「現代版・リットン調査団」を中国に派遣せよ。今度は「バチェレ調査団」だ。
(2021年12月15日)
1931年12月10日、国際連盟理事会は「日支紛争調査委員会」の設置を決議し、次いでリットン以下5委員を任命した。世に言う「リットン調査団」の結成である。同調査団は精力的に、東京を皮切りに、上海、南京、漢口、北平(北京)を視察のあと、満洲地域を1か月間現地調査し、再び東京を訪問。その後北京で報告書を作成している。連盟理事会に完成した報告書を提出したのが32年10月1日である。
1933年3月24日連盟総会は42対1(反対は日本)で同報告書を採択し、同日日本は国際連盟を脱退する。この調査団報告に対する歴史的な評価は種々あろうが、日本が国際連盟の調査に協力したことは特筆されてよい。費用の半額を負担してもいる。
「中国の人権状況」をめぐって、これを指弾する勢力と批判を拒否する中国に追随する勢力とに、世界が分断の色を濃くしているいま、90年前の故事に倣って「国際連合中国人権状況調査委員会」を設置すべきではないか。そのような国際世論を盛り上げたい。
現代版「リットン調査団」は、「バチェレ調査団」になる。中国政府は、「バチェレ調査団」のウイグルと香港の調査に無条件に協力しなければならない。
国連人権高等弁務官ベロニカ・ミチェル・バチェレ・ヘリア(1951年9月29日生)は、女性初のチリ大統領を2期務めた政治家だが、外科医であり小児科医でもあるという。その父は、アジェンデ政権の協力者として独裁者ピノチェットに殺害された人、自身も拷問を受けた経験があるという。
中国の人権弾圧が問題となって国連も腰をあげ、バチェレ人権高等弁務官が現地を訪問しての調査を申し出た。中国政府も、さすがに「NO」とは言えない。しかし、何をどのように調査するのか、調査の条件にこだわって、「協議」は続いているというが、調査は実現していない。
この間、メディアには、主としてウィグル人亡命者からの生々しい人権侵害被害の報告が重ねられ、その都度、中国当局の「事実無根」「捏造」「うそにあふれ、中国をたたくための政治的なたくらみ」というお決まりの反論が繰り返されてきた。
しかし、米バイデン政権の本気度は高く、新疆産製品を強制労働によるものとしてボイコットを呼びかけ、さらには綿製品に限らないすべての新疆産製品の輸入を禁止し、新疆産の原材料を使用する製品でないことの証明を求めるというところまで来ている。
影響の大きい例では、太陽光パネルの材料であるシリコンがある。その生産量は世界の8割を中国が占め、その半分ほどがウイグルで採掘されているという。これをアメリカは、原料としての輸入をしないだけでなく、製品としてもウィグル産シリコン不使用を証明できない限り輸入は認めないという。
この動きは、おそらく世界に広まるだろう。中国にとっての打撃となる。中国はその先手を打って、「バチェレ調査団」を受け入れると宣言すべきではないか。
「バチェレ調査団」は、各国の政府関係者だけでなく、ジャーナリストと人権NGOの活動家を加えるべきだ。そして、被害を訴えた亡命者を帯同しなければならない。調査は2班に分けて、ウィグル各地と香港を対象とする。期間は最低2年はかかるだろう。中国当局が見せたくないところを見なければならないし、しゃべらせたくない現地の人の声を聞く工夫がなくてはならない。
ところで、中国当局の公式見解は、「人民網日本語版」で手軽に確認できる。
http://j.people.com.cn/
その12月10日欄に、記者の質問に答える形で、汪文斌・外交部報道官がこう語っているのが、興味深い。
「新疆関連の問題は人権問題などでは全くなく、テロ対策、脱過激化、反分離主義の問題だ。中国政府が法に基づき暴力テロに打撃を与えるのは、まさしく新疆各民族人民の人権を最もよく守っていることになる。香港地区は中国の香港地区であり、香港地区の事は完全に中国の内政だ。中国政府が国家の主権と安全、発展上の利益を守る決意は確固不動たるものであり、「一国二制度」の方針を貫徹する決意は確固不動たるものであり、香港地区内部の事へのいかなる外部勢力による干渉にも反対する決意は確固不動たるものだ。」
要するに、「新疆と香港の問題は、アンタッチャブルだ。他国に余計なことは言わせない」という、居丈高な姿勢。なんという余裕のない、なんという批判拒否体質。これでは、世界の良識からの理解を得られない。水掛け論を繰り返すのではなく、「バチェレ調査団」の調査を受け入れれば、中国政府側の利益にもなるのではないか。