(2022年1月21日)
昨日(1月20日)、「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」という、ふざけた党名の政党が、党名を変更して「NHK受信料を支払わない国民を守る党」となった。この政党、発足当時は「NHK受信料不払い党」であったが、「NHK受信料を支払わない方法を教える党」や「嵐の党」などと党名変更を繰り返してきた。今回6度目の党名変更という。通称は「N党」あるいは「N国」だが、自らは略称を「NHK党」に統一してくれと言っている。さぞや、NHKには迷惑な話。
党首が立花孝志(元参議院議員)、副党首が丸山穂高(元衆院議員議員・維新所属)というから、どのみち碌なものではない。なお、丸山のホームページを覗いて少しだけ驚いた。その略歴欄に「副党首などを歴任」との記載はあるが、どこの党とは書いていない。N党の副党首とは書きたくないのだ。副党首ですら、所属党名を名乗るのは恥ずかしいと見える。そんな程度の政党でしかない。
私も、NHKを相手とする訴訟に関与してはいるが、けっしてNHKをぶっ潰すべきだとは思っていない。立花のような乱暴な遣り口にも眉をひそめざるを得ない。こんな政党の同類と思われるのは、甚だ心外である。NHKには、ジャーナリズムの本道に立っていただきたい。さらには公共放送にふさわしい「公正で豊かな」番組の放映と、それを可能とする運営を望む立場。
そのN党の党首・立花孝志が、昨日東京地裁において威力業務妨害などの罪名で有罪判決を受けた。量刑は、懲役2年6か月、執行猶予4年である。相当の厳刑と言わねばならない。
認定事実は次のようなものと報じられている。相当にタチが悪い。
(1) 2019年にN国党(当時)を離党した二瓶文徳中央区議に「こいつの人生潰しにいきますから」とユーチューブ上で発言した脅迫
(2) NHK集金人の持つ情報端末にある契約者情報を不正に取得してインターネット上に拡散させると脅し、NHKの業務を妨害したという不正競争防止法違反と威力業務妨害
この事件の論告で、検察は「立花が、不正に取得した情報は50件に上り、結果は重大だ」として、懲役2年6月、罰金30万円を求刑していた。弁護側は最終弁論で「正当な政治活動だった」と無罪を主張したが、結果は厳刑と言ってよいだろう。
判決のあとの会見で立花は「政治思想で行った犯罪なので一切反省していない。」「執行猶予の理由を裁判所に明確に説明してもらいたいので控訴する」「執行猶予が付けばなにも変わらない。党首を辞めるどころか、懲罰もない」「裁判官はある意味、これからも(NHKと)戦ってくれと言っているのかな」「僕自身は有罪になる可能性は承知のうえでやっている」「刑事罰を受けるんじゃないかなと想定しながら動いている」などと放言している。
政党名が不真面目であるだけでなく、その活動も、乱暴で不真面目きわまるのだ。
ところが、そんな不真面目政党も、政党助成法にもとづく政党交付金を受給している。
政党助成法による政党交付金の受給要件は、
?国会議員5人以上
?国会議員1人以上で、直近の衆院選か参院選、またはその前の参院選で選挙区か比例区での得票率が2%以上――のどちらかを満たすこと。
N党は2019年参院選挙で?の要件を満たし、以後次の金額の交付を受けている。
19年 6983万円
20年 1億6751万円
21年 1億7053万円
そして、今年も2億1100万円の受給が予定されている。もちろん、税金を財源としてのもの。
何とも腹立たしく不愉快な事態だが、こんな不真面目政党に投票する有権者が存在するのだから如何ともしがたい。もっとも、N党は現在参議院議員1名だけである。そして、昨年の衆院選得票率は1.4%であった。
今夏の参院選、課題の一つがこのN党の議席をゼロとすることができるか。有権者の真面目さが問われている。
(2022年1月20日)
間もなく、北京冬季五輪が始まる。けっして世界から歓迎され祝福されるスポーツ大会ではない。露骨な国威発揚と習近平政権賛仰の政治イベントとなるだろう。とりわけ、中国から弾圧の対象とされている人々からは、「中国での五輪開催、本当にそれでいいのか」という声が上がっている。
本日の毎日新聞朝刊の《北京2022》という特集連載に、「揺れる五輪 『平和の祭典、人権守れ』 在日ウイグル人『中国で開催、いいのか』」という記事が掲載されている。取材の対象は日本ウイグル協会副会長のハリマト・ローズさん(48)。日本への留学生だったが、戻った故国は変わっていた。兄から、「捕まる可能性がある。日本に帰りなさい」と諭されて、現在は千葉県内で飲食業を営んでいるという。素顔と実名を明かして、講演や街頭デモで中国の人権弾圧に抗議してきたという。その訴えに胸が痛む。
自身や日本で暮らす多くの同胞がウィグル現地の家族と連絡が取れなくなっているとして、彼はこう言う。「中国が平和の象徴であるオリンピックをやっていいのか、考えるべきだ」。おそらく中国は、国威と中国共産党の威信を発揚することだけを目的としてオリンピックを開こうとしている。それでよいはずはなかろう。
現地の状況が悪化したのは17年ごろだという。中国政府が「再教育」を名目にウイグルの人らを収容所に入れる政策を始め、在日ウイグル人にも家族と連絡が取れなくなるケースが相次いだ。彼は、日本社会に訴えるため、18年から街頭などで中国への抗議活動を始めた。故郷に住む家族に危害が及ぶのを恐れ、重要なとき以外は連絡を取らないようにと決めたという。以下の彼の記者への話が生々しい。
20年5月、唐突に自治区に住む兄から「話がしたい」と連絡が来た。翌日、兄とビデオ電話で話し始めて10分ほどが経過したとき、兄の横から見知らぬ男性が現れた。男性は中国の当局者を名乗り、在日ウイグル人に関する情報提供を要求。「協力してくれればお兄さんと家族の安全は守る」と続けた。
8人兄弟で早くに父親を亡くした自身にとって、兄は税務署で働きながら家族を養ってくれた恩人だ。要求への回答を避けて通話を終えたが、「兄の命が危ない」と頭の中はパニックを起こした。
1カ月後、再び兄から連絡があり電話で話した。前回と同じ男性に身分証を見せるよう求めたところ、中国の情報機関「国家安全省」とみられる「国安」と書かれた手帳のようなものを示した。最後まで要求には応じず、以降、家族と連絡が取れなくなった。
