安倍改憲策動を阻止するために
本日は、神保町の東京堂で、現代書館発行「前夜」の販売促進キャンペーン。著者である私と梓澤和幸君と岩上安身さんのトークセッション。そして、お客様へのサインセール。
私にとっては慣れないことばかり。普段とは別の世界にあるごとくで、調子の出ないこと、この上ない。冒頭に20分の発言の機会を与えられたが、舌がうまく回らない。だいたい、こんな趣旨のことを喋ったはずなのだが‥。以下はうろ覚えの内容。
この本は、自民党改憲草案の全条文を読み解こうという企画として、12回(あるいは13回?)もトークを重ねたもの。その結果、自民党の本音としての全面的な改憲構想をお伝えできたのではないだろうか。2012年4月に当時は野党だった自民党がつくった草案の実現性は考えられなかった。露骨に本音をさらけだしたものだと思っていたが、同年12月の総選挙で安倍自民が政権を奪取するや、その後今日までの進展は、この改憲構想が現実のものになりつつあるとの感を否めない。悪夢が、正夢であったかという印象。
現在進行している「安倍改憲策動」(あるいは、「『壊憲』策動」)とはいったい何なのか、そしてこれをどう阻止できるかについて考えている。
安倍改憲策動の基本性格は、「戦後レジームからの脱却」「日本を取り戻す」というスローガンによく表れている。その主たる側面は、戦前のレジームである軍事大国化ということであり、復古的なナショナリズムの昂揚にある。しかし、それだけではない。グローバル企業に自由な市場を開放し、福祉において自助努力を強調し、格差拡大・貧困蔓延を厭わない新自由主義に適合する国家のかたちを目指すものとなっている。新旧ないまぜの「富国強兵」路線というべきではないか。
注目すべきは、安倍改憲策動の全面性である。9条改憲をメインとしつつも、それに限られていない。文字通り、「レジーム」の全構造と全分野を変えてしまいたいということなのだ。
教育分野における「教育再生」政策、メディアの規制としての特定秘密保護法の制定そして人事を通じてのNHKの改変問題。さらに、政教分離・靖国問題、福祉、介護、労働、地方自治、農漁業等々の諸分野で、安倍改憲策動が進行しつつある。
最も重要な分野における情報独占と取材報道の萎縮を狙った特定秘密保護法が強引に成立してしまった。教育の自由と独立は徹底して貶められようとしている。歴史修正主義が幅を利かせている。労働法制も税制も、限りなく企業にやさしいものとなりつつある。農漁業はTPPで壊滅的打撃を受けようとしている。福祉も介護も、経済原理に呑み込まれようとしている。
このような安倍改憲策動の手法は、解釈改憲の極みとしての集団的自衛権行使容認閣議決定に表れている。しかし、閣議決定だけで戦争はできない。これから自衛隊が海外で戦争することに根拠を与えるいくつもの個別立法が必要になってくる。そのときに、国会の論戦に呼応して、院外の世論が大きく立ち現れなければならない。
安倍改憲策動の目論見は、解釈と立法による事実上の改憲のみとは考えがたい。当然のこととして、あわよくば96条先行改憲を突破口とする明文改憲も、なのである。改憲手続法の整備はそのことをよくものがたっている。
安倍改憲の担い手となる改憲諸勢力の中心には、安倍自民党がいる。これは、かつての保守勢力ではない。保守本流と一線を画した自民党右派ないしは右翼の政党と言わねばならない。そして、「下駄の雪」とも、「下駄の鼻緒」とも自らに言い続けて来た与党公明党。そして維新やみんななどの改憲派野党。
これらの院内改憲勢力は見かけの議席は極めて大きい。しかし、院外の国民世論の分布とは大きく異なった「水増し・底上げ」の議席数である。これを支えている小選挙区制にメスを入れなければならない。
さらに、院外では右派ジャーナリズム、街頭右翼、ネット右翼などがひしめいている。
改憲に反対する勢力は、重層構造をなしている。旧来の「護憲勢力」といえば、議会内では共・社の少数。しかし、国民世論の中では議席数をはるかに上回る影響力を持っている。これに、旧来の「保守本流」を、非旧来型の護憲勢力に加えてよいだろう。それなくして国民の過半数はとれない。この人たちは、防衛問題では「専守防衛路線」を取ってきた。集団的自衛権行使の容認を認めない保守の良識派は、重要な護憲勢力のとして遇すべきである。
これに、立憲主義擁護重視派も仲間に加えなければならない。この立ち場は、けっして手続さえ全うすれば改憲内容は問わないという人々のものではない。安倍内閣の改憲手法批判にとどまらず、内容においても憲法原則からの安倍改憲批判をすることになる。
安倍改憲策動が全面的であることから、これに対する反撃も全面的にならざるを得ない。脱原発・反TPP・教育・秘密法廃止・NHK問題・反格差反貧困などの諸分野の運動を糾合して、改憲阻止の運動に結実させる意識的な努力が必要となっている。
いま、いくつもの世論調査が、安倍内閣の支持率急落を示している。各分野での運動の成果がようやく表れつつあるのではないか。私自身も、できるだけの工夫と努力をして、大きな運動のささやかな一端を担いたいと思っている。
(2014年7月10日)