「野党は共闘」という市民の声による、アベ政治を許さない選挙共闘
この夏の参院選は、日本国憲法の命運を大きく左右する。アベ政権の改憲策動実現への第一歩となるか、それとも改憲を阻止することによってさらに国民に定着したものとするのか。
その参院選の日程が、いよいよ「6月22日公示、7月10日投開票」と本決まりの模様。そして、衆院の解散によるダブル選挙はなくなったというのが各紙の報ずるところ。寝たふり解散や抜き打ち選挙もあり得ないではないが、解散権を持つ側にとって、「ダブル選挙必ずしも有利ならず」と読ませる状況があるということだ。
選挙をめぐる関心の焦点は、自公の改憲勢力で、改憲発議のできる3分の2をとれるか否か。それは野党共闘の成否にかかっている。とりわけ、32ある一人区で、どこまで野党統一候補の擁立ができるかがカギとなる。いま、その動きが全国に浸透しつつあるが、改憲派から見て、「野党の選挙共闘恐るべし」なのだろうか、それとも「恐るに足りず」なのだろうか。本日の産経がこの点を語っている。しかも、北海道5区補選の彼らなりの教訓を踏まえてのこと。「2016参院選 本紙シミュレーション」という記事である。
右翼と自民党に支えられた産経である。スポンサーに失礼あっては社運に関わる。徹底して、改憲派の側からの分析であり、表現となっている。それでも、危機感横溢の内容となっている。おそらくは、この危機感が保守層の本音なのではないか。
メインのタイトルは「野党共闘効果は限定的 本紙が前回結果から試算」となっているが、サブのタイトルは、「与党、無党派で苦戦も 閣僚不祥事・失言など影響大」というもの。つまり、「野党統一候補は一部地域で善戦する可能性があるとはいえ、効果は限定的ともいえる」とスポンサーのご機嫌を伺いながらも、「補選の結果をみれば、無党派層の動向いかんでは野党共闘に勢いがつきかねない」「自民党は保守層の支持基盤を強化するとともに、無党派層の取り込みに向けた対策を進める必要がありそうだ」と献策している。この大事な選挙、自民党は安泰なのか、危ういのか。タイトルではなく、記事を読む限りは、大いに危ういのだ。
産経が、「野党共闘ができたとしても効果は限定的」という根拠は、3年前の参院選における有権者の投票行動を基礎としてのもの。これはたいして当てになるものではない。それでも、野党が一本化すれば、それだけで自民党候補に勝つところが7選挙区になるという。
さらに、次の記事が北海道5区補選の保守側の衝撃をよく表現している。
「自民党にとって枕を高くして寝ていられる状況でもない。夏の参院選の帰趨を占うとされた4月の衆院北海道5区補欠選挙で、野党統一候補が自民党公認候補を相手に健闘したからだ。
補選は参院選の構図とほぼ同じ「与党候補」と「野党統一候補」の一騎打ち。両候補の得票数を市町村別に分析すると、支持政党を持たない無党派層が多い都市部で与党候補の得票数が野党統一候補を下回った。
共同通信の出口調査では無党派層の約7割が野党候補に投票しており、自民党に大きな衝撃を与えた。自民党は政策がバラバラな「民共合作」を批判する戦術で辛くも制したが、無党派層の投票率が伸びれば与党候補が逆転されることもあり得た。もともと革新系が強いとされる北海道とはいえ、「堅調な内閣支持率のもとで党の支持層を固めれば、無党派層もそれほど取りこぼさない」というセオリーが覆された形だ。
ある自民党選対幹部は『民進、共産両党にほぼきっちり支持層の票を積み上げられ、結果的に「1+1=1・9」になった。0・1は誤差の範囲内。勝ったものの、恐ろしい結果だ』と警戒感をあらわにする。」
要は、野党共闘のあり方次第で、参院選を制することで改憲を阻止し、アベ政権を窮地に追い込むことは可能なのだ。
誰がどう考えても、主敵・アベ政権を倒すには、野党の選挙共闘しかありえない。その基本枠組みは、既に2月19日にできている。
民主、維新、共産、生活、社民の野党5党(現在は、民主・維新が民進となって4党)の党首は2月19日、安全保障関連法を廃止する2法案を同日共同で衆院に提出するに当たって国会内で会談。国会での対応や国政選挙などで協力を強化していくことなど、下記の4点の共闘項目についてあらためて合意している。
(1)安全保障関連法の廃止と集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の撤回
(2)安倍政権の打倒を目指す
(3)国政選挙で現与党とその補完勢力を少数に追い込む
(4)国会での対応や国政選挙などあらゆる場面で5党のできる限りの協力を行う