ローズさんから見れば、家族が人質とされた状況。在日の彼は、黙ることで家族の安全を図るべきなのだろうか。それとも、彼が国際世論に訴えることで中国の人権状況を改善する努力を継続すべきなのだろうか。非情な権力に翻弄される悲劇というしかない。
この記事で、深く頷けるところがある。米国などが表明した北京五輪への『外交的ボイコット』について、中国は「スポーツの政治利用だ」と強く反発しているが、ローズさんはこう反論している。
「中国は国民に自分の国が世界のトップだとアピールするために五輪を開催している。五輪を政治利用しているのは中国の方だ」「五輪は平和のイベント。中国が開催したら意味が変わってしまう。IOCは人権を大切にする国を開催都市に選んでほしい」
そのとおり「五輪を政治利用しているのは中国の方」であろう。その北京冬季五輪を何の批判もせず、何の異議もとどめず、粛々とその進行に協力することは、中国による「五輪の政治利用」に加担することではないか。せめて、『外交的ボイコット』を試みることで、「中国によるスポーツの政治利用」の成功度を幾分なりとも、弱めることができるだろう。
(2022年1月19日)
本日午後、東京地裁103号法廷で「NHK文書開示等請求」訴訟の第2回口頭弁論期日。原告(受信契約者)ら代理人の佐藤真理弁護士が弁論を担当した。
この訴訟、たいへんに興味深い展開になっている。この事件の被告は、法人としてのNHK(日本放送協会)と、個人としての森下俊三(経営委員会委員長)の二人。この被告両名の応訴姿勢が明らかに異なっている。森下は、自分の行為に違法はないとムキになっているのだが、NHKの姿勢は頗る微妙、決して森下に同調していない。むしろ、言外に「森下には困ったものだ」と言わんばかりの主張。真っ当ならざる森下と、真っ当に見えるNHKの主張が対照的である。
原告はNHKに対してかなり広範な文書開示を請求しているが、そのメインとなるものは、「上田NHK会長に厳重注意を言い渡した2018年10月23日開催の経営委員会議事録」である。この議事録の開示を求めて本件訴訟提起前に5度に渡る「文書開示の求め」があったが、ことごとく斥けられた。
そこで、本件原告らは、「もしまた、不開示とするときには文書開示請求の訴訟を提起する」ことを広言して、「文書開示の求め」の手続に及び、所定の期間内に開示に至らなかったため、21年6月14日に本件文書開示請求訴訟を提起した。その結果、ようやく同年7月9日に至って「議事録と思しき文書」が開示されたのだ。
おそらくは、これだけで大きな成果と言ってよい。この「議事録」では、森下らが、日本郵政の上級副社長鈴木康雄と意を通じて、「クローズアップ現代+」の《かんぽ生命保険不正販売問題報道》を妨害しようとたくらんだことが明確になったからだ。この局面では明らかに、経営委員会の無法にNHK執行部と番組作成現場が蹂躙されている構図である。結局は安倍政権以来、政権が関わる人事の全てがおかしいのだ。
もっとも、この「議事録と思しき文書」は、所定の手続を経て作成されるべき「議事録」ではない。NHKが「議事録草案」と呼ぶものである。放送法41条で、「経営委員会委員長は、経営委員会の終了後、遅滞なく、経営委員会の定めるところにより、その議事録を作成し、これを公表しなければならない」とされている、適式の「議事録」については、いまだに不開示ということになる。真実、放送法の規定に反して、いまだに適式の議事録が作成されておらず、公表もされていないとすれば、森下の責任は重大である。その理由はどこにあるのか。森下主導の経営委員会が、放送法(32条)に違反して、番組(「クローズアップ現代+」)制作に介入していることが明らかになることを恐れたからである。
責任は、経営委員会、なかんづく委員長・森下俊三にある。無法・横暴な経営委員会とその委員長によって、NHK執行部と番組制作現場の報道の自由が蹂躙されている構図である。NHKは、一昨日乙1号証として「放送法逐条解説・29条部分」を提出して、文中の「経営委員会は、協会(NHK)の最高意思決定機関として設置したものである」という記述にマーカーを付けている。NHK執行部が、経営委員会にもの申すなどできようもない、という内心の溜息が聞こえる。
NHKが暴走することのないよう、放送法は、NHKの最高意思決定機関として経営委員会を置き、その重責を担う経営委員12名を「国民の代表である衆・参両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」という制度設計をした。当然に良識を備えた経営委員の選任を想定してのことである。ところが、この経営委員会が、とりわけその委員長が、政権の思惑で送り込まれ、明らかな違法をして恥じない。この事態に、内閣と国会とはどう責任をとろうというのだ。
本日陳述の原告第1準備書面の末尾は、以下の「被告森下に対する求釈明」である。
1 被告森下は、準備書面(1)(16ページ) において、「1315回の経営委員会において本件ガバナンス問題を審議するに先立ち、…その議事経過および資料を非公表とすることを協議して確認した」と主張している。しかし、同委員会議事内容の「粗起こし」と説明されている丙14には、そのような記載はまったくない。
録音を止めて協議し確認に至ったのか。後刻、この部分の録音を消去したのか。あるいは、他になにか事情があるのか。「丙14に非公表とすることを協議して確認した」形跡のないことの理由を明らかにされたい。
また、誰からどのような提案があって、どのような意見交換を経て、そのような確認に至ったのかを明らかにされたい。
2 被告森下も、適式な経営委員会議事録については、NHKのホームページ上 に公表すべきことを認めている。(準備書面(1) 12ページ)
今後速やかに、第1315?1317回の本件各経営委員会議事録を適式に作成の上、NHKのホームページ上に公表すべき予定ないしは意向があるか。
その回答を待ちたい。
なお、ここまでの訴訟進行の経過は下記のとおりである。
対NHK文書開示請求訴訟進行経過
?2021年6月14日 第1次提訴 (原告104名・被告2名)
