澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

夫婦同姓強制の制度が強いた息子のジャンケン

以下は、本ブログ(2013年5月26日)の再掲である。

「私が、盛岡で若さに任せて活動していたころ、たいへんお世話になった先輩弁護士が菅原一郎さん。菅原さんは、労働事件をやるために弁護士になったという人で、岩手弁護士会の中心に位置して、危なっかしい私を支えてくれた恩人。惜しいことに、昨年(2012年11月)鬼籍に入られた。

その一郎さんは、ご夫婦ともに弁護士。旧姓坂根一郎さんと菅原瞳さんとが結婚して、婚氏を菅原にしたのだ。しかも、一郎さんは母の手一つで育てられた長男。姓を変えることに抵抗がなかったはずはない。それでも、自分の姓を捨てて妻の姓をとられたことが語りぐさだった。愛着ある旧姓に固執せず、妻の姓を名乗られたことは、口先ばかりの男女同権を語る男性が多い中で異彩を放つものとして、たいへんな尊敬を受けていた。

後輩には伝説となっていた。真偽のほどは定かでないが、どちらの姓を名乗るかで、夫婦は世紀のじゃんけんを5回戦して瞳さんが勝ったのだ、などとまことしやかに伝承されていた。私はといえば、じゃんけんもせず籤も引かず、私の姓を名乗ってしまった。ずっと、そのことの負い目を感じ続けている。

民法750条が、夫婦は同一の姓を名乗らなければならないとしている。法文上は、「夫または妻の姓を称する」としているが、96%が夫の姓という現実がある。

これについて法制審議会は、1996年2月採択の婚姻法改正要綱の中で、選択的夫婦別姓を導入するとの提案を行った。これに対するパプコメは、圧倒的に賛成が多かったという。しかし、家族制度の崩壊につながるとして、保守派の抵抗は強く、いまだに法改正に手は付けられていない。

世に事実上の夫婦でありながら、別姓にこだわって法律婚を回避している人もいれば、法律婚によって姓を変えられたことにこだわりを持ち続けている人も少なくない。そのような人たち5人が民法750条を違憲だとする裁判を起こしている。「別姓訴訟」という。その判決が間もなく今月29日に東京地裁民事第3部で言い渡される。注目に値する。

立法不作為を違法として、国家賠償を請求する訴訟である。憲法論としては、13条違反(姓の保持の喪失が個人の尊厳を侵害する)、24条違反(両性の本質的平等に違反。婚姻は両性の合意のみで成立しなければならない)。そして、女性差別撤廃条約違反でもあって、国会で750条改正をしなければならない具体的な作為義務があるのに、これを違法に怠っている、という構成である。

現在の裁判所のあり方から見て、困難な訴訟であることは否めない。しかし、当事者の願いの「寛容な社会」の実現に寄与する判決を期待したい。夫婦同姓が愛情に不可欠だと思っている人は、そちらを選択すればよい。しかし、結婚によって夫か妻のどちらかが姓を変えなければならないことに抵抗ある人にまで同姓を強要することはない。それぞれのライフスタイルを尊重する、柔らかい社会が望ましいと思う。」

この訴訟、一審で敗訴し東京高裁控訴審でも控訴棄却となった。しかし、あきらめず上告して、一昨日(11月4日)、最高裁大法廷が夫婦別姓の憲法問題で弁論を開いた。上告審で大法廷の弁論が開かれたからには、新判断を下すことになるのは間違いない。おそらくは同姓強制の制度を違憲と判断することになるだろう。年内にも歴史的な判決に至るだろうと報道されている。期待して待ちたい。

ところで、先日、私の息子が突然つぶやいた。「実は、婚姻届を提出するとき、婚氏をどちらにするか、ジャンケンで決めたんだ。たまたまボクが勝ったから、澤藤姓を名乗ることとなった」と。私は絶句して、冷や汗をかいた。

後日、息子の配偶者に確認したところ、「私はどちらでもよかったんですけど、『公平にジャンケンで決めよう』って言われたんです。『お父さんやお母さんには、お話ししているの?』って聞いたら、『全然そんなこと気にしないから、大丈夫』と言われて、それでジャンケンしたんです」ということだった。

その場に居合わせた息子は、「普段から、人権だの平等だの言っているんだから、ボクがジャンケンに負けて姓を変えても、文句を言う筋合いはないだろう」「それに、間もなく改姓配偶者には旧姓に戻ることができる制度が整えられるという確信もある」と言った。

それはそのとおりだ。一言もない。が、そのことを最初に聞いたときの、私の冷や汗。あれはいったい何だったのだろう。ここは、冷や汗を隠して、息子を褒めるしかない。「息子よ、おまえは立派だ。少なくも、私よりずっとスジが通っている」と。

ちなみに、ふたりとも弁護士志望で、夫婦揃って今年の司法試験に合格した。きっと二人とも、人権問題に敏感な良い弁護士になることだろう。

さて、現行の夫婦同姓強制の制度。これが、私に妻への負い目をつくり、息子のジャンケンに冷や汗をかかせる元凶となっている。最高裁大法廷の明確な違憲判断を経て、すみやかな別姓制度への変更を願う。

妻は、制度が変って旧姓に戻ることができるようになれば、「あらゆる面倒をいとわず、旧姓に戻りたい」と言っている。「80歳の原告が闘って勝ち取った成果をチャッカリいただくのは心苦しいが、残り少ない人生、余福にあやかりたい」そうだ。私も、ついでに妻の旧姓にくっついていきたいような…。罪滅ぼしのために…。
(2015年11月6日・連続第950回)

Info & Utils

Published in 金曜日, 11月 6th, 2015, at 23:36, and filed under 人権.

Do it youself: Digg it!Save on del.icio.usMake a trackback.

Previous text: .

Next text: .

Comments are closed.

澤藤統一郎の憲法日記 © 2015. Theme Squared created by Rodrigo Ghedin.