澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

戦争法反対運動継続のためにー正規戦とゲリラ戦の両様を

孫子の兵法に「兵は詭道なり」とある。安倍政権と与党とは、政治を「兵」とこころえて、「詭道」に奔った。しかし、民主主義の政治過程に詭道が持ち込まれてはならない。とりわけ、権力を有する政権与党が詭策を弄することなど、あってはならないことではないか。

政権が憲法を閣議決定で蹂躙し、与党の数の力で違憲立法を押し通すことは、究極の詭道にほかならない。10法の改正案を1本にまとめ、立法事実についての説明はあとになって引っ込めた。挙げ句の果てに、怒号と混乱の中、スクラムを組んで「採決」を強行するなどは、民主主義国の政権与党にあるまじき愚行。安倍政権と自公両党は、してやったりとほくそ笑んでいるのであろうが、この「だまし討ち」が、国民の怒りの火に油を注ぐ結果となったことを思い知らねばならない。

さて、これからどうするか。
迂遠なようでも、運動を継続することによって世論を喚起し続けて、自公の与党を少数派に追い込み、立憲主義・民主主義・平和主義を標榜する政治勢力を選挙で勝たせることが王道。当面は、来年(2016年)7月の参院選が目標となる。ここで、「オール沖縄」に倣っての「オール日本」で選挙に勝たねばならない。弾みを付けて、次の総選挙で安倍内閣を打倒することが目標だ。これが正規軍による正規戦。デモ・集会・ビラ・チラシ・インターネットなどによる言論戦、そして各政党を結集しての選挙戦、その王道をこそ堂々と推し進めなくてはならない。

しかし、総力戦においては、正規軍だけが兵力ではなく、ゲリラもパルチザンも便衣隊も、大いに活躍しなければならない。王道以外に何ができるだろうか。

まずは、あの「暴力的強行採決」の不存在ないしは無効を主張する運動。そして種々の局面での違憲訴訟の提起、さらに議員立法による戦争二法の廃止法案上程や、「賛成議員の落選運動」などが考えられる。

採決の不存在を主張し審議の続行を申し入れる緊急のメール署名は、醍醐聰さんが提唱し、昨日の当ブログでも拡散を呼びかけたもの。
   http://form1.fc2.com/form/?id=009b762e6f4b570b
本日午後9時時点で、既に1万5000筆を超えたと報告されている。
   http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-bd74.html
「あんな採決は認めない」という市民の怒りの意思表明として、大いに意味がある。

次いで、種々の局面での違憲訴訟の提訴である。
民事訴訟は、原告の具体的な権利侵害を回復しあるいは予防するためにある。具体的な権利侵害を離れての訴訟の提起は、訴えの利益を欠くものとして不適法とされ、却下判決をもって打ち切られる。

この点を「警察予備隊違憲訴訟・最高裁(大法廷)判決」は、「わが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。」とされている。

このハードルを越えて、いま誰もが提訴できる方法としては、市民一人ひとりがもっている平和的生存権が侵害されたという構成を採ることが考えられる。平和的生存権は、日本国憲法前文の「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」に根拠をもつ。憲法は、本来人権の体系である。第9条の戦争の放棄・戦力の不保持も、平和的生存権という基本権を保障するための制度と読むべきなのだ。9条をないがしろにする安倍内閣の行為によって平和的生存権が侵害されたとして、戦争法が違憲であることの確認や慰謝料請求が考えられる。

自衛隊員が戦争法によって海外への派兵を命じられる事態となれば、違憲な法律によって権利侵害が差し迫っていることになるのだから、派兵命令の差し止め請求が可能であろうし、派兵命令拒否による懲戒や刑事罰を争う訴訟がおこわれることにもなるだろう。

さらには、海外で活躍しているNGOの諸君が、法改正によって危険にさらされる事件が起これば、国家賠償訴訟を提起することができる。

すみやかに、成立した戦争2法を廃止する法案の国会上程をすべきことも提唱されている。現在、その法案成立の見込みはないが、国会での審議の過程で、国民にこの無法な戦争法成立過程をあらためて思い出させる効果を狙ったものだ。政権は、国民の忘却を期待している。私たちは、記憶を呼び起こし、忘れない努力を持続しなければならない。

そして、戦争法に賛成した議員の落選運動である。各地・各分野で、大いに盛り上げようではないか。誰かを当選させるための落選運動ではなく、徹底した純粋の落選運動をやろう。

私は、大阪の阪口徳雄君らとともに、弁護士として「賛成議員を落選させよう・弁護士の会」あるいは、「戦争法案賛成議員を落選させよう・弁護士の会」を立ち上げたいと思っている。「安保連法案賛成議員を落選させよう・弁護士の会」でもよい。「憲法違反議員はいらない・弁護士の会」「違憲議員を落とそう・弁護士の会」という案も出ている。略称を「落とそう会」とでもしようか。「落選させる会」「落選させよう会」でもよい。

所詮は非正規軍のゲリラ戦であって、正規軍にふさわしい運動ではないと思う。が、私は法が主権者に要請している運動スタイルだと確信している。

落選運動の中心は、議員の徹底した「身体検査」である。権力が行うプロファイリングではなく、市民が非権力的手段で行う情報収集と情報交換と情報分析である。そして、その結果をホームページやブログなどを通じて公開する。メディアにも取材してもらう、違法があれば遠慮せずに告発をする。

政治資金規正法上の政治資金収支報告書、公選法上の選挙運動収支報告書を中心に、自公の議員の政治資金・選挙資金の流れを徹底して洗い出す。これは、法が主権者である市民に期待する活動なのだ。

政治資金規正法・第一条(目的)は、「この法律は、議会制民主政治の下における政党その他の政治団体の機能の重要性及び公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体及び公職の候補者により行われる政治活動が国民の不断の監視と批判の下に行われるようにするため、政治団体の届出、政治団体に係る政治資金の収支の公開並びに政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正その他の措置を講ずることにより、政治活動の公明と公正を確保し、もつて民主政治の健全な発達に寄与することを目的とする。」と定めている。「国民の不断の監視と批判」こそが、求められているのだ。

具体的には、ターゲットの候補者(自民・公明・次世代・改革・元気)を定めて、多くの市民や団体・メディアに、落選運動への参加を呼びかける。主としてインターネットサイトを舞台に、公開資料分析のノウハウを提供し、各ターゲットごとに、各地の担当班をつくって、徹底したプロファイリングを行う。そして、遠慮なく公開質問状の送付や告発を行い、メディアに情報を提供する。メディアも、素人に負けてはならじとがんばるだろう。相当に効果を期待できるのではないか。

採決不存在の確認を求めるメール署名は15000筆を超えたという。25日午前10時の締め切りまで、まだまだ増えることだろう。

多くの人が何かをしたいと待ち構えている。受け皿をつくることが大切だ。戦争法案賛成議員の落選運動。飽くまで、王道とは別の非正規活動分野だが、多くの人々の感覚にフィットして、違憲の戦争法成立を暴力的に強行した安倍政権と与党の暴挙を記憶に留めるための優れた活動形態ではないだろうか。
(2015年9月22日・連続905回)

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