澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

イスラム国の邦人人質解放に政府は成算があるのか

「日本人人質事件」には胸が痛む。この事態を招いた責任の所在については言いたいことは山ほどあるが、今は人質の解放が最優先の課題であろう。

安倍首相は、1月20日事件発覚直後のイスラエルでの内外記者会見で「今後とも人命第一に私の陣頭指揮の下、政府全体として全力を尽くしていく考えだ。国際社会は断固としてテロに屈せずに対応していく必要がある。」と語った。今なお、これが政府の方針に変更はない。

安倍首相といえども「人命第一」と口にせざるを得ない。このスローガンを外せば安倍内閣は国民の支持を失うことになるからだ。国民のための政府であり、政府は在外邦人の救出に法的な義務を負う(外務省設置法第4条9号)以上当然といえば当然なのだが、問題はその本気度である。

誰が考えても、「人質の人命第一」と、「断固としてテロに屈せずに対応する」とは両立し得ない。矛盾している両原則をならべただけでは、無策・無内容というしかない。

たとえば、典型的には本日の東京新聞社説である。
一方で、「『イスラム国』とみられるグループが日本人二人の身代金を要求し、殺害を警告した。許し難い脅迫だが、人命尊重が第一だ。日本政府は、二人の救出に向けた糸口を、全力で探ってほしい」と言いつつ、他方「不当な要求に応じれば、日本は脅しに弱い国とみなされ、同様の事件が繰り返されかねない。それでは『イスラム国』側の思うつぼだ。」ともいう。

そして、結論が「手段も時間も限られた難しい交渉だが、二人の解放に向けて、政府はあらゆる可能性を追求すべきである。」ということになる。「2策を足して2で割る」ですらない。「漫然と二兎を追え」では、なんの方針を定めたことにもならず、具体策は出てこない。

「テロに屈せず」は表面的な建前としておいて、水面下で「人命救出」の実を取る交渉を展開することになるだろうというのが常識的なとらえ方だ。人質の救出に失敗すれば、世論は安倍政権の失態を強く批判することになるだろうから。

しかし、「あらゆる外交ルートを最大限活用し、二人の解放に手段を尽くす」という政権のことばの繰りかえしは次第に空疎な印象となっている。どうやら成算はなさそうな模様。もしかしたら、「テロに屈せず」の方がホンネで、「人命第一」は表面的なタテマエに過ぎないのではないか。人質の救出に失敗したところで、相手が悪いのだという弁明で世論の批判を躱せると思ってのことなのかも知れない。

局面を打開する現実的な具体策がないものか。具体的な方針の提言者はいないか。ネットを探してみた。こういうときに、情報提供サイトとしての、Blog「みずき」が頼りになる。はたして、ヒントが見つかった。「みずき」の下記ブログ。

「緊急! 日本人ムスリム・ジャーナリストの常岡浩介さんの声明―「日本人人質」救出のために」
http://mizukith.blog91.fc2.com/blog-category-32.html

そこに紹介されていた日本外国人特派員協会での中田考氏(元同志社大学客員教授)の記者会見(1月22日10時?)を見た。
https://www.youtube.com/watch?v=N60G4SEhTLs
非常に説得力のあるものだった。なお、下記で全文が読める。
http://blogos.com/article/104005/

最も印象に残るのは、ISを狂気の集団とは見ない姿勢である。
氏と交友のあるイスラム国の「友人」を「教養も高い、正直で、信頼できる人たち」という。そして、「これまでも人道援助、経済援助の名のもとに日本も国際社会も、多くの援助を行ってきたが、それが的確な人に届いていなかった。そういった因果が今回の事件の根源にある」「他の軍閥や民兵集団と違って、イスラム国が支持を広げた大きな理由は、彼らが援助金、援助物資を公正に人々に分配した。その実績があるからだ」という。

氏は、ISの「友人」にアラビア語で話しかける。
「日本の人々に対して、イスラム国が考えていることを説明し、こちらから新たな提案を行いたい。しかし、72時間というのは、それをするには短すぎます。もう少し待っていただきたい。もし交渉ができるようであれば、私自身、行く用意があります。」

氏の提案の内容はこういうことだ。
「赤新月社はイスラム国の支配下の地域でも人道活動を続けている。トルコ政府に仲介役にはいってもらって、日本政府の難民支援2億ドルを、赤新月社に厳格に難民支援、人道支援として使ってもらう。これなら、日本の名目も立つし、ISも納得するはずだ。これが最も合理的で、どちらの側にも受け入れられるギリギリの選択ではないか」

また、具体的な支援は食料や暖房器具など、民生以外に転用できないもののかたちですべきだと、よく練られた案であることが窺える。数少ない極めて貴重なパイプ役ではないか。

「みずき」には、「ハッサン中田先生を三顧の礼で官邸に迎えること。できることはすべてすること」という池田香代子さんのツィッターが紹介されている。

常岡・中田ライン以外に、今われわれが目にするパイプはない。政府が、同氏らに接触するか否か。本気度の試金石であろう。
(2015年1月22日)

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Published in 木曜日, 1月 22nd, 2015, at 22:20, and filed under イスラム, 安倍政権.

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