☆被告NHKに対する文書開示請求
開示対象は2グループの文書
その主たるものは、下記経営委員会議事録。
「第1315回経営委員会議事録」(2018年10月 9日開催)
「第1316回経営委員会議事録」(2018年10月23日開催)上田会長厳重注意
「第1317回経営委員会議事録」(2018年11月13日開催)
☆被告両名に対する各損害賠償請求(慰謝料・弁護士費用、各1万円)
?同年 7月9日 NHK「3会議の議事録草案」原告らに開示
(?同年 9月16日 第2次提訴 (原告10名・被告2名)1次訴訟に併合)
?同年 9月15日 被告NHK答弁書(現時点では対象文書は開示済み)
?同年 9月21日 被告森下 答弁書
?同年 9月23日 原告 被告NHKに対する求釈明
?同年 9月24日 原告 甲1の1?4 NHK開示文書提出
◎同年 9月28日 第1回口頭弁論期日
(西川さん・長井さん・醍醐さんの原告3名と代理人1名の意見陳述)
?同年 12月 3日 被告NHK準備書面(1)「現時点で、所定の議事録作成手続は完了しておらず、放送法41条の定める議事録とはなっていない」
?同年 12月 3日 被告森下 準備書面(1)「本件各文書はいずれも開示済」と言いながら、「粗起しのもので、適式の議事録でない」ことを自認している。
?同日 被告森下丙1?32号証 提出
?2022年1月12日 原告第1書面(被告森下の求釈明に対する回答)提出
?同年 1月17日 被告NHK 乙1(放送法逐条解説・29条部分)提出
◎同年 1月19日(本日)第2回口頭弁論期日
本日の法廷で陳述の原告第1準備書面の概要は以下のとおり。
?被告森下の原告に対する不法行為成立要件についての下記求釈明事項3点に対する回答をメインとするもの
?(1) 違法行為の特定
経営委員として及び経営委員会委員長としての議事録作成・公表すべき義務を定めた放送法41条違反(その動機として32条違反)に連なる一連の行為が、行政法規違反というだけでなく民事的な違法ともなっている。
?(2) 被侵害権利は、受信契約に基づく各原告の情報開示請求権であるが、これは国民の「知る権利」を具体化した民事的請求権である。
?(3) 慰謝料請求額を1万円とした根拠は、請求金額の常識的な最低額としての金額設定である。
今後の日程は、
2月末日までに被告森下が求釈明に回答の準備書面を提出、
その内容を踏まえて、原告からの本格書面を提出。
次回第3回口頭弁論期日は、4月27日(水)午後2時開廷。
その頃には第6波収束を願うばかり。
(2022年1月18日)
昨日(1月17日)、第208通常国会が始まった。会期は6月15日まで。参院選が控えていることから、会期の延長はなかろうとされている。
冒頭、岸田首相による施政方針の説明。12000字の原稿朗読が行われた。羅列主義、メリハリに欠ける、具体性がない、などと総じて評判はよくない。が、無難、安倍・菅に較べれば格段にマシ、などという評価もある。
私の関心は、以下の3点。「新しい資本主義の実現」「敵基地攻撃能力」「憲法改正」、いずれもしっかり書き込まれている。
まずは、「新しい資本主義の実現」
経済の現状認識は、政治の責任者が見てもこういうことだ。
「市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。……市場に任せれば全てがうまくいくという、新自由主義的な考え方が生んだ、さまざまな弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっています」
この現状にどう切り込みどう改善して、格差や貧困から健全な民主主義の危機に至る弊害をどう克服するのか。という課題を語る段になると何とも情けない。具体策がない、次のような弁明でしかないのだ。
私は、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」によって、この世界の動きを主導していきます。官と民が全体像を共有し、協働することで、国民一人一人が豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていきます。日本ならばできる、日本だからできる。共に、この「経済社会変革」に挑戦していこうではありませんか。
成長戦略では「デジタル」「気候変動」「経済安全保障」「科学技術・イノベーション」などの社会課題の解決を図るとともに、これまで、日本の弱みとされてきた分野に、官民の投資を集め、成長のエンジンへと転換していきます。分配や格差の問題にも正面から向き合い、次の成長につなげます。こうして、成長と分配の両面から経済を動かし、好循環を生み出すことで、持続可能な経済を作り上げます。
分かるかな。分かるはずはない。言ってる岸田本人にも分かっているはずはないのだから。「分配や格差の問題にも正面から向き合い」って、いったいどう向き合うというのだ。「次の成長につなげます」って、具体的にどうつなげるべきかが問われているのだ。何の具体策もないのか。不公正税制の手を着けると言っていたはずなのに、いったいどうした。直接税の累進性強化や、消費減税はやらないのか。相変わらず、株式売買や配当の優遇税制は温存か。大した「聞く力」じゃないか。格差を是正して、分厚い中間層を創出するというのは、本気の発言か。
「おおむね1年をかけて、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定します。これらのプロセスを通じ、いわゆる「敵基地攻撃能力」を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討します。先月成立した補正予算と来年度予算を含め、スピード感を持って防衛力を抜本的に強化します。海上保安庁と自衛隊の連携を含め、海上保安体制を強化するとともに、島しょ防衛力向上などを進め、南西諸島への備えを強化します」「日米同盟の抑止力を維持しながら、沖縄の皆さんの心に寄り添い、基地負担軽減に引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます」
