戦争屋にだまされない厭戦庶民の知恵―そのQ&A
「最後の特攻隊員ー2度目の遺書」(高文研)の著者として知られ、「戦争屋にだまされない厭戦庶民の会」を主宰しておられた信太正道さんが、亡くなられたのが2015年11月10日。この秋で2年となるが、まだ「厭戦庶民の会」からの郵便物は途絶えない。その活動は信太さん亡き後も続いているのだ。
国際的にも国内でも、「戦争屋」と思しき人物が戦争を煽っているこの世の中である。「こんな人物の虚言にだまされてはならない」という、信太さんの声が聞こえてくる。ひとりの人の熱意は、その人の死後にも他の人を動かすのだ。
「厭戦庶民の会」というネーミングに、最初は違和感もあった。しかし、正面からの「反戦」「不戦」や「平和」ではなく、「厭戦」というところに、信太さん独特の庶民感覚が見える。「国民の2割が面従腹背の厭戦主義なら戦争屋は戦争ができません」と言っておられたという。
「厭戦庶民の会」から送られた郵便物のなかに、「『厭戦庶民』超緊急増刊号」がはいっていた。太い文字で、「憲法Q&A(2016年版)」「憲法Q&A(2017年版)」「共謀罪Q&A」とタイトルがつけられたもの。全部で17の「Q&A」と、「緊急事態条項って何」が収められている22頁の手作りパンフレット。
冒頭に以下の一文がある。
このQ&A集は、2016年と2017年の「平和のための戦争展inよこはま」での厭戦庶民の会の展示を、冊子のかたちに編集したものです。展示をつくるにあたっては、事務局以外の方々にも参加していただき、議論をつみ重ね文章にまとめました。このささやかな冊子には、多くの方々の経験と知恵がぎっしりとつまっているのです。
共謀罪と憲法について悩んだとき、まわりの人との対話のなかで壁につきあたったとき、ぜひこのQ&A集を活用して下さい。共謀罪の制定と改憲を阻止する力をつくるために!
私も、多くの方々の経験と知恵を学ぼうと思う。
先日、「本郷・湯島9条の会」が本郷三丁目交差点で街頭宣伝行動をしていた折、平和を訴えていた私たちの側まで来て、「北朝鮮に攻め込まれたとき、非武装でどうする」と言った男性がいた。毎回の行動で、一人か二人、こういう人に遭遇する。さて、どのようにお話ししたらよいだろうか。このパンフレットの次のQ&Aを参考に組み立ててみたい。
Q:中国や北朝鮮の脅威に、いまの憲法で対応できるのか不安です。(2016年版)
A:ミサイル発射や核実験、軍事施設建設などに不安をもつのはわかります。けれども、アメリカや日本も、原子力空母やイージス艦、偵察機などをわざわざ近くまで送り込んで、実戦的な軍事演習をやっています。相手側からすれば、これこそ挑発であり脅威ではないでしょうか? 両者が軍事的に対抗しあって、脅威をつくっているのです。脅威をとりのぞく道は、憲法を変えて軍事行動をやりやすくすることではなく、中国や北朝鮮、アメリカ・日本の軍事的対抗そのものをやめさせることではないでしょうか? そのためには、戦力と交戦権を否定した日本の憲法は、無力どころか大きな支えになるはずです。
ところで、脅威をあおっているのは誰でしょうか? 北朝鮮にミサイル発射の兆候があると、防衛省はすぐにPAC3配備の様子などをテレビで大々的に宣伝します。まるでミサイル発射を、自衛隊の軍事訓練に利用しているような印象さえうけます。政府・防衛省は、いますぐにでも日本にミサイルがうちこまれると本気で思っているのでしょうか? もしそうなら、日本海側に何十基もの原発をそのままにしておくことは、恐ろしくてできないはずです。だまされてはいけませんね。
Q:北朝鮮のミサイル発射や核実験‥。今の憲法で対応できるか不安です。(2017年版)
A:「北朝鮮が日本を狙っているのだから、やはり軍事的に対抗することは必要。今の平和憲法では無力では」ということでしょうか?たしかに今、北朝鮮の政府は、日本や韓国の人々の方にミサイルを向けて、じっさいに発射実験もおこなっています。とても許せないことです。しかし、これに対して、軍事力で対抗することは解決になるのでしょうか?危機を高めることにしかならないのではないでしょうか?
最近では「ミサイル発射される前に先制的に北朝鮮の基地をたたいてしまえ、核をおとして壊滅してしまえ」という声もきかれます。けれども、北朝鮮には私たちと同じような庶民がいます。彼らは政府がミサイル、核実験を幾度となくおこなうことによって、食べる物に困るほどの犠牲を強いられているといいます。先制的に攻撃することは北朝鮮政府に苦しめられてきた人たちのさらに命を奪うことにしかなりません。
「だったら金正恩だけを一気にやっつければいい」と言う人もいます。しかしそれまでアメリカが「○○の首をとる」とか「ピンポイントでやる」と言って、それですんだことがあるでしょうか。その過程で多くの人々の頭上に爆弾をふらせ、その後も泥沼化する戦闘の中で多くの犠牲者をだしてきたのではなかったでしょうか?
そもそも、最近戦争になりそうなほど危機が進んだのは、アメリカがシリアやアフガニスタンを攻撃し「次は北朝鮮だ」といわんぱかりに日本海に空母や原子力潜水艦を送りこみ、いつでも戦争できる態勢をとったからではないでしょうか。それに付き従ったのが日本です。歴史をふり返ってみても北朝鮮をここまでおいつめたのはアメリカです。
ミサイルに対して、より大きな軍事力でたたいていく、このようなことは悲劇しかうみません。私たちは権力者同士の軍事的な対抗や軍事力をバックにしたかけひきによる解決ではなく、むしろ憲法9条をつらぬいて、北朝鮮、日本、アメリカなどの庶民が国際的に力をあわせ戦争と軍事的な挑発をやめさせるべきではないでしょうか?
(2017年8月10日・連続1593回)