澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

この頑迷な批判拒否体質(2)?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第6弾

驚くべき事態の展開になろうとしている。このスラップ訴訟の原告側は、徹底して私の口を封じようとしているのだ。その手段として、これ以上ブログでの批判を続けるなという警告がなされ、さらに2000万円の損害賠償では足りず、この金額が増額されようとしている。

7月16日午後7時ころ、この訴訟の原告代理人弁護士から、私宛にファクスが届いた。提訴後、原告の初めての主張となる同日付「原告準備書面1」の送信である。

ごく短いこの書面には、私のブログの新シリーズ「『DHCスラップ訴訟』を許さない」の第1弾(13日)から第3弾(15日)までの3本の記事を記載し、続いて次の主張がある。

文意上、分けて引用すれば次のとおり。
(ブログ記事についての原告の評価)「被告は,原告らに対する名誉毀損を再び繰り返すだけでなく,新たに本件訴訟が不当提訴である旨一般読者に訴えかけ,原告らの損害を拡大させている」
(被告への通告)「本件は既に訴訟係属しており,原告の請求に対する反論は訴訟内で行うべきであり,訴外において,かかる損害を拡大させるようなことをすべきでない旨本準備書面をもって予め被告に通知しおく」
(裁判所への注意喚起)「裁判所にも損害が拡大されている現状について主張しておく」

これは、異様だ。頑迷な批判拒絶体質の表れというほかはない。

これに先立つ7月11日に、裁判所に原被告双方の代理人が出席して進行協議が行われた。事実上の第1回期日となる8月20日口頭弁論の進行についての協議だった。その席で、原告代理人の弁護士が「いずれ請求の拡張をする予定」と明言している。

要するに、「2000万円の請求で裁判を起こしてみたが、どうも安すぎたようだ。もっと高額な請求にする」というわけである。

なぜ請求を拡張する必要があるのか。私の理解では、「2000万円の請求では被告がビビっていないようだ。それなら、ビビってもらうに十分な高額請求に切り替えよう」というもの。それ以外の理由は考えられない。唖然とするしかないが、本当にそんなことをすれば、言論封殺目的の訴訟という性格を自ら立証することになるだろう。裁判所も異常だと思うにちがいない。

その時点では、私の「『DHCスラップ訴訟』を許さないシリーズ」は、まだ始まっていない。それでも、原告は請求拡張の意思を明確に表明したのだ。

7月11日請求拡張発言に加えて、原告は7月16日準備書面で、私に対して、「かかる損害を拡大させるようなことをすべきでない旨本準備書面をもって予め被告に通知しおく」というのだ。これは、私が口を閉じペンを置くまで、際限なく請求金額をつり上げようという予告と解せざるを得ない。

もしかしたら、私の新シリーズの掲載をとらえて、原告はブログの記事一回の掲載ごとに金額いくら、というような算定方法で請求を拡張するつもりなのかも知れない。前代未聞のことだが、あり得ないではない。

かつて、石原慎太郎麾下の都教委が、「日の丸・君が代」強制への服従を潔しとしない教員に対して、懲戒処分量定における累積加重システムをもって対応した。卒業式や入学式での「君が代斉唱時不起立」が1回で戒告、2回目は減給1か月、3回目は減給6か月、4回目は停職1月、次は‥と処分量定を機械的に加重するもの。

都教委の思惑は、「日の丸・君が代」に敬意を表明できないとする教員の思想をあぶり出し、これに累積して過酷な懲戒を科することによって、思想の「弾圧」と「善導」とをはかることにあった。懲戒処分の度ごとに、機械的に処分の量定が重くなる。思想・良心を転向するか、信仰を捨てるまで処分は重くなり続け、ついには教職から追放されることになる。「累積加重システム」は、「転向強要システム」または、「改宗強要システム」にほかならない。

さすがに最高裁もこの累積加重システムの手法を違法として、過酷な処分を取り消した(2012年1月16日第一小法廷判決)。最高裁が違法とした手口の再来を見る思いである。

原告がどのような挙に出るか、是非ともご注目いただきたい。徒手空拳で権力や金権に立ち向かうには、多くの人に訴え、多くの人の目で監視してもらうしか手段はないのだから。

なお、原告がいう「本件は既に訴訟係属しており,原告の請求に対する反論は訴訟内で行うべき」という通告は、的外れも甚だしい。

「いったん訴訟が提起されたら、関連する主張を訴訟外でしてはならない」などという、一方的に原告に好都合な理屈は成り立ちようがない。原告の訴訟提起の効果として、被告の訴訟外での表現の自由を制約しうるとでも原告は本気で考えているのだろうか。

言うまでもなく、裁判は公開法廷で行われる(憲法82条1項)。当事者には公開の法廷で裁判を受ける権利があり、公開の法廷での裁判の進行に関して各当事者が社会に報告することになんの妨げもない。むしろ、当事者やメディアを含む傍聴人が、公開の法廷での見聞を積極的に社会に発信し意見を述べることは、表現の自由(憲法21条)として保障されるにとどまらず、裁判を公開することによってその公正を担保しようとする憲法の趣旨に適合することなのだ。

そもそも新シリーズにおける私のブログの記事は、「原告らに対する名誉毀損を再び繰り返」してはいない。

また、「新たに本件訴訟が不当提訴である旨一般読者に訴えかけ,原告らの損害を拡大させている」というのは、訴状で問題とされたこととはまったく別の主張である。ここで問題にされている、私の表現は、「2000万円の請求という本件損害賠償請求訴訟が提起された」という事実の摘示と、その事実に基づく「この訴訟提起が高額請求の提訴を手段として被告の言論を封殺しようという『スラップ訴訟』の類型に該当する」という意見である。

この「事実の指摘」と「意見の表明」についても、違法で新たな損害賠償請求の根拠とするという原告の主張は、まさしく提訴に対する批判を許さないとするもので、言論封殺の目的を自認するものに等しい。
(2014年7月18日)

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