沖縄県知事公開質問状に対する国交相の回答を代筆する
昨日(11月7日)の琉球新報が、辺野古埋め立て問題に関する、沖縄県対政権対立構造の最新状況を要領よく報道している。見出しは、「知事、是正勧告を拒否 『取り消しは適法』 国交相に公開質問状」というもの。「是正勧告拒否」と「公開質問状」の2点がメイン。それに、予想される「代執行訴訟」や「沖縄防衛局と一部業者の癒着」、「警視庁機動隊投入問題」などにも言及されている。
是正勧告とは、国から知事に対する、「辺野古海面の埋立承認の取消を、違法だから取り消せ」というもの。「取り消しを取り消せ」という面倒に至った経過の概要を説明すれば、以下のとおり。
☆国の機関である沖縄防衛局が辺野古新基地建設のために辺野古沿岸海域の埋立を企画して、公有水面埋立法に基づいて沖縄県に法が必要としている承認を求めた
☆この承認申請に、県民世論は圧倒的に反対だったが、2013年12月任期切れ直前に仲井眞弘多前知事が世論を裏切って突如承認した
☆辺野古新基地建設反対の県民世論に押されて、仲井眞を破って新知事に当選した翁長現知事は、前知事の承認には瑕疵があったとして、承認を取り消した
☆地方自治法の規定では、県の行為に違法がある場合、国はこれを是正する権限があり、是正勧告⇒是正指示⇒代執行 と踏むべき手続が定められている。
☆国は、沖縄県知事に対して、「承認取り消しを取り消すよう勧告した」
新報の記事は、翁長知事が敢然とこの勧告を拒否したこと、併せて公開質問状を発したことを報じている。再度経過を要約すれば以下のとおり。
沖縄防衛局埋立申請→仲井眞・承認→着手→翁長・承認取り消し→国交相・取消を取消すよう勧告→知事拒否・併せて公開質問状
(新報の是正勧告拒否関連記事)
「米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画をめぐり、石井啓一国土交通相が翁長雄志知事の埋め立て承認取り消しを取り消すよう求めた是正勧告について、県は6日、拒否する文書を石井国交相宛てに送付した。翁長知事は同日開いた会見で「取り消しは適法と考えていて勧告に従うことはできない」と述べた。翁長知事が勧告の次の段階で出される是正指示にも従わない方針を示したことから、石井国交相が今月中にも翁長知事の承認取り消し処分を国が代わりに取り消す代執行を求めて高裁に提訴する公算が大きくなった。」
(新報の公開質問状記事)
「県は同日、石井国交相が、審査請求と執行停止を申し立てた沖縄防衛局を「私人」と認める一方で、代執行手続きでは防衛局を「行政機関」と位置付けていることの整合性など5項目を問う公開質問状も国交相宛てに送付した。13日までに回答するよう求めている。県が大臣に公開質問状を送るのは異例。」
(新報の代執行訴訟関連記事)
「県弁護団は同日の翁長知事の会見の席で、来月にも開かれる代執行訴訟の口頭弁論に翁長知事が出廷し、意見陳述することを検討していると明らかにした。」
(新報の政府への不信表明関連記事)
「公開質問状を送付したことについて、翁長知事は『沖縄防衛局長のみならず国交相までもが自らの都合に応じて立場を使い分けている。さらに警視庁の機動隊員を大量投入するなど、なりふり構わず移設を強行しようとしている。政府は通り一遍の言葉ではなく、国民、県民に対し明確に説明責任を果たすべきだ』と述べた。
沖縄防衛局が設置した環境監視等委員会の一部委員が辺野古移設工事の受注業者から寄付などを受けていた問題に関し、翁長知事は『県の質問に対する防衛局の回答は既存の議事要旨などを基に指導助言機能は適切に果たされていると主張するのみだ。国民、県民の疑念は払拭されるどころかますます深まっていく』と指摘し、十分な内容の報告をするよう再度求めていく姿勢を示した。」
なお、沖縄県のホームページが、この記者会見の「知事読み上げ文」を掲載している。
「本日は、国土交通大臣が行った辺野古新基地建設に係る公有水面埋立承認取消処分を取り消せとの勧告等について、私から報告申し上げます。
1点目に是正の勧告の拒否についてですが、本日、去る10月28日付けで国土交通大臣が地方自治法第245条の8第1項の規定により行った、「辺野古新基地建設に係る公有水面埋立承認取消処分を取り消せ」との勧告について、勧告には従わない旨の文書を同大臣あて発送いたしました。
県は、本年7月の第三者委員会の検討結果を受けてこれを精査した結果、承認には取り消し得べき瑕疵があるものと認め、取消しを行ったものです。したがいまして、本件取消しは適法と考えており、勧告に従うことはできません。
2点目に公開質問状についてですが、承認取消しに対する審査請求、審査請求手続における執行停止決定及び代執行手続への移行といった一連の政府の対応において、沖縄防衛局長のみならず、国土交通大臣までが、自らの都合に応じて立場を使い分け、さらに警視庁の機動隊員を大量投入するなど、まさしくなりふり構わず移設を強行しようとしております。
