのクリスマスイブ。ゆったりと、楽しく報告集会をもちたい。
 表現の自由を大切に思う方ならどなたでもご参加を歓迎する。
(2015年12月15日・連続第989回)

現代の「朝三暮四」ー軽減税率適用物語り

私、菅です。官房長官の。いろいろ言われているようですがね。軽減税率の問題、落ちつくところに落ちついたんじゃないでしょうかね。結果オーライで、どんぴしゃりじゃないですか。

昨日(12月13日)の記者会見で、記者団から「軽減税率制度は、低所得者対策にはならないという指摘もあるが」と質問がありましたね。こういう予想通りの質問はとてもありがたい。まるで、示し合わせた質問みたいのね。

「日常の必需品中心なのでしっかり(低所得者対策に)なる。生活に必要なものは、生鮮食品だけでは収まらないのが事実ではないか。国民の皆さんからは大変高い評価をいただいていると思う」と予定のとおりに述べておきましたよ。久しぶりに、安倍政権が、まるで庶民の味方みたいなセリフが吐けて、格好良かったでしょう。「企業減税は大盤振る舞いで、消費税は飽くまで上げるんですか」なんて意地の悪い質問はなかった。また、支持率少し上がるんじゃないかな。

それから、政府の財政健全化目標への影響について、「全くないと考えている」と述べておしまい。それ以上の記者からの突っ込みはなかった。この商売、気楽なもんですな。

それにしても、こういうときに、私の座右の銘を思い出すのですよ。私は、安倍さんと違って少しは教養がありますから、中国の故事なども知っている。例の「朝三暮四」というやつね。荘子にも列子にも出て来る、あの有名なエピソード。

あの話しはね、実は政治家への教訓を語っているんですよ。いえ、昔のことではない。今の民主主義の時代の政治の要諦を。

あれは、「狙公なる者」と「羣を成す狙たち」のお話し。狙とは猿のこと。猿がしゃべるわけはない。文句を言ったり喜んだりする猿とは人民のこと、その飼い主の狙公なる者とは政治家のこと。そう思って、この話は読まなくちゃ。

さて、狙公はたくさんの猿を飼っていたんだが財政が逼迫して、「俄にして匱(とぼ)し。将(まさ)に其の食を限らんとす。」ということになった。これは、消費税を上げなければならなくなったといっているわけ。注目すべきは、「衆狙の己に馴(な)れざるを恐るるや、」という文章。消費税を上げて猿に嫌われることは大いに困るわけだ。そこで、狙公は一計を案じた。「先ずこれを誑(あざむ)きて曰(いわ)く」ということになった。誑は、たぶらかしてと読んだ方がぴったりの感じ。

「『若(なんじ)に茅(しょ)を与えんに、朝に三にして暮に四にせん。足らんか』と。衆狙(しゅうそ)皆起って怒る。」
茅とは栃の実のことだそうだが、この際何でもよい。芋でも米でも、バターでも。もちろん、金でも、サービスでも。

「ねえキミたち、いま消費税8%でも苦しいだろうが、10%にしなければならないんだ。どう?」と言ってみた。案の定猿たちは怒った。

そこで、「俄(にわか)にして曰(い)はく、『若に茅を与えんに、朝に四にして暮に三にせん。足らんか』と。衆狙皆伏して喜ぶ。」

食料品には軽減税率を適用することにしよう。これならどうかね?
そしたら猿たちは、機嫌が直って「ありがとうございます。低所得者になんと寛大な政治」と喜びましたとさ。
ね、とても教訓に満ちたお話しでしょう。昔の人はさすがに良いことを言う。

特に私がこの話を気に入っているのは、「朝三暮四」では猿たちは「起って怒り」、「朝四暮三」では「伏して喜ぶ」と対比されているところ。「起つ」は政権への反抗を意味して穏やかならざること甚だしい。「伏す」は従順に権力に従う様だ。これが本来の猿の姿。

人民は猿みたいなものだが、怒らせたら怖い。上手に誑かせば、馴れさせることができる。猿皆を伏して喜ぶようにできるという、これぞ民主政治の要諦そのものでしょう。民主政治とは人気取りのことなんだから、選挙に勝てるかどうかがすべてじゃないですか。要するに、この程度のことで人民を欺すことができるという目出度いお話し。

現に、消費税は10%に上げるといっておいて、ちょっぴり軽減税率でまけてやると言えば、それでみんな納得して人気が出る政策というのだから、やっぱり政権は楽。よい猿に恵まれている。いや、賢い国民の皆さまだ。

昨日(12月13日)の赤旗の一面では、日本共産党の志位さんが、「消費税10%への大増税について、政府・与党が検討している食品の『軽減税率』のまやかしを告発し、来年7月の参議院選挙で大増税ストップの願いを日本共産党に」と言っていますね。あれは困ったものだ。

「連日『軽減税率』が報道されると、税負担が軽くなるかのような錯覚を呼び起こしますが、実態は、2%の増税分=5・4兆円のうち、1兆?1・3兆円を減税したとしても、4兆円を超える大増税となり、1家族あたり年4万円以上の負担増となります」「現行の8%と比較して、『軽減税率』を実施したとしても10%では逆進性が広がることになります。だいたい与党は、『軽減税率』の『財源』を確保するためとして、『4000億円の低所得者対策』をとりやめるという。何のための『軽減税率』か、もはやまったく説明がつきません。結局、大増税という毒薬を『軽減税率』というオブラートに包んで無理やりのみこませるというものであり、選挙目当ての最悪の党利党略」と、これまたきついことを言っている。

残念ながら、日本国民全部が猿ではなく欺されないのもいるでしょうがね。まあ、あちらの言うことに耳を貸して「起つ」人は多くはなく、こっちの言うことを納得して「伏す」猿の方が圧倒的に数は多いと思いますよ。
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   DHCスラップ訴訟12月24日控訴審口頭弁論期日スケジュール
DHC・吉田嘉明が私を訴え、6000万円の慰謝料支払いを求めている「DHCスラップ訴訟」。本年9月2日一審判決の言い渡しがあって、被告の私が勝訴し原告のDHC吉田は全面敗訴となった。しかし、DHC吉田は一審判決を不服として控訴し、事件は東京高裁第2民事部(柴田寛之総括裁判官)に係属している。

その第1回口頭弁論期日は、
 クリスマスイブの12月24日(木)午後2時から。
 法廷は、東京高裁庁舎8階の822号法廷。

ぜひ傍聴にお越し願いたい。被控訴人(私)側の弁護団は、現在136名。弁護団長か被控訴人本人の私が、意見陳述(控訴答弁書の要旨の陳述)を行う。

また、恒例になっている閉廷後の報告集会は、
 午後3時から
 東京弁護士会502号会議室(弁護士会館5階)A・Bで。
せっかくのクリスマスイブ。ゆったりと、楽しく報告集会をもちたい。
 表現の自由を大切に思う方ならどなたでもご参加を歓迎する。
(2015年12月14日・連続第988回)

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