連合とはなんだ ー 「労務管理機構」であり、「改憲推進装置」でもある。
(2022年5月4日)
昨日の有明憲法集会でもらったビラに掲載されていた一句。
アヒルから、番犬になる大労組 (一志)
戦後労働運動の興隆期、主流に位置していたのが「産別会議」だった。階級闘争をスローガンに掲げた運動スタイルで占領軍と日本の政権から弾圧を受けると、それに代わる労使協調派が「総評」を結成した。ところが、間もなく「総評」は変身する。労働者の利益実現のために闘う組織となり、日本社会党の護憲路線を支えることにもなる。当時これを、「ニワトリの卵からアヒルが孵った」と話題になった。
おとなしいニワトリと思って育てた総評が、反米・反権力のうるさいアヒルになったという喩えだが、その総評も今はない。大企業の大労組は連合に組織され、資本と権力の番犬になり下がっているという川柳子の一喝。さて、この番犬、いったい誰に吠えかかり、誰と闘っているのだろうか。
出版社「ロゴス」が発行している「フラタニティ」という季刊誌がある。最新号(№26、2022年5月号)の特集が「ウクライナ危機が提起するもの」として充実しているが、巻頭に「連合は果たして労働組合なのか? ― 『連合』序論」(掛川徹)という論文が掲載されている。現場からの具体的な情報の発信として、興味深く説得力がある。そのうちの貴重な一節を引用させていただく。
「筆者が経験した職場では『経営の必須事項だからオマエ労務のことも勉強しとけ』という会社の意向で組合役員に取り立てられるケースがほとんどだった。事前の内示もなく勝手に組合役員に立候補すれば会社から報復人事を含めて凄まじい攻撃を受ける、という生々しい話も直接耳にした。ある会社では給与を年収ベースで100万円切り下げる事態も経験したが、組合役員が何度も行う職場『オルグ』では組合員の疑問に対して組合役員が会社の立場を滔々とまくしたて、うんざりした組合員が『もういいです』と話を切り上げるのが常であった。いざ賃下げとなった暁には「あれだけ何回も意見を聞いたのにあんたはその時黙ってたじゃないか」と言われてしまうので全員が黙々と条件の切り下げを飲み込んでしまう。ある意味で実に民主主義的なやり方で労働条件切り下げを飲ませる手法に筆者も舌を巻いた記憶がある。
職場集会が終わればロッカールームで「あいつは会社側の人間だ」「どうせうちは御用組合ですから」「俺たちの高い組合費でうまいもんばっかり食いやがって」とボロクソの批評が飛び交うが、表だってこれを口にする人間はいない。
こうした職場で「労働組合」とは労務課の出先機関にすぎず、組合役員は労務担当係長相当としか思われていない。ユニオンショップの下では組合から除名されれば会社もクビになる。組合に逆らうことは会社の上司に逆らうのと同じことなのである。
…企業内労働組合は会社が命令できないことを労働者に飲ませる資本の別働隊というのが現場の実感である」
以上は、「労働組合の体をした労務管理機構」という小見出しの一節。また、「格差拡大に加担する連合」という節もある。そこには、次のような生々しい体験が語られている。
「以前勤めた会社で予定されていた私の正社員登用がコロナ禍で取り消しとなったため救済措置を求めて職場労働組合に援助をお願いしたことがある。私鉄総連傘下の組合書記長は私の申し出を言下に断った。
書記長「掛川さんはうちの組合員じゃないし、組合費も払っていないので組合としては動けません。個人と会社の雇用関係なので嫌なら辞めればいい」
掛川「動けないというのはどうでしょう。非正規雇用の同僚が切り捨てられるんだから、広い意味で職場環境の問題として組合が動くのは別に構わんじゃないですか」
書記長「職場環境を言うなら組合が要求して頑張ってきたからこんなに職場がきれいになったんです。組合費を払っていない掛川さんは組合の成果にタダ乗りしているんですよ」
掛川「…(絶句)会社も組合も話を聞いてくれないんだったら合同労組に加盟して団体交渉を申し入れるしかないですね」
書記長「それだけは絶対やめてください。うちはユニオンショップだから他の組合に加盟したらクビですよ」
掛川「私は正社員じゃないからそもそもオタクの組合に入っていません。労働者が労働組合に入ることは法律で認められた権利じゃないんですか」
