文化庁を、「文化阻害庁」ではなく、「文化振興庁」とするために。
(2021年6月22日・毎日更新連続第3003回)
東京地裁でも、ときに立派な判決が出る。昨日の「映画『宮本から君へ』助成金不交付取消」事件判決。真っ当に表現の自由の価値を認め、これを制約する行政裁量を限定した。共同通信は次のように報じている。
〈映画「宮本から君へ」に出演したピエール瀧さんの刑事処分を理由に助成金1千万円の交付を取り消されたのは違憲だとして、映画製作会社が文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)を相手取り、交付を求めた訴訟の判決で、東京地裁は21日、「処分は裁量権の逸脱で違法」として、不交付決定の取り消しを命じた。
判決によると、映画が完成した2019年3月、瀧さんは麻薬取締法違反容疑で逮捕され、同7月に執行猶予付きの有罪判決が確定した。これを受け、芸文振は内定していた映画への助成金を交付しない決定をした。〉
事件は次のとおりである。
原告 スターサンズ(映画製作会社)
被告 「独立行政法人・日本芸術文化振興会」(芸文振)
訴えの内容 内定した助成金1000万円の不交付決定取消請求
裁判所 東京地裁民事51部(清水知恵子裁判長)
判決 2021年6月21日 請求認容(「不交付決定を取消す」)
内定した助成金1000万円不交付の理由は「公益性」とされた。その具体的内容は、出演者のひとりである俳優ピエール瀧の刑事処分であった。表現の自由とは何物にも替えがたい重要な理念ではなかったか。いったい「公益」とは何だ、行政裁量はかくも安易に表現の自由を制約しうるのか、が争われた。
朝日の報道に、原告会社社長のコメントが掲載されている。
判決を受け、原告の製作会社スターサンズの河村光庸社長と弁護団が会見し、判決を「画期的」と評価した。
河村社長は「私は公益性とは国民の一人ひとりの利益の積み上げだと考えていたが、彼ら(芸文振や文化庁)の公益性は国益なのだと理解せざるをえない。国民の憲法がいつのまにか為政者の憲法にすりかえられている。今後も公益性とは何かについて追求していく」と厳しい表情で話した。
「河村さんは喜びを口にする一方『為政者が人間たる表現をうやむやにし、ないがしろにしようとしている。現実を直視していきたい』と、国会審議を含めた現政権の姿勢を批判した。」(東京新聞)とも報じられている。
この事件に注目するのは、あいちトリエンナーレの「表現の不自由展」問題によく似ているからでもある。
文化庁は、「文化資源活用推進事業」として審査の上、交付が内定していた「あいちトリエンナーレ2019」に対する補助金約7800万円について全額不交付とした。これが2019年9月26日のこと。あのときの衝撃は忘れがたい。「宮本から君へ」芸文振への助成金不交付決定から2か月後のこと。
その後補助金申請者である愛知県は同年10月24日に不服申立をした。世論の後押しもあって、2020年3月23日文化庁は折れて6,661万9千円の交付決定に至った。(下記URL参照)
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/20032301.html
具体例を見る限り、文化庁とは「文化阻害庁」のごとくである。しかし、ひとつは世論の力で、そしてもう一つは真っ当な司法の存在で、文化阻害行政を本来の任務である「文化の振興」に舵を切らせることが可能なのだ。この社会、まだ望みはある。