政府は、これらの対応について、通り一遍の言葉ではなく、国民、県民に対して明確に説明責任を果たすべきであると考えます。
そこで県では、本日、国土交通大臣に対して、この点についての公開質問を行うこととし、公開質問状を送付いたしましたので、報告します。
3点目に環境監視等委員会の寄付等についてですが、昨日、本県から沖縄防衛局長に照会した環境監視等委員会への寄付及び報酬に対する回答がありました。既存の議事要旨等を基に委員会の指導助言機能は適切に果たされていると主張するのみで、委員就任後に寄付金が大幅に増額された委員がいるにもかかわらず、議事録の公表もありません。
国民、県民の疑念は払拭されるどころか、ますます深まっていくのではないでしょうか。
改めて、十分な内容の調査結果の報告や、議事録の公開等を強く求めてまいります。
今後も、辺野古に新基地は造らせないという公約の実現に向け、全力で取り組む考えであります。」
さて、11月13日までにと回答期限を切った、沖縄県知事から国交相宛の公開質問状である。その全文はやはり県のホームページに掲載されている。この公開質問状は関心をもつ者に必読と思われるので、全文を掲載しておきたい。((審査請求に関し)(関与の制度に関し)の小見出しは、澤藤が補った)
公開質問状の送付について
平成27年10月27日、国土交通大臣は、沖縄防衛局長の審査請求手続における執行停止の申立てを受けて、審査庁として沖縄県知事が行った埋立承認取消処分の執行停止を決定しております。
その一方で、同日、政府は本件取消処分について是正を図るため、地方自治法に基づく代執行等の手続に着手することを閣議了解し、これを受けて、翌28日には、国土交通大臣が沖縄県知事に対し、勧告を行っております。
これらの承認取消しに対する審査請求、審査請求手続における執行停止決定及び代執行手続への移行との判断といった一連の政府の判断は、都合に応じて自らの立場を使い分けるものであり、強く非難されるべきものであります。
本県では、政府がこのような対応を取っていることについて、国民や県民に対して明確に説明責任を果たすべきであると考え、別紙のとおり公開質問を行うものです。
つきましては、平成27年11月13目(金)までにご回答いただくようよろしくお願い致します。
(審査請求に関し)
質問1 辺野古沿岸部の埋立事業は、日本政府が日米両政府の合意の履行として、閣議決定に基づき実施されている「国家の事業」であることは、明らかだと考えますが、いかがでしょうか。
質問2 上記埋立事業が「国家の事業」であるとしますと、沖縄防衛局の埋立申請は、必然的に「国」(固有の資格)としての埋立申請と解されるのが自然であるかと考えますが、何ゆえに、同申請が「私人」としての申請と解されることになるのでしょうか。
質問3 公有水面埋立法が、埋立申請につき、「私人」の申請と「国」の申請を区別していないということであれば、同法で、「国以外の者」の申請と「国」の申請を区別して定めている理由をどのように考えればよいのでしょうか、貴職の見解を明らかにしていただきたい。
質問4 平成11年の地方分権一括法により、地方自治法の中に国が地方自治体の判断に介入する「関与の制度」(第11章 国と地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係)が新設されています。国と地方公共団体との紛争は、同手続きを利用して解決されるべきであるというのが同制度の趣旨と思われますが、貴職は、何ゆえに同制度の利用にとどめず、敢えて行政不服審査法に基づく審査請求制度を利用して、行政内部で「執行停止」の決定をしたのか、その意図を明らかにしていただきたい。
(「関与の制度」に関し)
質問5 地方自治法245条の8第1項は、国による代執行等の手続について、「本項から第8項までに規定する措置以外の方法によってその是正を図ることが困難」な場合に限って勧告、指示を行うことができ、同指示に知事が従わないときに高等裁判所に訴えを提起できると規定されています。
今回、国土交通大臣は勧告書において「貴職が行った取消処分について、法その他の法令には他の機関がこれを取り消す規程はなく」と述べ、代執行等の手続によらなければ「その是正を図ることが困難」であるとしています。
その一方、勧告に先立ち、国土交通大臣は沖縄防衛局の行った審査請求を適法な申請と認めて執行停止決定を行っています。この決定は、国土苦痛大臣が自らには本件審査請求における裁決によって沖縄県知事の行った埋立承認取消処分を取り消す権限を有すると判断したことを意味するものと考えます。
すなわち、国土交通大臣は、当該埋立承認取消しに関して、一方では審査請求での解決が可能と考えており、他方では、代執行等の手続によらなければその解決をはかることが困難として、勧告を行っていることになります。
何ゆえに、このような矛盾した判断がなされているのか、分かりやすいご説明をいただきたい。