書記長「経営危機を乗り切るため職場一丸で頑張っているときに掛川さんが外部勢力を引き込めばあなたの居場所はこの会社にはありませんからね」
こういうエピソードを添えられると、連合についての幾つかの常套句が、真実味を帯びてくる。「正社員クラブ」「労働貴族」「裏切り者集団」「経営者予備軍」…。これらの呼称は、いずれも連合が「資本の番犬」であって、「正社員クラブ」の会員権を持たない労働者に吠え、噛みついているという一面を表している。だが、実はそれにとどまらないのだ。
ところで、連合もメーデーには集会もする、デモもする。もっとも5月1日にではない。かつての天皇誕生日4月29日に、「労働者の祭典」を開催して恥じない。今年の連合メーデーを一瞥すれば、連合のなんたるかは一目瞭然である。何しろ、護憲も改憲阻止も、「9条守れ」も一切出てこない。政府や労働行政や小池百合子を来賓に呼んでの集会。これが労働組合の集会とはとても思えない。
芳野友子(連合会長)による冒頭の挨拶は、資本や政権への対決姿勢は毛ほどもない。来賓挨拶の内容を連合自身のホームページ記事から引用する。
政府を代表して松野博一内閣官房長官が「かつて労働政策は経済政策に従属的なものとされていたが、今日、雇用・労働政策は社会・経済政策を牽引するものとなっています。これには連合の活動も大きく貢献しているものと思っています。人への投資を起点とした成長と分配の好循環の実現に向け、これまで以上のご支援・ご協力をお願いします」と述べました。
次いで、労働行政を代表して後藤茂之厚生労働大臣は「成長と分配の好循環を実現するためには、持続的な賃金の引上げとそれを支える生産性や労働分配率の向上が必要になります。賃上げを可能とする条件を支えられる労働政策を実行していきます」と述べました。
続いて、メーデー中央大会を後援している東京都から、小池百合子知事が「組合員の皆様には、都民の生活を支える現場で尽力いただいている。私は現場を守る労働者の皆様をしっかりと支え、迅速に政策を実行していきます」と述べました。
この連合の政府や行政との蜜月ぶりはいったいどうしたことか。本日の「毎日」朝刊トップの大型記事の見出しが「労組分断(その1) 自民、改憲狙い連合接近 4年前、国民民主に布石」となっている。その冒頭の一文が、以下のとおり。
「政権交代を目指してきたはずの連合がおかしい。夏の参院選が迫る中、立憲民主、国民民主両党への支援に力が入らず、むしろ自民党への接近が目立つ。約700万人を擁する労働組合のナショナルセンターは、どこに向かうのか。」
毎日が、「連合がおかしい」というのだ。結論から言えば、これまでは資本の犬でしかなかった連合が、今や政権の犬にもなっているということなのだ。ことは、今夏の参院選に影響を与え、さらには「改憲問題」における保守派の手駒になりつつあるということなのだ。
連合は、野党共闘を積極的に妨害し、改憲阻止派の議席を減らして、憲法改悪に途を開こうとしている。権力の番犬となって、憲法や民主主義に吠えかかっていると言わざるを得ない。
毎日の記事の一部を紹介する。
「4月18日には芳野氏が自民党本部で講演。終了後、記者団の取材に応じる芳野氏の背後に、岸田首相のポスターに加え、『憲法改正の主役はあなたです』と記したポスターが張られていたのは偶然ではないだろう。」
実はこの記事、ネットの有料記事として読める。下記のとおりのネットで全8回の企画だが、現在7回までがアップされている。
第1回 加速する「自民シフト」
第2回 消去法で芳野氏に
第3回 「トヨタショック」直撃
第4回 「組合=野党」もはや過去
第5回 内部分裂の兆し
第6回 参院選 現場は混乱
第7回 声を上げる女性たち
第8回 どうなる連合 専門家に聞く
その第7回の最終行は以下のとおり。大新聞の論調としてはかなりの突っ込み方ではないか。
「芳野会長が誕生した時に膨らんだ女性たちの期待は急速にしぼんでいる。連合関係者の女性も「芳野さんが何をやりたいのか分からない。働く者と横につながるでもなく、説明もなく一人で進む。とてもじゃないが一緒にやれる人ではない」と困惑する。女性たちが怒りの声を上げ始めた。」
芳野体制は連合内部でも評判すこぶる悪く長くもちそうにはないようだ。しかし、ここまできた資本や権力に対する姿勢を軌道修正できるのだろうか、そこが問題なのだ。