澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

佐川宣寿証人の証言を、議院証言法違反で問い得るか。

先週の4泊5日韓国ピース・ツアーの間に、仕事が滞溜した。新聞や郵便物も山積みになった。この浦島太郎状態からようやく日常のペースが戻ってきた。

3月27日衆参予算委員会における佐川宣寿証人の喚問記録も拾い読みして、何とか浦島症状から覚醒した感がある。次は連休明けの沖縄の旅が待ち遠しい。

さて、佐川宣寿証人喚問の議事録を読んで、思うところを整理してみたい。

民事法廷での証人尋問で、その証人に対して証人自身の刑事責任に関する証言を求められることは考え難い。刑事事件においても、宣誓した証人に、証人自身を犯罪者とする証言を求めることは稀有なことであろう。要するに、証人とは、民事にせよ刑事にせよ、自分の責任とは関係のないことについて聞かれることが原則なのだ。

ところが、議院証言法による証人喚問は、純粋の証人として他人の責任に関しての証言を期待されているのではなく、自身の責任を追及される立場の「証人」が多い。刑事訴訟の感覚から言えば、証人であるよりは「被疑者・被告人」の立場に近い。そのため、法廷ではめったにない、証言拒否が濫発されることになる。刑事法廷では、訴追されている被告人が宣誓して供述することはない。

憲法38条1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強制されない」と定める。黙秘権として知られるが、合衆国憲法の自己負罪拒否特権の移入だとされる。なんびとも、自白を強制されることはない。捜査のあり方についての憲法原則でもあるが、何よりも被疑者・被告人の人格尊重の大原則でもある。

議院証言法は、議会の国政調査権を実効あらしめるために、誰に対しても証人として議会に出頭を求め、宣誓のうえ真実を語るべく義務付けをなしうる制度を作った。しかしこれには、自ずから人権原理からの制約や限界があることになる。法は証人に、一般的に真実を語るよう義務づけはできても、自己負罪拒否特権までを奪うことはできない。

すると、証人の偽証や証言拒否について、議院証言法違反で訴追できるかは、次のように考えを整理することができるだろう。

第1 原則(「国政調査権を実効あらしめる」「国民の知る権利を実現する」趣旨)
☆第1条(出頭・証言義務) 各議院から、議案その他の審査又は国政に関する調査のため、証人として出頭及び証言…を求められたときは、…何人でも、これに応じなければならない。
☆第6条(偽証) この法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、3月以上10年以下の懲役に処する。
☆第7条(出頭・証言拒否) 正当の理由がなくて、証人が出頭せず、…又は証人が宣誓若しくは証言を拒んだときは、1年以下の禁錮又は10万円以下の罰金に処する(併科も可)。

第2 制約(「人権原理にもとづく限界」「三権分立の制度の趣旨からの制約」)
☆第4条1項(自己負罪拒否特権=憲法38条1項「何人も、自己に不利益な供述を強制されない」にもとづく免責規定) 証人は、自己…が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。
☆第4条2項(業務に対する信頼保護の要請に基づく免責規定) 医師・弁護士・宗教者…は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。ただし、本人が承諾した場合は、この限りでない。
☆第5条 (公務の秘密保護の要請に基づく免責規定) (略)
☆第5条の2(特定秘密保護の要請に基づく免責規定) (略)

第3 各議院の告発手続(院の自律性と刑事司法権との関係)
☆第8条 各議院若しくは委員会は…証人が前2条(偽証、出頭・宣誓・証言拒否)の罪を犯したものと認めたときは、告発しなければならない。
☆8条2項 (議院ではなく)委員会…が前項の規定により告発するには、出席委員の3分の2以上の多数による議決を要する。
☆判例上親告罪であり、告発の権限は各院・委員会だけにある。(各院の自律権尊重の立場からの立法)
*検察が独自の判断で捜査・起訴はできない。
一般国民の告発による捜査・起訴もできない。

第4 実践的に
☆第6条(偽証)については、これを免責する根拠はいささかもない。
*偽証とは、「証人が自己の記憶に反することを述べること」(主観説)であるが、客観的事実との矛盾を積み上げて、推認するしかない。
*「官邸の指示なし」「昭恵夫人の影響なし」などの部分が問題になるだろう。
☆第7条(出頭・宣誓・証言拒否)
*まさしく、正当の理由の有無が問題となる。自己負罪の可能性を認めた趣旨であれば、「正当な理由ない」とは言いにくい。(反面、文書改ざんについての犯罪の成立が事実上推定されることになりうる。)
*むしろ、「刑事訴追を免れるためでない」別の偽証の動機を積み上げることが、重要であろう。
☆佐川証人が証言拒否なら、真相を明らかに出来る他の証人を喚問しなければ、国政調査権は全うできない。
(2018年4月4日)

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2018. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.