澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

統一教会は、本件放送における有田の意見や解説の中から、前後の文脈を意識的に切り取ったわずか8秒の発言を名誉毀損であるとして本件訴訟を提起した。原判決は、この発言を前後の文脈との関係で捉え直し、そもそも統一教会の社会的評価を低下させるものではないと、統一教会の主張を一蹴した。本訴訟は、典型的なスラップ訴訟である。スラップの被害者は、応訴の負担を強いられる被告だけではない。類似の言論、類似のメディアが、訴訟の煩わしさを避けようと、統一教会批判の言論に躊躇し萎縮を余儀なくされる。スラップの真の被害者は、表現の自由そのものであり、国民の知る権利なのだ。一刻も早い控訴棄却の判決を求める。

(2024年7月25日)
本日、統一教会スラップ有田訴訟の控訴審第1回法廷。本日結審となったが、判決言い渡し期日は決まらず、追って指定とされた。
 本件訴訟は、単なる名誉毀損事件ではなく、また典型的なスラップ訴訟の一事例というだけのものでもない。被告とされた有田側において、原告統一教会の反社会的集団と言うにふさわしいその根拠の立証を積み上げた点で注目に値する事件となった。
 統一教会は、有田芳生の口を封じようと、このスラップ訴訟を提起したが、原告側の目論見に反して「統一教会は反社会的集団である」ことが被告の主要な立証対象となり、その立証のために統一教会の違法を認めた民事・刑事の裁判例が積み上げられた。この立証活動は、統一教会に対する解散命令請求での「悪質性・組織性・継続性の立証」にそのまま重なる。
 こうして、はからずも本件有田訴訟は、文科大臣による統一教会に対する「解散命令請求事件の前哨戦」となり、一審判決は「解散命令先取り判決」「統一教会解散パイロット判決」となるはずであった。
 ところが、一審判決は、そもそも本件有田発言は、統一教会の名誉を毀損する表現ではないとして、統一教会の反社会性の判断に立ち入るまでもないと判断した。本件訴えのスラップ性を認めたに等しいというべきであろう。

