澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

すべては、安倍晋三の責任を徹底追求しなかったツケなのだ。

(2021年12月16日)
?おじさん、弁護士でしょ。ちょっと教えて。「森友学園公文書改ざん訴訟が国の認諾で終了」って記事が出ているけど、「森友学園」ってなんだっけ。

☆安倍晋三が首相だった時代に、たくさんの不祥事が起こった。森友学園事件もその一つ。安倍晋三と妻の昭恵が、森友学園の右翼的な教育に共鳴して、その小学校建設に肩入れした。なにせ当初は、校名を「安倍晋三記念小学校」とし名誉校長に安倍昭恵が予定されていた。安倍夫妻の口利きの実態は明らかになっていないが、不動産鑑定士の評価では9億5600万円の国有地が、「8億円値引き」されて、1億3400万円で払い下げられた。これが、発覚して大問題となった。

?そんなことがあったから、安倍さんを「右翼で国政私物化総理」と言ったのね。「森友学園事件」って安倍さんの右翼オトモダチへのえこひいきで、国有地をタダ同然で払い下げたという問題ね。

☆それだけじゃない。この怪しい国有地売却の経過を記録しているはずの公文書が大量に廃棄されたり、14の決裁文書が290個所にわたって改竄されていた。後で明らかになったのは、安倍夫妻や自民党の大物政治家の名前を消すための公文書改竄。

?きっと、安倍さんが裏で公文書の廃棄や改竄を命令してたんでしょうね。

☆誰でもそう思うのが当たり前。安倍晋三は、国会で「自分や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と言った。だから、都合の悪い文書を残しておくわけにはいかなかった。でも、本当のところは分からない。官僚が首相の立場を「忖度」してゴマを摺ったのかも知れない。

?「本当のところは分からない」なんてじれったいじゃないの。真実を明らかにする方法はないのかしら?

☆国会が国政調査権を発動して調べるのが一番の筋だろう。その一環として、衆参の予算委員会は佐川宣壽理財局長を証人として呼出し、宣誓の上証言させた。が、彼は、安倍からの指示を否定したが、改竄の経緯については証言を拒否した。野党は偽証で刑事告発しようとしたが、告発には3分の2の委員の賛同が必要で、自公や維新の議員が賛成するはずはないから、結局あきらめた。

?ほかに方法はないの?

☆世論の突き上げにあって、さすがに財務省も腰をあげた。内部調査委員会を作って調査し、「森友学園案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」をとりまとめて公表した。この報告書に基づいて、財務省は本庁と近畿財務局の幹部20人を処分した。もちろん、安倍関与の事実は出てこない。これで幕引きというわけ。「内部調査では信頼できない。信頼できる外部委員を入れて調査をやり直せ」という声には、聞く耳をもたない。

?警察や検察は動かなかったの?

☆何人もの人が、何人もの関係者を、いくつもの罪名で告発した。すべての告発事件が大阪地検特捜部に集められ、佐川宣寿以下の財務省職員ら計38人に対する告発が、すべて不起訴処分となった。「検察も安倍に忖度しているのか」と非難囂々だった。その後、事件は大阪第1検察審査会の審査に持ち込まれたが、いかんせん検察には捜査の権限はない。佐川ら10人について「不起訴不当」の議決となったが、「起訴相当」とはならなかった。大阪地検特捜は形ばかりの再度の捜査の上、再びの不起訴とし捜査は終了した。安倍の指示は、暗闇のまま。

?あれもダメ、これもダメ。じゃあ、話題になっている「森友学園公文書改ざん訴訟」ってなんなの?。

☆森友事件での公文書改竄は、東京の財務省本庁ではなく、出先の近畿財務局で起こった。実際に改竄を実行したのは、本庁からの命令を受けた近畿財務局の職員だった。そのうちの一人、赤木俊夫さんは、不本意ながらやらざるを得ず、正義感から自分の行為を恥じて結局痛ましい自死の結果となった。赤木さんの妻・雅子さんは、夫の自死は国に責任がある。その経過を明らかにしたいとして、国を相手に損害賠償請求の裁判を起こした。併せて、佐川宣壽も被告にしている。この裁判の過程で新しい資料が出て来るなどの進展はあった。そして、これから証人申請がなされるという時になって国に対する裁判は、国の認諾で突然に終わった。

?「認諾」ってなんなの?

☆原告の請求を被告が受諾すれば、原告は満足することになって紛争は解決し裁判は終了する。この場合は、「1億円支払え」という原告の請求を、被告が「全面的に認めます」という書面を陳述して、訴訟は終了した。

?じゃあ、安倍首相の公文書改竄の責任が明らかになったのかな?

☆いや、「請求を認諾する」ことは、必ずしも「請求の根拠となった請求原因事実を認める」ことを意味しない。むしろ、これからの訴訟の進展の中でいろんな事実を明らかにしていこうという原告側の思惑を封じ込めようという意図が見え見えと言ってよい。

?岸田首相は、財務省による改竄の責任を認めることで、安倍さんを叩いたようにも見えるけど。実は助けたというわけ?

☆両方の見方があるだろうね。この認諾が、一時的には安倍に対する打撃になることは避けられないが、長期的に見ると安倍の利益になる公算が高い。この裁判が長引けば、折に触れて安倍の責任、自民党の汚点が思い出される。この訴訟を終了させることは、安倍にだけではなく自民党にも有益なこと。とりわけ来年の参院選への影響を考えれば、今の時期がベストと考えたのかも知れない。

?なんだ。結局は安倍さんや昭恵さんの責任追求の場がなくなったと言うことか。

☆原告だった雅子さんが、提訴によって獲得しようとしてたのはお金ではなく、文書改竄を命じた人や経過をはっきりさせることだったはず。とりわけ、佐川宣壽と安倍晋三との具体的なやり取り。それが断ち切られて、「真相にふた」「問題に幕」を狙っての認諾。どうにもスッキリしない。

?今後はどうなるの?

☆国は認諾したけれど、佐川宣壽に対する550万円請求の裁判は残されている。弁護団は努力を重ねるだろうし期待もしたい。関連する情報開示の別訴訟もある。しかし、国を除いて佐川だけになった裁判で、予定していた関係者の尋問を実現したり新しい事実を発掘するような展開は、これまでよりも困難になるだろう。国が認諾した債務を支払えば、もう原告には損害はないと判断されるかも知れない。

?まるで、疑惑の幕引きに税金1億円を注ぎ込んだみたい。これからどうすればよいの?

☆もう一度原点に帰って、安倍晋三と昭恵の悪行を思い起こし、洗い直そう。そして、世論の力を再結集して国会やメディアに訴える。国会はもう一度、安倍の責任と、岸田の幕引き姿勢を追求しなければならない。日本の民主主義の力量が試されている。

?一番大切なことはどういうこと?

☆雅子さんは記者会見で「なぜ夫が亡くなったのかを知りたいと思って始めた裁判。お金を払えば済む問題ではない」と話している。本当にそのとおりだと思う。
 もとはと言えば、安倍政権の横暴が幾重にも露わになった事件。しかし、嘘とごまかしにまみれ、政治を私物化してきた安倍政権を政権の座からも国会からも、駆逐できなかった。国民も議会もメディアも力が足りなかった。自公の与党政権を批判する勢力がもっと強ければ、こんなことにはならなかったはず。すべては、安倍晋三という邪悪なる者の責任を徹底追求できなかったことのツケだと思う。
 モリ・カケ・サクラ・クロカワイ…。しっかりと、みんな忘れないように肝に銘じよう。

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