澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

「あなた何様?」「わたしゃ五輪様」

(2021年8月3日)
 今朝の報道で知った。「五輪車両 当て逃げか」「ボランティア 関係者乗せ」「車2台に追突、走り去る」「女性2人負傷」「側壁にも衝突」「大破したまま『送迎優先』」などと各紙が見出しを打った事件。一昨日(8月1日)夕方のこと。

 そこのけそこのけ五輪が通る、と言わんばかりの不愉快。これは、例外事象ではあるまい。むしろ、五輪関係者の意識や姿勢を象徴する事件ではないか。

 東京オリンピックの大会スタッフ(関係者)を乗せた乗用車が1日夕、東京都内の首都高速道路で車両2台に相次いで追突する事故を起こし、そのまま走り去っていた。警視庁は道交法違反(事故不申告)などの疑いで、東京オリンピック大会ボランティアとして車を運転していた神奈川県に住む会社員(50代男性)から事情を聴いている。

 警視庁によると、事故は1日午後6時ごろ、首都高の台場出入り口(港区)―葛西出入り口(江戸川区)付近で発生。立ち去った車両はボランティアの50代の男性会社員が運転。車両は都内から千葉県に大会スタッフ1人を運ぶ途中で、男性は警察に対し「オリンピックのスタッフを送ることを優先した」と話している。

 大会スタッフを乗せた乗用車は、前を走っていたトラックと軽ワゴン車に追突したほか、前後して複数回にわたって側壁にも衝突した。軽ワゴン車に乗っていた女性2人が病院に搬送され、軽傷を負った。

 乗用車は前部が大破したまま十数キロ走り続け、千葉県内のインターチェンジを降りたところで同県警が停止を求めて運転手の男性に職務質問した。男性は事故を起こしたことを認めた上で「(乗せていた)大会スタッフの送迎を優先した」と話しているという。

 大会組織委員会は「本来、ただちに警察へ報告するなど事故の初動対応にあたるべきところ、当該ドライバーは現場を離れてしまったとの報告を受けており、組織委としても重ねておわび申し上げる。事故の再発防止に努める」としている。

 大会関係者が絡む交通事故は、五輪が開幕した7月23日以降、75件発生。軽傷の人身事故が1件あり、そのほかは物損事故だった。今回の事故を含めると76件となる。事故以外にも一時不停止や違法駐車の放置などの交通違反が28件確認されている。(以上、主に「毎日」の記事による)

 消防車や救急車の交通優先権は誰もが認めるところ。清掃車や道路工事車両、福祉施設車両への敬意も惜しまない。例外はあるにせよ警察車両も同様である。市民社会全体の共通の利益のためとの合意も信頼もあるからである。しかし、たかがオリンピックにそのような合意も信頼もない。怪しげなボッタクリ連中と政権とがつるんだ不要不急のイベント。そのスタッフの送迎のための車両に、何の公共性があろうか。

 「オリンピックのスタッフを送ることを優先した」という、このボランティアの責任は重い。「市民の怪我の手当よりもオリンピックが大事」と言っているのだから。しかし、さらに責任を問われるべきは、この車両に乗車していた「大会スタッフ」という人物である。事故後は直ちに自ら被害者の安否確認を最優先とし、救急車を呼び警察に通報すべきであった。あるいは、運転者にそのように指示しなければならない立場であった。にもかかわらず、「前部が大破したまま十数キロ走り続け」とは、いったい何を考えていたというのだ。まさしく、「そこのけそこのけ五輪が通る」の姿勢ではないか。

 報じられている大会組織委員会の弁明も通り一遍、他人事のごとくではないか。この点について本日の「毎日」に、「ボランティア 笑顔消え」「不慣れな運転・道 ストレス」の大きな記事。中に、次の一節(要約)がある。

 「2日にはボランティア運転手の男性が首都高速道路で追突事故を起こし、そのまま走り去っていたことが報じられた。女性(ボランティアの一人)は事故が起きたことには驚かなかった。組織委は運転手が足りないと多くのボランティア応募者に伝え、都心の運転に不安があると答えた人には『カーナビに従うだけなので大丈夫』などと安全性に欠ける説明をしていたからだ。
 事前研修は30分ほど運転するだけ。『職業ドライバーではない私たちが不慣れな道を走るのはストレスが多い』。英語に不慣れな運転手もいるのに、行き先を指定するアプリにも不具合が続いていたという。
 ボランティアから笑顔が消え、義務感で参加する人も生まれた大会は後世にどう語り継がれるのだろうか。」

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