サンオノフレ原発廃炉と三菱重工の損害賠償責任
本年6月にサンオノフレ原発(カリフォルニア)が廃炉になった。それに伴う三菱重工の賠償責任問題に関心を持たざるを得ない。原発輸出リスク顕在化の実例としてである。
7月19日付で、三菱重工のホームページ「株主・投資家の皆様へ」欄に、「米国サザンカリフォルニアエジソン社・サンオノフレ原子力発電所廃炉について」と題する記事が掲載された。要約すると以下のとおりである。
「2013年7月18日、米国サザンカリフォルニアエジソン社(SCE)は、サンオノフレ原子力発電所(SONGS)の取替用蒸気発生器の供給契約上の責任上限を超えて多額の損害賠償を請求する意思を記載した紛争通知を、三菱重工業に送付した旨発表しました。
SONGS 2号機と3号機は、(三菱重工が納入した)蒸気発生器の冷却水が漏えいした2012年1月から運転を停止しており、2013年6月7日、SCEは2号機、3号機の廃炉を決定しました。漏えいの直接的原因となった事故は、これまで発生したことのないものです。
SCEが紛争通知の中で述べている主張および要求は、交渉の経緯、契約履行の事実を正確に反映していない不適切な内容であり、根拠のないものです。
契約上の当社の責任上限は約1億3,700万米ドルであり、間接損害は排除されています。現時点で当社業績への影響はないと考えております。」
これだけだと分かりにくいが、今朝の毎日の「米電力会社 三菱重工に全額賠償請求」という見出しの記事が要領よく事情を伝えている。
『廃炉が決まった米カリフォルニア州のサンオノフレ原発を運営する電力会社のサザン・カリフォルニア・エジソン社(SCE)が、トラブルを起こした蒸気発生器を納入した三菱重工業に対し、原発停止で生じた損害全額を賠償するよう求めている。三菱重工側は「責任上限額を超える賠償責任はない」と反論しているが、米国では「懲罰的賠償のリスク」(業界筋)もあるだけに事態の行方は予断を許さない。事故発生時に巨額賠償を迫られることになれば、原発輸出を推進する日本政府や三菱重工など大手メーカーに冷や水を浴びせそうだ。
SCEは今月18日、「蒸気発生器の欠陥は基本的かつ広範。三菱重工はSCEや顧客が被った損害全額の責任を負うべきだ」とする文書を三菱重工宛てに送付したと発表。賠償請求額は明らかにしていないが、SCEは原発停止中の代替電力確保に関わる費用の支払いなども求めている模様。現地メディアでは請求額は数十億ドル規模とも報道されている。SCEと三菱重工が機器納入時に結んだ責任上限額(約1億3700万ドル)を上回るのは確実だ。協議で90日以内に解決できなければ、SCEは裁判所に仲裁手続きを求める意向だ。
これに対し、三菱重工は19日「SCEの主張は不適切で根拠がない」とのコメントを発表。原発停止に伴う代替電源確保などの間接的な損害は請求されない契約だとして、全面的に争う構えを示す。三菱重工は責任上限額分は業績に織り込んでいるが、それを大幅に上回る賠償を迫られれば、業績への打撃は必至だからだ。
東京電力福島第1原発事故後、国内で原発新増設が困難となる中、三菱重工や東芝、日立製作所など原発メーカーは政府の後押しを受けて海外ビジネスに活路を求める。ただ、原発需要が高まるアジアでは、インドのように事故の際、メーカーが巨額の製造物責任を問われかねない国もある。今回は契約で責任が明記された米国で多額の賠償を求められかねない事態で、業界には波紋が広がる。大手メーカー幹部は「電力会社側の保守や運用にも問題があるはず。メーカーだけに事故責任を負わされてはたまらない」と話すが、原発輸出のリスクが浮き彫りになった形だ。』
またまた、原発に関して「想定外の事故」が起こって、廃炉を余儀なくされた。想定外の事故の原因となったのは、三菱重工の納入部品。想定外の事故だから、あるいは予見不可能な事故だから免責されるなどということはありえない。同社は、損害賠償の責めを負う。ここまでは当然のこと。問題は、賠償損害の範囲と金額である。
米国サザンカリフォルニアエジソン社(SCE)も三菱重工も、幾らの賠償請求をしたのか明らかにしていない。毎日の報道では、「損害全額」「現地メディアでは請求額は数十億ドル規模」という。三菱重工はこれを不当として、「契約上の当社の責任上限は約1億3,700万ドル」と主張している。
この事件はいろんなことを考えさせる。
まず、地震や津波、テロ、戦争などの「異常」に起因しない平常時にも原発事故は起こりうるということ。文字通り、「想定外の事故」とは、どんな想定をも易々と乗り越える。ネズミ一匹での大惨事も現実にあり得るのだ。
原発というシステムの脆さ危うさは、物理的なものだけでなく、社会的ないしは社会心理的な要因を考慮せざるを得ない。三菱重工は「冷却水漏れは微量」とコメントしている。もしかしたら、同社が言うように火力発電設備であれば許容範囲といえる程度のものであるのかも知れない。しかし、スリーマイル島や福島の事故を経験している社会は、「微量」を絶対に許容し得ない。
今回の事故は、現実の災害にまで至らずに済んだが、廃炉による損害賠償債務というリスクをクローズアップさせた。「契約上の賠償額の限定」の主張が認められるかは定かでない。場合によれば、とてつもない巨額の賠償義務もあり得る。
アベノミクス「3本目の毒矢」である成長戦略には「原子力規制委員会の規制基準で安全性が確認された原発の再稼働を進める」とされている。安倍首相がトップセールスで売り込んでいる先は、ベトナムだけでなく、トルコ・アラブ首長国連邦、サウジアラビア・インド・ポーランド・チェコ・スロバキア・ハンガリーなどに及ぶ。「日本は世界一安全な原発の技術を提供できる」というブラックジョークを武器にしてのこと。
しかし、原発輸出は、道義的にあってはならないというだけでなく、あらゆる意味でリスクが大き過ぎる。そのリスクは、サンオノフレの廃炉と、三菱重工が受けている賠償請求によって既に現実のものとなっている。国家が原発輸出セールスをするということは、国家がそのリスクを引き受けるということでもある。とんでもない。直ちにやめていただきたい。
(2013年7月24日)