彼が朗読した原稿12000文字のうちの7文字が「敵基地攻撃能力」。目立たぬように、しかししっかりと書き込まれている。これは、たいへんなことだ。しかも、あれだけ反対の世論渦巻く、辺野古の基地建設も、「沖縄の皆さんの心に寄り添い、辺野古への移設工事を進めます」と言ってのける。大した神経だ。
そして、「憲法改正」
「先の臨時国会において、憲法審査会が開かれ、国会の場で、憲法改正に向けた議論が行われたことを、歓迎します。
憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、われわれ国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要です。本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します。」
おかしいじゃないか。「憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになる」ものであれば、国民の意見をよく聞くがよいではないか。政権や議会が主導して、「憲法改正に関する国民的議論を喚起」すべき理由はまったくあり得ない。
今議論すべきは、コロナ対策だろう。コロナに疲弊した生活や生業の支援だろう。福祉であり、教育であり、そして経済の回復のあり方ではないか。憲法改正などは、究極の不要不急課題ではないか。本国会においての積極的な議論の必要はまったくない。
(2022年1月17日)
山田孝男という記者がいる。毎日新聞を代表する大記者だそうだ。今は、特別編集委員という肩書で、毎週月曜日の朝刊に「風知草」というコラムを書いている。
大記者だけあって、政権とのつながりは密接のようだ。リテラによれば、安倍晋三との会食の常連だったようだ。たとえば、以下のように田崎史郎と並ぶさすがの存在。もちろん、大記者のこと、これだけではあるまいが。
●秘密保護法成立後の13年12月16日
場所=東京・山王パークタワー内中国料理店「溜池山王聘珍樓」
出席者=田崎史郎「時事通信」解説委員、山田孝男「毎日新聞」専門編集委員、曽我豪「朝日新聞」政治部長、小田尚「読売新聞」東京本社論説委員長、粕谷賢之「日本テレビ」報道局長
●集団的自衛権行使容認の検討を公式に表明した14年5月15日
場所=西新橋「しまだ鮨」
出席者=田崎史郎「時事通信」解説委員、山田孝男「毎日新聞」専門編集委員、島田敏男「NHK」政治解説委員、曽我豪「朝日新聞」政治部長、小田尚「読売新聞」東京本社論説委員長、粕谷賢之「日本テレビ」報道局長
●衆議院選が行われた14年12月14日の翌々日
場所=西新橋「しまだ鮨」
出席者=田崎史郎「時事通信」解説委員、曽我豪「朝日新聞」政治部長、山田孝男「毎日新聞」専門編集委員、小田尚「読売新聞」東京本社論説委員長、石川一郎「日本経済新聞」常務、島田敏男「NHK」政治解説委員、粕谷賢之「日本テレビ」報道局長
毎日新聞にはふさわしからぬ保守色濃厚なこの人が、本日の朝刊コラムに、「皇位・政治・世論」の表題で、皇位継承問題に触れている。いかにももっともらしくて、まったくつまらぬ内容。だから、「いかにももっともらしさ」に惑わされてはならず、実は「まったくつまらぬ論稿なのだ」と指摘しておかねばならない。
要旨は以下のとおりである。
岸田文雄首相が12日、皇位継承をめぐる政府有識者会議の報告書を衆参両院議長に手渡した―。この報告書は、おおむね「問題先送り」「本質でない」と批判されている。だが、皇統の秋篠宮家への移行―をめぐって世論に亀裂が走り始めた今、継承の行方をしばしあいまいにしておくことがダメな判断だとは思わない。
報告書は、結びで福沢諭吉「帝室論」の「帝室は政治社外のものなり(皇室は政争の外にあれ)」を引き、皇位継承の政治化にクギを刺している。
「帝室論」は明治15(1882)年の新聞連載である。当時、日本は帝国議会開設を控え、藩閥官僚政府の御用政党と反政府の民権党の対立がエスカレートしていた。福沢は、「保守守旧の皇学者流」と「自由改進の民権家流」が尊皇を競い、天皇を持ち出して相手を責めるのはよくないと警告。皇室の威信は政治や名利を超越するところにあると説いた。皇室と政治、世論を論じて深い。ちなみに、上皇陛下は皇太子時代、「帝室論」を音読されていたという。
もしも今回の報告書が女系天皇容認を打ち出していれば、「愛子天皇」の現実味は増していた。だが、それで男系護持派が引き下がるか? 世論調査で7、8割が女系天皇支持だから大丈夫と言えるか? 皇室は「日本人民の精神を収攬(しゅうらん)(=民心を融和)するの中心」(帝室論)である以上、乱暴に押し切るわけにはいくまい。
今後は国会の各党・会派が皇位継承について協議する。秋篠宮家バッシングが続く中、落ち着いた議論ができるか疑わしい。皇室は政争の外にあるべきものである。民心融和の中心たる皇室の未来を決めるにふさわしい時を待つべきだと思う。
この論理おかしくはないか。一方で、皇室は「日本人民の精神を収攬(=民心を融和)するの中心」 と言っておきながら、他方で皇位継承をめぐる議論の分裂を嘆いているのである。「皇室は政争の外にあるべきもの」というのは、現実には「皇室は政争のタネとなっている」ということ。天皇制あればこその国論分裂ではないか。
皇室は「日本人民の精神を収攬するの中心」だと? 人民を侮るのいいかげんにしろ。いまどき、皇室ごときに「収攬」されてたまるか。カビの生えた人物の、カビの生えたイデオロギーを、いまだ後生大事に抱えているアナクロニズムに辟易せざるを得ない。「皇室と政治、世論を論じて深い」だと? とんでもない、浅薄きわまりないと言うべきだろう。この人の頭の中は旧憲法のままで、現行憲法への転換がないようだ。
あたかも、国会が天皇交替の制度を論じることが畏れ多いというがごとき姿勢。当然のことながら、天皇という地位も公務員職の一つでしかない。そのあり方は廃位も含めて主権者国民が論議し決定することなのだ。
こういうアナクロニズムにまみれた姿勢こそが、彼を「大記者」として成功せしめたのだ。これが、現在の日本のジャーナリズムの水準である。大記者の論説だからと崇めてはならない、惑わされてもならない。
(2022年1月16日)
