澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

安倍政権の悪徳商法手口にご用心

本日の毎日川柳欄に「倍にして半額にするいい加減」(田介)という句。
高い値札を付けておいて「半額セール」とする悪徳商法の典型手口。実は、政権与党の常套手段でもある。

5月15日、鳴り物入りで安保法制懇の報告書が公表された。首相の私的諮問機関の報告とは、自作自演と言うことだ。その自作報告書が、「憲法9条の解釈において、集団的自衛権行使を容認することに不都合はない」と報告した。その部分を抜粋すれば、以下のとおり。

『政府のこれまでの見解である、「(自衛のための)措置は、必要最小限度の範囲にとどまるべき」という解釈に立ったとしても、その「必要最小限度」の中に個別的自衛権は含まれるが集団的自衛権は含まれないとしてきた政府の憲法解釈は、「必要最小限度」について抽象的な法理だけで形式的に線を引こうとした点で適当ではない。事実として、今日の日本の安全が個別的自衛権の行使だけで確保されるとは考え難い。したがって、「必要最小限度」の中に集団的自衛権の行使も含まれると解釈して、集団的自衛権の行使を認めるべきである。』

これが「高い値札」。国民にこの値札を見せておいて、安倍首相はこれを値切ってみせる。「半額商法」の手口。その口上は、以下のとおり。

「今回の報告書では、2つの、異なる考え方を示していただきました。
ひとつは、個別的か、集団的かを問わず、自衛のための武力の行使は、禁じられていない。また、国連の集団安全保障措置への参加といった、国際法上合法な活動には、憲法上の制約はないとするものです。
 しかしこれは、これまでの政府の憲法解釈とは、論理的に整合しない。私は、憲法がこうした活動のすべてを許しているとは考えません。
 したがって、この考え方―いわゆる、芦田修正論は、政府として採用できません。自衛隊が武力行使を目的として湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、これからも決してありません。」

以上が値切って見せた部分。そして、半値で売りつけようというのが、以下の商品。

「もう一つの考え方は、我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許されるとの考え方です。
 憲法前文、そして、憲法13条の趣旨を踏まえれば、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために、必要な自衛の措置を取ることは禁じられていない。そのための、必要最小限度の武力の行使は許容される。こうした従来の政府の基本的な立場を踏まえた考え方です。政府としては、この考え方について、今後さらに研究を進めていきたいと思います。…政府としての検討を進めるとともに、与党協議に入りたいと思います」

こうして、「安全保障法制整備に関する与党協議」が進行している。その第2回会合(5月27日)で、政府が対応の必要があると考える「3分野・15事例」が示された。その内容は以下のとおり。(朝日などから)
《グレーゾーン事態》【武力攻撃に至らない侵害への対処(3事例)】
事例1:離島等における不法行為への対処
事例2:公海上での民間船舶への不法行為への対応
事例3:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護

《集団安全保障》【国連PKOを含む国際協力等(4事例)】
事例4:侵略行為に対抗するための国際協力としての支援
事例5:駆けつけ警護
事例6:任務遂行のための武器使用
事例7:領域国の同意に基づく邦人救出

《集団的自衛権》【「武力の行使」に当たり得る活動(8事例)】
事例8:邦人輸送中の米輸送艦の防護
事例9:武力攻撃を受けている米艦の防護
事例10:強制的な停船検査
事例11:米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイル迎撃
事例12:弾道ミサイル発射警戒時の米艦防護
事例13:米本土が武力攻撃を受け、我が国近隣で作戦を行う時の米艦防護
事例14:国際的な機雷掃海活動への参加  
事例15:民間船舶の国際共同護衛

「倍にして半額にするいい加減」は、与党協議でも繰り返されている。
第3回協議(6月3日)に、「事例4:侵略行為に対抗するための国際協力としての支援」の具体的解釈内容を政府が提示した。

これまで他国の戦闘と一体化となる支援活動はできないとする解釈が確立しており、その歯止めとして、自衛隊は「戦闘地域」には行かないという原則があった。テロ特措法でも、イラク特措法でも、この原則あればこそかろうじて違憲ではないと解釈されてきたのだ。

ところが、政府提案は「戦闘地域」には行かないという歯止めをなくそうとした。持ち出されたのは以下の「4条件」。なんと、この4条件の全部がそろっている場合にだけ、自衛隊派兵は違憲となる。そのうちの一つでも欠けていれば、自衛隊を戦地に派兵して他国部隊の支援を認める、というもの。

