「再発防止研修」が必要なのは教育委員の諸君だ
東京「君が代」裁判弁護団の澤藤です。本日、服務事故再発防止研修受講の業務命令を受け、不本意ながらもこれから研修を受けるためこのセンターに入構する教員を代理して、センターの総務課長と職員の皆様に抗議と要請を申しあげます。
まず、総務課長を通じて、都教委に対して厳重に抗議します。本日の研修は、まったく必要のないものです。いや、本日予定されている研修はけっしてあってはならないものと強く指摘せざるを得ません。あなた方は、違憲違法なことを強行しようとしているのです。
本来、この教員は今日これから、授業を担当しているはずなのです。その教員を教室から引き剥がし、子どもたちの教育を受ける権利を侵害しているのが、あなた方のしていることです。あなた方の違法な行為の被害者は、誰よりも子どもたちなのです。
さらに、言うまでもなく教員自身が被害者です。「日の丸・君が代」斉唱時に起立をしなかったというだけのことで、教員は減給10分の1を1か月という懲戒処分を受けました。それに加えての本日の研修です。本日は9時から12時半まで210分にわたって行われます。しかも、本日だけでは終わりません。もう一日同じ時間の研修が待っています。さらに、その後は校内研修も繰り返されます。あたかも、「懲戒処分だけでは不十分。もっと厳しい制裁が必要だ」「日の丸・君が代あるいは国旗国歌に敬意を表するよう思想を改造せよ」と言わんばかりの理不尽ではありませんか。
本日研修受講を命じられている教員は、教育の本質と教員としての職責を真摯に考え抜いた結果、自己の良心と信念に従った行動を選択したのです。このように良心と信念に基づく行動に対して、いったいどのように「反省」をせよと言うのでしょうか。信念にもとづく行為に対して「再発防止」を迫るということは、思想や良心を捨てよと強制することにほかなりません。日の丸・君が代への強制に服しない者への公権力による処分自体が思想・良心を侵害する公権力の発動として許されることではありませんが、これに加えて再発防止研修に名を借りた転向強要はあってはならない違法行為といわざるを得ません。
研修が必要なのは、日の丸・君が代の強制に屈しなかった教員ではありません。むしろ、あなた方、東京都教育委員の諸君と教育庁の幹部職員にこそ、研修が必要と言わざるを得ません。あなた方こそ、教育の本質を学ばなければならない。憲法や教育基本法についての研修を受けなければならない。戦前の教育のどこがどう間違い、どのように反省して今日の教育の法体系やシステムができているのか。憲法や教育基本法は、教育や教員についてどのように定めているのか。しっかりと十分な理解ができるまで研修を繰り返して、違憲・違法な教育行政の再発防止に努めていただきたい。
そうすれば、10・23通達自体の違憲・違法・不当性に思い至るはず。石原知事の意向を受け、知事のお友だちを集めた教育委員たちが、10・23通達を出したのは、2003年のことでした。あれから12年経って、知事は代わりました。当時の教育委員は全員居なくなりました。都議会の構成もあらたまっています。この体制を推し進めた教育長も交替して、10・23通達体制の泥にまみれていない外部からの新教育長の着任と聞いています。明らかに都庁の空気は変化しているはず。教育行政も変化して当然なのです。
現知事は、ことのほかオリンピックに熱心ですが、世界の人々が集まるここ東京が、思想や信仰を弾圧するということでよいのか。10・23通達体制は、不自然で無理があり、いつまでもは維持できるはずがないのです。どこかで、問題を解決しなければなりません。
一連の最高裁の判決からも、最高裁の裁判官たちが、東京都の教育が不正常で、なんとか改善しなければならないと嘆いていることを読み取れます。しかも、その改善は権力側のイニシャチブで行わねばならないことも記されています。
ようやく、10・23通達について抜本的な解決ができる萌しが見えているこの時期、再発防止研修の名で新たなトラブルを起こす愚は避けていただきたい。
そのような観点から、本日の研修を担当する研修センターの職員の皆様に要請を申しあげたい。
日の丸・君が代強制と、強制に屈しない個人への制裁として本日これから強行されようとしている服務事故再発防止研修とは、キリシタン弾圧や特高警察の思想弾圧と同じ質の問題を持つ行為です。おそらく皆様には、内心忸怩たる思いがあることでしょう。キリシタン弾圧や特高警察になぞらえられるようなことを進んでやりたいとは思っているはずはないとおもいます。だが、仕事だから仕方がない。上司の命令だから仕方がない。組織の中にいる以上は仕方がない。「仕方がない」ものと割り切り、あるいはあきらめているのだろうと思います。
しかし、お考えいただきたい。本日の研修受講命令を受けている教員は、「仕方がない」とは割り切らなかった。あきらめもしなかった。教員としての良心や、生徒に対する責任を真剣に考えたときに、安穏に職務命令に従うという選択ができなかった。
懲戒処分が待ち受け、人事評価にマイナス点がつき、昇給延伸も確実で、賞与も減額され、服務事故再発防止研修の嫌がらせが待ち受け、あるいは、任地の希望がかなえられないことも、定年後の再任用が拒絶されるだろうことも、すべてを承知しながら、それでも日の丸・君が代への敬意表明の強制に屈することをしなかった。彼は多大な不利益を覚悟して、自分の良心に忠実な行動を選択したのです。
本日の研修命令受講者は、形式的には、非行を犯して懲戒処分を受けた地方公務員とされています。しかし、実は自分の思想と教員としての良心を大切なものとして守り抜いた尊敬すべき人、立派な教員ではありませんか。そのことを肝に銘じていただきたい。
あなたがた研修センター職員の良心に期待したい。その尊敬すべき研修受講者に対して、心して研修受講者の人格を尊重し、敬意をもって接していただくよう要請いたします。
(2015年5月13日)