澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「浜の一揆」の密謀

東北新幹線の車窓からの冬晴れの富士がこのうえない目の愉しみ。大宮を過ぎてしばらくは、冠雪のその姿がことのほか大きく美しかった。残念ながら盛岡は雪景色。岩手山は盛岡の町を覆う雪雲のなかに隠れて見えなかった。その雪雲の下の盛岡の某所で、三陸沿岸の各地から集まった「浜の一揆」の首謀者たちの密議が行われた。

かつての一揆の謀議はどのように行われたのだろうか。密告者の耳や目をおもんばかって、厳重な秘密会だったに違いない。どのように連絡を取りあい、どんな場所で会合をもったのだろうか。その苦労がしのばれる。今、我々の「浜の一揆」に格別の秘密はない。この作戦会議を地元のメディアに公開してもいっこうに差し支えない。この真剣で活発な討議の様子を行政にも、浜の有力者にも見せてやりたい。

サケは岩手沿岸漁業の基幹魚種である。そのサケを一般漁民は捕獲することができない。うっかりサケを捕獲すると「密漁」となり、県条例で「6月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金に処せられる。刑罰を科せられるだけでなく、漁業許可の取り消しから漁船・漁具の没収にまで及ぶ制裁が用意されている。だから、網にサケがかかれば、もったいなくも海に捨てなければならない。これほど厳重に、一般漁民はサケ漁から閉め出されているのだ。

サケを獲っているのはもっぱら「漁協」と「浜の有力者」である。漁法はケタ違いに大規模な定置網漁。漁協が必ずしも漁民の利益のための組織となっていない実態があり、浜の有力者が不当に利益をむさぼっているボス支配の現実がある。

震災・津波の被害のあと、三陸沿岸漁業の復興の過程で、この浜の現状は漁民にとって耐えがたいものとなり、「漁民にサケを獲らせよ」という浜の一揆の要求になり、運動になった。この「浜の一揆」は三陸復興における大事件である。地域経済上の問題でもあり、民主主義の問題でもある。地元メディアが、もっと関心を寄せてしかるべきではないか。

今、岩手県知事宛に、俺たちにもさけを獲らせろと、「固定式刺し網によるサケ漁の許可」を求めている小型船舶所有漁民が101人。近々、もう少しその人数は増えることになる。人数がそろったところでどうするか、今日はその作戦会議なのだ。

私が口火を切って、いろいろと意見が交わされる。
「どうも県の担当課には緊迫感が感じられない。相変わらず、漁民が陳情や請願を繰り返しているとでも思っているのではないか。行政不服審査法に基づく審査請求から行政訴訟提起への行動に踏み出したのだということをよく理解しているのだろうか」
「それは、分かっているようだ。担当課長は『裁判はなんとか避けたい』とは言っている。『それなら許可を出せばよいことだ』と返答すると、『それでは、漁連が納得しない。なんとか、漁連が納得するような方法を考えてくれ』と言う」
「県は、けっして我々の要求が間違っているとか、できないことだとは言わない。漁連と話し合ってくれというだけなのだ。でも、それは行政にあるまじき逃げの姿勢でしかない。県は態度を決めなければならない」
「仮に行政が不許可なら裁判で争おうというこれまでの方針でよいと思う」
「ただ、裁判をすること自体が目的ではない。サケを捕れて、生計が立つようにすることが目的なのだから、早期にその目的を実現する方法があれば、その方がよい」
「『最終手段としては裁判を』という基本はしっかりと確認しながら、行政との交渉で要求が通るものなら、それも考慮の余地はあるのではないか」
「裁判では、県知事の不許可決定が違法として取り消されるか否かの二者択一しかない。しかし、県との交渉であればいろんな案を検討して、どこかに落ち着けることも可能だ」
「これまで要求してきた、TAC(漁獲総量規制)とIQ(個別漁獲量割当)を具体化して政策要求とすることはどうだろうか」
「判決に代わる落としどころとして『岩手版IQ』を漁民自身が提案し、これを実現するとなれば、画期的なことではないか」
「漁業の将来を考え、水産資源保護をもっとも真剣に考えているのは行政でも漁連でもなく私たちだ。けっして乱獲にならないような自主規制によって、漁業の永続を考えてのIQ提案なのだ」
「たとえば、TACはとりあえず過去3年の漁獲量の平均として定める。固定式刺し網にはその漁獲高の20%を割り当てる。」
「固定式刺し網と限定せず、延縄でも刺し網でも、小型漁船漁民に20%で良いのではないか」
「そうすると大型定置の取り分は、これまでの100%から80%に減ることになるだろうか」
「実際には減らないのではないだろうか。固定式刺し網の漁期を秋に限定するのは一案ではないか。この時期、サケは水温の低い沖のやや深いところを回流していて定置にはかからない。この時期に沖合の小規模の固定式刺し網漁は、岸に近い大型の定置網漁と競合しないはずだ」
「相互扶助という観点から『IQ』よりは『ITQ』(譲渡性あるIQ)の方が魅力がある。漁師が病気になって漁に出られないときは一時的にその権利を譲って凌ぐようにできればありがたい」
「病気だけでなく『漁運』というものもある。たまたま不漁の時に、他の好漁の人に枠を融通できれば便利だ」
「譲ることができる相手は、同じ小型船舶の漁民ということに限定しておかないと、大きな資本に買荒らされることになりかねない。歯止めをしっかりしておこう」
「そのような案を具体化し、請求人団として、代理人の弁護士を先頭に県との交渉をしよう。その際には、きちんとマスコミにもレクチャーをしておこう」
「一人くらいは、本気で漁業の問題を取材する記者も現れるのではないか」
「そこまでやって県がだめだというのなら、裁判をすればよいことだ。その腹はもう固まっている」

意見はまだまだ続いた。充実した3時間の議論。田野畑村から押し出した、かの三閉伊一揆のあのときの謀議の雰囲気もこのようだったのではなかろうか。
(2014年12月19日)

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Published in 金曜日, 12月 19th, 2014, at 23:56, and filed under 未分類, 浜の一揆.

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