2020年は「沖縄の年」である。本土復帰50周年を機に「沖縄返還」とは何であったのか、安保とは、対米従属とは、地位協定とは、基地とは。そして憲法9条とは何かが問われざるを得ない。その問への回答が、沖縄知事選や参院選の結果ともなるのだ。その成果を期待したい。
「沖縄の年」幕開けの闘いが本日告示の名護市長選である。辺野古新基地建設問題が争点化した1998年市長選以来、7回目の選挙だという。今回は自公が擁立する現職の渡具知武豊候補に、新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力から新人岸本ようへい候補が立候補して、一騎打ちとなった。
争点は紛れもなく、辺野古新基地建設への賛否である。岸本候補が反対を明言し、渡具知候補が意見を言わないという構図。渡具知は前回同様「国と県による係争が決着を見るまではこれを見守る」としか言わない。
これは、「一寸の虫にも五分の魂」派と、「長いものには巻かれろ」派との対決である。一揆における「立百姓」と「寝百姓」の対峙の関係でもあり、資本と闘う「第一組合」と御用の「第二組合」との関係でもある。原発建設の賛否をめぐっても、カジノ誘致をめぐっても同様の構図を見ることができる。
権力が地元に犠牲を押し付けるときに、「一寸の虫にも五分の魂」派は敢然と闘う。しかし、「長いものには巻かれた」方が目先の利益にはなる。それは当然のこと、押し付けられた犠牲を懐柔するためには「アメ」が必要なのだ。「長いものに巻かれ」れば、いっときアメをしゃぶることはできる。しかし、それは掛け替えのない「魂」を売り渡すことにほかならない。取り返しのつかないことになる。
2019年の県民投票では、名護市民の73%が新基地建設反対の民意を示しているという。しかも今、改良工事が不可能なマヨネーズ状の軟弱地盤によって新基地の完成が見通せない問題も出てきている。オスプレイの事故も頻発している。民意が辺野古基地建設反対にあることは明らかだ。
だから、権力の手先である渡具知陣営としては、権力が配るアメで民意を誘導するしかない。そのアメの最たるものが、「米軍再編交付金」である。これあればこそ、名護市内の子どもたちの『給食費』、『保育料』、『子ども医療費』の無償化がある。渡具知派は、「新基地建設反対では、この施策を継続できない」ともっぱら利益誘導の選挙である。
辺野古新基地の耐用年数は200年とされている。名護市民は、半永久的な基地被害を甘受しようというのだろうか。4年前の選挙の際に、小泉進次郎という無責任な保守政治家が名護高校の生徒に、渡具知陣営への支持を語りかけて話題となった。結局は、「長いものには巻かれる」方が利口だというのだ。プライドを売れ、魂を売れ、故郷を売れ。自治を売れ。その見返りに補助金・交付金をもらって潤った方が賢いやり方じゃないかというわけだ。
岸本陣営は、再編交付金に頼らず、行財政改革などで三つの子育て無償化策の継続を訴えるほか、進学や子育てなどを支援する「子ども太陽基金」創設、名護市ネット販売課新設による生産品販売・起業支援、名桜大薬学部新設などを掲げるという。具体的には、三つの無償化にかかる費用7・1億円のうち、稲嶺前市政が再編交付金に頼らず、一部無償化を前進させた2・7億円の土台があると説明。残りの約4・5億円については「基金をつくり、再生可能エネルギーなどの導入による光熱費の削減とともに、新たな税収を期待できる市有地の活用で必ず無償化の継続はできます」と政策を掲げている。
名護市長選の闘いの構図は、《自公勢力》対《立憲野党+市民》の対峙構造とよく似ている。岸本陣営には、共産、立民、社民、社大、「にぬふぁぶし」、「れいわ」の諸政党の結集がある。
沖縄県内で新型コロナウイルスの感染が急拡大しているさなか、両陣営がどう支持拡大を訴えるのかも注目される市長選。今月23日の投開票で決着する。ぜひとも、「五分の魂」を守り抜こうというオール沖縄派の勝利を期待したい。
(2022年1月15日)
維新と読売の関係に興味津々である。包括提携協定を締結したポピュリズム政党と権力迎合体質の大新聞との深い仲は、今後どうなるのか。何がどう変わっていくのか。
その恰好の素材が早くも現れた。維新・前川清成議員(奈良)の公選法違反容疑の報道である。各紙が大きな関心をもって報道している。しかも、各紙かなりのスペースを費やしている。前川は弁護士だというから、それなりの法的弁明があり、その弁明の適否についての判断の材料を読者に提供しなければならないからだ。ところが、読売はまことにあっさりしたもの。ネットでの記事だが、以下のとおりである。
維新・前川議員を書類送検…衆院選で公選法違反容疑
(読売新聞 2022/01/15 10:38)
「昨年10月の衆院選で、公示前に自身への投票を呼びかける文書を有権者に送付したとして、奈良県警は14日、日本維新の会の前川清成衆院議員(59)を公職選挙法違反(事前運動、法定外文書頒布)の疑いで書類送検した。捜査関係者への取材でわかった。前川議員は読売新聞の取材に「違法性はない」と否定している。
前川議員は奈良1区から出馬して落選したものの、比例選で復活当選した。」
信じがたいことに、以上が全文である。「最低限の事実を報道しないわけにはいかないが、できるだけ目立たないように。読者への悪印象を避けるように」配慮しているとしか思えない。
これに、毎日のネット記事を対置させてみよう。同じ記者が連名で2本出稿している。
維新の前川清成衆院議員書類送検 公示前に投票呼びかけ文書配布疑い
(毎日新聞 2022/1/14 15:12)
「2021年10月の衆院選で、公示前に自身への投票を呼びかける文書を有権者に送ったとして、奈良県警は14日、日本維新の会の前川清成衆院議員(59)=比例近畿=を公職選挙法違反(法定外文書頒布、事前運動)の疑いで書類送検した。
県警は検察に起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。罰金以上の刑が確定すれば失職し、原則5年間、公民権停止となる。前川氏は「公選法に抵触するところはないと確信している」とのコメントを出した。
(前川清成氏が送ったとされる選挙はがきの見本=(関係者提供写真))
送検容疑は衆院選公示前の10月中旬ごろ、自身への投票を呼び掛ける文書数十通を母校・関西大の卒業生らに送ったとしている。
