『ふるさとを返せ 津島原発訴訟』弁護団紹介
そのときどきに時代を映す訴訟というものがある。志ある若手弁護士は、その時代にふさわしい「時代を映す事件」に取り組む。それは、公害であったり、薬害であったり、大規模消費者被害であったり、情報公開請求訴訟であったり。あるいは、いじめ・体罰、過労死、基地問題、ヘイトスピーチ、天皇の代替わりにともなう政教分離訴訟…などなど。
今なら、まぎれもなく原発訴訟だろう。時代を映す問題としてこれ以上のものはない。文明論としても、人類史上の大事件としても、弁護士として取り組むに値する大事件。
とはいうものの、私には声がかからない。その余裕も力量もないからやむをえない。代わって、澤藤大河が「ふるさとを返せ 津島原発訴訟」にどっぷりと浸かっている。ずいぶんと時間も労力も使っているようだ。
弁護団はホームページを開設している。
http://www.tsushima-genben.com/
「『ふるさとを返せ 津島原発訴訟』は,2011年3月11日の福島第一原発事故に伴う放射能汚染によって「ふるさと」を追われた,浪江町津島地区の住民による集団訴訟です。
津島地区の住民は、代々培われてきた伝統芸能や先祖が切り拓いた土地を承継しながら、地区住民がひとつの家族のように一体となって、豊かな自然と共に生活してきました。
ところが、津島地区は、現在もなお放射線量の高い帰還困難区域と指定され、地区全域が人の住めない状況となっています。
津島地区の住民は、いつかはふるさとに帰れると信じながらも、いつになれば帰れるか分からないまま、放置されて荒廃していく「ふるさと」のことを遠く避難している仮住まいから想う日々です。
国及び東京電力は、広範囲の地域の放射能汚染という重大事故を起こしておきながら、原発事故に対する責任に正面から向き合おうとしません。
国及び東京電力のこのような姿勢に堪えかねた津島地区住民の約半数となる約230世帯700名の住民が立ち上がり、2015年9月29日、国及び東京電力を被告として、福島地方裁判所郡山支部に集団提訴をしました。」
そのホームページに「弁護団加入Q&A 」があって、こんな問と答がある。
「Q 弁護士の活動実費、弁護士報酬などはどう保障されるのでしょうか。
A 訴訟の弁護士報酬について
まず、着手金はありません。勝訴(確定)の場合には、弁護士報酬をその関与の度合いを勘案してお支払いすることになります。もっとも、津島訴訟のような、社会的な訴訟においては、弁護士費用獲得やその多寡が目的でありません。弁護士として社会の役に立ちたいという高い志をもった方の参加をお待ちしています。」
要するに、手弁当で活動するというのだ。これで、よく弁護団を組めるものと感心せざるを得ない。
最近の法廷は11月17日、先週の金曜日。「原告ら第27準備書面?結果回避可能性について?」を陳述し、30頁に近い準備書面の要旨を、訴訟代理人澤藤大河が口頭で述べたという。それが以下のとおり。
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1.概要
本準備書面は,本件事故前に,被告らが何をしていれば結果を回避できたのか,主に甲B194号証の1「渡辺意見書」(工学博士渡辺敦雄氏が作成した意見書)に基づいて,結果回避可能性を指摘することを目的とする。
法は,不可能を要求しないため,前提として結果回避可能性が必要となる。そこで,事故の回避可能性があったことを明らかにする。
2.原子力発電所の危険性
まず,原子力発電所が原理的に内包する不可逆的かつ壊滅的危険性について,指摘しておく。原発の重大な危険性が被告らの注意義務を加重するからである。
重大事故が生じれば,広範な周辺住民の生命健康財産を侵害し,本件原告らの居住地のように,長期に渡り,立ち入りすら制限されることにもなりかねない。
このような原子力発電所が原理的にもつ危険の重大性から,絶対の安全性を確保することが,被告らに求められる。「危険が明らかな限りで対策をすればよい」のではなく,「安全と立証されない限り運転は許されない」のが,原子力発電所を運転する際に求められる基本姿勢である。
さらにすすんで,危険の見積りに不正確さがあれば,予想される幅の中で最も安全側の対策を採らねばならないし,本質的に安全であることが保証できないのなら,原子力発電所は運転してはならないはずである。
3.渡辺意見書
渡辺意見書は,工学博士渡辺敦雄氏が作成した意見書である。
渡辺敦雄氏は,東京大学工学部を卒業後に,株式会社東芝に入社し,原子力部門で基本設計を担当してきた。福島第一原発の1?3号機,5号機も担当したことがある。原子力技術者としての専門的知識は勿論,福島第一原発の現場を知る専門家である。
渡辺氏の専門分野は,機械であり,津波が襲来しても,原子炉の冷却機能を保持するために,具体的に,いかなる設備・対策を調えておくべきかが,渡辺意見書の趣旨である。
原子炉は,核燃料が内部に存在する限り,熱が発生し続けるので,冷却し続けなければならない。重大な事故を回避するための要諦は,?電力を安定的に確保すること,?冷却水を循環させること,である。
4.具体的対策工事
渡辺意見書が具体的に述べるところは,浸水高が2mの津波を想定して対策工事をしてさえいれば、2011年の実際の津波においてなお冷却機能を喪失せず,事故は避けることができたというものである。
敷地を2m浸水させる津波を想定した場合になすべきことは,建屋扉の浸水防止対策,外壁開口部の水密化,建屋貫通部の浸水防止,建屋内の重要機器室の浸水防止対策,重要機器類の高所配置,海水ポンプ室の水密強化等である。
原子力発電所の危険性を考えれば,電力が失われることに備えて,多重防護を考えることも必要である。予備の電源を確保するため,津波の影響のない高所に十分な出力の発電機と燃料を設置しておくことが考えられるし,移動式電源車を配備することも考えられる。
また,海水への最終的な熱の排出ができなくなることに備えて,淡水貯槽,空冷熱交換器を備え,熱を逃がす別の系統の整備もするべきである。冷却水の循環ポンプが動かなくなっても,冷却機能が維持できるようにするために車載式注水ポンプ車の配備も考えられる。
事故対策作業を現場において実際に行えるようにするための対策も重要である。原子炉制御室の作業環境確保,放射線エリアモニタの設置,放射線遮へい対策等の強化などをしなくては,作業員が対策のための活動を十分に行うことができない。
また,緊急時用資材倉庫の高台設置,がれき撤去用重機の配備等の対策を行うことが考えられる。
以上の対策は,全て可能で、かつ浜岡原発で現実に実施されていることでもある。
これらの工事の工期は,最長でも3年である。本準備書面で指摘した工事の項目は全部で11件となっているが,これらの対策を,遅くとも2006年に始めていれば,2011年までに十分に対策を完了させ,本件事故を回避することができたのである。
5.結論
以上のとおり,被告らの結果回避義務の前提として求められる結果回避可能性が存在していたことは明らかである。
(2017年11月20日・連日更新第1695回)