維新・前川清成議員(奈良)の二つのバッジに維新の信用が懸かっている。
(2022年1月15日)
維新と読売の関係に興味津々である。包括提携協定を締結したポピュリズム政党と権力迎合体質の大新聞との深い仲は、今後どうなるのか。何がどう変わっていくのか。
その恰好の素材が早くも現れた。維新・前川清成議員(奈良)の公選法違反容疑の報道である。各紙が大きな関心をもって報道している。しかも、各紙かなりのスペースを費やしている。前川は弁護士だというから、それなりの法的弁明があり、その弁明の適否についての判断の材料を読者に提供しなければならないからだ。ところが、読売はまことにあっさりしたもの。ネットでの記事だが、以下のとおりである。
維新・前川議員を書類送検…衆院選で公選法違反容疑
(読売新聞 2022/01/15 10:38)
「昨年10月の衆院選で、公示前に自身への投票を呼びかける文書を有権者に送付したとして、奈良県警は14日、日本維新の会の前川清成衆院議員(59)を公職選挙法違反(事前運動、法定外文書頒布)の疑いで書類送検した。捜査関係者への取材でわかった。前川議員は読売新聞の取材に「違法性はない」と否定している。
前川議員は奈良1区から出馬して落選したものの、比例選で復活当選した。」
信じがたいことに、以上が全文である。「最低限の事実を報道しないわけにはいかないが、できるだけ目立たないように。読者への悪印象を避けるように」配慮しているとしか思えない。
これに、毎日のネット記事を対置させてみよう。同じ記者が連名で2本出稿している。
維新の前川清成衆院議員書類送検 公示前に投票呼びかけ文書配布疑い
(毎日新聞 2022/1/14 15:12)
「2021年10月の衆院選で、公示前に自身への投票を呼びかける文書を有権者に送ったとして、奈良県警は14日、日本維新の会の前川清成衆院議員(59)=比例近畿=を公職選挙法違反(法定外文書頒布、事前運動)の疑いで書類送検した。
県警は検察に起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。罰金以上の刑が確定すれば失職し、原則5年間、公民権停止となる。前川氏は「公選法に抵触するところはないと確信している」とのコメントを出した。
(前川清成氏が送ったとされる選挙はがきの見本=(関係者提供写真))
送検容疑は衆院選公示前の10月中旬ごろ、自身への投票を呼び掛ける文書数十通を母校・関西大の卒業生らに送ったとしている。
捜査関係者などによると、文書は選挙運動期間中にのみ使用が認められている「選挙はがき」に宛名やメッセージなどの記入を依頼する内容で、はがきや返信用封筒などをセットにして送られていた。
(前川清成氏が関西大の卒業生らに送ったとされる依頼文。選挙はがきの宛名や推薦メッセージなどの記入を求めている=関係者提供拡大)
毎日新聞が入手した選挙はがきには「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書き下さい」と記載され、依頼文には「ぜひ一票をお願いします」とメッセージの例文が添えられていた。
県警はこうした内容が、不特定多数の有権者に投票を呼び掛ける選挙運動に当たると判断。前川氏が指示したとみて調べていた。
前川氏は21年12月、毎日新聞の取材に応じ、「(卒業生らでつくる)『前川きよしげを支える関大有志の会』の会員に約2000通を送ったが、選挙はがきに宛名などの記入をお願いする『準備行為』で、事前運動には当たらない」などと説明していた。
前川氏は奈良弁護士会所属の弁護士。04年の参院選で初当選し、参院議員を2期、旧民主党政権で副内閣相などを務めた。21年10月の衆院選では維新の公認候補として奈良1区から出馬し、比例復活で当選を果たした。」選挙はがき
公職選挙法で選挙中に配布が認められている文書の一つ。はがきに候補者の写真や政策、推薦文などを記載し、有権者に支援を呼び掛けるもので、衆院選(小選挙区)で候補者個人が使用できるのは3万5000枚まで。立候補届け出後、投票日前日まで使用できる。「公選はがき」「推薦はがき」とも呼ばれる。」「各陣営やっている」公選法違反を全否定 維新・前川議員の言い分は」
(毎日新聞 2022/1/14 15:14)