(1)支援部隊が戦闘中
(2)提供物品を直接戦闘に使用
(3)支援場所が「戦闘現場」
(4)支援が戦闘と密接に関係

つまり、戦闘中のA国の部隊に対して、その戦闘現場に、戦闘と密接に関係する仕方で、A国が直接戦闘に使用する物品を提供するような支援は、さすがにいけない。しかし、このうち一つでも欠けていれば、ゴーサインというわけだ。支援先部隊が現に戦闘中でさえなければよし。支援物資が、直接戦闘に使用されるものでなければ結構。支援場所が「戦闘現場」でさえなければ何でもあり、というわけだ。

かりに、戦闘中のA国部隊の戦闘現場に、直接戦闘に使用する武器・弾薬を補給することも、「この支援は戦闘と密接に関係していない」と強弁すれば「支援OK」ということにもなる。

これは評判が悪かった。マスコミにも野党にも、一斉に叩かれた。さすがに公明党も拒絶せざるを得ないという姿勢を見せた。そしたらどうだ。たった3日で撤回されたのだ。6月6日の第4回協議での席のこと。「4条件」は撤回され、新たな「三つの基準」が提示された。
(1)戦闘が行われている現場では支援しない
(2)後に戦闘が行われている現場になったときは撤退する
(3)ただし、人道的な捜索救助活動は例外とする

これだけでは分かりにくいが、「戦闘現場」とは「現に戦闘が行われている場所」を指し、「戦闘地域」は「現に戦闘が行われてはいないが、将来行われるおそれがある場所」を広く指す。「非戦闘地域」と区別されてこれまでは支援活動が禁じられてきた。「非戦闘地域」とは「現に戦闘が行われていない」ことに加え、「将来にわたって戦闘が行われない」場所であるとされてきたから、現に戦闘が行われていなくても、将来にわたって戦闘がおこなれないとは言えない場所は「戦闘地域」として自衛隊を派遣しての支援活動は禁じられている。

だから、「戦闘現場」での支援行為はしないという意味は、従来禁じられてきた「戦闘地域」への自衛隊派遣は認めるということ。そして、人道的活動なら戦闘中の現場でも可能にするということも、これまでは禁じられてきた内容。

つまり、6月3日の「4条件」が「倍にした値札」。6日の「三つの基準」の再提示が「半額セール」。悪徳商法を駆使しているのが安倍政権で、面食らっている消費者が公明党。

新基準も、政権から見れば、従来解釈よりも数歩の前進となっている。ということは、支援活動中の自衛隊が戦闘に巻き込まれる危険が、従来よりも格段に大きくなるということ。
自衛隊の物資輸送や医療支援は、銃弾が飛び交う戦闘の現場でさえなければ、戦闘地域内でもOKとなる。政府側からの説明で、「基準に反しなければ、武器・弾薬の提供も可能」との見解が示されたという。戦闘中の現場での民間人や負傷兵の救出を想定した「人道的な捜索救助活動」は、自衛隊員が犠牲となる危険性が大きい。

「公明党がんばれ」と言いたくなる場面だが、すでにグレーゾーン分野の2事例((1)武装集団による離島占拠、(2)公海上での民間船舶への不法行為)において、与党合意が成立し、法改正をせず「事前の閣議決定で自衛隊出動の可否を首相に一任する運用見直し」で対処する方針が了承されたと報じられている。

公明党は、今は政権から強引に商品を売り付けられている消費者の立ち場だが、与党合意が成立すれば、今度は野党にこれを押し売りする立場に回ることになる。

当然のことながら、公明党も必死になって世論を見ている。自民に恩を売って政権与党の中に居続けることのメリットと世論批判に晒されるデメリット、その両者を比較している。公明党の態度を決めるのも、安倍政権のゴリ押しの成否を決めるのも、実は国民の声の内容次第、大きさ次第。この間の目まぐるしい動きに、よく目を凝らそう。安倍政権の悪徳商法的手口に欺されてはならない。何が危険なのかをよく見極め、臆せず意見を発信しよう。手遅れにならぬ内に。
(2014年6月7日)

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Published in 土曜日, 6月 7th, 2014, at 22:30, and filed under 未分類.

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