これは、相当なものだ。おそるおそるの「お伺い書」でも、「上申書」でもない。まったく対等な立場であることを前提として、地方自治体からの国(実は政権)への果たし状のようなものではないか。堂々と、「あなたの方が間違っている」と言ってのけ、「そのことを県民や国民に分かっていただくための公開質問」だというのである。前代未聞の痛快事ではないか。
国交大臣に代わって、この公開質問状の各質問事項に回答を起案してみよう。思っていることを飾らずホンネでだ。
(はじめに)
まず、このような公開質問状をいただいたことを大変遺憾に存じます。ことは、法的なことがらなのですから、当職と貴職との間で、粛々と意見の交換を行うべきが筋であって、敢えて公開での意見を求める必要は毫もないと言わざるを得ません。
貴職の立場は、冷静に法を踏まえた意見を交換しようとの真摯さに欠け、本件を政治的闘争の具とされているものと評されても反論の余地がないものと考えます。普天間基地の周辺にあって同基地の移転を強く求めている住民の願いや、条件の整備次第では辺野古への基地移転を承諾することを表明している久辺3区の人々の立場にも、配慮をされた姿勢を保持されますよう、一言申しあげておきます。
また、法は明らかに、国に地方自治体に優越する地位と権限を付与しています。これは、各地方の住民の利益のために法の下の平等を貫き、統一した法の支配を貫徹するための必然的な要求と考えられるところです。
そのような立場にある国が、国民の安全保障という最高の憲法的価値の実現と沖縄県民の負担軽減の両者を実現する方策として、腐心の結果の辺野古移転であることに、十分の理解をしていただくようお願いいたします。
これまでも繰り返し申しあげてきましたとおり、これが唯一の現実的手段なのですから、貴県において受容できないとしても、辺野古移転は強行せざるを得ません。この内閣の方針は、実は内閣の母体となっている国会の意思でもあり、砂川大法廷判決で示された統治行為論から、消極的にもせよ司法も容認することが明白と考えられるところです。このことは貴職もよくご存じのとおりではありませんか。政治的パフォーマンスが無駄であることは明白なのですから、ぜひとも自治体のあるべき立場として、国の政策にご協力いただくよう、敢えて苦言を呈する次第です。
(審査請求に関する、質問1?4への回答)
質問1及び2に対して
辺野古沿岸部の海面埋立事業は、閣議決定に基づき実施されている「国家の事業」であることは言うまでもなく、ご指摘のとおりです。しかし、承認権を有している県知事との関係においては、その決定の可否によって権利の行使の可否が左右されるという意味で、私人の立場と変わらないものと考え、審査請求が可能と考えております。ひとつの行為が、法的に多面的な性格をもつことは珍しいことではなく、海面埋立事業が、「国家の事業としての性格」と「知事の承認に服する私人と変わらない性格」の両面をもつものと考えて、不都合はないと思料するものです。
質問3に対して
公有水面埋立法が、埋立申請について「国以外の者」の申請と「国」の申請を区別して定めていることはご指摘のとおりですが、本件のようにひとつの事業が両様の性格を持つと評価される場合には、選択的に「国以外の者」の申請手続と「国」の申請手続のどちらをも選択することが可能と考えてなんの差し支えもありません。
また、仮に最終的に裁判所が法上競合と解釈して、「国以外の者」の申請は不可と判断するとなればそれはそのときのこと。それまでは、当職としては、両者の任意の選択が可能だと考える次第です。
質問4に対して
法の解釈に幅があれば、可能な限り自己に好都合の解釈を選択することは許容されてしかるべきです。とりわけ、国は主権者国民の全体を代表する立場にありますから、国すなわち国民全体の利益のための法解釈の選択は積極的に肯定されるべきだと考えます。ですから、本件について、私人と同等の立場で行政不服審査法に基づく審査請求制度を利用すると同時に、地方自治体の判断に介入する「関与の制度」を活用することの両者を選択して不都合はないと判断しました。けっして明らかに明文規定に反するわけではないうえに、安全保障に関わる重要事として紛争の早期解決に至ることが許容されると考えたからです。それ以外の「意図」はありません。
(「関与の制度」に関する問に対する回答)
質問5に対して
上述のとおり、本件埋立事業に2面の性格がある以上、両様の対応が可能で、「矛盾した判断」との指摘は当たりません。
また、仮に最終的な司法の法解釈が「矛盾」との判断に至れば、それに従うだけのこと。実務的な法的主張が、予備的な主張であったり、選択的な主張であったりすることになんの奇異もありません。
むしろ、「何ゆえに、このような矛盾した判断がなされているのか、分かりやすいご説明をいただきたい」という貴職の居丈高な態度について、何ゆえにそこまで言わねばならないのか分かりやすいご説明をいただきたく存じます。
おそらくは、この程度の屁理屈しか言えないだろう。ならば、公開質問への回答は、逃げるに如かずということにならざるをえまい。
(2015年11月8日・連続第952回)