(前川清成衆院議員=奈良県庁で2022年1月12日午後3時31分、加藤佑輔撮影写真)
「僕だけじゃなく、各陣営がやっている」――。2021年10月の衆院選で投票を呼び掛ける文書を公示前に送ったとして、公職選挙法違反(事前運動など)の疑いで書類送検された日本維新の会の前川清成衆院議員(59)。毎日新聞の取材に強い口調で違法性を否定し、「報道されたら訴える」とも話していた。文書はどんな内容で、何が問題とされたのか。
捜査関係者などによると、文書は公選法で選挙運動期間中にのみ使用が認められている「選挙はがき」や、そのはがきに宛名やメッセージの記入を求める内容だ。
選挙はがきは、通常サイズのはがきなどに候補者の写真や政策、推薦文などを掲載したもので、郵便局で「選挙」との表示を付けてもらって有権者に郵送する。衆院選(小選挙区)で候補者個人は3万5000枚、政党は候補者1人につき2万枚まで配布が認められるが、立候補の届け出から投票日前日までしか使えない。
(前川清成氏が送ったとされる選挙はがきの見本=関係者提供)
前川氏によると、文書は選挙はがきに宛名やメッセージなどを事前に書いてもらうために送ったという。衆院選の公示(10月19日)より前の10月上旬ごろ、母校・関西大の卒業生らでつくる「前川きよしげを支える関大有志の会」の会員ら約2000人に会長名で送付。返信用封筒なども同封したという。
毎日新聞が入手した選挙はがきの見本は、「あなたの1票で奈良県に維新の国会議員が誕生します」「選挙区は『前川きよしげ』、比例区は『維新』とお書き下さい」と投票を呼び掛ける内容で、維新副代表の吉村洋文・大阪府知事とのツーショット写真を掲載。依頼文には、はがきに記入するメッセージの例として、「前川さんへぜひ一票をお願いします」と書かれていた。
奈良県警は、こうした文書を不特定多数に送る行為が選挙運動に当たると判断。公示前だったことから、事前運動と法定外文書頒布の疑いで書類送検したとみられる。
一方、弁護士でもある前川氏はこうした見方を「恣意(しい)的だ」と批判した。関西大の卒業生らに選挙はがきの協力を求めたのは合法的な「選挙の準備行為」であって、投票を呼び掛ける選挙運動ではないという理屈だ。「(選挙期間の)12日間で計5万5000枚のはがきを(宛名などの)重複がないかチェックして発送することなんて誰もできない」と話し、他の陣営でも同様の文書を配っていると主張。「弁護士のバッジを懸けてもいいが、絶対に不起訴になる」「公判請求(起訴)などであれば、とことん闘う」と話した。
同種の事件では、16年の参院選で、公示前に選挙はがきを有権者に送ったとして、奈良県警が元参院議員の後援会関係者を公選法違反(事前運動など)の疑いで書類送検。奈良簡裁が罰金30万円の略式命令を出した例がある。はがきは後援会名義で出されたが、会員ではない人も含めて1万通以上送られた点が問題視されたという。
選挙制度に詳しい岩井奉信・日本大名誉教授は「文書には『ぜひ一票を』との言葉があり、投票依頼と受け取られかねない。後援会の内部で配っているだけなら後援会活動の一環と見なされるが、不特定多数に配っていれば選挙運動に当たる可能性がある」と指摘している。」
以上のとおり、読売と毎日でこれだけの圧倒的な情報量の差があることに驚かざるを得ない。読売しか読まない人に、毎日のこの記事を読ませたいものと思う。
さらに、毎日の報じた、この維新議員の弁明が興味深い。いかにも維新らしいというべきか。「弁護士のバッジを懸けてもいいが、絶対に不起訴になる」と言ったのだ。懸けてもらおう。起訴になったら、自分の言葉に責任をもって、弁護士のバッジを外していただきたい。そう、永久にでなくてもよいが、少なくとも10年は。
そして、「公判請求(起訴)などであれば、とことん闘う」のは被告人の権利だ。闘うのは当然だろう。しかも、公判闘争の結果には議員バッジが懸かっている。起訴されて有罪となれば、否応なく議員バッジは取りあげられる。この議員は、相次いで二つのバッジを失うことになる。
そのとき、「弁護士バッジだけはやっぱり着けておきたい」はなしにしてもらいたい。維新はこの議員の「有言実行」に責任をもたねばならない。弁護士バッジの着脱に、維新の信用がかかっている。そのときは、読売も維新の態度を正確に詳細に報道していただきたい。