澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

輝け 沖縄の五分の魂ー知事の「岩礁破砕許可」取消を支持する

旅人の外套を脱がせるには、北風ではなく太陽の暖かさが必要だ。しかし、民衆を支配しようという輩は、この理を常に正しいとは考えない。恣意的にアメとムチとを使い分けようとする。民衆の利益とは無関係に、ただただ支配の効率だけを考えてのことである。

安倍政権は、仲井真県政をアメで抱き込んだ。ところが、アメには欺されないとする沖縄の民意が翁長県政をつくると、徹底したムチの政策に転換し冷たい北風を送り続けている。釣った魚に餌を与える必要はないと言わんばかりの傲慢さ。この仕打ちに知事が怒って当然。いや、オール沖縄に怒りの火がついて当然ではないか。一寸の虫にも五分の魂。ましてや、沖縄の魂である。鄭重に扱われてしかるべきだ。

昨日(3月23日)午後の記者会見で、翁長雄志沖縄県知事は沖縄防衛局に対して「名護市辺野古沖埋め立て工事に向けたボーリング調査など、海底面の現状を変更する行為を1週間以内に全面的に停止するよう文書で指示した」と発表した。同時に、国がこの指示に従わなければ、昨年8月に仲井真弘多・前知事が出した「岩礁破砕許可」を取り消す意向であることも明らかにした。

この記者会見では、同知事の「腹を決めている」との発言もなされている。沖縄県民の圧倒的な民意を背景とした、知事の辺野古新基地建設阻止への断固たる決意を感じさせる。この知事の姿勢を熱く支持したい。

工事停止指示の目的は、これまで防衛局が沈めたコンクリートブロックにより、サンゴ礁が損傷されていないかを調べる海底調査をするため、とした。また、工事停止指示や許可取消の根拠は次のごとくである。

沖縄県は国(防衛局)に対して岩礁破砕許可を与えているが、その許可には9項目の条件が付けられており、その一つが、「公益上の事由により県が指示する場合は従わなければならず、条件に違反した場合には許可を取り消すことがある」というもの。いま、防衛局がおこなっているボーリング調査工事はこの条件に反している恐れがあるから、まず工事停止を指示する。防衛局の工事を停止して、沖縄県の調査の結果条件違反があれば当然に許可を取り消す。仮に、工事停止の指示に従わない場合にも、許可の条件に違反するものとして取り消すことができる。

具体的な問題点は、ボーリング調査に伴う立ち入り禁止区域を示すブイ(浮き具)を固定するアンカー(重り)となるコンクリートブロック投下が、「許可を得ずにした岩礁破砕行為」となるか否かである。県側は、そのた蓋然性が高いから工事を停止させてよく調査する必要がある、という立場だ。

このコンクリートブロックは並みの大きさではない。コンクリート製の重量10トン、15トン、20トン、45トンのもの。鋼製の480キロ、750キロ、870キロのものなど、合計75個。市民団体が撮影した水中写真を見る限りでは、遠慮なく珊瑚を破砕しているものがある。これが、破砕許可の範疇のものなのか、あるいは許可されていない範疇の条件違反にあたるのか、まずは県において調べさせてもらおう、ということなのだ。

許可には、「公益上の事由により県が指示する場合は従わなければなら」ないとの条件が付されているのだから、国は調査のための工事停止指示には従わざるを得ない。これを拒否すれば、指示に従わなかったことが条件違反となり、許可取消の理由となるだろう。この県の指示が、明白かつ重大な瑕疵があって無効と言えない以上はそのような結論になる。国は、県の指示に「明白かつ重大な瑕疵」ありとしたいところだが無理な話。

ところで、「岩礁破砕許可」。耳慣れない。各県の漁業調整規則に目を通す機会の多い私だが、今年この問題が浮上するまで知らなかった。あらためて、いくつかの県の規則を見直したら、どこの県の規則にも同じように記載されている。

沖縄県漁業調整規則第39条は、「漁場内の岩礁破砕等の許可」に関して、次のように定める。

「第1項 漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。
第2項 略
第3項 知事は、第1項の規定により許可するに当たり、制限又は条件をつけることがある。」

辺野古の新基地建設のための海面の埋め立てには、公有水面埋立法にもとづく知事の承認がありさえすればできることにはならない。なるほど、基地建設のための諸過程で種々の法的問題が生じてくる。今はボーリング調査の態様が、水産資源保護を目的とする「漁業調整規則」上の岩礁破砕と知事許可との問題が生じている。

漁業調整規則は、漁業法や水産資源保護法に基づく県条例。漁業と漁民の保護のために種々の規制が定められており、岩礁破砕の許可もその一つだ。

仲井真県政は、国にこの許可を与えた。通常、いったん与えた許可は、知事が代わったからといって、あるいは選挙で民意が明らかになったからと言って、軽々に撤回はできない。行政の継続性、一貫性は大切な原則だ。

しかし、許可に「制限又は条件」が付され、許可を受けたものが「制限又は条件」に違反すれば話は別だ。その場合は、許可の取消決定が可能となる。

菅義偉官房長官の発言の余裕のなさが、政権側の動揺を物語っている。官房長官は、「この期に及んで(許可取り消しが)検討されているとすれば、はなはだ遺憾」としているが、東京新聞は、「この期に及んで」を5回繰り返したと報道している。その気持ちよくわかる。

あ?あ、仲井真県政ではOKしたではないか。仲井真県政にはアメをなめさせてやったではないか。それを今ごろ掌を返して…、という悔しさが言葉に表れたのだろう。ここ沖縄だけは、知事選も衆院戦も完敗だった悔しさの表れなのかも知れない。
(2015年3月24日)

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