大阪市・「夏の陣」始まるー維新の落城を期待する
統一地方選が終わった。政治状勢に大きな変化はないままである。共産党の健闘、維新や次世代の衰退はけっこうなことだが、自民党は大過なくこの選挙戦を乗り切った。
これで、政局の焦点は戦争法案の提出とその審議に移ることになる。憲法改正の手続を経ることなく憲法の平和主義を眠り込ませ、戦争準備の態勢を整備するたくらみの進行である。加えて、日米新ガイドラインも、日本の武力行使肩代わりに大きく踏み出すことになるだろう。憲法に由々しき事態。
もう一つ。今日から「大阪・夏の陣」が始まる。本日(4月27日)、大阪市の「特別区設置住民投票」が告示になる。これも大きな問題。安倍自民に擦り寄った維新が、「大阪都構想」の実現と改憲への協力をバーターにしているから、看過できない。
全国的には落ち目の維新だが、大阪での勢いは侮りがたい。いったんは葬られたはずの大阪都構想が、不可解な経過で復活しての住民投票である。もっとも、正確には大阪都を作る住民投票ではない。「大阪市解体」住民投票なのだ。
400年前の元和元年(1615年)大坂夏の陣の前哨戦の始まりが4月26日。短期決戦で5月7日には落城している。2015年5月、維新の党が落城するだろう。
私は、小学5年から高校3年までの8年間を大阪府民として過ごした。大阪という土地柄に愛着もあり、人々の気持ちもある程度は分かっている。
大阪人気質とは、何よりもアンチ東京であり、アンチ中央である。ジャイアンツ何するものぞ、阪神こそ最強でなくてはならないという大阪ナショナリズムの心意気なのだ。なんで東京だけが、エラソウに「都」なんやねん。大阪かて、「都」でええやんか。というノリの勢いは無視し得ない。
ところが、このノリは挫折した。大阪都構想が、歴史的に形成されてきた街=コミュニティを破壊する構想でもあることが分かってきたからだ。堺市長選がその転機だった。堺は、これまた独自の地域ナショナリズムに支えられた大都市(人口84万人)である。この街は、アンチ中央だけでなく、アンチ大阪の気質も色濃くある。大阪都構想では、堺という街の統一性が乱暴に失われ、特別区に分割され再編されることになる。当然に反発が噴出した。「堺はひとつ。堺をなくすな」というアンチ都構想派のスローガンに、橋下維新は敗れた。これが天下分け目の関ヶ原であったろう。
本日の毎日社説が、いかにも「公平」らしい筆で、次のように書いている。
「橋下氏は『府と市の二重行政を解消すれば活性化できる』と訴え、反対派は『知事と市長の調整で事足りる』と大阪市の存続を求める。
業務の効率化が(住民投票提案の)理由だが、逆に府と区、事務組合の三重行政が生まれるという指摘もある。再編効果額について府・市の試算では17年間で累計約2700億円だが、市を残したままでも実現できる市営地下鉄民営化などを含めており、反対派は再編効果はほとんどないと反論する。
構想の中身を十分に理解したうえで票を投じたいと思う市民は多いはずだ。しかし、内容がよくわからないという声は今でも少なくない。維新は広報費に数億円をかけて既にテレビCMを流しているが、イメージ戦略に終始するのは望ましいことではない。都構想のメリットとデメリットをきちんと示す責務は一義的には提案した橋下氏らにあることを忘れないでもらいたい」
賛否を問われる「特別区設置協定書」の説明パンフレットに目を通した。一読して、出来がよくない。これはだめだ。これでは市民の心をつかむことはできまい。多くの市民が「よく分からない」と言っている。本当のところは、「よくは分からないままに、イメージで投票してもらいたい」のだろう。
よく分からないという人には、次のようないくつかのポイントを理解してもらえば、よもや大阪人がこの案を支持するはずはないと思う。