本年4月3日の毎日新聞が、その参院選における野党共闘進展の具体的模様を伝えている。見出しは、「野党一本化、15選挙区…32の1人区 本紙調査」というもの。
「夏の参院選に向け、全国で32の「1人区」のうち15選挙区で民進党と共産党を中心にした野党の候補者一本化が確実になったことが分かった。両党による協議が進んでいる選挙区も10あり、「統一候補」はさらに増える可能性が高い。参院選では1人区の勝敗が選挙戦全体の結果を左右する傾向が強く、2013年の前回参院選で『自民党一強』を選んだ民意が変わるかどうかが注目される。」
同日の毎日記事は、32の「1人区」を野党の選挙協力成否に関して3分している。
合意成立 15区
青森・宮城・山形・栃木・新潟・福井・山梨・長野・「鳥取島根」・山口・「徳島高知」・長崎・熊本・宮崎・沖縄
協議中 10区
岩手・秋田・福島・富山・三重・滋賀・和歌山・岡山・佐賀・大分
難航 7区
群馬・石川・岐阜・奈良・香川・愛媛・鹿児島
そして、昨日(5月1日)の赤旗が、最新情勢を伝えている。
「一人区野党統一候補が大勢に」「政権に危機感」というもの。
「夏の参院選にむけ、32の1人区での野党統一候補の擁立が20選挙区を数え、大勢になりつつあります。『野党と市民・国民』対『自公と補完勢力』という選挙の対決構図が鮮明になるなか、安倍政権・与党は警戒感を募らせています。」という内容。
「前回参院選(2013年)の野党票を合計すると、9選挙区で野党が勝利、3選挙区で接戦となる計算となります。前々回(10年)の野党票合計では、18選挙区で野党が勝利、5選挙区で接戦。市民とともに野党が団結し本気で選挙をたたかえば、自民を負かす可能性がみえています。」
「一方、野党は統一候補擁立とともに政策課題でも一致点を広げています。26日、徳島・高知選挙区で野党4党と大西聡統一候補は、消費税増税反対、TPP(環太平洋連携協定)批准反対、原発に依存しない社会の実現、辺野古新基地建設反対など11項目の共通政策を発表しています。」
赤旗が報じる参院選1人区での野党統一候補は以下のとおり。
青森 田名部匡代 民進公認
秋田 松浦大悟 民進公認
宮城 桜井充 民進公認
山形 舟山康江 無所属
栃木 たのべたかお 無所属
群馬 堀越啓仁 民進公認
新潟 森裕子 無所属
長野 杉尾ひでや 民進公認
山梨 宮沢ゆか 民進公認
石川 柴田未来 無所属
福井 横山龍寛 無所属
滋賀 林久美子 民進公認
岡山 黒石健太郎 民進公認
鳥取・島根 福島浩彦 無所属
山口 こうけつ厚 無所属
徳島・高知 大西聡 無所属
長崎 西岡秀子 民進公認
宮崎 読谷山洋司 無所属
熊本 あべ広美 無所属
沖縄 イハ洋一 オール沖縄
残る一人区(12)は、 岩手 福島 富山 岐阜 三重 奈良 和歌山 香川 愛媛 佐賀 大分 鹿児島である。
日経(4月30日)によれば、「7月の参院選で勝敗のカギを握る32の改選定数1の選挙区を巡り、民進、共産、社民、生活の野党4党は全体の6割を超える20選挙区で統一候補の擁立に合意した。残る12のうち、9選挙区で一本化に向け最終調整に入っている。参院選で「自民1強」に歯止めをかけるには野党共闘の加速が欠かせないと判断。残る選挙区で協議を進め、5月中の決着をめざす」とのことである。
私は、無原則な選挙共闘の相乗効果を安易に信じる立場にはない。しかし、今回参院選に限っては、野党候補統一の相乗効果は大いに期待しうるのではないだろうか。『1+1=2』にとどまらず、『1+1=2.5』にも、あるいは『1+1=3』にもなり得ると思う。
「一人区では、どうせ野党候補に勝ち目はない」という雰囲気は、アンチ・アベ無党派層の投票意欲を著しく殺ぐことになる。ところが、第2位・第3位の候補者の共闘が実現して接戦に持ち込めるとなれば、反アベ・反自民・反公明の無党派層の投票行動へのインセンティブが跳ね上がるのだ。
前回参院選(2013年)は、野党陣営にとっては最悪の事態でのものだった。このときの票の分布を今回も同様と安易に決めつけてはならない。北海道5区で示された接戦状態が、至るところで現出するだろう。そして、その経験は来たるべき総選挙における小選挙区共闘につながることになる。
「野党は共闘」という昨年の戦争法案反対デモのシュプレヒコールが、まだ耳に響いている。あのコールが、ここまで政治を動かしつつあるのだ。もしかしたら、あのデモが、アベ政治を許さず、改憲を阻止することになるのかも知れない。
(2016年5月2日)