この頑迷な批判拒否体質(1)?『DHCスラップ訴訟』を許さない・第5弾
用語の定義は難しい。法における最も基本的な概念である「権利」の定義の成功例を知らない。「法律用語の広辞苑」というべき有斐閣の「法律学小辞典」には、「相手方(他人)に対して、ある作為不作為を求めることのできる権能」とある。これで十分だとは思わないが、権利の本質に迫っているとは思う。
この定義に見られるとおり、権利とは他者との関係において観念される。他者がしたくないことをするように求め得ること、あるいは他者にとって望ましからぬ事態の受忍を求め得ることが権利の本質である。端的に言えば、権利とは「人の嫌がることをなしうる」権能であり、「人の利益を害しうる」地位、ということなのだ。「他者を害しない全てをなし得る」のは当たり前のことで、そこには権利の観念を容れる余地はない。
「言論の自由」、「自由な表現の権利」とは、人を喜ばせる内容の言論をなし得るということではない。品よく人を持ち上げる言論や、阿諛追従の類の言動、あるいは当たり障りなく毒にも薬にもならないことを述べるには、「自由」も「権利」も不要である。そのような言論が自由なのは当然のことで、権利として保護するに値しない。「誰かにとって耳の痛い」表現、「他者の利益を害する」言論こそが、憲法上の権利として国民に保障されているのだ。
言論の自由とは、「その言論を不愉快と思う他者」の存在を想定して、他者の受忍を求める権利である。だから、「言論の自由」を権利と設定することは、反面「言論による不愉快や不利益を甘受すべき義務」の設定にほかならない。一方に言論の自由の行使あれば、他方に言論による不利益の甘受があるということになる。
もっとも、言論の自由の行使によって侵害される法的利益との比較衡量は当然に必要である。言論も多種多様であり、重要な価値が認められるべきものもあれば、価値の低いものもある。一般市民の名誉や信用を故なく攻撃する内容の言論は、傷つけられる名誉や信用に劣る価値しかないものとして、衡量の結果権利性を否定されることになろう。
最も価値の高いものとして保障されねばならないのは、政治的社会的強者に対する批判の言論である。権力を持つ者、経済的な強者の地位にある者への批判は最大限尊重されねばならず、反面これらの強者は、批判を甘受しなければならない立ち場にある。これが、民主主義社会の基本ルールである。
『DHCスラップ訴訟』の原告は、到底「一般市民」ではない。単に経済的な強者というにとどまる者でもない。公党の代表者に巨額のカネを渡して、その政党の方針に自らの意向を持ち込もうとしたのだ。特定政党の支持者の一人の寄付という域を遙かに超えて、その政党の動向を動かし得る巨額である。そのような金額のカネを政治家に渡した瞬間から政治的な力を持つに至って、「一般市民」とも、「私人」ともいえなくなった。権力をもつ「公人」に準じた者となった。当然に批判の言論を甘受しなければならない立場に自らを置いたのだ。
私のブログによる批判を甘受しえないとする原告の批判拒否の姿勢は、以上の点についての認識が乏しいことを示している。
私は、7月13日から、『DHCスラップ訴訟』を許さないシリーズの連載を始めた。リアルタイムで訴訟の進展を報告すると申しあげたとおりである。連日のブログをこのテーマだけで埋めつくすわけには行かないが、相当の頻度で書き続けるつもりだ。
このシリーズの焦点は、スラップ訴訟という手段での言論封殺の不当を社会に訴えることにある。本件では、『カネの力で政治を買おうとした』ことへの批判が気に入らないとし、『カネの力で裁判まで買おう』としているのだ。私も、これまでスラップ訴訟に関心を持たなかったわけではない。被告訴訟代理人として類似の訴訟を担当した経験もある。しかし、自分が当事者となって初めて、スラップ訴訟の不当性と言論萎縮効果が身に沁みてよく分かる。これは、一人私だけの問題ではない。わが国の言論の自由に大きな障害となっている。言論の自由市場の公正を歪め、国民の知る権利を侵害してもいる。
これは、何とかしなければならない。できれば、この事件を契機に、新たな法整備の出発点ともしてみたい。そんな思いで、新連載は、言論封殺を目的とした訴訟の不当性の報告に重点を置いたものとするつもりでいる。
ところで、このシリーズに対する原告側の反応が過剰である。批判拒絶体質の露呈というほかはない。その驚くべき内容については、追い追い明らかにしていきたい。
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