安倍「壊憲」内閣を打倒するために
昨7月5日に、日本民主法律家協会第53回定時総会が開催された。
同総会で退任の渡辺治理事長と、新たに就任する森英樹新理事長との両「トップオピニオンリーダー」が、並んで憲法情勢に見解を述べた。はからずも、7月1日閣議決定直後のこの時期にである。
渡辺治さんは、短いスピーチで、鮮やかに語った。以下は私が理解した限りでの要約。
「安倍政権は、かつてない全面的な軍事大国化と新自由主義改革の政権として特徴付けられる。まずは、解釈改憲によって海外での武力行使容認に踏み切った。それにとどまらず、明らかに明文改憲までを狙っている。改憲手続き法の整備によって、その舞台は整っている。さらに、政権がやろうとしている、消費増税、TPP、医療・介護の制度改革、労働法制の改変等々は、強い国を作るための強い経済を作ろうとするもの。そして、新自由主義の経済を支える人材の養成にふさわしい教育政策が企図されている。
しかし、安倍政権の強引な手法が、決して思惑のとおりに進行しているわけではない。一強多弱という国会情勢にあっても、大きなスケジュールの遅滞を来しているだけでなく、その内容においても譲歩を余儀なくされている。
その最も大きな要因は、9条の会に典型的に見られるような、従来の護憲派の枠を踏み出た社会的なレベルでの共同行動の進展である。また、特定秘密保護法反対運動のなかで盛り上がった反安倍の声は、広範なジャーナリズムにも、保守の一部にも浸透した。それが、いま、集団的自衛権問題でも声を大きく声を上げ続けている。
今後はこの社会的共同を、政治的な共闘に結集して行動に結実することが課題となる。その萌芽はすでに見え始めている。
その中で弁護士・研究者ら法律家の役割は大きい。どこの地域でも改憲阻止・生活を守る運動を支えている。日民協は他の法律家諸団体ともに、理論面でも実践面でも、全面的な憲法擁護の運動の先頭に立とう」
森英樹さんは、「改憲阻止の国民的共同を求めて」とする理事長就任の記念講演を行った。いつものことながら、聴衆に対するサービス満点。洒脱な語り口ながら、安倍「壊憲」路線に対する批判は容赦ない。その講演の全文は、次号の「法と民主主義」に掲載される。
注目したのは運動論の部分。今、安倍内閣の集団的自衛権行使容認を批判する多様な意見のグループがあるとして、その国民的共同の必要性を説いたところ。以下は、私の理解の限りでの紹介。もっとも、私の紹介では森さんらしさが生きてこないのだが。
森さんは、渡辺治さんの用語を借りたとして「重層的共同」が必要だと表現した。
重層の基底に、?憲法9条の原点である「軍事によらない平和」を主張する立ち場からの批判がある。このグループは、自衛隊の存在自体を違憲とし、日米安保も違憲とする。
別の層として、?自衛隊の存在を合憲とし個別的自衛権としての武力の行使を認め日米安保も容認するが、集団的自衛権行使容認には反対の見地からの批判がある。いわば専守防衛に徹すべしとして、これまでの政府見解を変えてはならないとする立場。
また、?憲法改定の手続を回避した解釈改憲には反対という意見のグループもある。この立場は、仮に集団的自衛権行使容認の改憲手続きが進行した場合、改憲案に賛成なのか反対なのか態度は分からない。
さらに、?今回の閣議決定手続が、拙速に過ぎ、国民的同意を欠如しているなどという批判や反対の意見もある。これも、「丁寧に閣議決定がされた」時は賛成するのか反対なのか分からない。
大切なのは、これらのさまざまな意見のグループ間の自由な意見交換を可能とする「熟議のフォーラム」を作りあげること。それぞれの意見について、十分な相互検証を行うことによって、初めて国民的共同の基盤をつくることができるだろう。そのとき、沖縄の『命どぅ宝』というスローガンを各グループに共通する基底の思想とした国民共同が成り立ちうる。」
なお、フロアーからの発言で、新井章さんが、印象に残る次の趣旨の発言をされた。
「我々は、9条の美しさだけを語って、民意を説得するに足りる平和構築の戦略を語ってこなかったのではないか。今回の、中国や朝鮮・韓国との軋轢を梃子にした安倍内閣のやり口を見ていると、その虚を突かれた感がある」
なるほど、言われてみればそのとおりなのかも知れない。「9条に基づく平和構築の戦略」を、「民意を説得するに足りる」レベルに練りあげることは、容易なことではなかろうと思う。
そのためには、まずは「熟議のフォーラム」で上記各グループの違った立ち場の人々との真摯な意見交換から出発するしかないのだろう。共同・共闘とは難しいものだが、安倍政権を打倒する国民運動の力量はそこからしか生まれてこない。
(2014年7月6日)