澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

坂本修著「アベノ改憲の真実」を推す

昨年(2012年)4月に発表された自民党「日本国憲法改正草案」は、右派陣営が望んでやまない「理想の憲法」のモデルである。赤裸々に彼らのホンネを語るものとしてまことに貴重な資料となっている。その批判的検討は、自ずから安倍自民の目指す国家像や基本政策と総体として対決するものとならざるを得ず、平和・人権・民主々義の各分野においての具体的な対立点と運動課題を明示することになる。

この度、「本の泉社」から、坂本修さんが、「アベノ改憲の真実ー平和と人権、暮らしを襲う濁流」を上梓された。10月15日の発刊。既にそれぞれの特色を持ったいくつかの「草案」批判解説書があるが、坂本書は、けっして屋上屋を重ねるものではない。

坂本さんは、私よりひとまわり先輩の弁護士。その発言には、常に抜きん出た存在感がある。坂本さんが何を言っているのかを知らないわけには行かない。さっそく読ませていただいた。

一読、その情熱に胸を打たれる。そして、あの人柄そのままの語り口が、無味乾燥になりがちな解説書をみごとに血の通ったものにしている。これは、余人にできることではない。もちろん、私などに真似はできない。坂本さんは数多くの労働訴訟や人権訴訟に携わってきた人。一々の具体的な事例の詳細紹介は省かれているが、その豊富な経験が分かりやすく説得力のある叙述となっている。

まずは、この書のはしがきにあたる「はじめにーあなたへの手紙として」をじっくりと読まねばならない。わずか2ページだが、この時代を誠実に生きてきた一個の知性が、読者の一人ひとりに真剣に語りかけている。これを読めば、背筋が伸びて、あとの100ページを読み通さねばならないという気持にならざるを得ない。

本文は全6章からなる。よく練られた章立てとなっていて読みやすい。
その第1章において「政治的背景事情」が語られる。その中で、安倍政権の「壊憲」の意図や戦略についても触れられる。第2章から、第5章が草案の解説となっており、終章である第6章が改憲阻止を展望する運動論となっている。

つまり、この書の構成は、法律的解説の前に政治状況と政権の意図を明らかにし、改憲草案解説の後に政治状況を切りひらいて改憲を阻止し「憲法の生きる日本を目指す」展望を示す実践の書となっている。これは、坂本さんの生き方そのものだ。法律を解説するだけの弁護士ではない。判例にしたがって、法廷活動をするだけの弁護士でもない。社会を変革する立ち場を旗幟鮮明にした弁護士が憲法についての書物を著せば、必然的にこうなるのだ。

さて、法律的な解説部分の章立ての構成を内容として示せば以下のとおりである。
第2章 総論=立憲主義と憲法3原則の否定
第3章 各論1 平和主義への攻撃
第4章 各論2 社会権への攻撃
第5章 各論3 自由権への攻撃

以上のまとめだと無味乾燥となる。現実の目次は以下のとおりに、工夫が凝らされている。
第1章 迫る『壊憲』濁流ーその陣立てと戦略をどう見るか
第2章 「改憲草案」の『壊憲』の原理ー憲法3原則抹殺と立憲主義の否定
第3章 「改憲草案」の第1の顔ー「戦争をする国」
第4章 「改憲草案」の第2の顔ー「弱肉強食の国」
第5章 「改憲草案」の第3の顔ー自由と人権のない強権支配の国
第6章 勝利の課題と展望をどう見るかー私たちは勝利できる

大雑把に言えば、「戦後レジーム」から脱却して「戦争のできる国・日本」を目指すことが「アベノ改憲」の正体であり、その中身は日本国憲法の骨格である近代立憲主義と憲法3原則を根こそぎ否定すること。具体的には、侵略戦争を任務とする国防軍を作り集団的自衛権の行使を認めて海外での戦争を可能とすること、新自由主義を徹底して弱肉強食の日本をつくること、市民的な自由も否定して国家秩序優先の社会をつくること、がたくらまれている。そして、その策動は、明文改憲だけでなく、解釈改憲・立法改憲の同時進行複合攻撃となっている。

問題は、国会での議席が足りないのに、この攻撃に対抗する運動に勝利の展望はあるのだろうか、ということ。坂本さんは、「知恵と力を合わせて闘えば勝利できると確信しています」と言う。ここが、坂本さんの真骨頂。精神論ではなく、「なぜか」が具体的に述べられている。

坂本さんは、「この改憲策動にはいくつもの弱点がある」とおっしゃる。改憲策動が進めば、その弱点も大きくなる。たとえば、安倍改憲を志向する政治は、社会のあらゆる分野で改憲阻止につながる大きな国民運動を巻き起こすことになる。原発再稼動反対、消費増税阻止、生活保護切り捨て反対、ブラック企業追及、TPP反対、辺野古やオスプレイ問題、言論の自由、公務員労働者の権利の問題‥、多くの要求闘争が憲法を活かす課題、改憲阻止の課題と結びつく必然性をもっている。また、安倍改憲策動は世界から孤立化するものという指摘も肯ける。

是非、熟読されるようお勧めする。100ページ余、価格800円と手頃なボリュームでもある。これをお読みのうえ、改憲阻止のために何をすべきか何が出来るかを、それぞれにお考えいただきたい。僭越ながら坂本修さんに代わってお願い申しあげる。
(2013年10月29日)

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Published in 火曜日, 10月 29th, 2013, at 23:35, and filed under 未分類.

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