澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

選挙運動費用収支報告書虚偽記載の摘発実例

本日の赤旗社会面に、次のベタ記事がある。
「民主陣営関係者3人を書類送検=公選法違反容疑など
 2012年の衆院選などの際、うその領収書を作成したなどとして、秋田県警は7日までに、衆院選秋田3区に民主党公認候補として出馬し落選した三井マリ子氏、13年の参院選で落選した同党秋田県連代表の松浦大悟氏の両方の陣営で選挙運動をしていた3人を、横領と公選法違反(虚偽記載)容疑で書類送検しました。」

ここまでは、2月7日に時事が配信した記事のとおり。そのあとに、次の記載が続いている。
「三井氏が、13年5月、政治資金に不明瞭な流れがあったなどとして、関係者らを告発していました。秋田地検などによると、3人は陣営の協力者への報酬の一部を着服し、報酬を別人に支払ったなどとする嘘の領収書を作成した疑い。」
さすが赤旗。記事は小さいが、都知事選投票日に全国版の記事として扱っている。

ただ、この赤旗記事だけでは、何が起こったのかはよく分からない。
「うその領収書を作成」したのなら、有印私文書偽造。公選法違反(虚偽記載)容疑とどう結びつくのか。そして、横領容疑の中身は? 金額は?

昨日(2月8日)の「毎日」秋田版に次の記事がある。
「2012年12月の衆院選秋田3区や13年7月の参院選秋田選挙区で民主党公認候補者の選挙運動費用収支報告書にうその記載があったとして、陣営関係者が公職選挙法違反(虚偽記載)容疑で書類送検された事件で、送検されたのは陣営幹部運動員ら男3人と分かった。県警は3人を横領容疑でも書類送検した。

 捜査関係者によると、3人は衆院選秋田3区で落選した三井マリ子氏陣営の選対本部副本部長ら。このうち2人は参院選秋田選挙区で落選した松浦大悟党県連代表陣営の運動員でもあったという。

 送検容疑は、衆院選や参院選で、選挙ポスター張りをした人の報酬の一部を着服し、実際は報酬を支払っていないのに、支払ったといううその領収書を作成したとしている。領収書は県選管に提出する収支報告書に添付されていた。県警などは着服した金額は1人当たり数万円で、ガソリン代や食事代に使ったとみて調べている。」

私の関心は、「公職選挙法違反(虚偽記載)容疑での書類送検」と、「うその領収書を作成して、県選管に提出する収支報告書に添付していた」事実だ。そして、「ガソリン代や食事代」なら、実費弁償として認められる出費が、届出をしていないばかりに横領とされていること。

2013年10月30日付毎日(秋田版)は、「三井マリ子氏の告発を機に、浮上した選挙運動費用収支報告書の虚偽記載問題」の内容を次のとおり報告している。
「三井氏陣営の選挙運動費用収支報告書によると、衆院選公示日は86人がポスター張りなどをし、報酬を支給された。しかし、県警のこれまでの調べでは、架空の領収書が作成され、実際は報酬を受け取っていない人や額面の一部しか受け取っていない人がいるとされる。県警は虚偽記載の経緯とともに、浮いた金の使途などを調べている。」

また、2013年10月28日付毎日(秋田版)は、「県選管に提出した収支報告書によると、衆院選告示日の昨年12月4日に三井氏の選挙ポスター張りなどをした横手市などの有権者86人に労務の対価として報酬計81万9000円が支払われた。」と報道している。

実は三井マリ子氏の告発は関連する別件を含むもので、その別件に関連して民事訴訟の係属もある。しかし、その件は論じることに公共性・公益性が乏しく、私の関心事でもない。その別件を切り離して、問題を整理すれば、以下のとおりである。

純粋にポスター張りだけの機械的労務の提供をする者に、一日1万円を限度として「労務者報酬」を支払うことは、公選法の認めるところ。事前の届出も必要がない。三井マリ子陣営の選対本部副本部長らは、選管に「86人の労務者に報酬計81万9000円を支払っていた」旨の選挙運動費用収支報告の届出をした。届出には、領収書の添付が必要だから、届出内容に沿った領収証が作成され添付されていたはずである。

ところが、警察の捜査によって、そのうちの一部が架空の報酬支払いであって、選管への届出は虚偽の報告として公選法(246条)違反であり、添付の領収証は名義人が作成したものではない偽造文書として、刑法159条に該当する。さらに、偽造の届出によって浮かせた金の着服が横領(おそらくは刑法253条の業務上横領)の罪に当たると判断されて送検に至った。

三井陣営の選対副本部長ら3名の氏名は、選挙運動費用収支報告書に記載されていない。捜査機関の捜査によって特定された。公選法違反は、選挙の公正の保障と、世人の選挙公正への信頼を傷つけるもの。横領は、財産犯だが、「1人当たり数万円」だから、3人で15万円前後であろうか。しかもその使途が「ガソリン代や食事代に使った」とみられている。それでも、摘発され、捜査対象となり、送検されている。適正に届出をする限り、「ガソリン代や食事代」の支出は実費弁償の支出として何の問題もない。しかし、届出をしなければ、横領として処理されることになる。このことの意味は極めて重い。

翻って、三井マリ子選挙と同じく、2012年12月16日投開票の都知事選宇都宮候補の選挙運動費用収支報告を比較してみたい。

東京都選挙管理委員会に対する2012年12月28日付の「第1回」報告では、上原公子選対本部長(元国立市長)、服部泉出納責任者の両名について、「選挙報酬として」と明記された10万円受領の領収証が添付されて、「労務者報酬」としての支出届出がなされている。後の訂正届出(2014年1月22日)によって、これが虚偽報告であることが明らかになっている。添付の領収証も「撤回」されたごとくであるが、覆水は盆に還らない。いったん成立した虚偽届出の犯罪(公選法246条違反)が事後の行為によって消滅することはない。

「三弁護士の法的見解」によって、上原公子選対本部長(元国立市長)、服部泉出納責任者の各10万円の受領自体は明確にされている。「三弁護士の法的見解」は、実費弁償の対象となる出費があって、それに充てるための支払いであったと言うがごとくである。しかし、それでもなお、その20万円について、横領罪が成立するというのが、今回摘発された秋田の事件なのである。

「第1回報告」に添付された、上原公子選対本部長(元国立市長)と服部泉出納責任者の各領収証は、仮に本人が作成したものではなく偽造されたというのであれば、偽造者の特定が必要であって特定された偽造者の犯罪が追及されなければならない。偽造でなければ、選挙運動者に対する報酬の支払いとして、運動員買収・被買収の犯罪が成立する。

また、「三弁護士の法的見解」によって明確にされた上原・服部が受領した20万円は、その後の訂正届出によって宙に消えてしまった。どう取り繕うとも、宇都宮陣営がクリーンで透明性を確保されたな選挙にほど遠いことが明らかである。革新陣営の候補者は徹底してクリーンでなければならない。ましてや、前都知事の選挙運動費用の不正を徹底して追及しようと公約を掲げている候補者においてはなおさらである。

また、クリーンでない実態が明らかになったら開き直ってはならない。それは、自浄作用の能力を欠いていることを自白するだけのことなのだから。
(2014年2月9日)

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Published in 日曜日, 2月 9th, 2014, at 14:12, and filed under 未分類.

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