戦前の秘密保護法制と問題点の指摘
防衛省に防衛研究所という組織がある。その2011年12月の紀要(第14巻第1号)に、「研究ノート軍機保護法等の制定過程と問題点」(林武1等陸佐外)という論文が掲載されている。23頁ほどのもの。ネットの検索で簡単に入手できる。イデオロギッシュな雰囲気を感じさせない内容。結構面白い。
戦前の秘密保護法制は、軍機保護法だけでなく、軍用資源秘密保護法、国防保安法、要塞地帯法、軍港要港規則、陸軍刑法、海軍刑法などから成っていた。同論文には各法の成立経過やその分担などが略記されている。今回の「特定秘密保護法」は、軍機保護法だけでなく、これらの法の総合立法をねらうもののように思われる。
興味深いのは、これら戦前の秘密保護法が成立する過程では、それなりに国会では問題点の指摘があり、今日に通じる議論がなされていること。
1937年の軍機保護法の改正に関して、「改正軍機保護法の問題点ー軍事上の秘密の定義と法の運用について」と小見出しを付けた章がある。
※「この改正法律案で、軍事上の秘密の種類範囲を規定した理由は、現行軍機保護法の第1条が、『軍事上秘密の事項又は図書物件』と規定するだけで、何が軍事上の秘密に該当するかについて明確に定義していなかったからである。したがって、国民は何が軍事上の秘密であるかを知らぬままこれを収集し、犯罪者としての嫌疑を受けることもあった。一方、取り締まる側も、検挙取締りの準拠が明確でないため、捜査を遅疑逡巡するという事態もあった。このような弊害に鑑み、本改正案ではその第1条第1項で、この法律が対象とする『軍事上の秘密』とは『作戦、用兵、動員、出師其の他軍事上秘密を要する事項又は図書物件を謂う』とし、その第2項で『前項の事項又は図書物件の種類範囲は陸軍大臣又は海軍大臣命令を以て之を定む』としたのである」
法改正の問題意識は、「国民において何が軍事上の秘密であるかを知らぬままこれを収集し、犯罪者としての嫌疑を受けること」があってはならない、とするところにあるという。法改正の目的がそれだけのものではありえないが、言わんとするところは真っ当なもの。しかし、この改正案が、その問題意識に応えるものであるとは到底思えない。
※「第70回帝国議会衆議院の第一読会に提出された上記改正法律案に対して、各議員からの質問が相次いだ。なかでも升田憲元議員の質問は、『此軍機保護法なるものは純然たる刑罰法規』であって、しかも『死刑まで科するような此重大法規を、其範囲を勝手に命令で而も勅令ならまだしも、単純なる大臣の命令で左右し得る』ことの危険性を指摘している」
大臣の命令で軍機を指定することの不当性や危険性が、当時から指摘されていたのだ。今なら、憲法41条の「国会の唯一の立法機関性」を、政令や省令への委任を認めることによって骨抜きにすることが認められるかという形で問題となる。しかし、当時、問題点の指摘はなされたが、結局は政府に押しきられている。
※「こうした懸念は、同議会の貴族院特別委員会でも指摘されたが、これに対する政府側の答弁は、軍事上の秘密の種類範囲を法律ですべて列挙することは困難であること、また何が軍事上の秘密であって、取締りの必要があるかということは、その時代、時代によって異なることから、これを委任命令という形にした、というものであった。なおこれを勅令としないで陸・海軍省の省令としたのは、陸・海軍の軍事秘密や機密に関する事項は、陸・海軍自らが定める必要があるので、省令の形をとったと説明している」
結局は、陸軍・海軍が望む情報や図書物件が軍機とされた。「軍事上の秘密の種類範囲を法律で画することは困難」「何が軍事上の秘密であって、取締りの必要があるかということは、その時代、時代によって異なる」は、秘密法制の根幹にかかわる問題点の指摘である。「国民において何が軍事上の秘密であるかを知らぬままこれを収集し、犯罪者としての嫌疑を受けること」の弊害は除去できなかったのだ。
さらに、国防保安法は凄まじい。同法は、「広範囲に亘る国家の重要機密を保護すべき法規、並びに外国の行う宣伝、謀略を防止すべき法規」として提案された。
ところが、「国防保安法では、どういうものが国家機密であるかということ自体が、外国に対し国家機密の一端を察知させることになるから、国家機密の内容範囲については法令中に明記されなかったのである。ここに国家機密の範囲が不明瞭となる要因があり、何れにおいてその範囲を確定するのかという点が、最大の議論となった」という。
当時の当局者は、「国家機密とは法律の規定に基づき官庁が指定して初めて国家機密となる『指定秘』ではなく、『自然秘』である」と述べている。結局は、同法が成立したあと、国防保安法施行令において、秘密の図書物件にには標記を付けることにはなった。しかし、標記はあくまで手続き的便宜のためもので、標記の有無にかかわらず「自然秘」の原則は貫徹されたという。
