世論は集団的自衛権容認に与していない
今朝の毎日に、集団的自衛権に関する世論調査の結果が出ている。
見出しは、「毎日新聞世論調査:集団的自衛権 憲法解釈変更 反対56%」「行使54%反対」というもの。この見出しが言わんとしている世論調査の結果は、「集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈の変更に反対意見が56%(賛成意見は37%)」「集団的自衛権を行使することに反対意見が54%(賛成意見は39%)」ということ。
この全国調査は、15日に安倍首相が集団的自衛権の行使容認に向けた検討を指示したことを受けて、17、18の両日に実施されている。安倍晋三テレビ演説や北岡伸一などの解説を経た最新の世論状況を示すものとして重要なものである。毎日の解説が、「首相は今夏にも集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定したい考えだ。公明党は慎重姿勢を崩しておらず、行使容認と解釈変更への反対がいずれも過半数となったことは与党協議にも影響しそうだ」と言っている。そのとおりだ。あるいは、それ以上の影響があるかもしれない。安倍政権孤立の萌しさえ、みることができるのではないか。
また、注目すべきは「日本が集団的自衛権を行使した場合、他国の戦争に巻き込まれる恐れがあると思うかについては、『思う』と答えた人が71%となり、『思わない』と答えた人の25%を大きく上回った。巻き込まれる恐れがあると『思う』と答えた人のうち64%が行使に反対だったのに対し、恐れがあると『思わない』と答えた人のうち反対は29%にとどまった」という点。
このことに関連して、本日の神奈川新聞第3面に、元内閣法制局長官の阪田雅裕さんの「安全脅かす『他衛』権」という寄稿に注目したい。いずれ全文がネットで読めるようになるだろうが、さすがにたいへんな説得力。安倍の「怪説」などは吹き飛んでしまう。上記の毎日世論調査質問事項への回答を読むについて、次の指摘が重要だと思う。
「A国とB国との間で、戦争が始まったとしたら、それぞれ自国の方が正しいと主張するだろう。日本は第三国の立ち場のままだったら、戦争をやめなさいと言えるが、A国とともにB国に対し集団的自衛権で武力を行使すれば、わが国は戦争当事国になり、B国が日本の領土を攻撃することが認められることになる」「集団的自衛権の行使を容認すれば、むしろわが国、国民の安全を脅かす結果を招く可能性がある。」
ありていに言えば、「たとえば、中国とアメリカが諍いを起こしたとする。その場合、日本が中立を保って第三国の立ち場のままだったら、戦争をやめなさいと言える。しかしが、米国とともに中国に対し集団的自衛権を行使すれば、日本は戦争当事国になり、中国から日本の全土を攻撃されることを覚悟しなければならない」ということ。だから、「集団的自衛権の行使を容認すれば、むしろわが国、国民の安全を脅かす結果を招く可能性がある」のだ。
集団的自衛権の行使とは、「他国の戦争に巻き込まれる恐れ」ある行為ではなく、「他国の戦争に巻き込まれることを承知で、日本の全土が攻撃されるリスクを敢えて冒す」行為なのだ。「戦争への参加を買って出る行為」と言ってもよい。
毎日調査の前記質問事項に関し、「日本が集団的自衛権を行使した場合、他国の戦争に巻き込まれる恐れがあるとは『思わない』と答えた25%」は、まったくの認識不足というべきなのだ。この人たちの多くが、「集団的自衛権の行使があっても、まさか戦争に巻き込まれる恐れがあるとは思えないから、集団的自衛権の行使を容認してもよいのでは」と考えているようだが、根本から考え直してもらわねばならない。
もちろん、戦争のリスクを自覚し覚悟したうえで、集団的自衛権行使を容認せよという好戦的な見解はあり得よう。安倍晋三らはそう考えているに違いない。しかし、「日本が集団的自衛権を行使したとしても、他国の戦争に巻き込まれる恐れがあるとは思わない」という、迂闊な認識で安倍政権の世論誘導に乗せられてはならない。それこそ、戦前の轍を踏むことにほかならない。
なお、その神奈川新聞、他の地方紙と同様に、一面トップに、共同通信の世論調査結果を発表している。これも、17、18の両日に実施されたもの。大見出しは、「憲法解釈変更 反対51%」「集団的自衛権、賛成39%」というもの。この見出しは、神奈川新聞独自のもの。同じ世論調査を報じた、東京新聞の「集団的自衛権 反対48% 賛成上回る」「解釈改憲反対過半数」よりも歯切れがよい。
世論は政党や議員を動かす。自民党は、「戦争に巻き込まれるとの不安との疑問に一つ一つ丁寧に答える努力をする」(石破幹事長)というが、その努力が実ることはあり得ない。明らかなウソなのだから。国民の議論が深まり、理解が浸透すれば、集団的自衛権行使の危険は全国民に自明のものとなる。
さて、議員諸公よ、諸政党よ。安倍晋三の妄想に付き合っていて、次の選挙を闘うことができるのか、世論の動向を真剣に見極めたまえ。山が動くときは、目前かも知れないのだ。
(2014年5月19日)