捜査関係者などによると、文書は選挙運動期間中にのみ使用が認められている「選挙はがき」に宛名やメッセージなどの記入を依頼する内容で、はがきや返信用封筒などをセットにして送られていた。
(前川清成氏が関西大の卒業生らに送ったとされる依頼文。選挙はがきの宛名や推薦メッセージなどの記入を求めている=関係者提供拡大)
毎日新聞が入手した選挙はがきには「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書き下さい」と記載され、依頼文には「ぜひ一票をお願いします」とメッセージの例文が添えられていた。
県警はこうした内容が、不特定多数の有権者に投票を呼び掛ける選挙運動に当たると判断。前川氏が指示したとみて調べていた。
前川氏は21年12月、毎日新聞の取材に応じ、「(卒業生らでつくる)『前川きよしげを支える関大有志の会』の会員に約2000通を送ったが、選挙はがきに宛名などの記入をお願いする『準備行為』で、事前運動には当たらない」などと説明していた。
前川氏は奈良弁護士会所属の弁護士。04年の参院選で初当選し、参院議員を2期、旧民主党政権で副内閣相などを務めた。21年10月の衆院選では維新の公認候補として奈良1区から出馬し、比例復活で当選を果たした。」
選挙はがき
公職選挙法で選挙中に配布が認められている文書の一つ。はがきに候補者の写真や政策、推薦文などを記載し、有権者に支援を呼び掛けるもので、衆院選(小選挙区)で候補者個人が使用できるのは3万5000枚まで。立候補届け出後、投票日前日まで使用できる。「公選はがき」「推薦はがき」とも呼ばれる。」
「各陣営やっている」公選法違反を全否定 維新・前川議員の言い分は」
(毎日新聞 2022/1/14 15:14)
(前川清成衆院議員=奈良県庁で2022年1月12日午後3時31分、加藤佑輔撮影写真)
「僕だけじゃなく、各陣営がやっている」――。2021年10月の衆院選で投票を呼び掛ける文書を公示前に送ったとして、公職選挙法違反(事前運動など)の疑いで書類送検された日本維新の会の前川清成衆院議員(59)。毎日新聞の取材に強い口調で違法性を否定し、「報道されたら訴える」とも話していた。文書はどんな内容で、何が問題とされたのか。
捜査関係者などによると、文書は公選法で選挙運動期間中にのみ使用が認められている「選挙はがき」や、そのはがきに宛名やメッセージの記入を求める内容だ。
選挙はがきは、通常サイズのはがきなどに候補者の写真や政策、推薦文などを掲載したもので、郵便局で「選挙」との表示を付けてもらって有権者に郵送する。衆院選(小選挙区)で候補者個人は3万5000枚、政党は候補者1人につき2万枚まで配布が認められるが、立候補の届け出から投票日前日までしか使えない。
(前川清成氏が送ったとされる選挙はがきの見本=関係者提供)
前川氏によると、文書は選挙はがきに宛名やメッセージなどを事前に書いてもらうために送ったという。衆院選の公示(10月19日)より前の10月上旬ごろ、母校・関西大の卒業生らでつくる「前川きよしげを支える関大有志の会」の会員ら約2000人に会長名で送付。返信用封筒なども同封したという。
毎日新聞が入手した選挙はがきの見本は、「あなたの1票で奈良県に維新の国会議員が誕生します」「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書き下さい」と投票を呼び掛ける内容で、維新副代表の吉村洋文・大阪府知事とのツーショット写真を掲載。依頼文には、はがきに記入するメッセージの例として、「前川さんへぜひ一票をお願いします」と書かれていた。
奈良県警は、こうした文書を不特定多数に送る行為が選挙運動に当たると判断。公示前だったことから、事前運動と法定外文書頒布の疑いで書類送検したとみられる。
一方、弁護士でもある前川氏はこうした見方を「恣意(しい)的だ」と批判した。関西大の卒業生らに選挙はがきの協力を求めたのは合法的な「選挙の準備行為」であって、投票を呼び掛ける選挙運動ではないという理屈だ。「(選挙期間の)12日間で計5万5000枚のはがきを(宛名などの)重複がないかチェックして発送することなんて誰もできない」と話し、他の陣営でも同様の文書を配っていると主張。「弁護士のバッジを懸けてもいいが、絶対に不起訴になる」「公判請求(起訴)などであれば、とことん闘う」と話した。
同種の事件では、16年の参院選で、公示前に選挙はがきを有権者に送ったとして、奈良県警が元参院議員の後援会関係者を公選法違反(事前運動など)の疑いで書類送検。奈良簡裁が罰金30万円の略式命令を出した例がある。はがきは後援会名義で出されたが、会員ではない人も含めて1万通以上送られた点が問題視されたという。
選挙制度に詳しい岩井奉信・日本大名誉教授は「文書には『ぜひ一票を』との言葉があり、投票依頼と受け取られかねない。後援会の内部で配っているだけなら後援会活動の一環と見なされるが、不特定多数に配っていれば選挙運動に当たる可能性がある」と指摘している。」
以上のとおり、読売と毎日でこれだけの圧倒的な情報量の差があることに驚かざるを得ない。読売しか読まない人に、毎日のこの記事を読ませたいものと思う。
さらに、毎日の報じた、この維新議員の弁明が興味深い。いかにも維新らしいというべきか。「弁護士のバッジを懸けてもいいが、絶対に不起訴になる」と言ったのだ。懸けてもらおう。起訴になったら、自分の言葉に責任をもって、弁護士のバッジを外していただきたい。そう、永久にでなくてもよいが、少なくとも10年は。
そして、「公判請求(起訴)などであれば、とことん闘う」のは被告人の権利だ。闘うのは当然だろう。しかも、公判闘争の結果には議員バッジが懸かっている。起訴されて有罪となれば、否応なく議員バッジは取りあげられる。この議員は、相次いで二つのバッジを失うことになる。
そのとき、「弁護士バッジだけはやっぱり着けておきたい」はなしにしてもらいたい。維新はこの議員の「有言実行」に責任をもたねばならない。弁護士バッジの着脱に、維新の信用がかかっている。そのときは、読売も維新の態度を正確に詳細に報道していただきたい。
(2022年1月14日)
