都教委の「新教育長」人事に注目ー期待したいところだが…さて。
「日の丸・君が代」強制拒否訴訟の弁護団会議には、弁護士だけでなく原告の皆さんも出席して活発に意見を述べている。弁護団は、原告から必要な情報を得ているというにとどまらない。長年教職にある者の意見に耳を傾けているのだ。とりわけ、弁護士だけでは理解不十分な、教育条理に関する原告の見解は貴重だ。通常の事件依頼者と受任弁護士という関係とはひと味違う、教育専門家と実務法律家の親密な共同作業が必要なのだ。それなくして、この教育訴訟をどのように進行させるべきか的確な方針を期待し得ない。また、会議のテーマは必ずしも、法的な問題に限られない。関連して多方面に及ぶことになる。
最近の弁護団会議で、以下のような意見交換があった。
「10・23通達から11年余が経過した。この間、日の丸・君が代強制という問題が、自由闊達であるべき教育現場をいかに荒廃させているか。この点を明らかにすることが、都教委の教育の自由に対する侵害や不当な支配としての違憲・違法性の法的主張に直結すると思う」
「10・23通達以前の都立校の教育がどのようなものであったか、卒業式や入学式はどのような理念でどのように準備され、どのように感動的であったか。それが、10・23通達でどんなに変わってしまったか。それを総括しなければならない」
「それだけでなく、日の丸・君が代強制問題は、それ自体が独立して完結した問題となっているのではない。公権力による教育統制の一端なのだから、公権力の側がこの問題を利用しつつ、権力的な教育統制をどのように進行させているかという全体像を明確にする必要がある」
「同感だが、当時の仇役は姿を消した。石原慎太郎は退いて舛添知事に代わった。横山・米長・鳥海・内舘らの当時の教育委員も全部入れ替わった。その結果、東京都の教育行政は少しはマシになっているということはないのか」
「とんでもない。最近はもっと酷くなっていると言ってよい。以前は形式的には鄭重だった原告団の要請に対して、最近はまったく耳を貸そうとしない。問題を指摘し、これを定例の教育委員会に報告し検討するよう要請しても、露骨に拒絶される」
「しかも、教育庁の事務方は、われわれが提供する情報や見解を遮断するだけでなく、教育委員には自分たちに都合のよい不正確な情報と見解だけを吹き込んでいる。教育委員は、事務方の言い分しか知らず、最高裁が何を言っているか、まったく認識がないものと考えざるをえない」
「とはいえ、最高裁判決で、戒告はともかく減給・停職の処分は違法として取り消された。要するに最高裁は、都教委のやり口はあまりに酷い、常軌を逸したやり過ぎ、と批判したわけだ。このことが都教委全体の反省材料とはなっていないのだろうか」
「都教委は反省のかけらもなく、別の攻撃方法を探している。減給・停職の処分ができないとなるや、服務事故再発防止研修に藉口して徹底したイヤガラセを始めた。とりわけ、校内研修の繰りかえしの威嚇効果が大きい」
「しかし、舛添現知事は、元知事の石原やその後継を看板にした猪瀬前知事とは明らかに異なった常識人にみえる。明確に石原猪瀬体制の批判もしている。知事の交替による教育行政への影響は、見えないのだろうか」
「知事には、オリンピックの成功が第一の関心事ではないか。そのための、都市間外交などは評価しうるが、教育問題で都議会保守派を刺激したくはないのだろう。ましてやオリンピック推進の立場は、日の丸・君が代強制問題にものを言いにくくしている」
「教育庁職員OBの皆さんが、現在の頑な東京都の教育行政を批判している。当時と今と、何が違っているのだろうか。現在の職員は、不本意ながら、上に従っているということではないか」
「最初は強引で無理無体な押しつけだったものが、時間の経過とともに常態化した側面は否めない。また、この強制加担が出世コースから外れないための試金石だという認識もあるのではないか。職員がかなり主体性をもって強制加担をしている節が見える」
「確かに、舛添知事になってからの都庁内の雰囲気は、石原・猪瀬時代とは明らかに違ってきている。ところが、教育庁だけが旧態依然なのだ。石原も、初当選から10・23通達を出すまでは4年余の時間を要している。その間の周到な教育委員人事を変えて反憲法的な石原教育行政を確立して、教育に介入した」
「舛添教育行政が正気を取りもどすためには、何よりも教育委員人事が大切だ。次の教育委員人事に注目しなければならない」
その注目の教育委員人事、しかも4月1日からの新制度における教育長人事が昨日(3月27日)の都議会本会議できまった。現在の比留間英人教育長の横滑りではなく、中井敬三(現・財務局長)という初めて耳にする名前。比留間英人は勇退だと報じられている。かつて10・23通達体制の構築に蛮勇を振るった横山洋吉教育長が、教育長退任の後には副知事となったような優遇は受けなかった。そして、教育庁内部からの新教育長人事ではなく、これまで手の汚れていない他局からの人選である。
報じられているところでは、中井敬三・財務局長(59)は、一橋大卒で1978年に都に入庁。病院経営本部長や港湾局長を経て、2012年から現職だという。なお、従来は知事が教育委員を任命後、教育委員会が教育委員長・教育長を選任した。しかし、新制度では、知事が直接教育長を任命することとなった。大きな批判の中での新制度である。
その中井敬三新教育長に注目せざるを得ない。どのような事情あって、この重要ポストに就くことになったのだろうか。共産党も含んでの都議会全会一致の承認である。過剰な期待は禁物だが、もしかしたら舛添中道カラーの布石かも知れない。もしかしたら荒廃した教育現場再生への第一歩となるのかも知れない。まあ、期待を裏切られたところで、これ以上悪くはなりようがなかろう。
(2015年3月28日)