澤藤統一郎の憲法日記

改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。

田母神有罪からの教訓:「選対事務局長から、ご苦労様とカネを渡されても、受けとってはらない」。

本日昼過ぎ、いつものように性能の悪いラジオのスイッチを入れた。いつにもまして、受信状態がよくない。雑音に紛れて聞き取りにくいニュースが流れてきた。思いがけない内容だったが、私の耳にはこう聞こえた。

『学校法人森友学園の小学校敷地とするための国有地売買契約、および、学校法人加計学園による岡山理科大学獣医学部設立認可申請に対する認可に関して、政治家としての口利きがあったとしてあっせん利得罪に問われていた現職総理大臣に、本日東京地方裁判所は執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。
公訴事実は、「同被告人が国会議員として、請託を受けて政治家の権限に基づく影響力を行使して、公務員の職務上の行為をさせるようにあっせんし、国有地売買において破格の廉価による売買を成立させるよう、また腹心の友と呼ぶ知人が経営する学校法人が他の有力候補を除外して設立認可に至るよう、公務員に働きかけ、そのことに関する報酬として財産上の利益を受けた」というものです。
同被告は、「請託を受けたことも、政治家としての権限に基づく影響力を行使したことも、あっせん(口利き)をしたことも、報酬を受けたこともない」と、全面的に争って無罪を主張していましたが、判決は、「具体的客観的な経過を見れば、余りに不自然で不合理な結果が生じており、事実を隠蔽しようと画策していたこととも相まって、関係各公務員が被告人の指示や了承を得ないでことを進めたとは到底考えられない。被告人の弁明は信用できない」と斥けました。
その上で、「事案は民主主義の根幹である行政の公正さに大きな疑念を抱かせたもので、被告人は行政の最高責任者としての自覚を欠いたことにおいて厳しい非難を免れない」と指摘しました。
判決言い渡し後記者会見を開いた同被告と弁護人は、「納得のできない思い込み判決。到底承服できない。直ちに控訴して徹底して争う」と控訴の意向を明らかにしています。』

後ほど、私の聞き間違えだったことに気がついた。あのニュースは、現職総理に関連したものではなく、田母神俊雄有罪判決の報道だった。認知バイアスの作用が、私にとって望ましいように聞き間違えをさせたのだ。

実際のニュースは、次のとおりだ。
「2014年の東京都知事選挙で、運動員に報酬を渡した罪に問われた田母神俊雄元航空幕僚長(航空自衛隊トップ)に対し、本日(5月22日)東京地方裁判所は無罪の主張を退け、執行猶予のついた懲役1年10か月の有罪判決を言い渡した。
田母神被告は無罪を主張していたが、家令和典裁判長は、陣営の元幹部2人との共謀を認定。「買収を了承するだけでなく、増額も指示しており、役割は小さくない。公職の立候補者としての自覚を欠き、厳しい非難を免れない」と述べた。

判決によると、田母神被告は、陣営の元出納責任者・鈴木新(有罪確定)と共謀し、都知事選後の14年3月中旬、元選対事務局長の島本順光被告(公判中)に選挙運動を統括した報酬として現金200万円を提供。同年3月中旬?5月8日には、島本被告や元出納責任者と共謀し、運動員5人に計280万円を渡した。動いたカネは、合計480万円である。なお、金を受けとった側の運動員も全員起訴されている。要求したわけではなく、「ご苦労様」とねぎらわれて渡された金。これを受けとったがゆえの犯罪。災難と言えば、この上ない災難ではあろう。

田母神は、「現金を配ることを了承したり、指示したりしたことは一切なかった」として無罪を主張したが、判決は「報酬一覧を記載した書類に(田母神被告を指す)『会長指示』とあり、島本被告が指示や了承を得ないことは考えられない。被告自身の供述も一貫しておらず、信用できない」と斥けた。その上で「民主主義の根幹である選挙の公正さに大きな疑念を抱かせた」と指摘した。

田母神は閉廷後、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見した。
「非常に残念な判決。私は絶対に共謀などしていない。やってもいないことで有罪にされたのではかなわんな、というのが正直な気持ち。公正な裁判がなされたのか疑問がある」と納得できない様子で語った。控訴については「控訴する方向で考えているが、今後、(弁護人らと)相談して最終的に決めたい」とした。

政治とカネ、選挙とカネについての貴重な教訓を提供する事件。確認しておこう。選挙運動は飽くまで無償が原則。運動員に現金を渡せば、公職選挙法違反の運動員買収の罪に問われる。金をもらった運動員も犯罪者となる。似たような話は身近にいくつもある。