学術会議が推薦した6候補に対する菅義偉の任命拒否は、権力による学問の自由蹂躙という大事件である。2020年10月1日のその事件が未解決のままに2度の年越しを経て、一昨年のこととなった。こんな「首相の違法行為」が放置されてよいはずはない。岸田政権は、安倍・菅のデタラメを承継してはならない。速やかに前首相の違法を是正して、6名を任命しなければならない。
昨日(1月13日)、岸田はこの問題をめぐって学術会議の梶田隆章会長と会談した。岸田は、「聞く耳」をもつことを、自分の美点と誇示している。「聞く耳」は重要だが、それだけでは何の意味ももたない。聞いたことをどう活かしどう実行するのか、それが問題ではないか。この会談で聞いたことを聞きっぱなしにして済ますのか、6人の任命実現につなげるのか。その姿勢を厳しく問わなければならない。聞くフリだけでは、タチが悪い。
主要メディアの、この会見に関する報道の見出しを拾ってみた。
読売 首相、学術会議の会員候補6人任命拒否は変えず…「当時の首相が判断し一連の手続きは終了」
赤旗 「任命拒否」変えず 首相、学術会議会長と会談
東京 首相、学術会議の任命拒否「もう結論でている」 梶田会長と面会
NHK 首相 学術会議の梶田会長と会談 “今後は官房長官窓口に対話”
毎日 岸田首相、任命拒否問題で学術会議と対話の姿勢 梶田会長と面談
朝日 学術会議の6人任命拒否問題「検討していく」 岸田首相、梶田会長に
産経 学術会議任命拒否 岸田首相「菅氏が決めたこと」
読売・東京・赤旗・産経は、岸田の姿勢を「聞いただけ」と否定的に厳しい見出しの付け方。これに対して、NHK・毎日・朝日は、「今後の対話と検討に期待」と温かく見守る姿勢。
とりわけNHKが暖かい。「日本学術会議が推薦した会員候補が前の政権で任命されなかったことに関連し、岸田総理大臣は学術会議の梶田隆章会長と会談し、今後は松野官房長官を窓口として対話を進めていきたいという考えを伝えました」というリード。
もっとも、「岸田総理大臣は『6人については、任命権者である当時の総理大臣が最終判断したもので、一連の手続きは終了したと承知している』と述べました」とは明記している。その一方で、「今後は松野官房長官を窓口として学術会議側と対話を進めていきたいという考えを伝えました。梶田会長は『少なくとも松野官房長官が担当となって検討していただけるということなので、前向きに捉えたい』と述べました」と期待を滲ませた報道となっている。
各紙の報道も内容は大同小異。岸田の「もう結論は出ている」「手続きは終了した」という発言をメインとするか、「今後も対話を進めていきたい」とする部分に重きを置くか。これは、岸田への幻想を切り捨てているか、持ち続けているかという各メディアの姿勢によるものではあるが、それだけでもないようだ。
世論の指弾が岸田をどれだけ追い詰めているのかということについての評価の差もあるのではないか。岸田は、世論に押されてやむなく学術会議会長との会談に応じざるを得なかった。情報公開請求や審査請求も利いているに違いない。という見方からは、NHK・朝日・毎日タイプの見出しになる。その評価がなければ、読売・東京・赤旗タイプとなろう。
また岸田について、安倍菅政権の残滓に縛られざるを得ないと見るのか、あるいはこの件を期に安倍菅政権から脱してリベラルな岸田色を出して世論の喝采を得ようとするサプライズもありと見るのか。
各紙は、記者団の取材に応じた梶田会長の談話として、「首相は学術会議と対話する姿勢を示し、松野官房長官をその窓口とすると応じた」「(任命拒否について)検討いただけるということなので前向きに捉えたい」「少なくとも官房長官にご担当いただいて、ご検討いただけるということなので、前向きにとらえたい」などと話したと報じている。
今後の「検討」の内容は予測しがたいが、基本は世論の高揚次第なのであろう。菅だけでなく、この件の黒幕とされた杉田和博官房副長官も既にその地位にない。世論を見ての岸田の決断次第で、6人の任命(任命拒否の撤回)は可能ではないか。
(2022年1月13日)
言葉は重層的な意味をもっている。しかも、時代や場所や局面によって変化する。なかなかに言葉の選択は難しい。
たとえば「国民」である。国家や権力に対峙する「国民」、主権者としての「国民」、基本的人権の主体としての「国民」と、安定した無難な言葉だと永く思っていた。ところがあるとき、「ことさらに日本国籍を持たない人々を排除した差別用語ではないか」と指摘されて考え込んだ。実は、それ以来ずっと考え込んで結論は出せないままである。
「国民」に代えて「市民」がふさわしい場合もあるが、権力との対峙のニュアンスが弱い。差別臭のない言葉としては「住民」だが地域的に限定される。「大衆」は好きな言葉だが、独特の手垢がついている。個人的には「民衆」や「庶民」を使うことが多いが、どうしても使える局面は限られるし、ニュアンスは軽くなる。
さて、本命は「人民」である。圧制に抗議し蜂起して隊列を組むのは、「人民」でなくてはならない。「人民」こそ、権力や資本や天皇制に対する批判者であり、批判的行動の主体である。さらに、人民こそは、国境や資本のくびきから解放された、人類的な普遍性を持ち、しかも差別とは無関係な人々の「集合」を意味する。
さはさりながら…、「人民」は余りに崇高で神聖な左翼用語として、消化しつくされたのではないか。「人民」という言葉は、いまや重すぎる言葉として、使える局面が極めて狭小になりつつある。「人民」という言葉の責任ではない。闘うべき「人民」が、闘うべき機会を逸して齢を経るうちに、廃用性機能障害を起こしてしまったのだ。状況が劇的に変化して、闘う主体とともに「人民」も復活することを期待したい。
朝日新聞(デジタル・1月9日)に、漢字の本場中国における「人民」の事情についての興味深い説明がある。(社説余滴)「「人民」って一体誰のこと?」という古谷浩一解説員の記事。要約すれば、以下のとおり。
私は1990年代の初めに中国の大学に留学して、中国語を学んだ。先生はとても立派な人だった。新疆出身のウイグル族の女性で、中国語専攻の20代の学者(のタマゴ)。母語と違って中国語を客観的に見つめる視座があったからだろう。漢族の先生が口にしないようなことも丁寧に教えてくれた。
