ボクの大誤算ー橋下徹内心のつぶやき
なんだか変だ。今までチヤホヤしてくれたマスコミが、手の平を返したよう。天まで持ち上げておいて放り出す。いったいどうなっているんだ。ボクと一緒にイジメを楽しんでいた輩が、今度ばかりは敵にまわって、ボクをイジメにかかっている。ボクにだって、人権があるんだぞ。
もっとも、ボクは他人の人権に関心はない。これまで他人のことは容赦なく攻撃してきた。労働組合の権利も組合員の思想良心の自由も無視し続けてきた。だって、小気味よく他人を攻撃して人気をとるのが、たったひとつのボクの取り柄。人気の源泉なんだもん。だから、他人への攻撃のためなら、マスコミだって法律だって裁判だって利用できるものはなんでも使ってきた。それで、これまではうまく行ってきたんだ。どうして、突然に風向きが変わっちゃったんだ。ひどいじゃないか。
しゃべるときは思いきりよく、自信たっぷりに、躊躇なく、そして断定的に。そのやり方で、これまでは喝采を博してきた。だから堂々と言ってやったんだ。「従軍慰安婦が必要だったことは誰にだって分かる」「沖縄の米軍は風俗業を活用しなさい」ってね。今どき「堅気の女を守るために風俗業が必要だ」。そんなホンネを言える奴、ボク以外にいるか。話題の発言を繰り返していないとボクの存在感なくなっちゃう。これは、話題にもなり、受けるはず…と思っていた。
ボクになんの思想も主義主張もあるわけはない。面白そうだから、政界に出てきただけさ。国民なんて通俗テレビ番組の視聴者のレベル。あれが相手なら、説得もできる票も取れる。楽なことだ。分かり易くて面白そうなことを、切れ味良い言葉で語りかければよいだけなのだから。
政治家としての立ち位置をどうするか。自分の信念からなどではなく、世の風を見て決めた。今の世、風は右風と見た。右からの風に乗るからには、スタンスは一番右に位置しておこう。そのうえで、小気味の良い、本音を語る政治家として売り出そう。これで成功してきた。
ところが最近賞味期限が切れたといわれて少々焦っていた。議会運営もうまく行かない。そこで起死回生の従軍慰安婦発言。なんと、これが受けるどころではない。非難囂々、反撃の嵐だ。だから、いつものやり方でかわそうとしたんだ。そう、責任転嫁の術。「マスコミの大誤報だ」「真意が伝わっていない」「日本人の読解力不足が原因だ」とかね。ところが、これもなんだかうまく行かない。火に油を注いだ結果になっちゃった。
では次の手だ。少し火の手が拡がりすぎたからには、ちょっぴり折れて、真意はこうだと釈明しておこうか。「表現が不適切だった」「その事実を指摘しただけで、ボク自身が容認してるわけじゃない」。これまでは、これくらい言えば大丈夫。甘いメディアも世論も追及緩めたんだけどね。「ボクは女性の人権は充分尊重しているけれど、戦時下は別でしょう」「河野談話は否定するつもりないけれど、核心的部分に信憑性がない」「慰安婦は日本軍だけじゃない。世界中どこの軍隊だってやっている」。どうです。そうでしょ。あら、ほんとに怒らせちゃった?
せっかく「慰安婦になってしまった方への心情を理解して優しく配慮すべきだ」とか「精神的に高ぶっている集団に休息をさせてあげる」なんて、使い慣れない表現したのに、かえって誤解を招いたのかしら。それじゃ仕方ない。一番強そうなところには謝っちゃおう。「アメリカには撤回してお詫びします」
えっ?それでもだめ?
どうも雰囲気違うみたい。ついこの間までは、ボクが何をやっても、言ってもヤンヤの拍手。マスコミなんてボクの腰巾着だったんだ。あんまり冷たいじゃないか。言い訳しても、開き直ってもだめなようだ。それじゃ、カワイコちゃんぶって、横目を使って、泣きべそかいてみようかな。結構これって効き目があったんだよ。
何だか応援団も静かになっちゃった。石原代表も黙っちゃった。去年の夏には「大変勇気ある発言だと高く評価している。戦いにおける同志だ」と焚きつけた安倍さん、盾になって代弁してやったのに引いちゃった。裏切っちゃってずるいよ。
でもいいさ、最後は投げ出せばいい。大阪市長も「維新の代表」も、たいした未練があるわけじゃなし。風俗業界の顧問弁護士やってりゃ食ってはいけるさ。
(2013年5月29日)