田母神が有罪となった罰条は、運動員買収である。条文を抜粋すれば以下のとおり。
「公職選挙法第221条
次に掲げる行為をした者は、3年(候補者がした場合は4年)以下の懲役若しくは禁錮又は50万円(100万円)以下の罰金に処する。
一 当選を得、若しくは得しめ又は得しめない目的をもって、選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益の供与、その供与の申込み若しくは約束をしたとき。」

公選法上の買収には2種類ある。選挙人買収と運動員買収である。選挙人(有権者)を買収することは、直接に票をカネで買うことだ。運動員の買収とは票を集める人を買収すること、間接的にカネで票を買うことにほかならない。選挙運動は無償が大原則なのだから、選挙運動員にカネを渡してはならない。カネを渡せば運動員買収罪が成立する。受けとった運動員も処罰対象となる。買収だけでなく供応も同じだ。今どき、選挙人買収は滅多にない。ほとんどが運動員買収事案である。

選挙運動は、判例において「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されている。選挙運動は飽くまで、自発的な意思によって行われるべきもので報酬があってはならない。もっとも選挙運動には当たらない純粋な労務の提供や事務作業者に対しては、予め届け出た者に限って決められた範囲の額の対価を支払うことができる。気をつけなければならないのは、たとえ労務者として届出があっても、単純労務の提供の範囲を超えて「選挙運動をした者」となれば報酬を支払ってはならないということだ。

私は、2013年の暮れから14年の1月にかけて、連続33日間「宇都宮健児君、立候補はおやめなさい」のシリーズを書き続けた。その中で、12年暮れの都知事選における宇都宮陣営の田母神案件類似問題について、詳細に報告した。

金額の大小の差はあれども、宇都宮選対事務局長と選対本部長とは、田母神陣営と似たことをしている。その報告は、下記のURLでお読みいただきたい。
https://article9.jp/wordpress/?cat=6

あらためて当時のことを思い出す。本日の田母神有罪判決は、私の、宇都宮陣営における運動員買収の指摘が杞憂でなかったことを裏付けるもの。再度しっかりと確認しておきたい。選挙運動は飽くまで無償でやることなのだ、と。

田母神陣営は選対ぐるみの選挙違反として摘発され、訴追は徹底したものとなった。起訴されたものは合計10名に及ぶ。
田母神俊雄(候補者)   逮捕後起訴
島本順光(選対事務局長) 逮捕後起訴
鈴木新(会計責任者)   在宅起訴
運動員・6名       在宅起訴
ウグイス嬢・女性     略式起訴

ウイキペディアからの孫引きだが、以下は田母神出馬についての賛同者リストからの抜粋である。アベ政治の応援団とほとんど重なっている。アベ・コア人脈と言ってもよいのではないか。それでいて、なお、これだけの訴追の徹底なのだ。

政治家
石原慎太郎(元東京都知事)
土屋敬之(元東京都議会議員)
中山成彬(日本維新の会衆議院議員)
西村眞悟(無所属衆議院議員)
平沼赳夫(日本維新の会衆議院議員)
三宅博(日本維新の会衆議院議員)
松田学(日本維新の会衆議院議員)

大学教員
小堀桂一郎(東京大学名誉教授)
西部邁(元・東京大学教授)
藤岡信勝(元・東京大学教授、元・拓殖大学教授)
中西輝政(京都大学名誉教授)
荒木和博(拓殖大学教授)
小田村四郎(拓殖大学元総長)
関岡英之(拓殖大学客員教授)
石平(拓殖大学客員教授・評論家)
杉原誠四郎(武蔵野大学教授・新しい歴史教科書をつくる会会長)
西尾幹二(電気通信大学名誉教授)
渡部昇一(上智大学名誉教授・故人)

実業家
中條高徳(アサヒビール名誉顧問、日本会議代表委員)
水島総(日本文化チャンネル桜元社長)
元谷外志雄(アパグループ代表)

評論家・芸能人など
加瀬英明(外交評論家)
クライン孝子(作家)
デヴィ・スカルノ(スカルノ元大統領第3夫人)
すぎやまこういち(作曲家・日本作編曲家協会常任理事)
西村幸祐(評論家)
百田尚樹(作家)
三橋貴明(経済評論家)
上念司(経済評論家)

選挙運動に参加する者は、無償が大原則であることをわきまえよう。常に心掛けねばならない。選対本部長や事務局長から「ごくろうさまです」とカネを差し出されても、迂闊にもらってはならない。犯罪として立件される虞のある危険な事態だと心得なければならない。
(2017年5月22日)

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Published in 月曜日, 5月 22nd, 2017, at 23:33, and filed under 選挙.

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