「リメンバー・秘密保護法」
昨日の「朝日川柳」に「秘密成っていよいよ8日真珠湾」という秀逸句が掲載されている。12月6日深夜に特定秘密保護法が成立し、その憤激治まらぬうちに太平洋戦争開戦の日を迎えた。1941年12月8日未明(現地時間7日・日曜日)帝国海軍は、宣戦布告ないままに、ハワイ・真珠湾を奇襲して「赫々たる戦果」をあげた。アメリカ国民は、「リメンバー・パールハーバー」を合い言葉に、リベンジを誓った。
我々も、「リメンバー・秘密保護法」を合い言葉にしよう。安倍政権と自・公の与党が攻撃したものは、国民の知る権利であり、議会制民主々義であり、国民生活の平穏であり、平和である。彼らは、主権者国民に奇襲をかけ、国民の権利侵害に「赫々たる戦果」をあげた。
奇襲を受けたアメリカが復讐を遂げるまでには3年8月を要した。我々が安倍政権へのリベンジをなし遂げるには、それほどの年月は要らない。最も遅くても、3年後の12月には総選挙がある。その前に、参院選も統一地方選挙もある。衆議院の解散だって大いにあり得る。安倍政権が抱えるアキレス腱は、多様なのだ。
昨日から本日にかけて、各紙の見出しに躍る文字に、記者の怒りが込められている。
「拙速」「愚挙」「暴挙」「暴走」「強引・独断」「数の傲り」「追随」「欠陥法案」「悪法」「欠陥審議」「議会の劣化」「安倍ファシズム」「いつかきた道」「危機」「監視社会」「実質改憲」「戦前ほうふつ」「戦争する国へ」。そして「怒り」「許さない」「忘れない」「あきらめない」「撤廃」「連帯」「法廃止へ」「広がる反対」「声をあげ続けよう」である。
この国民の怒りは75日では鎮まらない。特定秘密保護法問題に続いて安倍政権が強行しようとしていることは、まずは集団的自衛権行使容認や、国家安全保障基本法提案、普天間の辺野古移設、防衛大綱、オスプレイなどの安全保障問題がひしめいている。それだけではない。TPP問題があり、消費増税があり、原発再稼動や原発輸出があり、教育書検定の強化があり、そしてアベノミクス崩壊の危機がある。
既にあちこちから、「特定秘密保護法廃止に向けた運動に取り組もう」という積極的な提案がなされている。久しぶりの国民運動の盛り上がりは、容易に退きそうにはない。新たな運動として持続しそうな心強さがある。
ところで、「この悪法廃棄のために広範な市民が原告となって大規模な訴訟を提起してはどうか」「裁判所で違憲判決をとれないものだろうか」という質問を受ける。さて、どうだろうか。
質問者のイメージは、多くの市民が原告となって、裁判所に「特定秘密保護法第○条の無効を確認する」という判決を求めて訴えを起こそう、というもののようだ。憲法21条の表現の自由を圧殺する特定秘密保護法の条項は明らかに憲法違反なのだから、そのような判決を言い渡すのが違憲立法審査権を与えられた裁判所の使命ではないか、という言い分。
しかし、訴訟の提起には、原告に具体的な権利侵害があったこと(あるいはその恐れがあること)を必要とする。具体的な権利侵害なくして、「特定秘密保護法は違憲」と主張し、「それゆえの無効確認」を求める請求は不適法で訴訟として成立しえない。簡単に却下されてしまう。
一般市民が、特定秘密保護法の違憲性を争う行政訴訟や国家賠償請求訴訟を提起することは、通常の法律家の感覚からは「到底不可能」というしかない。しかし、どうしても「広範な市民を原告とする違憲訴訟」を構想するとなれば、まったく策がないわけでもなかろう。
まずは集団で情報公開請求をする。この情報公開請求が、特定秘密保護法上の特定秘密に該当することを理由として「不開示決定」あるいは、情報公開審査会での「不開示裁決」となった場合に、この不開示の処分や裁決の取り消しを求める行政訴訟の提起は可能である。その訴訟では、不開示の理由となっている秘密指定の根拠法である特定秘密保護法の違憲を争うことが可能である。
訴訟を起こせるのは情報公開請求者に限られるが、多くの人が共同で情報公開請求をすることによって、「広範な市民を原告とする違憲訴訟」を構想することが不可能ではない。もっとも、どのような情報公開請求をするかが、最大のポイントになる。そのような秘密の材料を探り当てるのはたやすいことではなく、平和的生存権の侵害を根拠として集団で国家賠償請求訴訟を提起するような分かりやすいものにはならない。
特定秘密保護法廃棄を求める運動の手段として裁判所の利用も一つの可能性としてはありうるということ。しかし、民意を選挙に結実させることが運動の本筋だろう。これだけの悪法。本筋が通らぬはずはない。
(2013年12月8日)