 2022年8月19日、日本テレビの情報番組「スッキリ」に、解説者として出演した有田芳生さんは、およそ40分間に及ぶ番組のなかの一言(8秒)で、統一教会から訴えられました。
有田芳生さんは、統一教会との深い関係を断ち切れない萩生田光一議員を批判する文脈で「(統一教会は)霊感商法をやってきた反社会的集団だってのは警察庁も、もう認めている」(「だから、萩生田議員は統一教会ときっぱり手を切るべきだ」)と発言したところ、統一教会は、これを名誉毀損だとして、有田さんと日本テレビを訴えました。その請求額2200万円。
 その結果、「統一教会は反社会的集団である」という事実の『真実性』、あるいは「統一教会は反社会的集団である」という意見の前提事実の『真実性』が、被告側の主要な立証対象となり、有田訴訟が、統一教会の解散命令請求裁判と同様に、統一教会の「悪質性・組織性・継続性」についての司法判断を求める訴訟となったものです。
 東京地裁民事第7部合議B係(荒谷謙介裁判長)
   R4ヮ第27243号名誉毀損事件
   原告 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)
   被告 日本テレビ放送網株式会社・有田芳生
(以下、※裁判所、◆原告、◎被告有田、☆被告日テレ、★訴訟外事件)
★22・07・08 安倍元首相銃撃事件
★22・08・19 日テレ「スッキリ」番組放映(萩生田光一議員批判がテーマ)
◆22・10・27 提訴 訴状と甲1?6
 請求の趣旨
  (1) 被告らは連帯して2200万円(名誉毀損慰謝料と弁護士費用)を支払え
  (2) 日テレは番組で、有田はツィッターで、謝罪せよ
 請求原因 名誉毀損文言を、有田の番組内発言における「(統一教会は)霊感商法をやってきた反社会的集団だって言うのは、警察庁ももう認めているわけですから」と特定している。
※22・11・10 被告有田宛訴状送達(第1回期日未指定のまま)
※23・01・23 On-line 進行協議
◎23・02・27 被告有田・答弁書提出 証拠説明書(1) 丙1?7提出
  (本件発言は、一般視聴者の認識において全て意見であり、当該意見が原告の社会的評価を低下させるものではない。仮に社会的評価を低下させるものであったにせよ、その前提事実は真実である)
☆23・02・27 被告日テレ・答弁書提出 乙1(番組の反訳書)提出  
◆23・03・07 原告準備書面(1) (被告日テレの求釈明に対する回答)提出
◆23・03・14 原告準備書面(2) (被告有田に対する反論) 甲7?12提出
◎23・05・09 被告有田準備書面1 提出
☆23・05・09 被告日テレ・第1準備書面
◎23・05・12 被告有田準備書面2 証拠説明書(2) 丙8?13 提出
※23・05・16 第1回口頭弁論期日(103号法廷) 閉廷後報告集会
   島薗進氏の記念講演、望月衣塑子・佐高信・鈴木エイト各氏らの発言
◆23・06・26 原告準備書面(3) (有田準備書面1に対する反論) 甲13?25
◆23・06・26 原告準備書面(4) (有田準備書面2に対する反論)
◆23・06・26 原告準備書面(5) (日テレに対する反論)
◎23・07・17 被告有田準備書面3 提出
※23・07・18 On-line 進行協議
◆23・07・20 原告甲26(番組全体の録画データ)提出
◎23・08・31 被告有田 証拠説明書(3) 丙14?19
証拠説明書(4) 丙20?23
証拠説明書(5) 丙24?27
証拠説明書(6) 丙28?43
☆23・09・15 被告日テレ・第2準備書面 証拠説明書(2) 乙2?7
◎23・09・22 被告有田準備書面4
  (甲26ビデオを通覧すれば、「警察庁ももう認めているわけですから」は、一般視聴者の印象に残る表現ではない。早期の結審を求める)
◆23・09・22 原告証拠説明書 甲27?29
※23・09・26 第2回口頭弁論期日(103号法廷)
   裁判所 「双方なお主張あれば、10月30日までに」
◎23・10・27 被告有田「早期結審を求める意見」書を提出
       (主張は尽くされた。次回結審を求める)
◆23・10・30 原告準備書面(6)提出 内容は横田陳述書(甲30)を援用するもの
   証拠申出・証人横田一芳(国際勝共連合) 甲30・横田陳述書提出
◎23・10・31 被告有田、証人(横田)申請を却下し重ねて次回結審を求める意見。
※23・11・07 On-line 進行協議 原告の証人申請却下
        次回結審とし、法廷では15分の被告有田側の意見陳述を認める。
※23・11・28 第3回口頭弁論期日(103号法廷) 結審  閉廷後報告集会 
※24・3・12 15時30分 判決言い渡し(103号法廷) 請求全部棄却
       16時 報告集会   16時30分 記者会見

              

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控訴審裁判所 東京高等裁判所 第14民事部(裁判長は太田晃詳(39期))
事件名 名誉棄損控訴事件 令和6年(ネ)第1772号
◆24・3・25 統一教会控訴状提出
◆24・3・15 控訴答弁書・甲31?48提出
◎24・7・18 被控訴人有田 控訴答弁書提出
☆24・7・18 被控訴人日テレ 控訴答弁書提出
※24・7・25 14時 控訴審第1回口頭弁論期日(101号法廷)
  控訴状、控訴理由書、控訴答弁書の各陳述
  甲31?48(いずれも写)の取り調べのあと
  被控訴人本人有田さんと、代理人澤藤大河の意見陳述があって、
  結審となった。但し、判決言い渡し日は、追って指定。
 なお、太田晃詳裁判長は、大阪高裁民事部勤務時代の2022年2月22日、旧優生保護法を違憲とし、初の賠償命令判決を言い渡した裁判長として知られる。

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統一教会スラップ有田事件控訴審意見陳述

被控訴人 有田芳生

 被控訴人有田芳生より控訴審第1回期日において、当事者として意見を述べます。
 朝日ジャーナル」や「朝日新聞」が統一教会や霊感商法を批判した1980年代。信者たちは上司(アベル)の指示に従って、朝日新聞社に抗議電話を殺到させ、そのため周辺のがんセンターや築地市場の電話回線までパンクする事態が生じました。
 また記者の自宅に対する深夜の嫌がらせ電話もありました。1992年の国際合同結婚式のときにはテレビ局に3万回を超える抗議電話が組織的にかけられ、ある弁護士宅には頼みもしない寿司上6人前など商品の注文、ハワイ往復旅行の予約、引っ越し業者の派遣などだけでなく、霊柩車まで来るほどでした。
 当時は私の自宅への抗議電話、尾行、脅迫状とカッターナイフの刃が入った封書、渋谷駅頭での左肩への殴打などがありました。こうした組織的な暴力行為が報道され、教団への批判が起きたからでしょう。それから30年。こんどは裁判に訴えることで私たちの言論を封じ込める手法に出たのです。その手段は功を奏し、私については、統一教会に訴えられた翌日からいまに至るまで、テレビ出演はいっさいありません。民主主義社会の基盤を破壊するスラップ訴訟は法を悪用した言論封殺であり断じて許されません。
 原判決は私の発言が名誉毀損に当たらないと判断しました。世間の合理的かつ常識的感覚に沿ったものだと私は考えています。控訴審でも同様の判断がなされるものと確信し、意見陳述を終わります。

