澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項」なんちゃって。そりゃ、ないよ。

(2024年10月30日)
 国連の「女性差別撤廃委員会(CEDAW)」が、日本政府に選択的夫婦別姓の導入を勧告したことが話題となっている。ナニ、初めてのことではない。既に、2003年、09年、16年と過去3度の勧告に政府は従わなかったから、これで4度目の勧告となる。政府は、国際的に恥ずべきことと恐縮しなければならないところだが、どうもそのような真摯な姿勢は見えない。人権後進国を以て任ずる政府は、馬耳東風と受け流す算段のようである。

 それでもタイミングは良かった。総選挙の争点の一つとして話題となったところだったのだから。選択的夫婦別姓の制度実現に反対しているのは、主要政党の中では、自民党くらい。例によって維新が自民党の肩を持ち、通称使用でよいではないかとうそぶいている。非主要政党の中では、参政党やら日本保守党やらが、「日本の伝統的な家族観」と結びつけた夫婦同姓強制派となっている。とても分かり易い。

 提唱されているのは、「選択的夫婦別姓」の制度である。別姓も同姓も強制されることはない。当事者が選択可能な制度に、なにゆえお節介に反対なのか、常識的には理解に苦しむ。参政党やら日本保守党やら、自民党の旧安倍派やらが反対する理由に挙げているのは、「日本の伝統的な家族観」に反し、「日本の伝統的な家族関係」を破壊し、「日本の伝統的な家族制度」を基礎として成り立っているこの社会の秩序を乱すからだということになる。人権の問題ではない、あるべき社会秩序の問題なのだから当事者の選択に任せることなどできようか、というのがお節介派の基本的立場。

 「日本の伝統的な家族観・家族制度・家族関係」とは、言うまでもなく「家父長制」のことである。男尊女卑・夫唱婦随・三従の教え・七去の法の「家父長制」。これが「日本の伝統的な家族制度」。こんなものを、どうしてきれいさっぱりと捨てられないのか。

 国連の「女性差別撤廃委員会」がそこまで見通してのことかは定かでないが、「日本の伝統的な家族制度」の基盤にまで切り込んだ。それが、皇室典範改正の勧告である。さすが国連である、立派なものだ。

 言うまでもなく、皇室典範には、皇位の継承者を「男系男子」に限定している。勧告が明示しているわけではないが、これが、諸悪の根源である。ここにこそ 「日本の伝統的な家族制度」の根源がある。これこそ、選択的夫婦別姓制度の導入を妨げている元兇ではないか。ならば、皇室典範を変えてしまえばよい。

 報道では、「委員会の権限の範囲外であるとする締約国の立場に留意する」としつつ、「男系の男子のみの皇位継承を認めることは、条約の目的や趣旨に反すると考える」と指摘。「皇位継承における男女平等を保障するため」、他国の事例を参照しながら改正するよう勧告した(朝日)、という。正論であろう。

 当然のことながら、身分差別の残滓である天皇制そのものが「日本の伝統的な負の遺産」ではある。しかし、選択的夫婦別姓を主とするジェンダーギャップ解消の勧告においては、皇位継承権や順位に、性差を除去すればよいと、控え目に考えたのであろう。

 これに対する政府の反応が滑稽なほどヒステリックである。「林芳正官房長官は30日の記者会見で、国連の女性差別撤廃委員会が女性皇族による皇位継承を認めていない皇室典範の改正を勧告したことについて、『大変遺憾であり、委員会側に強く抗議し、削除の申し入れを行った』と明らかにした。林氏は『皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項であり、女性に対する差別の撤廃を目的とする女子差別撤廃条約の趣旨に照らし、委員会が皇室典範について取り上げることは適当ではない』と指摘した。」(朝日)

 いつもは冷静な林さん、本気なの? それともポーズだけ? 「皇位継承のあり方は国家の基本に係る事項」なんて言ってはいけない。そりゃ、天皇に主権があったという大日本帝国憲法時代のはなしじゃないか。国民主権の今、皇室典範は国民の意思次第で変えられる。両院の過半数の議決で、女性天皇を認めればよいだけのこと。

 「国家の基本」よりは「人権の保障」が数段大切でしょ。国民の人権保障に有害であれば、国民過半数の意思で天皇制の廃絶だってできる。

 それにしても、こういうときによく分かる。天皇制・国体思想が、いまだに世にはびこり、人を惑わして人権侵害の温床となっていることが。

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