例えば「人民」という単語。中国では反体制以外の人とか、「敵対勢力」ではない人といった意味を持つ。「では、私たちは人民でしょうか」と尋ねると、先生が困った顔をしていたのをよく覚えている。
こんな昔話をするのは、昨今の「中国式の民主」をめぐる議論で、中国が強調するのが国民や公民や市民ではなく、あくまで「人民の民主」という概念なのが気になったからだ。
習近平(シーチンピン)国家主席は昨年10月の演説で、「民主主義は飾り物ではなく、人民が解決を必要としている問題を解決するためのものである」と言っている。この解決すべき「問題」のなかに、新疆で迫害される少数民族の住民や、人権や表現の自由を求めて拘束された人たちが訴える「問題」はたぶん含まれないのだろう。なぜならば彼らは敵対勢力であり、「人民」ではないのだから。
敵と見なされた人々は封殺される。そして、それは「ごく少数をたたくのは大多数を守るため。独裁は民主の実現のため」(白書『中国の民主』)だと正当化されてしまう。
香港では立法会の選挙から民主派が排除された。それでも中国の高官が「民主的だ」と強弁するのは、敵を取り除いた選挙がまさに「人民の民主」の実現だからにほかならない。
なるほど、ところ変われば言葉も変わる。私は「人民」を、体制や権力と闘う志の高い人々を指す言葉と思っていた。しかし、習近平の用語法では「人民とは体制派」なのだ。しかも、「権力が特定の人々を除外し差別する」ために使われる「人民」なのだ。「人民」だけではない。中国共産党のいう、「民主」も「人権」も「自由」も「平和」も、そして「社会主義」も吟味を要する。一見言葉が同じようで、実はその意味が正反対ということもあるのだ。
(2022年1月12日)
ある維新の議員が、昨日付のブログでこう発信している。
「東京新聞 望月衣塑子記者のアンフェア発言に物申す。立憲・CLPの不祥事と大阪の連携協定はまったく同列ではない」
分かりにくいものの言い方だが、私はこう思う。
「東京新聞 望月衣塑子記者の発言に非難さるべき不適切さはまったくない。これをアンフェアと謗る維新議員こそ強く非難されねばならない。確かに、立憲・CLPの不祥事と大阪の連携協定はまったく同列ではない。維新と読売の癒着というべき大阪の包括連携協定の方が格段に悪性が強く、はるかに民主主義への負の影響が大きい。これを真逆に描くのは、ミスリードも甚だしい」
「公権力と大新聞の癒着事件」と、「立憲・CLPの不祥事」との悪性・危険性を比較するには、問題を2層に分けてとらえねばならない。まずは、当該行為自体の可非難性であり、次いで当該行為の可視性の問題である。
まずは、《読売新聞大阪本社と大阪府との包括連携協定》をどう評価すべきか。誰がどう見ても、ジャーナリズムと権力との癒着である。しかも、巨大全国紙と巨大地方都市の特別な関係の構築。好意的に読売をジャーナリズムと見るならば、権力批判をその本領とするジャーナリズムの堕落と言うべきだろう。また、権力の側から見れば、御用広報紙の取り込みで、批判を受けない権力は堕落する。そのツケは、府民にまわってくる。
というだけではない。読売という御用新聞とポピュリズム政党維新の癒着である。当然にそれぞれの思惑あってのことだ。とりわけ、維新の府政は問題だらけだ。カジノ誘致も万博も、そしてまだ都構想も諦めていないようだ。コロナ禍再燃の中、イソジンや雨合羽の体質も抜けきってはいない。維新府政は、ジャーナリズムの標的となってしかるべきところ、読売の取り込みは維新にとっては使えそうなところ。客観的に見れば、この上なく危険極まる、汚れた二つの「相寄る魂」。
但し、この癒着はことの性格上、アンダーテーブルではできないこと。年末のギリギリに発表して共同記者会見に及んだ。もちろん、会見では批判の矢が放たれたが、可視化はせざるを得ない。この癒着は大っぴらに開き直ってなされた。
対して、《立憲がカネを出していたCLPの不祥事》の件である。こちらは、立憲がカネを出していたことが秘密にされていた。ここが不愉快でもあり、大きな問題でもある。これまでは与党の専売特許と思われていたことを野党第一党もやっていたというわけだ。
可視化ができているかだけを比較すると、維新と立憲、立憲の方が明らかに分が悪い。立憲も弁明しているが、洗いざらいさらけ出して膿を出し切るのがよい。
しかし、可視化ができているか否かの点だけを比較して、《維新は公明正大、これに較べて立憲のやることは不透明で怪しからん》というのは、ミスリードも甚だしい。
行為の悪性や影響力を較べれば、維新の方が格段に悪い。読売と維新は、開き直って大っぴらに、「悪事」を働いているに等しいのだ。
大阪読売のOBである大谷昭宏の声に耳を傾けたい。
「本来、権力を監視するのがメディアの役割なのに、行政と手を結ぶとは、とんでもない話です。大阪読売はこれ以上落ちようがないところまで落ちた。もう『新聞』とか『全国紙』と名乗るのはやめて、はっきりと『大阪府の広報紙』と言ったほうがいい。そこまで自分たちを貶めるんだったら、もはや大阪読売はジャーナリズムの範疇には置けませんよ」「期待はしていなかったんですが、それにしても行政機関と提携するとは、ジャーナリズムとしてあり得ない。そこまでジャーナリズムの誇りを打ち捨ててしまうのか。OBの一人として哀れというしかないですね」「今回、読売が協定を結んだのは、明らかに部数増と大阪府からの見返りを期待しているからです。大阪府の職員は、朝日や毎日よりも、府と協力関係にある読売を読むようになるでしょうし、読売に優先的に取材上の便宜を図ろうとするでしょう。まさにギブ&テイクです。」「会見では、一部の地方紙も行政と協定を結んでいると言い訳していましたが、痩せても枯れても読売は全国紙ですから、影響力の大きさが比較にならない。しかも、大阪府が、朝日や毎日や産経にも声をかけて、結果的に読売だけが応じたというならまだしも、今回は読売のほうから大阪府に提案したんです。吉村知事は『報道内容に何ら影響されることはない』と言うが、ゴロニャンとにじり寄った側が相手を叩くことなんかできるわけがないじゃないですか」
「木に縁りて魚を求む」の喩えもある。維新に「権力の謙抑」やら「ジャーナリズムの本旨」を説いても耳にはいるとも思えないが、批判は続けなくてはならない。