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統一教会スラップ有田事件控訴審意見陳述

被控訴人 有田芳生代理人 弁護士 澤藤大河

本件訴えは、形の上でこそ名誉毀損訴訟ですが、その実態は、典型的なスラップ訴訟にほかなりません。その訴訟提起の目的は、統一教会に対する批判の言論を封じようという一点にあります。最も効果的なスラップとするために被告とされたのが、?く統一教会批判の第一人者とされてきたジャーナリストの有田芳生と、影響力が大きいテレビメディア・日本テレビとです。勝訴の可能性は皆無であるにもかかわらず、統一教会の狙いは半ば成功しています。本件提訴以来、被控訴人有田に対するテレビ出演の依頼は一切なくなり、マスコミ全般に統一教会批判報道の萎縮効果が発生しています。
 スラップの被害者は、応訴の負担を強いられる被告だけではありません。類似の言論、類似のメディアが、訴訟の煩わしさを避けようと、統一教会批判の言論に躊躇し萎縮を余儀なくされます。その意味でスラップの真の被害者は、表現の自由そのものであり、国民の知る権利なのです。
 統一教会は、本件放送における被控訴人有田の意見や解説の中から、前後の文脈を意識的に切り取ったわずか8秒の発言を名誉毀損であるとして本件訴訟を提起しました。原審判決は、この発言を前後の文脈との関係で捉え直し、そもそも統一教会の社会的評価を低下させるものではなく名誉毀損に当たる表現ではないと、統一教会の主張を一蹴しました。これは、本件をスラップ訴訟と認めたに等しい判断です。
原判決を不服とする統一教会の控訴理由は、原審判決に「印象論」とのレッテルを貼って攻撃するものです。この「印象論」以外は、本件に関連性のない、解散命令請求を不当とするイデオロギー主張に過ぎません。
 「印象論」は、原判決を貶めるための「印象操作」を意図したもので、「厳密な根拠にもとづく事実認定」や「緻密で正確な法的判断」の反対概念として用いられています。しかし、「印象論」という言葉の使い方も、原判決の判断の構造の見方も明らかに誤っています。
 原判決は最高裁判決に倣って、「印象」という言葉を「強くあるいは深く、心に刻みこまれて忘れられないこと」という本来の意味に用いています。英語ではimpressionであり、記憶に強く残ることを意味します。
 それに対して統一教会の「印象」は、「客観性を欠いた主観的な認識あるいは感覚」という意味合いでの用いられ方です。英語ではfeelingでしょうか。
ダイオキシン報道事件最高裁判決及びこれに従った原判決は、「テレビジョン放送において、人の客観的な社会的評価を低下させるものがあるか否かの判断においては、『一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として』『文字や発言からだけでなく、放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきである』」としています。放送内容を把握する判断において、一般視聴者の受け取る印象を考慮に入れるべきは当然で、「印象論」と非難される言われはありません。
また原判決は、最高裁判例が示した法的な判断枠組みに、厳密な認定事実を当て嵌めた堅実で論理性の高いものであって、非難の余地はありません。
 統一教会の本件控訴理由には、新たな事実主張は一切なく、新たに検討を要する法的な問題提起もありません。原審判決を容認できるのか否かを判断するだけですから、控訴審において、これ以上の弁論の応酬は全く不必要です。控訴人有田の必要な反論は、控訴答弁書で既に行いました。これ以上の再反論や再々反論の必要はまったく考えられません。
 スラップ訴訟である本件は、審理が?引いていることそれ自体が、スラップを仕掛けた統一教会の利益なのです。被控訴人両名と表現の自由とそして国民の知る権利は、本件の審理が?引けば、それだけ被害が継続し、損害が拡大することになります。本日の結審と、すみやかな判決によって、被控訴人両名をスラップ訴訟に対応を強制される負担から解放されるよう、強く要請いたします。



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