澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「日の丸・君が代」強制の異常 もう見直すべき時期だ

本日の要請行動は、これからの卒業式・入学式のシーズンを前にして、「日の丸・君が代」強制の職務命令を発令しないように要請するものです。具体的な要請内容とその理由については、要請書に記載されたとおりであり、いま「被処分者の会」や「五者卒業式・入学式対策本部」の責任者から補充して説明があったとおりです。

私は、要請者の代理人弁護士としての立場で、教育情報課長を通じて東京都教育委員会に対して、各要請事項に通底している問題点として特に3点を申しあげたい。

第1点は、都教委が数多く抱えている裁判について、その判決の重みを十分にご認識いただきたいということ。既に、65件55人の処分取消の判決が確定しています。都教委は、10・23通達関連訴訟でこれだけの敗訴判決を受けているのです。負け続け判決のその深刻さについて認識が足りないと言わざるを得ません。三権分立を建前とする我が国の法制度において、行政が、司法から「その処分は違法だ」「行政の行為が人権を侵害している」と1件なりとも指摘されることの重大性を自覚してもなわねばなりません。それが、65件も重なっているとなれば、事態を重く受け止めて、どこに原因があったか、誰の責任か、さらにどうしたら同じ過ちを繰り返さないようにすることができるか、真剣に考えなければなりません。もちろん、違法な行為によって被害を受けた教員には、心からの謝罪と、誠実な被害回復措置が必要です。傲慢な態度をとり続けることは、決して許されないと知るべきです。

都教委から見ての勝訴判決についても、その内容をよく吟味していただきたい。裁判所は行政に甘い。行政裁量の範囲をとてつもなく広く認めています。だから、ぎりぎりセーフで、「違憲・違法とまではいえない」という判決をもらって喜んでいてはいけません。勝訴判決だからよしとするのではなく、教育を担当する行政機関として、これでよかったのか十分に判決の意とするところを汲んでいただきたい。最高裁判決は、「日の丸・君が代の強制は、間接的には思想良心の侵害に当たる」と言っています。間接的にもせよ、思想良心の侵害となるような強制を続けておいてよいのでしょうか。また、違憲・違法とはいえないけれど、当不当は別問題とまで、わざわざ書き込んでいる最高裁判決もあります。これらのメッセージをしっかりと受け止めて、教育をつかさどる行政が、この違憲違法すれすれのレベルでよいのか、ぜひ反省していただきたい。

第2点は、都教委という行政機関が、法が想定した組織のあり方から大きく逸脱していることを指摘しなければなりません。東京都における教育行政の主体は、飽くまで行政委員会としての教育委員会です。行政機関としての意思形成における判断主体は6名の教育委員による合議体のはず。そして、東京都の教育庁は、教育委員会の事務局として、教育委員会と各教育委員をサポートするための組織でしかないのです。教育というものの重要性に鑑みて、教育行政の主体を行政からは独立した合議制の教育委員会としたことの意味をもう一度、認識していただかなければなりません。

私たちは、これまで何度も本日のような場を持ち、申入れ・陳情・要請を繰り返してきました。しかし、私たちの要請書が教育委員の手に渡ることはないという。教育委員は、事務方の情報コントロールの結果、判断能力の無いお飾りになりさがっています。これは、下克上による逆転現象というべきか、あるいは事務方の委員会権限乗っ取りと言わざるを得ません。

おそらくいま都教委が抱えている最大の問題が、この「日の丸・君が代」強制問題です。その問題に関して、私たちが提出した教育委員会宛の要請が教育委員に届かないとはどういうことか。「要望を吟味し検討したが、ご期待には添いかねる結果となった」というのならまだしも。要望が事務方の段階で握りつぶされ、教育委員には届かないということにはとうてい我慢がならない。請願は憲法上の権利でもある。ぜひとも、われわれの要請を教育委員に正確にお伝えいただき、会議の議題としていただきたい。

おそらく、お飾りとされていることは、各教育委員にとっても本意ではないはず。みなさん、給料にふさわしい実質を伴った仕事をしたいと望んでいるのではないでしょうか。

第3点。10・23通達、そしてそれに基づく「起立・斉唱」を命じる職務命令、そして懲戒処分。こういう繰りかえしはそろそろ終わりにしていただきたい。
2003年の10・23通達は、異常な環境において生じたものです。何よりも、トンデモナイ知事が君臨していた時代のこと。憲法に敵意を剥き出しにした恐るべき石原慎太郎知事、その知事のお友だちとして提灯持ちを務めた米長邦雄、鳥海厳などの右翼教育委員、そして突出した数名の都議会内右派議員。この人たちがつくり出した異常な産物と言わざるを得ません。

もう、知事は代わり、教育委員も全員が入れ替わっています。10・23通達は見直されて当然でありませんか。卒業式・入学式のたびに、「日の丸・君が代」を処分の恫喝で強制することは、なんの益するところもありません。このことも、分かってきたではありませんか。さらに、判決は負けつづけ。明らかに、事情が変わってきています。ぜひとも、「日の丸・君が代」強制という方針を見直していただく時期に来ていると思います。

ぜひとも、教育委員の皆さんでご検討いただくようお願いいたします。

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         要  請  書 
                 2016年1月26日
    「日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会
    東京「君が代」裁判原告団
    共同代表    A    B
東京都教育委員会教育長 中井 敬三 殿