秘密保護法制の本質をよく表している。権力にとって、「何が秘密かは、絶対に秘密」にしておきたい。漏洩されたもののすべてを事後的に秘密として処罰できたら、便宜この上ない。これによって十分な威嚇効果を狙えることになるから。しかし、その権力の欲求は国民の権利保障と真っ向から対立する。「何が秘密なのかは秘密」では、国民は安心して暮らせない。国家権力と人権とが、真正面から切り結んでいる局面だ。もちろん、何が秘密と分かったから、問題がなくなるわけではないが、不意打ちは避けられる、そしてその不当を論じることは最低限可能となる。一切の秘密保護法制は、ないに越したことはない。少なくとも、秘密を拡大し、重罰化することには絶対に反対だ。
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『夏の逆襲』
いよいよ秋か、と安心させておいて、また暑さがぶりかえした。草刈りを少々したら、汗が噴き出て、全身水をかぶったよう。熱中症にならないように用心、用心。
アオカラムシが背丈より高く、猛々しく茂り、芥子粒まみれの小さなボールのような花をつけている。雑草は花が種になる前に刈らなければと思うが、毎年、絶対間に合わない。このアオカラムシは、古く、皮を剥いで繊維をとって布に織った。だからスパッと切れないで皮が繋がっているときは、皮がツーとむけてくる。根が縦横無尽に這い回って、いくら刈っても、丈夫で根絶ができない。いつの間にか野生化したというけれど、どだい畑に閉じ込めておくのは不可能なほど精力旺盛だ。布のない昔には大切な植物だったろうが、今はただの困りもの。
こぼれ種で毎年はえてくる青シソも花穂を出して、ポチポチと白い花をつけはじめた。柔らかいところを摘んで、キューリとキャベツと一緒に浅漬けにする。シソの香りがプンプンする特上の漬け物ができる。刺身のつまにしたいところだが、刺身がない。
イノコズチも花穂のまわりに下向きの小さなカギ針のような緑色の花をいっぱいつけている。これはすぐに固いカギ(種)になって、ズボンの裾にゾリゾリとくっついてくる。振るったぐらいでは落ちない。ひとつひとつ手で摘まんでとらないと、中へ中へと進入して、チクチクと痛い。これは繊維にもならないし、漬け物にもならないし、本当の役立たず。
クズの赤紫の花が濃厚な甘い匂いを振りまいている。ヤブカラシも平らな傘のような花を開いている。両方とも樹木のてっぺんをビッシリ覆って、太陽を独り占めしている。下になった木は弱虫なら枯れてしまう。カットしたいところだが、どちらもカラスアゲハの蜜源。自分のテリトリーを守って、フワフワと行ったり来たりしているので、しばらく刈るのはお預け。
ピンクと黄色のナツズイセンが花盛り。ヒガンバナのクリーム色の花穂はまだ雑草の陰で、10センチぐらい。草と一緒にザクリと刈ってしまって、ズキンと胸が痛む。一週間後の彼岸の頃にはあっという間に茎を伸ばして、花を咲かせるだろう。ナツズイセンもヒガンバナも花が咲くときは、地面から花茎がスーッと立つだけで、葉は全くない。花が終わってから、おもむろに葉っぱが地面から出てきて、冬中青々と繁っている。だから「葉見ず、花見ず」といわれる。ヒガンバナの球根は丈夫で、いくらでも殖えて、花の時期に真っ赤な絨毯のように花いっぱいにするのは簡単。あんまりたくさん咲いているとありがたみが薄れるけれど、1本の花を取り出してみれば、これほど豪華な花はない。スキッと伸びた緑色のストローのような茎のてっぺんに、細くクルリと巻き上がった6弁の真っ赤な花がグルリと6,7個つく。おのおのの花からは、赤い蘂が7本づつ長く突き出る。観音様の頭を飾る花かんざしのようだ。きれいな花なのに、田圃の畦や墓場のような場所で、放っておいても秋になるとたくさん咲くので、大切にされない損な花。
まだまだ夏草がむせかえるほど繁茂している。新聞に楢葉町の除染したあとの田圃の写真がのっている。見渡す限り一面の草原に変わってしまった田圃に、草刈り機を持って呆然と立つ男性が写っている。草を刈っても作物は作れないのだろう。隅々まで気配りをして、大切にしてきた田圃や畑で農業が営めなくなってしまった喪失感や無念さが伝わってくる。あぜ道に咲く花に心配りしながら、収穫の期待に汗を流す無上の喜びは何にも代えられない。誰が3・11の前にかえしてくれるのか。
それなのに、政治家はいとも簡単に、「私が解決します。責任をもちます」なんぞと言う。そんな口先の大見得を切るよりは、今、目の前にくり広げられているフクシマの惨状に少しでも切り込む努力を見せてくれ。福島第1原発の漏洩汚染水の放射線量は、遂に1リットル当たり13万ベクレルのトリチウム(3重水素)検出と発表されているではないか。
まずこれを何とかしてくれ。責任の取り方を見せてくれ。それが出来ないなら、将来も責任などとれっこないではないか。
(2013年9月14日)