風は疾い。このときにこそ、お互い一本の勁い草になろう。
「疾風に勁草を知る」という。
風が疾い時にこそ勁い草の一本でありたい、強くそう思う。
戦争が近づいてくるほどに、声高く平和を叫ばなければならない。ナショナリズムが世を席巻するときにこそ、近隣諸国との友好を深めねばならない。憲法が攻撃されているときにこそ、これを擁護しなければならない。「テロを許すな」「テロと戦え」の声が満ちているいまであればこそ、自由や人権の価値を頑固に主張し続けねばならない。この事態に乗じようとする不逞の輩の妄動を許してはならない
11月19日と20日、フランス下院と上院は、パリ同時多発テロ直後にオランド大統領が宣言した非常事態の期間を3カ月間延長して来年2月25日までとする法案を可決した。フランスの基本理念である「自由」を犠牲にしてでも「イスラム国」打倒を目指す決意を鮮明にしたもの、と報道されている。
オランドは、今回のテロ直後から、大統領権限強化のための憲法改正を要求しており、バルス首相は20日の上院で「内外でテロとの戦いを強化する。テロの危険に目を閉ざしてはならない」と述べている。
今、バルスのいう「内外でテロとの戦いを強化する。テロの危険に目を閉ざしてはならない」の言は、誰の耳にも入りやすい。場合によっては、憲法改正の糸口ともなりかねない。そのような風が吹くときだけに、これに抗して姿勢を崩さない勁さをもたねばならない。
我が国でも、当然のごとく出てきたのが、どさくさに悪乗りしての「共謀罪」構想。
「自民党の谷垣禎一幹事長は17日、パリの同時多発テロ事件を受けて、テロ撲滅のための資金源遮断などの対策として組織的犯罪処罰法の改正を検討する必要があるとの認識を示した。改正案には、重大な犯罪の謀議に加わっただけで処罰対象となる『共謀罪』の創設を含める見通しだ。」(朝日)
これまで3度廃案になっている共謀罪。自民党には、「好機到来」というわけだ。
自民党憲法改正草案には、「緊急事態」制度の創設も盛り込まれている。この具体的改憲案の必要性をアピールすべきはまさしく今、ということになろう。治安の強化とは、人権を制約すること。テロの脅威は、政権にとっての神風である。政権への神風は、草民には禍々しい凶風なのだ。
思い起こしたい。憲法がなぜ本来的に硬性であって、慎重な改正手続きを要求しているかの理由を。国民の意思は、必ずしも常に理性的とは言えない。一時の激情で、後に振り返って見れば誤ったことになる判断をしかねない危うさをもっている。だから、憲法改正には、落ち着いて、冷静な議論を重ねるための十分な時間が必要なのだ。でなければ、権力を強化し人権を制限する、取り返しのつかない事態を招きかねないことになる。
勁い草になろう。「テロを許すな」の風に翻弄されるだけの存在であってはならない。
(2015年11月21日・連続第965回)