<要請の趣旨>
1.卒業式・入学式等で「日の丸・君が代」を強制する東京都教育委員会の10・23通達(2003年)とそれに基づく校長の職務命令により、2015年4月までに懲戒処分を受けた教職員は延べ474名にのぼります。この通達発出以降、東京の学校現場では命令と服従が横行し、自由で創造的な教育が失われています。

2.一連の最高裁判決(2011年5月?7月)は、起立斉唱行為が、「思想及び良心の自由」の「間接的制約」であることを認め、処分取消訴訟の最高裁判決(2012年1月、2013年9月)では、「間接的制約」に加え、「戒告を超えてより重い減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要」「処分の選択が重きに失するものとして、社会観念上著しく妥当を欠き、…懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法」として減給処分・停職処分を取り消しました。最高裁が、都教委による累積加重処分に歯止めをかけたのです。
これらの最高裁判決には、都教委通達・職務命令を違憲として、戒告を含むすべての処分を取り消すべきとの反対意見(2012年1月宮川裁判官)を始め、都教委に対し「謙抑的な対応」を求めるなどの補足意見(2012年1月櫻井裁判官、2013年9月鬼丸裁判官)があり、教育行政による硬直的な処分に対して反省と改善を求めています。
  また、2015年12月4日、東京高等裁判所(第21民事部中西茂裁判長)は、東京「君が代」裁判第三次訴訟において、最高裁判決及び一審東京地裁判決(2015年1月)を踏襲し、東京都の控訴を棄却し、8件・5名の減給・停職処分を取り消しました。都教委は最高裁への上告を断念し、自ら敗訴を認めました。
  更に、2015年12月10日、東京高裁(第2民事部柴田寛之裁判長)は、卒業式等における「君が代」不起立・不斉唱による懲戒処分を理由とする定年退職後の再雇用拒否を「違法」として、東京都の控訴を棄却し、原告22名に総額約5370万円の損害賠償を命じました。

3.最高裁、東京高裁、東京地裁で確定した処分取消の総数は、65件・55名に上ります(別紙参照)。東京都教育委員会が、最高裁・東京地裁に・東京高裁で「違法」とされた処分を行ったことは、教育行政として重大な責任が問われる行為です。今すぐ原告らに謝罪し、その責任の所在を都民に明らかにし、再発防止策を講じるべきです。その上で、10・23通達などの「日の丸・君が代」強制に係わる従来の都教委の施策を抜本的に見直すべきです。

4.しかるに、都教委は、「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」(平成24年1月24日)の「議決」を根拠に、従来の姿勢を改めることなく最高裁判決にも反した減給を含む懲戒処分を出し続け、更には「服務事故再発防止研修」を質量共に強化しています。現在の研修は、明らかに内心の自由に踏み込み、著しい精神的苦痛を与えるものであり、東京地裁決定(2004年 民事19部、須藤典明裁判長)に反しています。
また、違法な処分を行ったことを原告らに謝罪しないばかりか、2013年12月及び2015年3月?4月、最高裁判決・東京地裁判決で減給処分が取り消された都立高校教員計16名に新たに戒告処分を科し再処分を行うという暴挙を行いました。
  これらは最高裁などの判決の趣旨をねじ曲げないがしろにするもので断じて許すことはできません。猛省を迫るものです。

5.「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」(平成24年1月24日)の都教委の「議決」は、一連の最高裁判決で校長の職務命令が、思想・良心の自由の「間接的制約」であること、「減給以上の処分を選択することについては,本件事案の性質等を踏まえた慎重な考慮が必要」だとして減給・停職処分が取り消されたこと、反対意見、補足意見が多数出されていること等をことさら無視して、都教委に都合の良い部分だけを取り出して「日の丸・君が代」強制を合理化しています。

6.貴教育委員会が、一連の司法の判断を重く受け止め、責任ある教育行政としての立場を自覚するとともに、問題解決のため下記申し入れを誠実に検討し、回答することを強く要求します。

<要請事項>
1 東京都教育委員会が2003年10月23日に発出したいわゆる「10・23通達」を撤回すること。
2 同通達に基づく一切の懲戒処分・厳重注意等を取り消すこと。
3 最高裁判決(2012年1月、2013年9月)及び東京高裁判決(2015年12月4日)に従い、10・23通達に基づく全ての減給・停職処分を即時取り消すこと。
4 2013年12月及び2015年3月?4月の現職教職員16名に対する戒告という再処分を撤回し、該当者に謝罪すること。
5 同通達に基づく校長の職務命令を発出しないこと。
6 卒業式、入学式で同通達に基づく新たな懲戒処分を行わないこと。
7 同通達に係わり懲戒処分を受けた教職員に対する「服務事故再発防止研修」を行わないこと。
8 卒・入学式等での「君が代」斉唱時に生徒の起立を強制し、内心の自由を侵害する「3・13通達」(2006年)を撤回すること。卒業式、入学式での生徒への内心の自由を告知などの各学校の創意工夫に介入しないこと。
9 「入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱について」(平成24年1月24日)の都教委の「議決」を撤回すること。
10 最高裁判決に従い、「紛争を解決する」ための具体的改善策を策定すること。
11 都教育庁関係部署(人事部職員課、指導部指導企画課、教職員研修センター研修部教育経営課など)の責任ある職員と被処分者の会・同弁護団との話し合いの場を早期に設定すること。
12 本要請書を教育委員会で配付し、慎重に検討し、議論し、回答すること。

<回答期限> 2016年2月9日(水)。

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