※賛成票を投ずれば、大阪市はなくなる。跡形もなくなるのだ。自治体としての大阪市や大阪市議会がなくなるだけではない。大阪市という統一体としてのコミュニティをなくそうということなのだ。もちろん、住居表示からも「大阪市」は姿を消す。政令指定都市としてのメリットも返上することになる。それでよいのか。
※賛成票が過半数に達しても、「大阪都」ができるわけではない。住民投票で「大阪府」の名称を変えることはできない。だから、今回の住民投票は、「都構想を問う」ものではない。「大阪市解体の是非を問う」ものなのだ。この点の理解が重要ではないか。
※財政的なメリットは皆無である。むしろ、財政負担は重くなる。当たり前のことだ。
270万の大阪市を解体して、50万規模の5つの特別区に再編しようというのだ。「大・大阪市」が分割されて、「小・特別区」群に変身する。その是非が、今回の住民投票で問われている。「平成の大合併」のコンセプトとは真反対のことをやろうというのだ。効率や負担の軽減を求めて日本中で自治体の合併がおこなわれたが、自治体分割の例は聞かない。自治体が細分化されれば、確かに自治体と議会は、住民との距離を縮めることになる。しかし、財政的にはコスト高になることは避けられない。
「住民の皆さまには財政的に大きなご負担をおかけします。しかし、その代わりにきめ細かい住民サービスができるようになります」というのなら、それは一理ある。ところが、これを「二重行政の無駄を解消する」「財政メリットがある」施策と強調するから「分からない」のだ。
※現実にかかるコストは借金でまかなうだと?
特別区の新庁舎を建築し新たな議会も作らねばならない。当然にイニシャルコストもランニングコストも嵩むことになる。当たり前だ。市の説明では、これを「再編コスト」と名付けている。新庁舎建設などの当面のコストが600億、その後の運用経費を年20億円と試算している。この再編コストを含めて、「平成29年度から33年度の5年間で、858億円の収支不足が見込まれる」という。
さて、これをどうまかなうか。
「こうして財源をひねり出すことができるからご安心を」として、次のごとく言っている。
「財源対策(例)
土地の売却
各特別区の貯金の取り崩し
大阪府からの貸付
地方債の発行」
おいおい、こんなプランで大丈夫なのか。
※「再編効果」に疑義あり
資産を取り崩し借金をして、これをどう穴埋めをするのか。これが魔法の「再編効果」だ。「信じなさい。信じるものは救われる」の類の話。眉に唾を付けて聞いてみよう。
「府市再編の効果額の試算にあたっては、
?府市統合本部における事業統合や民営化などの取り組み(地下鉄、一般廃棄物、病院など)、市政改革における事業見直し
?職員体制の再編
による効果を算定しています」
この額が、「平成29年度から45年度までの累計では、特別区(現大阪市)分で2630億円、大阪府分で756億円」という。ゴミ収集や地下鉄・バス事業の民営化を前提にしての計算。府市再編を機として職員は削減し、議員の定数は増やさず報酬は3割減とする、などでの積み重ねで「効果」が見込めるというのだ。
話しがおかしい。きめ細かい住民サービスをするのなら人員も予算も嵩むことになる。提案者が説明する「再編効果」は、自治体サービス民営化による合理化というだけのこと。職員の削減もサービスカットというだけのことではないか。「市をなくして特別区にすることによる」財源捻出策ではない。大阪市分割による財政的メリットもまったく語られていない。これは、一種の詐術ではないか。
※結局のところ、「再編コスト」は確実だが、「再編効果」の方はサプリメント誇大宣伝並みのイメージ的効能の説明でしかない。これで、確実に大阪市はなくして、大阪都ができるわけでもない。大阪都構想に巻き込まれる他の都市は反対だ。経済効果は大阪都構想と結びつくものではない。住民投票における賛否の結論は自ずから明らかではないか。
都構想について自民、民主、公明、共産は反対している。オール沖縄の勝利に続いて、オール大阪の勝利を期待したい。そして、もちろん維新の落城を。
(2015年4月27日)